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奪還

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こんばんわ?
どうもライオットです。
現在の正確な時刻は解りませんが、救出から数日経過しています。

私は今、洞窟の中で魔物さんに囲まれています。
魔物さんに囲まれてると言っても危険は無い。
何故なら元々オルドラの兵士さんだった人達です。
どうやら魔物の姿になると眠気は無くなるらしい。
お陰でずっと囲まれているのです。

本当は、センシオの野郎をぶっ飛ばしに行きたい。
今すぐにでもぶっ飛ばしに行きたい。

大事な事なので2回言いました。

しかし、まずは魔物化してしまった兵士さんたちをどうにか出来るか調べるのが先です。
ぶっ飛ばしに行きたいんですけどね。

とても大切な事なので3回言いました。

マルチとセリスは今ぐっすり寝ています。
魔物リーシュは俺に引っ付いている状態です。
時々話し掛けて来るが、何を言っているのか不明。
何となくで解釈して意思の疎通を行っています。
向こうはこちらの言葉は理解できている。
という事は本質的には変わっていないのでしょう。
魔物化、、、なかなか悪質な技の様ですね。

実は色々と聞く事が出来ています。
「はい」「いいえ」の2択で色々聞いてみました。
高校生クイズの最初にやるあれです。
「はい」なら右へ、「いいえ」なら左へ移動する。
そんな感じで答えてもらいました。

例えば、、、

質問: 私の言っている事が解りますか?

解: 皆、右に移動。

と言う具合に聞いていきました。
お陰で食欲と睡眠欲が無いという事を突き止めた。
徐々に盛り上がって来た時に、マルチに止められましたがね。

・マルチ
「文字は書けないんですか?」

と言う一言で、、、

その後の筆談で、魔物化する実験に使われた事や完全に魔物化すると人を襲うようになると言う事も知りました。
文字が解らないからセリスに読んで貰ったよ。
みんなやたらと詳しい事に驚きました。
多分、センシオの奴が実験中にペラペラ喋ったんだろうな。
演説がやたらと長かったし、、、
物事が上手くいくと、よく喋るタイプの奴だろう。

そんな訳で色々聞いていて気になる事があります。
食事の件です。
どうやら魔物化してから皆何も食べてないらしい。
実験という割にはおかしいよね?
普通なら実験対象を観察するんじゃないか?
20人も居るのなら色々な方法で試すだろう?
何人かは食事を与え、他には与えず比較するとか。
しかし今回はそれを行っていない。
さらに演説であいつが言った宣戦布告と言う言葉。
つまり実験は既に完了していたという事だ。
だから比較して調べる必要が無かったのだろう。
すぐに処刑するから何も食べさせなかった。
そんな所かな?

憶測だが、魔物化した人間をどうするのか考えた。
兵器として魔族との戦争に送り込むのか?
普通に戦力として使っても良いだろうしね。
他国にけしかけて魔族の侵略だと思い込ませる事も出来る。

多分、、、本命は後者だろうな。
まずは魔族の侵略が始まったと思わせる。
共通の敵を作り出し仲間として他国の懐に入る。
そして内側から突然襲わせれば比較的簡単に国を制圧、侵略できるだろう。
途中で人が魔物に変化したとバレても、魔族のせいすれば容易く言い逃れられる。
何とも嫌な考え方だな。
要するに領地拡大の為の作戦って所だろう。
ひょっとして魔族の幹部っぽい奴も今回の悪巧みに参加してたりして。
「世界の半分をやろう」的な魔王がいるのかもな。
、、、いないか。

そして更にヒントを見付ける。
食欲を感じ無いと聞いた時だ。
食欲は無くなるが食べなければ死ぬらしい。
その答えは、食べないとどうなるか解りますか?
と言う質問で知った。
これもセンシオが言っていたらしい。
あいつ本当にペラペラ喋るなぁ~。

食欲がないって事は食べる気が起きない訳だろう?
中には食べずにいる個体だって出て来るだろう。
しかし、それで死んでしまっては意味がない。
ならば食欲を感じなくさせたのは何故か、、、
たまたま無くなったのか?

