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絶望のリーシュ

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・「救出対象はリーシュと思われる魔物。
左右の柱に拘束されている兵士と思われる魔物。
檻の中に居る兵士と思われる魔物。
全てを救出する。」

俺はセリスとマルチに最終確認を行う。

・セリス
「全員救出で間違いないか?」

俺は大きく頷く。
あいつらのやりたい事をすべて否定してやる。
これが俺流の仕返しだ。
救出した後で、ぶっ潰してやるからな。

・マルチ
「ライオット、悪い顔してる。」

・「あいつらはやり過ぎた。
今回は手加減なしで行く。」

・セリス
「どう攻める?」

・「作戦を言うよ。
しっかり聞いて、修正点があったら言ってくれ。」

俺とマルチ、セリスが話し合う。
奴らの装備品や処刑対象の拘束の仕方から、処刑の方法を推理する。
そこから作戦を練り、行動するタイミングを計る事にした。
 

~リーシュ~

私は今、大きな柱に拘束されています。
大勢の民衆の前で、、、
仲間達もある者は拘束され、残りは檻の中。
ここから見れば何をしようとしているのか解る。
これは公開処刑、、、
民衆たちには私達が人間だとは思わないでしょう。
大量の物が投げつけられ仲間が傷を負っています。
私も酷い火傷を負って、意識が飛びそうです。
このまま、、、処刑されるのね。

思い起こせば、良い人生だったと言えます。
回復魔法を使える事を知った時は嬉しかった。
誰かの役に立ちたと思っていたから。
私に両親の記憶はない。
そんな戦争孤児の私を引き取ってくれたオーランドおじいちゃん。
厳しくも優しいおじいちゃんだったよ。
先に、死にゆく私をお許しください。

そして、ライオットさん。
こんな私をお嫁さんにしてくれてありがとう。
私の大好きな人、、、あったかい優しい人。
素敵な人のお嫁さんになれた。
私は幸せだったのかもしれない。
そう考えれば怖くない、、、
怖くない、、、

民衆は大声で罵声を浴びせてくる。
多くの人の怒号、怒り、罵声、、、
負の感情を向けられている。
動けない、逃げられない状態で物が飛んでくる。
怖くない訳がない。

しかし、リーシュは必死に抵抗する。
恐怖に負けて、後悔しながら死にたくない。
最後の勇気を振り絞って、彼女は戦っていた。

だが、現実はいつも残酷だ。
いつ終わると知れない攻め。
次第にリーシュの勇気は消え去る。
そして、大きな声が聞こえる。
誰かが拡声の魔法を使った。
牢で魔法をぶつけてきた人物だ。

・???
「聞け、皆の者。
マーダル国軍・特殊生物対応部隊顧問、
センシオ・ジコールだ。
日々の国民の怒りや悲しみを晴らす為、この場を提供しようと思う。
先日、性懲りもなく我が国に侵略戦争を仕掛けてきた魔族達、その一端を捕まえた。
この公開処刑を始まりとし、我が国は魔族への宣戦布告とする。」

民衆からは大きな声援が上がる。
汚い感情が容赦なくリーシュ達にぶつけられる。

・リーシュ
「うううう、、、、」

民衆たちにはリーシュ達が魔物にしか見えない。
声も出ない、何も伝えられない。
一方的な敵意だけを食らい続ける。

・リーシュ
「怖い、、、怖いよ。
ライオットさん。」

どれほど悔しくても何故か涙は流れない。
誰にも何も伝わらない、、、
そして、センシオが近くにやってくる。

・センシオ
「どうだ、、、怖いか?私が憎いか?」

いやらしい男だ、、、
そんな事聞かなくても解るだろうに。

・センシオ
「さて、お前が先に死ぬか?
それともお友達から殺そうか?
一緒に死ぬか?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。
リーシュは既に睨む事も出来ない。
身体は震え、何も考えられない。
これは怒り?
それとも悲しみ?
恐怖で何も出来ないとは思いたくない。
拡声魔法を再び使うセンシオ

