桃の華〜Ωの僕が極道αに溺愛されて愛される話〜

ミカン

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14話

 鍵が外されてから一週間が経った。
 都は、少しずつ屋敷の中を自由に歩けるようになっていた。
 最初は恐る恐るだった。
 部屋を出ても、誰かに咎められるのではないか。
 また監禁されるのではないか。
 でも、誰も都を止めなかった。
 砺波は「おはよう」と挨拶するだけ。
 中野は「調子どうだ?」と声をかけるだけ。
 遠野は「勉と一緒に朝食食べるか?」と誘ってくれる。
 都は、戸惑いながらも、少しずつこの新しい生活に慣れていった。
 ある朝、都は一階のリビングに降りていった。
 そこには、朝食の準備がされていた。
 勉が既に座っていた。

「お兄ちゃん、おはよう!」

 勉が嬉しそうに都を見た。

「おはよう」

 都は勉の隣に座った。

「お兄ちゃん、最近元気になったね!」
「……うん。もう大丈夫だよ」
「よかった!僕、すごく心配してたんだ」

 勉は都の手を握った。

「お兄ちゃん、ずっと部屋から出てこなかったから」
「心配かけて、ごめんな」

 都は勉の頭を撫でた。
 遠野が、コーヒーを持ってきた。

「都、飲むか?」
「……ありがとう」

 都はコーヒーを受け取った。
 温かい。

「今日、勉の学校、授業参観があるんだってな」

 遠野が言った。

「お兄ちゃん、来てくれる?」

 勉が期待の目で都を見た。

「え……でも、俺……」
「若頭に聞いたら、いいって言ってたぜ」

 遠野が笑った。

「外出の許可、出てる」
「外に……出ていいの?」

 都は驚いた。

「ああ。ただし、俺が付き添う。それでいいか?」
「……うん」

 都は頷いた。
 勉が嬉しそうに飛び跳ねた。

「やった!お兄ちゃんが来てくれる!」

 その日の午後、都は遠野と共に勉の小学校に向かった。
 外の空気。
 久しぶりだった。
 太陽の光。
 風の匂い。
 人々の声。
 全てが、新鮮に感じられた。

「大丈夫か?」

 遠野が都を見た。

「……うん」

 都は深呼吸した。

「外、久しぶりで……」
「そうだよな」

 遠野は都の肩に手を置いた。

「でも、もう閉じ込められてないからな。これからは、もっと外に出られるようになるさ」
「……本当に?」
「ああ。若頭、変わったんだよ」

 遠野は前を向いた。

「お前のために、本気で変わろうとしてる」
「……」

 都は何も言わなかった。
 小学校に着くと、勉が駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん、こっち!」

 都は勉に連れられて、教室に入った。
 他の保護者たちがいる。
 都は少し緊張した。
 授業が始まった。
 勉は、一生懸命手を挙げて、質問に答えていた。
 都は、その姿を見て微笑んだ。
 勉は、幸せそうだった。
 以前のアパートにいた時よりも。
 ちゃんとした食事。
 清潔な服。
 安全な環境。
 全てが、揃っている。
 授業が終わった後、勉の担任が都に声をかけてきた。

「佐野さんのお兄さんですか?」
「はい」
「勉くん、とてもいい子ですね。勉強も頑張っていますし、お友達とも仲良くしています」

 担任の先生は微笑んだ。

「以前、少し元気がない時期がありましたが、最近はとても明るくて」
「……そうですか」
「お兄さんが、しっかり支えてあげているんですね」
「いえ……俺は……」

 都は言葉に詰まった。
 支えているのは、俺じゃない。
 京だ。
 京が、勉にこの環境を与えている。
 学校に帰ってから、都は一人で庭を歩いた。
 広い庭。
 綺麗に手入れされた芝生。
 季節の花々。
 都は、ベンチに座った。
 空を見上げる。
 青い空。
 自由な空。
 でも、都は——
 自由じゃない?
 いや、今は自由だ。
 鍵も外された。
 外出もできる。
 でも——
 都の胸に、複雑な感情が渦巻いていた。
 その時、足音が聞こえた。
 振り返ると、京が立っていた。

