桃の華〜Ωの僕が極道αに溺愛されて愛される話〜

ミカン

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13話


 翌朝、都が目を覚ました時、京が傍にいた。
 椅子に座ったまま、都の手を握っている。
 京は眠っていた。
 都は、ぼんやりとその光景を見つめた。
 腕に刺さった点滴の管。
 握られている自分の手。
 そして、疲れた表情で眠る京。

「……」

 都は何も言わなかった。
 ただ、じっと京を見ていた。
 やがて、京が目を覚ました。

「……起きたか」

 京は都を見た。
 その目には、いつもの冷たさがなかった。

「気分は、どうだ?」
「……最悪」

 都は正直に答えた。

「体が、重い」
「そうか」

 京は立ち上がった。

「朝食を持ってこさせる。少しでいい、食べてくれ」
「……」

 都は何も答えなかった。
 京は部屋を出て、すぐに戻ってきた。
 自らトレイを持って。

「若頭が、自分で……?」

 ドアの外から、砺波の驚いた声が聞こえた。
 京は気にせず、トレイを都の傍に置いた。

「おかゆだ。胃に優しい」

 京は都を起こそうとした。
 都の背中に手を回し、優しく支える。

「……何してるの」

 都は戸惑った。

「食べさせる」
「自分で食べられる……」
「いや、無理だろう。お前、手が震えている」

 確かに、都の手は小刻みに震えていた。
 京はスプーンでおかゆをすくい、都の口元に運んだ。

「……」

 都は口を開けなかった。

「食べろ」

 京の声は、優しかった。
 命令ではなく、お願い。

「……なんで、急に」

 都は京を見た。

「なんで、急に優しくするの」
「……」

 京は少し考えてから、答えた。

「昨日、医者に言われた」
「医者?」
「ああ。お前の症状は、俺のせいだと」

 京はスプーンを置いた。

「俺が、お前を愛していることを伝えられなかったから」
「……愛?」

 都は信じられないという表情で京を見た。

「お前が、俺を?」
「ああ」

 京は都の目を真っ直ぐ見た。

「愛している」
「……嘘だ」

 都は顔を背けた。

「愛してる人を、監禁するわけないだろ」
「……」

 京は何も言い返せなかった。

「愛してる人を、脅すわけないだろ」 

 都の声が、震え始めた。

「愛してる人の、意思を無視するわけないだろ……」
「……すまん」

 京は頭を下げた。

「俺は、間違っていた」

 都は驚いて、京を見た。
 京が、頭を下げている。
 この冷酷な男が。

「お前を愛しているからこそ、失いたくなかった」

 京は顔を上げた。

「でも、その方法が間違っていた」
「……」
「お前を閉じ込めて、支配して、それで守れていると思っていた」

 京の目に、後悔の色が浮かんだ。

「でも、それは違った」
「……」
「佐野都」

 京は都の手を取った。

「もう一度、やり直させてくれ」
「やり直す……?」
「ああ。俺は、お前を正しく愛したい」

 京の声は、真剣だった。

「お前の心も、体も、全てを大切にしたい」
「……」

 都は何も言えなかった。
 混乱していた。
 この男は、本気なのか?
 それとも、また都を騙そうとしているのか?

「信じられないのは、当然だ」

 京は都の迷いを読み取った。

「だから、時間をくれ。俺が変わったことを、証明させてくれ」
「……」
「まず、食べてくれ」

 京は再びスプーンを取った。

「お前が元気にならないと、何も始まらない」

 都は、少し迷ってから、口を開けた。
 京がおかゆを口に運ぶ。
 温かい。
 優しい味。
 都は、ゆっくりと咀嚼した。

「もう一口」

 京が次のスプーンを運ぶ。
 都は食べた。
 そうやって、都は半分ほどおかゆを食べた。

「十分だ。よく頑張った」

 京は都の頭を撫でた。
 優しく。
 都は、その手を払いのけようとしなかった。
 ただ、されるがままだった。
 その日から、京の態度が変わった。
 朝、京自らが都に食事を持ってくる。
 都が食べられるまで、傍にいる。
 昼、京は仕事の合間を縫って、都の様子を見に来る。