・センシオ
「では、牢に火を放て!
これより処刑を始める。」

号令と共に火の魔法『火球』が牢の下に放たれる。
6方向からの『火球』。
大きな炎が下から牢を包み込む。
中が見えない程の大きな炎。
、、、叫び声が聞こえる。
人間の物とは思えない叫び声がいくつも、、、

・リーシュ
「ぁぁぁぁぁぁ、、、」

一緒に居た仲間たちが焼かれている。
一緒に笑い合った仲間たちが、、、

・センシオ
「火力が強すぎたか?
これでは焼ける姿が全く見えないではないか、、、
つまらん、、、さっさと終わらすか。」

・リーシュ
「人を殺しておいて、、、つまらないですって?」

折れた心に再び火が灯る。
大きな怒りと共に、、、リーシュが叫ぶ。
しかし、その行為がセンシオを喜ばせてしまう。

・センシオ
「何を言っているのか解らんが、中々良い反応だ!
いいぞ、いいぞ!
お前は私が直接殺してくれる!」

リーシュの最後が近づく、、、
離れたセンシオから大きな炎が3つ放たれた。
醜い笑顔と、歓喜の叫びと共に。

・リーシュ
「悔しい、、、悔しい、、、」

リーシュは悔しさと共に目を閉じる。
不思議と炎が着弾する寸前は涼しく感じれた。
そしてリーシュと両サイドに拘束された柱に巨大な『火球』が直撃する。
大きな爆発、観衆のボルテージは最高潮になる。
センシオの大きな笑い声と共に、、、

暫くして、広場には倒壊した柱と中身が空になった檻だけが残った。
センシオはその前で得意げに演説を開始する。
これが戦争の始まりだと高らかに宣言しつつ、、、

その頃、ライオット達はカイジュ監獄から少し離れた所に居た。
大きな洞窟、ライオット達が急遽作った場所だ。
センシオの嬉しそうな演説はここにも届く。
センシオは嬉しさのあまり拡声魔法の出力を最大にしていたのだ。
 

~近くの洞窟~

・ライオット
「ったく、あいつうるさいな。」

・セリス
「まったくだ。」

・マルチ
「嫌な人間。」

3人は同じ意見だ。

洞窟の広間には多くの魔物が横たわっていた。
その数19。
そして1匹の魔物を大切そうに抱えるライオット。
優しく包みながら頭を撫でていた。

・「とりあえず作戦は上手くいったな。」

・セリス
「凄まじい手際だった。」

・マルチ
「流石はライオット!」

・「いやいや、二人のお陰だよ。」

マルチとセリス、そしてライオット、、、
彼らは救出作戦を成功させていた。
誰にもバレる事無く。

では、ここで少し時間を戻そう。
 

~救出作戦決行時~

・セリス
「アタシが動いたら合図だからな?」

・「解っている、頼んだ。」

高度を下げつつ機会をうかがっていた俺達。
セリスとマルチは空中で作戦を実行する。
実際に助けに行くのは俺一人だ。
そして遂に動く時が来た。

今回の作戦はプラン1~5まで考えてある。
救出方法は単純だ。
しかし最初に誰が狙われるか解らない。
全てに対応出来なくてはならない。
一人でも殺されたら俺達の負けだ。
絶対に助けて見せる。

そんな中、最初に狙われたのは檻の兵士たち。
案の定、多くの『火球』で檻に火を放ってきた。

・セリス
「いくぞ、『氷牢』」

セリスの『氷牢』で兵士たちを包む。
熱から守るのだ。
異常なまでに頑丈な氷を作り出す。
頑丈だがセリスの氷は非常に薄くて綺麗だ。
そう、肉眼では確認できない程に。

そして俺は敵側の『火球』が着弾する直前に風魔法を檻の下に仕込む。
圧縮した空気を得た『火球』は大きく爆発炎上。
檻を包み込み、炎のカーテンが出来上がる。

・「さてと、、、いっちょ行きますか。」

合成のレベルを上げる為。
いままで数多くのアイテムを調べ、作って来た。
死ぬ程アイテムを研究し、アイテム袋も調べた。
職人として、アイテム袋の原理を理解した俺に。

不可能は無い!!