「邪魔をしたか?」
「……いや」

 都は前を向いた。
 京は都の隣に座った。

「授業参観、どうだった?」
「……勉、頑張ってた」
「そうか」

 京は空を見上げた。

「勉は、いい子だな」
「……うん」

 しばらく、二人は黙っていた。
 やがて、京が口を開いた。

「佐野都」
「……何?」
「お前に、話がある」

 京は都を見た。

「借金のことだ」
「……」

 都の体が、強ばった。

「三千万円の借金。あれは、もういい」
「……え?」
「返済しなくていい」

 京の言葉に、都は驚いて京を見た。

「どういう……こと?」
「お前は、俺の番になった」

 京は都の目を見つめた。

「それは、お前が望んだことではない。俺が、無理矢理お前を番にした」
「……」
「だから、慰謝料として借金は帳消しにする」

 京は真剣な表情だった。

「お前が、俺と一緒にいる理由は、借金のためでなくなってほしい。」
「じゃあ……何のため……?」
「お前の意思だ」

 京は都の手を取った。

「お前が、自分の意思で俺の傍にいてくれることを望んでいる」
「……」
「借金があるから、仕方なく。そんな理由で、お前に俺の傍にいてほしくない」

 京の手が、都の手を優しく握った。

「お前が、俺を選んでくれることを願っている」
「……俺を、選ぶ?」
「ああ」

 京は頷いた。

「ここにいるのも、出て行くのも、お前の自由だ」
「でも……番に……」
「番になっても、お前の意思を尊重する。」

 京の目は、真剣だった。

「もし、お前が出て行きたいなら、止めない」
「……本当に?」
「ああ。ただし——」

 京は都の顔に手を添えた。

「俺は、お前を諦めない」
「……」
「お前が出て行っても、俺は追いかける」

 京の声が、優しくなった。

「でも、無理矢理連れ戻すことはしない。ただ、お前に俺の気持ちを伝え続ける」
「……」
「いつか、お前が俺を受け入れてくれる日まで」

 京の言葉に、都は何も言えなかった。
 胸が、苦しかった。
 この男は、本気だ。
 本気で、都を愛している。
 でも、都は——

「……考えさせて」

 都は小さく言った。

「ここにいるのか、出て行くのか。考えさせて」
「分かった」

 京は都の手を離した。

「ゆっくり考えてくれ」

 京は立ち上がった。

「ただ、一つだけ言わせてくれ」
「……何?」
「俺は、お前を愛している」

 京は都を見下ろした。

「お前と勉の幸せを、心から願っている」
「……」
「それだけは、信じてくれ」

 京は去っていった。
 都は、一人残された。
 風が、都の髪を撫でた。
 都は、自分の胸に手を当てた。
 心臓が、激しく鳴っている。
 なんで?
 なんで、こんなに動揺しているんだ?
 都は、混乱していた。
 その夜、都は自分の部屋で一人、考えていた。
 ここにいるのか。
 出て行くのか。
 選択肢は、二つ。
 もし、出て行くなら——
 勉と二人で、またあのアパートに戻る?
 いや、もうあのアパートはない。
 新しい場所を探す?
 仕事は?
 お金は?
 また、パパ活詐欺をするのか?
 都は、頭を抱えた。
 正直に言えば——
 ここにいる方が、楽だ。
 食事も住む場所もある。
 勉も幸せそうだ。
 でも、それは——
 京の庇護の下で、生きるということだ。
 都は、それでいいのか?
 都は、窓の外を見た。
 月が、綺麗だった。
 自由と、安定。
 愛と、依存。
 選ぶのは、都自身だ。
 でも——
 都には、まだ答えが出せなかった。
 ただ、一つだけ分かっていることがある。
 京は、本当に変わった。
 そして、都の心も——
 少しずつ、変わり始めている。
 それが、何を意味するのか。
 都は、まだ分からなかった。
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