現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン

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 護衛部隊を率いるリッチの指示を受けた、不死族の動きは正確且つ迅速だった。

 各々目標を定め、目標になった人族の戦闘員の近くに姿を消したまま近付き、恐怖を植え付け、魂が失われていく様を見せ付けるかの様に、一人ずつ魂を刈り取っていく。

「HQ、こちらアルファリーダー、敵襲!敵の攻撃を受けている!アルファチーム半壊!敵の姿は見えないが、敵の攻撃を受けている!送れ!」

『こちらHQ、被害状況を報告せよ。送れ』

「こちらアルファリーダー、被害状況は死者5名、負傷者ゼロ、死者については目立つ外傷は無し。出血も認められない。急に倒れたので確認すると心肺が停止していた。送れ!」

『こちらHQ、非常事態につき交戦を許可する。送れ!』

「こちらアルファリーダー、交戦許可了解!これより交戦を・・・・」 

 地上班のアルファチームからの、緊迫した無線連絡を受け、作戦本部は非常事態発生と判断し交戦を許可した。

 だがアルファリーダーとの通信は、交戦許可を受け戦闘に入る前に途絶した。

 同時刻、アルファチームからだけでなく、ブラボーチームからも非常事態を告げる無線連絡が入っており、作戦本部は混乱に包まれた。
 
 作戦本部に詰めていた中山官房長官は、こんなはずではなかったと思いながら、スピーカーから流れる悲鳴にも似た通信を聞く事しか出来なかった。

 そしてブラボーチームからの通信も途絶する。

 上空を旋回待機しているヘリに搭乗している、デルタチームとイーグルチームは、地上班からの緊迫した通信を聞いて、作戦本部に航空支援及びロープ降下をして地上班と合流する許可を求めたが、作戦本部が出した返答は、デルタチームとイーグルチームへの帰投命令だった。

 仲間を見捨てて帰投する事を良しとしなかった上空班は、作戦本部の判断に従えないと抗議をするも聞き入れられなかった。

『デルタリーダー、イーグルリーダー、こちらHQ。これ以上被害を拡大させる事は出来ない!ただちに帰投せよ!繰り返す、上空班のデルタチームとイーグルチームはただちに帰投せよ!・・・すまない・・・』

 作戦本部からの通信を受けた上空班は、下に降りて戦いたい気持ちを抑え、命令に従い帰投する事となった。

 ヘリは上空を何度か旋回して、赤外線カメラや熱感知カメラを使って作戦地域を撮影してから、最寄りの航空自衛隊の駐屯地を目指して、安達邸のある街から離れて行った。

 地上班を壊滅させた不死族一団は、上空を旋回しているヘリを見上げながら、次の標的はアイツらだと狙いを定めていたが、そのヘリはすぐに離れて行ったので、無駄に追跡する様な事はしなかった。

 不死族一団は魂を刈り取った人族の亡骸を収納に納め、リッチの元へと集まって行く。

『無事に片付きました。こちらの様子を伺っていた人族がいましたが、追跡して片付けますか?』

 不死族の一人がリッチに聞く。

『明らかな敵対行為が無ければ、こちらから動く必要はない。ひとまず落ち着いた様だから、遮音結界を解く。皆は引き続き護衛にあたってくれ』

 リッチはそう言うと、安達邸の周囲200mに張っていた遮音結界を解いた。

 リッチは安達家について詳細は知らされていなかったが、不死族の長からは『魔王様と同等の貴き方々、くれぐれも失礼が無い様に、誠心誠意お護りせよ』と、指示が出ていたので、護衛対象に不必要な不安を感じさせない為に、魔法に長けたリッチが自発的に、安達邸とその周囲に遮音結界を張っていた。

 このリッチ出来る奴である。

 後に今回の功績を認められ、魔王軍内で出世を遂げるのは別のお話し。

 
 人族側は地上班壊滅の報を受け、蜂の巣をつついた様な混乱に見舞われている。

 地上班を送り届けたヘリと車両班には撤退命令が出て、先行して監視をしていた公安の人間には、対象の監視をする様にと再度命令がくだされた。

 そして未承認の非公式作戦を立案実行した官房長官は、地上班壊滅の報を受け作戦本部に乗り込んで来た、陸上自衛隊幕僚長から激しく詰められていた。

「中山官房長官!あなたは危険性の無い作戦だと申された。だが結果はどうだ!我が隊の隊員15名の安否が確認出来ないばかりか、独断で撤退命令まで出された。この責任どう取られるおつもりか?」