『時空魔法・ワームホール』

ちょっとカッコよく言ってみた。
実は時空魔法など無いのだ!

原理はアイテム袋と同じで、異空間を創造する。
そしてこれはその応用。
空間と空間を繋げて別の場所に移動する。
瞬間移動って所かな。
上空の作戦会議で思い付き、試してみたら意外と出来たので採用した。

俺は『ワームホール』で牢の中に移動。
ポイポイっと魔物の姿をした兵士達を『ワームホール』に投げ込み一時帰還。
空に放り投げられた兵士達はマルチが水魔法でキャッチする。

しかし、ここで想定外の事が起きる。
セリスの氷魔法、俺の風魔法、敵の火魔法がぶつかり渦巻き、何とも言えない音がする。
叫び声みたいでめっちゃ怖い、、、

そんな事を考えていたら次はリーシュが狙われた。
センシオの巨大な『火球』が襲い掛かる。
同時に他の兵士2名にも、、、

・「パターーン4」

俺は叫びつつ行動に移る。
セリスとマルチを信じろ!

・セリス
「『氷牢×3』」

・マルチ
「『ウォーターシェル』」

セリスが牢と同じ様に処刑対象3人を氷で包む。
マルチが俺を水魔法で包む。
薄い水の膜が俺を炎の熱から守る。
想像以上にセンシオの『火球』が強い。
お陰でかなり熱い!

だが想定外ではない。

俺は迷わずに着弾地点に突っ込む。
爆発と同時に爆心地に到着。
風魔法を使用して炎のカーテンを作成。
外から見えない様にする。
同時に『ワームホール』を左右に展開して拘束されている他の2名の場所につなげる。
片方ずつ手を突っ込みそれぞれ風魔法で柱を切断。
柱から解放された兵士を掴んでリーシュの元に引っ張り込む。
更に風魔法で柱を切断、リーシュを抱え込む。
最後にもう一度『ワームホール』を展開。
今回は『ワームホール』から炎が噴き出ると想定して、セリスたちのいる場所から少し高い空間に再設定。
3人と共に脱出し同時に『ワームホール』を消す。
マルチとセリスが落ちてくる俺達を回収して洞窟まで移動。

とまぁ、こんな感じだ。

では話を進めよう。
 

~洞窟内~

・「しかし、魔物の皮を被せただけと思っていたが、、、そうでもないみたいだな。」

リーシュと思われる魔物を撫でつつ観察する。
完全に姿は魔物、いや怪物になっている。
考えたくないが、体は魔物に変化しているな。

・セリス
「信じられない、これが本当にリーシュなのか?」

・マルチ
「そんな、、、」

泣いてしまったマルチ。
セリスは未だに信じられない様子だ。
無理もないか、、、

・「だが、これはリーシュだ。
俺にはわかる。」

魔力の流れを観察すればわかる。
リーシュ魔力の流れと共に別の流れがある。
出元は心臓だな、、、
魔石?なんだ?何か埋め込まれてる感じだな。

・セリス
「リーシュ、、、」

セリスも涙を流し始めた。
どうしようもないと感じたのだろう。
そんな中、、、

・リーシュ
「うう、、、」

リーシュが目を覚ます。
驚きの表情と共に逃げようともがき出す。

・リーシュ
『やだ、見ないで、見ないでぇー!』

必死に何かを叫びつつ逃げようとする。
、、、何となく、解るよ。

・「大丈夫だ、リーシュ。
全部俺に任せろ。」

その言葉を聞いたリーシュは動きを止める。
そして力強く抱きしめてくる。

・リーシュ
『ライオットさん、ライオットさん』

俺達には呻き声にしか聞こえない。
可哀そうに、、、
言葉も、涙までも奪われたんだね。
言葉を理解出来なくてもちゃっと伝わってるよ。
きっと泣いているんだろう?

俺は強くリーシュを抱きしめた。

マルチもセリスも大声で泣いてしまった。
センシオとか言ったな、、、
俺の大切な人を傷つけた事、必ず後悔させてやる。

洞窟の中には言葉にならない鳴き声が響いていた。
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