現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン

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閑話15

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 その頃安達家では、ウメちゃんの分身体とシンの母親が格闘していた。

 事の発端は、ご近所さんがふらっと現れて、お惣菜をお裾分けして消えて行った。

 安達家のある地域には、この様な古き良き習慣が残っている。

 今回ご近所さんが置いて行った物は、[天ぷら]だ。

 この[天ぷら]、季節の食材に小麦粉を水で溶いた衣を纏わせて、高温の油でカラッと揚げて、食材の旨味を閉じ込めた[天麩羅]ではない。

 魚のすり身を平たく整形し、油で揚げた[天ぷら]で、平天やごぼ天を想像していただければ、お分かりになるだろう。

 ご近所さんが持って来てくれた物は、魚のすり身を使った天ぷらだ。

 その天ぷら(丸形5枚入り)を、事もあろうかウメちゃんは、シンの母親の目を盗んで勝手に開けて、最初は味見のつもりだったのだが、あまりの美味しさに完食してしまったのだ。

 安達家に響き渡る母親の声。

「ウメちゃん!天ぷら食べたの?」

『・・・・・ブッブー・・・』

「ウメちゃん!天ぷら食べたんでしょ?正直に言いなさい!」

『ブッブー・・・』

 シラを切るウメちゃん、確信を持って詰め寄る母親。

 だが状況はウメちゃんにとって、圧倒的に不利だった。

 何故ならウメちゃんの傍らには、破り捨てられた天ぷらの袋、口の横からこぼれ落ちた天ぷらの残骸がある。

 そしてウメちゃんの口の周りにも、天ぷらのカスが付着していた。

 物的証拠は揃っている。

 言い逃れの出来ない状況に、ウメちゃん(魔王様)がとった行動は・・・、全力で母親から逃げる事だった。

 参考までにお伝えしておこう。

 このウメちゃんの分身体は、魔王プフラウメの意識下にある。

 魔界を統べ、ダンジョンを管理支配し、魔王軍の頂点に立つ魔王は、もちろん多重並列思考なる至高のスキルを保有しており、今回ウメちゃんが起こした事件(天ぷら盗み食い事件)は、魔王プフラウメが天ぷらの魅力に負けた結果である。

 もちろん、シンの母親からの逃亡も魔王プフラウメの意思である。

 詰め寄られたウメちゃんは、脱兎の如く犯行現場から逃亡した。

 リビングを出て、階段を掛け上がり、主人であるシンの部屋へと逃亡を図る。

 だがシンの母親も負けてはいない。

 犯行現場となったリビングから逃げ出したウメちゃんを、数秒遅れて追跡していた。

 カチャカチャと、爪とフローリングがぶつかる音を立てながら逃亡するウメちゃん。

 それを追跡する、シンの母親の迫力のある足音。

 魔王プフラウメは、魔界では名実共に最強で、世界で彼女が敵わない存在は[神]だけだった。

 だが今は、新たに主人の母親である[お母様]も敵わない存在だと認識している。

 武力では圧倒的に勝っている魔王だが、お母様だけには逆らう事の出来ない何かを感じている。

  魔王プフラウメは逃亡しながら思っていた、『お母様、神様よりも強いのでは・・・』と・・・。

 そんな魔王プフラウメの壮大な逃亡劇は、突然終焉を迎える事になる。

 家の外に不穏な気配を感じたからだ。

 その気配の持ち主は、プフラウメや主よりも位が下にも関わらず、プフラウメにウザ絡みをして来る存在。

 シンの父親である。

「ウメちゃーん、お母さんがお父さんの足が臭いって虐めてくるよー。働く男の一日頑張った足は、[輝ける男のフレグランス]なのにね・・・。ほら。ウメちゃんも嗅いでごらん!良い臭いでしょ?」

 主の父親はこんな事を言いながら、不快な臭いを放つ靴下をプフラウメに嗅がせた。

 この時プフラウメは、不覚にも生まれて初めて気絶をした。

 その憎き相手である父親の気配を感じ、プフラウメの足が止まってしまった。

 プフラウメに近付いていたシンの母親は、その隙をついてプフラウメを捕獲する。

「ウメちゃん捕まえたよ!天ぷらを勝手に食べたんだから、今日はリンゴ無しだよ!」

 捕獲されたウメは母親の腕の中で、『ブッブッブッブ』と、鼻を鳴らしながら天ぷらを盗み食いした事を後悔していた。

 『今夜はリンゴ無しか・・・。お母様に甘えてなんとかリンゴをいただける様にしましょう・・・。』と反省とは程遠い事を考えながら、リビングへと連行される魔王様であった。

 
 日本経済を支えているダンジョンが封鎖され、協会関係者による手違いから始まった魔王軍との戦争。

 日本は混迷を極めていた。

 それに呼応する様に、世界は日本に対して、支援を表明する国、静観をする国、傍観をする国、武力行使を目論む国と、日本を中心に混乱し始めている。

 だが安達家は平和その物である。

 何故なら、魔王軍四天王の配下である不死族が、身を隠しながら周囲を厳重に警戒しているからだ。

 安達家に対して害意を持つ物は、安達家には近付けない。

 例え人族側の一国の軍隊を動員しても、近付く事は不可能だろう。

 魔王プフラウメの残念な食い気により、安達家の平和は守られている。


「ウメちゃーん!ご飯だよー!」

『ブッブッブッブブー!』

 いつも通りの平和な光景が、安達家には流れていた。

 
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