、、、俺はここに秘密があると考えたんだ。

食事をしなければどうなるか、、、答えは死だ。
だが、死の前に訪れるのは?、、、衰弱だ。

魔物化したリーシュを調べたときに分かった事。
本人の魔力とは違う流れが体内にあった。
この魔力の流れを調べると、リーシュの魔力を侵食している事に気付いたんだ。
衰弱すれば魔力も弱くる。
そうすればより侵食しやすくなるだろう。
だから食欲を感じなくさせたんじゃないか?
心臓に埋め込まれた何かから魔力を流し、弱くなった魔力を徐々に侵食して人から魔物に変える。
魔力は火にも水にも変化する。
人間の根本にある魔力を全て食らいつくせば、人から魔物に変化させる事も出来るのだろう。
信じられないが答えは目の前にあるしな。
魔力ってよく解らんなぁ~。

・「てなわけで、数日間しっかりと食事をして貰いました。体力と魔力が回復したみたいなので、そろそろ本題に移ります。」

俺は兵士さんたちに説明する。
その上で手探り治療の協力を誰かに仰ぐ。
だってこんなこと初めてだし、、、
成功するとは限らないからさ。
でも、何となくこうなると思ってたんだよね。

・リーシュ
『私が最初に受けます。』

俺に引っ付いている魔物リーシュが何かしゃべっている。恐らく私からとか言ってるんだろう。
この子は本当に優しいなぁ~。

・「初めに受ける、そう解釈していいかい?」

一応、確認すると大きく頷くリーシュ。
やっぱりこうなったかぁ~。
こういう所は頑固だから引かないだろうな。

・セリス
「私が最初にって言いたいんだろうな。
気持ちは解るぜ、ライオットが失敗するなんて微塵も感じてないんだろう?」

いつの間にか起きていたセリスがリーシュに問いかける。
リーシュはやはり大きく頷く。
やめて、変なプレッシャー掛けないで、、、

・「解った、必ず治してみせるよ。
施術は俺とマルチで行う。
セリスは他の兵士さん達の食事を用意してくれ。
マルチが起きたら始めよう。」

・マルチ
「起きてる。」

これまたいつの間にか起きていた。
ビックリするから急に背後を取らないで欲しい。
「おはよう」って一言は大事だよ?

・「よ、、よし、ではやろうか。
ちょっと時間は掛かるかもだけどね。」

俺とリーシュ、マルチは少し離れた別の場所に移動する。
理由は簡単、だって集中したいじゃん。
移動中もリーシュは俺から離れなかった。
対抗するようにマルチも引っ付いて来た。
姿が魔物のリーシュでも昔と同じ様に接している。
ここ数日で魔物化の現象にも慣れたみたいだ。

移動後、リーシュを寝かせる。
少し心配そうなリーシュに一言掛けて安心させる。
そして深呼吸、、、

さて、いっちょ治療を開始しますか。

まずは魔力介入。
俺の魔力をリーシュの中に注ぎ込む。
続いてマルチも同じ様に注ぎ込む。
そして俺の魔力と合流。
リーシュの魔力に沿って流れを作る。

・「リーシュ、痛かったりしない?」

俺の質問に、大丈夫だと頷き答える。

・「じゃあ、続けるぞ。
行けるか?マルチ」

・マルチ
「ん、大丈夫。」

本番はここからだ。
リーシュの心臓に埋め込まれた魔石?
どう呼ぶか解らないから魔核とでも呼ぶか。
リーシュの魔力を侵食している魔核からの魔力。
こいつの流れを引き剥がしながらズラしていく。
一気にズラす事も出来る、しかし何が起きるか解らないからゆっくりと行う。

・リーシュ
『ん、、、、』

違和感があるのだろう、リーシュがビクッとする。

・「痛みがあればすぐに教えてくれ。
治療の方法は手探りだから。」

リーシュは頷く。

俺は少しずつ魔核の魔力をズラす。
マルチの魔力はリーシュの魔力を守る様に包む。
魔核の魔力浸食を防ぎつつ流れを一定に保つ。
そして約1時間程かけて魔力の出先を外に向けた。
その頃には魔物の姿も変化している。
元の可愛いリーシュに戻って来た。
魔力の浸食と共に姿が変わっていくみたいだ。
侵食度合いで姿が、完全浸食で意識が魔物化するって所だろうか?
そしてここからが本番だ。

