現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン

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 魔王軍の残した停戦交渉の条件を、協会会長はすぐに政府へと伝えた。

 そして政府は、余りに残酷なその条件を受け入れて停戦交渉をするか、それとも条件を蹴って交戦を続けるのかの判断を迫られる事になった。

「いくら国家と国民を守る為とは言え、その為に犠牲を出す事は出来ません!こちらから別の条件を出しましょう」

 いかにも平和ボケした考えだが一理ある。


「今回の騒動の元凶と、その一族の首を差し出せば停戦交渉に応じて貰えるのであれば、首を差し出すべきかと。国民に知られなければ何とでもなります。現に国家に不都合な者を数え切れないほど消して来たではありませんか。ですので今回の条件は引き受けるべきかと・・・」

 超現実的な考えだ。


「しかし、首を撥ねるとあらば、誰がその首を撥ねるのですか?今の日本に斬首出来る施設も設備もありません!」

 話の流れは首を差し出す方向へと傾いて行く。

 そんな流れを変えるかの様に、発言をした人物がいた。

「アメリカ合衆国が日米安保条約に基づき、軍事介入を打診して来ました。たとえ魔王軍だろうと、アメリカが誇る圧倒的な軍事力の前には手も足も出ないのでは?」

「アメリカが軍事介入して来るとなれば、戦場はこの日本国内になりますよ!国民を戦火に晒せと仰るのでふか?それに魔王軍と名乗る集団の本拠地すら分かっていないのに、どうやって戦争しろと言われるのですか?」

 ごもっともなご意見だ。

 神出鬼没な魔王軍を迎え撃つのであれば、戦場は日本全土となる。

 何も無い山の場合もあり、人口密集地の都市部の場合もある。

 そして国会議事堂や皇居にすら、魔王軍は現れる事が可能だ。

 日本政府や探索者協会は、魔王軍の本拠地はおろか、今回拠点としている兵站地すら分かっていない。

 そんな状態でどうやって戦争をするのか・・・。

「色々考えると、横澤一族の首を差し出す事が最善策ではないでしょうか」

 この発言を受け、この発言に答えたのは、この場に居ない者の声だった。

『横澤なる者と一族郎党全ての首を差し出さなければ、我々魔王軍は停戦交渉には応じません。そうそう魔王様から追加の条件が出ましたので、私はそれを伝えに参りました』

 声の主は、目が覚める程整った顔の持主で、執事服に身を包んだ美丈夫だった。

 その美丈夫は一旦言葉を切ると胸に手を当てて優雅に一礼をして来た。

『魔王様からの新たな条件は、横澤一族を斬首する光景を全て撮影し、撮影した物を首と一緒に差し出す事。そして横澤を一番最後に、横澤の娘を最後から二番目に斬首する事。一部始終を横澤と横澤の娘に全て見届けさせる事。これが新たに追加となる条件です。条件を蹴って下さっても構いませんが、我等魔王軍には地上の兵器は一切通用しません。それでも戦い抜く気概があるのであれば、慈悲深い魔王様が出された条件を蹴るのも一つの選択でしょう』

 美丈夫はそう言うと、右手を振って空間を切り裂いた。

 そして切り裂かれた空間に入ろうとしたその時、室内に居たSPが銃を向けながら声を掛ける。

「お前は何者だ!」

『私は魔王様の執事と護衛を務めさせていただいております、堕天使のルシフェルと申します。人に名を尋ねる時は、武器など向けてはいけませんよ』

 ルシフェルはそう言うと、SPの前に目にも止まらない速さで移動し、銃を構えた両腕に向かって手を振って、肘の辺りで切断した。

 室内には血の匂いと、SPの上げる絶叫が響き渡る。

『どうするのか議論して、明日の正午には返答を聞かせてください。我々魔王軍は、あなた方がどの様な決断を下したとしても、その決断に対して全力でお応えさせていただきましょう。そうそう、私に敵意を持ったその方、急げば腕が元に戻せるのでは?』