「具合はどうだ?」
「……少し、ましになった」
「そうか。よかった」

 京は都の額に手を当てる。
 熱を確認している。

「熱は下がってきたな」
「……うん」
「もう少しだ。頑張れ」

 京の言葉は、いつも優しかった。
 夜、京は都の部屋で過ごすようになった。
 でも、都に何かを強要することはなかった。
 ただ、傍にいる。
 都が眠るまで、手を握っている。

「……なんで、そこまでするの」

 ある夜、都が尋ねた。

「お前を失いたくないからだ」

 京は答えた。

「医者が言っていた。このままでは、お前は死ぬと」
「……」
「それは、嫌だ」

 京の声が、震えた。

「お前がいない世界は、考えられない」
「……俺、そんなに大事?」

 都は京を見た。

「ああ」

 京は都の手を握った。

「お前は、俺の番だ。運命の相手だ」
「運命……」
「俺は、お前のヒートがきた時運命だと分かった」

 京は都の目を見つめた。

「この子だ、と。この子が、俺の全てだ、と」
「……」
「だから、手放せなかった」
「でも、間違った方法で繋ぎ止めようとした」

 京は都の手に、自分の額を押し付けた。

「本当に、すまない」

 都は、京の頭を見下ろした。
 この男が、こんなに弱々しい姿を見せるなんて。

「……俺、まだお前のこと、好きじゃないから」

 都は正直に言った。

「むしろ、憎んでる」
「……ああ」
「お前がしたこと、簡単には許せない」
「分かっている」 

 京は顔を上げた。

「だから、時間をくれ」
「……」
「いつか、お前に許してもらえるまで、俺は努力する」

 京の目は、真剣だった。
 都は、何も言えなかった。
 ただ、複雑な気持ちで京を見つめていた。
 三日後、都は自分で食事が摂れるようになった。
 体力も、少しずつ戻ってきた。

「よかった」

 京は、心から安堵した表情を見せた。

「もう、大丈夫そうだな」
「……うん」

 都は小さく頷いた。
 その日の夕方、京が都を呼んだ。

「少し、話がある」

 都はリビングに連れて行かれた。
 そこには、砺波、中野、遠野の三人もいた。

「若頭、お呼びでしょうか」

 砺波が尋ねた。

「ああ」

 京は全員を見回した。

「今日から、都の扱いを変える」
「……と、言いますと?」
「部屋の鍵を外す」

 京の言葉に、三人が驚いた表情を見せた。

「若頭、それは……」
「窓の格子も外す」
「でも、逃げ出すかもしれません」

 砺波が心配そうに言った。

「構わない」

 京は都を見た。
「もし、都が逃げたいなら、逃げればいい」
「若頭……」
「ただし」

 京は都に歩み寄った。

「お前が、ここに残ってくれることを願っている」

 京は都の手を取った。

「自分の意思で、俺の傍にいてくれることを」
「……」

 都は、京を見つめた。
 京の目には、懇願の色があった。

「どうだ?」
「……考えさせて」

 都は小さく答えた。

「分かった」

 京は都の手を離した。

「急かさない。ゆっくり考えてくれ」

 その夜、都の部屋の鍵は外された。
 窓の格子も外された。
 都は、初めて自由に部屋を出入りできるようになった。
 都は窓を開けた。
 夜風が、部屋に入ってくる。
 自由の匂い。
 逃げようと思えば、逃げられる。
 でも——
 都は、窓から外を見つめた。
 逃げたら、勉はどうなる?
 それに——
 都の胸に手を当てた。
 番の痕がある場所。
 そこが、微かに疼いている。
 京を求めている。
 体が、本能が、京を求めている。

「……くそ」

 都は小さく呟いた。
 簡単には、逃げられない。
 体も、心も——
 少しずつ、京に縛られている。
 それが、嫌なのか。
 それとも——
 都は、自分の気持ちが分からなかった。
 ただ、一つだけ確かなことがある。
 京は、変わり始めている。
 そして、都も——
 変わり始めている。
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