・「最後の勝負だ。
リーシュの心臓から魔核を分離させる。
方法は合成と同じ原理だ。
一つの混合物を二つに分ける。
はっきり言ってどうなるかは解らない。
最悪死ぬかもしれない。
リーシュ、俺を信じれるか?」

リーシュは迷わずに答える。

・リーシュ
「ライオットさんなら、大丈夫だよ。」

リーシュの透き通るようなキレイな声が聞けた。
声が戻った様だ。
リーシュに迷いはない、むしろ俺の迷いを断ち切ってくれた。
ビビっているのは俺だな。
笑顔で見つめてくれるリーシュ。
俺がビビってどうする。

・「合図と同時に、魔力を全力で開放してくれ。
マルチはリーシュの魔力の流れをキープ。」

・マルチ
「はい。」

大きく深呼吸、、、
思い出せ、、、今まで作って来たアイテム達を。
今では呼吸をする様に分解も再構築も出来るだろ?
自分を信じろ、迷うな。

・「行くぞ、、、、、今だリーシュ!」

・リーシュ
「はい」

『癒しの鼓動』

リーシュの魔力が一気に高まる。
俺の『癒しの鼓動』で魔力は枯渇しない。
ここで、一気に分解、分離、再構築。

リーシュの身体が大きく仰け反る。
そして光と共に静かになる。
リーシュはピクリともしない。

・マルチ
「大丈夫!リーシュは生きてる。
魔力の流れもリーシュの魔力だけになったよ。」

どうやら意識を失っている様だ。
笑顔で答えてくれるマルチ、、、
俺の左手は、リーシュの左胸に添えてある。
そして右手には黒々とした魔核が出現していた。
魔核を眺めつつ、俺は呟いた。

・「上手く、、、いったな。」

安堵のため息を漏らす。
安心したら疲労感が襲ってきた。

・「あ~疲れた。」

だが治療すべき人達はまだ19人。
全ての人に施術を施さなきゃなぁ~。
と考えていた、、、

・リーシュ
「ライオットさん、、、、」

リーシュが気が付いたみたいだ。
俺はリーシュを見る。
そして気付いた、、、
てか、何で今まで気付かなかった?

・リーシュ
「ありがとう、ライオットさん。」

リーシュは俺に抱き着いて来た。
そう、真っ裸で、、、

・「よ、、、よかった。
えっと、、、おかえり、リーシュ。」

俺は出来るだけ冷静を装って答える。

そういえば裸のリーシュの胸をずっと触ってたな。
なんとなく気まずい俺。
気まずい中にも俺の本能が命令する。
『思い出せ、、、あの感触を。』
仕方ないじゃん、だって男の子だもん!

リーシュはそんなこと気にもしていない。
もう元に戻れるとは思っていなかったのだろう。
嬉しそうに俺の名前を呼び続けた。
強く、強く抱きしめながら。
暫くそのままだったが、、、

・マルチ
「どうだった、リーシュのおっぱいの感触は?」

激おこのマルチさんが布を投げつけてきた。
なんかごめんなさい。

・リーシュ
「ありがとう、マルチ。」

今度はマルチに抱き着いたリーシュ。

・マルチ
「わっぷ、、、ふわぁぁ、柔らかい。」

身長的に、顔が胸に当たるんだよね。
うらやましい、、、
実にうらやましい、、、、

・マルチ
「ライオット、鼻の下が伸びてる。」

よく見ていらっしゃるマルチさん。
俺はリーシュに布を被せる。
そして鞄にストックしてある虹糸と生地を出して服を作成、リーシュに手渡した。

・リーシュ
「本当に、、、怖かった。
何度も諦めかけたの、、、
その度にライオットさんの事を考えてた。
助けに来てくれた時は信じられなかった。
姿が変わった私を見て、迷うことなく名前で呼んでくれた時は本当に嬉しかった。
ありがとう、ライオットさん。
大好き!」

リーシュがまた抱き着いて来た。
しっかりと涙を流しながら、、、

どうだ、全てを取り戻してやったぜ。
待ってろよ、センシオ。
貴様の計画は俺がぶっ潰してやる。

・マルチ
「早く、服を着てリーシュ。」

マルチは一人アワアワしているのだった。

リーシュは尚も俺に抱き着き続けている。
綺麗な声で泣き、取り戻した涙を流し続けた。

俺は思う。

それにしても、リーシュ。
意外と大きかったなぁ~、っと。
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