 ルシフェルはそう言ってから、切り裂かれた空間の中へと消えて行った。

 会議をしていた内閣の面々は、すぐに別の部屋に移動し、腕を切断されたSPは病院に緊急搬送されるも、失った腕を取り戻す事は出来なかった。

 議論は続き、明確な答えが出ないまま、翌朝を迎えてしまう事になる。

 
ーーーーーーーーーー

 平原を森林に向かって歩いていると、俺の前方にある背の低い草が不自然に揺れ始める。

 無風状態の12階層で、草が自然に揺れるなどありえない。

 そう・・・、これは生物由来の揺れだ。

 俺は周囲を警戒しながら、腰から魔銃を抜いて両手で構える。

 草の揺れは激しくなり、揺れる事により生じる草の波紋が徐々に近付いて来て、俺の前方4mくらいの所から、巨大な蛇の頭部が飛び出して来た。

 蛇はいきなり飛び掛っては来ず、鎌首を上げてこちらの様子を伺っている。

 だが蛇が鎌首を上げるのは、攻撃態勢に入った証、俺は必中スキルを発動させてから、魔銃の引鉄に指を滑らせる、そして引鉄を引き絞った。

 魔銃は発射音と同時に、魔力で作られた弾丸を大きな銃口から吐き出し、その弾丸は音速を超える速さで巨大な蛇へと向かって行く。

 巨大な蛇は魔銃の弾丸を頭部で受け、頭部を爆散させてから光の粒子になり、ドロップ品へと姿を変えた。

 新しくお迎えした大口径の魔導拳銃、とんでもない威力である。

 魔銃を腰に差し込み、霊刀ヨコワを抜いて、ドロップ品が落ちたと思われる箇所を、ヨコワの切っ先で草を掻き分けながらドロップ品を探していると、切っ先に硬い物が触れる音がした。

 音がした箇所を切っ先で再度掻き分けると、そこには蛇がドロップした大きな魔石と、謎の葉に包まれた蛇の肉塊が落ちていた。

 横着をしようとした俺は、ヨコワの切っ先を使って、魔石を足元に手繰り寄せようとするが、手元が狂って切っ先を魔石に突き立ててしまう。

 ヨコワの切っ先が突き立てられてしまった蛇の魔石は、数回鈍く光り点滅すると、ヨコワに吸収されてしまった。

 一体何が起きたのか・・・。

 俺は魔石を吸収したヨコワを暫くの間眺めていたが、我に返ってもう一つのドロップ品である蛇肉を収納し、森林に向かって歩くのを再開した。

 森に辿り着くまでに、巨大な蛇と再度遭遇し、次はヨコワで戦闘をしたのだが、心なしか切れ味が増しており全力でヨコワを振らずとも、蛇の硬い鱗に覆われた首の部分を両断する事が出来た。

 ヨコワに魔石を吸収させると、ヨコワの性能が上がるのだろうか?

 現在、俺と探索者協会の関係性があまり良くないので、魔石を入手しても販売する先が無い。

 なので俺は、蛇を倒してドロップした魔石を、ヨコワに吸収させる事にした。

 これで武器が成長してくれれば、これから先のダンジョン探索が、多少なりとも楽になる。

 そんな願いも込めて、ヨコワの切っ先を魔石に突き立てた。

 そしていよいよ森林へと突入する。

 桜ダンジョン12階層のしんりんは、地上世界で散歩やピクニックで入る森林とは違い、モンスターの作った獣道は存在しているが、人工的に作られた遊歩道的な物は存在していない。

 足元は低い木や落ち葉に被われており、地面が露出した部分は見る事が出来ない。

 そんな中を進んで行くと、前方から唸り声が聞こえて来る。

 体勢を低くしてから魔銃を腰から抜き、息を潜めて唸り声が聞こえて来た方向に注意を払っていると、唸り声と重たい足音がこちらに向かって来るのが聞こえて来た。

 俺の前方は低い木が生垣の様に生い茂っており、その先から唸り声と足音が聞こえていたが、急に全ての音が聞こえなくなる。

 『来る!』、直感的に何かが現れるのを感じて、警戒の為に潜んでいた場所から大きく横に飛んで移動したその時、茂みの中から巨大な熊が先程まで俺が居た所に目掛けて飛び出して来た。

 俺は移動した先で体勢を整えると、すぐに熊に向かって魔銃を向け、熊の足を狙って引鉄を引いた。

 魔銃から発射された弾丸は、熊の左足の腿に命中し、足の一部を吹き飛ばす事に成功する。

 熊は激痛に悲鳴を上げながらも俺への敵意を増幅させ、四つん這いになり左足を引きずりながらも俺へと向かって来る。

 俺は機動力を完全に削ぐ為に、左腕と左足に魔銃を撃ち込んだ。

 大口径高威力の弾丸は、熊の左腕を肘から少し下の辺りで完全に吹き飛ばし、左足は毛皮で繋がっている状態になっている。

 熊は耳を塞ぎたくなる程大きな叫び声を上げ、痛む身体を無理矢理動かして体勢を整え様とするも上手くいかず、その場で足掻いているのだが、俺を睨み付ける眼はまだ死んではいない。

 魔銃を腰に差し込み、ヨコワを抜いて熊に駆け寄り、動かせない左半身に向けてヨコワで切り付ける。

 ヨコワは熊の肩や体を切り裂き、熊は無事な右腕で必死に応戦しようとするも、その攻撃は俺には届く事は無い。

 俺はヨコワを左手に持ち右手で魔銃を抜くと、熊の頭に狙いを定めてから弾丸を撃ち込んだ。

 弾丸は熊の頭部を爆散させ、頭を失った熊は、光の粒子になりドロップ品へと姿を変えた。

 魔銃を使えば、この階層のモンスター相手でも、比較的楽に戦える様だが、それでは俺自身を鍛える事が出来ないので、階層ボスに遭遇するまでは魔銃を使わずに戦おうと考えながら、熊のドロップ品を回収しに向かった。



 
 
 
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