「明るくなってから、公安の調査部隊を派遣します。それで戦闘の痕跡や敵対勢力の確認が出来ると思うので、それまで待っていただけませんか?今回の作戦は総理はご存知ではないので、報告する為にも情報が必要なのです」

「我が隊の隊員の安否がかかっている。私はこれから総理に相談し、救出作戦の承認を貰って来る。戦いも知らない政治家が、命のやり取りをする事にこれ以上口出ししないでいただきたい!」

 幕僚長は官房長官にそう言い放つと、上空班から送られて来た、赤外線カメラ映像と、熱感知カメラ映像を確認して、いくつか指示を出してから首相官邸へと向かう為に、作戦本部として使っていた部屋を後にした。

 中山官房長官は、これで自分の政治生命が絶たれたと思い、膝から崩れ落ちたが、周囲が官房長官を見る目は冷ややかだった。


ーーーーーーーーーー

 その頃渦中の安達家では、シンが置いて行ったスカイフィッシュ(鮪の上位互換)の刺身盛りが中心に置かれているダイニングテーブルを囲い、少し遅いが和やかな食事をシンの両親とウメちゃんの分身体が取っていた。

「相変わらず、ダンジョン産のマグロは美味しいわね。ウメちゃんも喜んで食べてるわ」

「うん。確かに美味い。でもダンジョンが封鎖されたって聞いたけど、もうこのマグロや他のダンジョン産食材は食べられなくなるのかな?」

「どうかしらね?そう言えば桜ダンジョン支部が瓦礫の山になっていたって、ご近所の岩佐さんが言ってたわ」

 ご近所の岩佐さんは情報通のおばさんで、噂の真偽を確かめる為に、噂の場所まで確認しに行く程の野次馬根性を持つ、究極の暇人だ。

「シンも探索者が出来なくなったら、就職して貰わないといけなくなるな・・・」

「あら、あの子なら大丈夫よ。それなりに稼いでいたみたいだし、暫くはお金に困らないんじゃない。それより問題は、ダンジョン産の食材が手に入らなくなる事ね。私達も美味しくいただいているけど、ウメちゃんがダンジョン産の食材を気に入ってるからね・・・。ねぇーウメちゃん!」

『ブッブー』

 ダンジョン産の食材に関しては心配はいらない。

 シンの両親が天寿を全うするまでに、食べ切れない程の量が、シンの収納にはいっている。

 それにダンジョンの管理支配者である、魔王プフラウメこそ、シンの母親が溺愛しているウメちゃんなのだ。

 手に入らない訳はない。

 日本政府と自衛隊を巻き込んだ一大事件が、家の近所で発生していた事を知らないシンの両親は、ダンジョン産の食材を使った少し遅い夕食を楽しんだ後、いつもと変わらずウメちゃんと触れ合う時間を過ごした。

 
ーーーーーーーーーー

 ダンジョン10階層にある、魔王軍の拠点にある作戦会議用のテントの前に、人族の亡骸25体が並べられている。

 魔王の主人であるシンの自宅を強襲しようとした、人族側の武装勢力の亡骸だ。

 プフラウメはそれを眺めながら、不死族の長と、護衛部隊を率いたリッチの報告を聞いていた。

 魔王の力を行使出来る分身体が居るとはいえ、自分の主人であるシンと、お母様が暮らしている家に、武装して攻め込んで来た人族を許す事は出来ない。


 報告を受け怒りに震える魔王を見て、四天王や護衛のルシフェル、亡骸の引渡しと報告に来たリッチは、魔王が出す殺気により動けなくなっていた。

「戦う力のある主様はともかく、お母様を狙ったのは許せない・・・。ルシフェル、すぐに人族側に今回の件を通達してください。そして、魔王軍と日本政府との争いに関係の無い人物を巻き込んだ事の責任をどう取るのかを聞いて来てください。もしシラを切る様であれば、我々魔王軍は全軍出撃し、現日本政府を壊滅させます」

『御意』

 ルシフェルは短く答えて、早速日本政府関係者の元へ移動しようとするが、魔王に呼び止められた。

「くれぐれも主様やお母様が、我々魔王軍と関係があるとは言わない様に。これ以上巻き込む訳にはいきません」

 ルシフェルは魔王の言葉に頷くと、空間を切り裂いて消えて行った。

 それにしてもプフラウメ、シンとお母様とは言うが、シンの父親を一度も口にしていない。

 シンの父親の事が少し可哀想に思えた童子だった。
 
 
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