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第1話
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「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」
城に呼び出されたかと思えば、貴族達が集まっている場で婚約者のジェイクが宣言する。
私セリスは発言の意味がわからず困惑していると、同行してくれたラドアお兄様が叫ぶ。
「ジェイク様、どういうつもりですか!?」
「立場を弁えろラドア! たかがレイロド子爵家が、よくこの場で俺に意見できたものだ!」
ヴィーオ公爵家と立場が上のジェイクが、お兄様に対して叫ぶ。
ジェイクはいつも子爵令嬢だからと私を見下していたけど、こんな理由で婚約破棄されるとは思わなかった。
「……セリスの魔法は素晴らしいが、次期聖女のローナはそれ以上に素晴らしいということか」
玉座に座り話を聞いた陛下が、ジェイクに尋ねる。
ジェイクは嬉々としながら、私を眺めて話をはじめた。
「その通りです。ローナの魔法と美貌はセリスを遥かに凌駕します。それに……セリスは、平民だからとローナを虐げていました」
「……えっ?」
いきなりジェイクが意味のわからないことを言い出して、私は困惑する。
ローナは何度かヴィ-オ家の屋敷で見たことがあるけど、虐げたことは一切なかった。
「セリスがそんなことをするわけがない!」
お兄様は私が無実だと信じてくれるけど、ジェイクが叫ぶ。
「貴様が妹を信じようが、セリスがローナを平民だと暴行を加えたことを俺や屋敷の者が目撃している! そんな悪女を婚約者にしておくわけにはいくまい!」
「私はローナに暴行を加えたことはありません」
「ふん……聖女は嘘がつけないから、ローナに尋ねればわかることだ」
確かに聖女は嘘がつけないけど、それは正式に選ばれた後だ。
今はまだ聖女の力を継承していないから嘘がつけるけど、聖女候補も嘘がつけないと思っていそう。
数日後に聖女の力を継承する聖女候補に選ばれているのはローナと私だけで、その理屈なら私も嘘がつけないと考えなければおかしい。
数年前……次期聖女にヴィーオ家のメイドだったローナが選ばれていて、私も聖女候補に選ばれてジェイクの婚約者になっていた。
どちらを聖女にするかは王家が決めることだけど、恐らくジェイクは私の評価を下げ、ローナの評価を上げて報告している。
どう考えてもローナに魔法と魔力で負けることはないけど、王家はジェイクの嘘を信じているようだ。
もしこれが発覚すればジェイクはただでは済まないけど……聖女なんて誰がなっても同じだと考えているのだろうか。
「聖女は嘘をつけない。か……それなら、ローナの発言を信じるしかないだろう」
陛下は納得していない様子だけど、聖女候補も嘘をつけないという発言を信じているようだ。
同じ聖女候補の私が否定していると話しても、聖女に相応しくない悪女だからだとジェイクが因縁をつけてくる。
そして――ヴィーオ家が嘘の報告をしていないと考え、ジェイクの発言を陛下や部屋の貴族達は信じていた。
レイロド子爵家よりヴィーオ公爵家を敵にしたくないから、私を婚約破棄してローナを聖女にすればいいと思っていそう。
貴族が集まっていた場だから、立場が上のジェイクに賛同するのは仕方がないのかもしれない。
その後――この行動が国の危機を招き、元凶のジェイクは破滅することとなっていた。
城に呼び出されたかと思えば、貴族達が集まっている場で婚約者のジェイクが宣言する。
私セリスは発言の意味がわからず困惑していると、同行してくれたラドアお兄様が叫ぶ。
「ジェイク様、どういうつもりですか!?」
「立場を弁えろラドア! たかがレイロド子爵家が、よくこの場で俺に意見できたものだ!」
ヴィーオ公爵家と立場が上のジェイクが、お兄様に対して叫ぶ。
ジェイクはいつも子爵令嬢だからと私を見下していたけど、こんな理由で婚約破棄されるとは思わなかった。
「……セリスの魔法は素晴らしいが、次期聖女のローナはそれ以上に素晴らしいということか」
玉座に座り話を聞いた陛下が、ジェイクに尋ねる。
ジェイクは嬉々としながら、私を眺めて話をはじめた。
「その通りです。ローナの魔法と美貌はセリスを遥かに凌駕します。それに……セリスは、平民だからとローナを虐げていました」
「……えっ?」
いきなりジェイクが意味のわからないことを言い出して、私は困惑する。
ローナは何度かヴィ-オ家の屋敷で見たことがあるけど、虐げたことは一切なかった。
「セリスがそんなことをするわけがない!」
お兄様は私が無実だと信じてくれるけど、ジェイクが叫ぶ。
「貴様が妹を信じようが、セリスがローナを平民だと暴行を加えたことを俺や屋敷の者が目撃している! そんな悪女を婚約者にしておくわけにはいくまい!」
「私はローナに暴行を加えたことはありません」
「ふん……聖女は嘘がつけないから、ローナに尋ねればわかることだ」
確かに聖女は嘘がつけないけど、それは正式に選ばれた後だ。
今はまだ聖女の力を継承していないから嘘がつけるけど、聖女候補も嘘がつけないと思っていそう。
数日後に聖女の力を継承する聖女候補に選ばれているのはローナと私だけで、その理屈なら私も嘘がつけないと考えなければおかしい。
数年前……次期聖女にヴィーオ家のメイドだったローナが選ばれていて、私も聖女候補に選ばれてジェイクの婚約者になっていた。
どちらを聖女にするかは王家が決めることだけど、恐らくジェイクは私の評価を下げ、ローナの評価を上げて報告している。
どう考えてもローナに魔法と魔力で負けることはないけど、王家はジェイクの嘘を信じているようだ。
もしこれが発覚すればジェイクはただでは済まないけど……聖女なんて誰がなっても同じだと考えているのだろうか。
「聖女は嘘をつけない。か……それなら、ローナの発言を信じるしかないだろう」
陛下は納得していない様子だけど、聖女候補も嘘をつけないという発言を信じているようだ。
同じ聖女候補の私が否定していると話しても、聖女に相応しくない悪女だからだとジェイクが因縁をつけてくる。
そして――ヴィーオ家が嘘の報告をしていないと考え、ジェイクの発言を陛下や部屋の貴族達は信じていた。
レイロド子爵家よりヴィーオ公爵家を敵にしたくないから、私を婚約破棄してローナを聖女にすればいいと思っていそう。
貴族が集まっていた場だから、立場が上のジェイクに賛同するのは仕方がないのかもしれない。
その後――この行動が国の危機を招き、元凶のジェイクは破滅することとなっていた。
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