大人になっても断れない私

七瀬蓮

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菜乃華が王子様なワケ

16歳の失態

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高校1年生の冬、私は一つの過ちを犯してしまった。周りは周りの友人達は、卒業式の準備に追われている子が多かったし、それ以外の友達は恋という名の青春を謳歌していた。私は当時パソコン部に所属していたが、進学補習も兼ねていて部活の活動日が4日だったが半分の2日は進学補習にあてていた。そのため部活動の卒業式実行委員に選ばれなかったのである。
そのため一緒に登下校してきた幼なじみの瑠奈ちゃんと一緒に帰れない日々が続いていた。2月10日は瑠奈ちゃんの誕生日だから一緒に帰りながら何かしたいと思いながらも、瑠奈ちゃんは、同じパソコン部員でも、活動がある日は毎日部活をしていたので、実行委員に選ばれていた。だから一緒に帰れず、その日は一人で帰ってあまりにも暇だったから、近くの図書館が隣接する公園に向かった。私は体を動かすのが好きでよくその公園にランニングをしに行っていた。自転車に乗ってその公園へ向かうと、その公園の入り口で、中学と高校が一緒で、中学で同じクラスになったことはあるが、あまり話したことのない須藤という男子が自転車に乗って出てくるところだった。お互い自転車に乗っていたし、仲が良いわけでもないので素通りしたが気まずいのと、あまり走っている姿を見られたくないので、しばらく図書館で小説を読むことにした。図書館で借りることもできるが、期限内に読み切らなければいけないし、家にいたらうるさい親がいて読書なんてできやしない。だから、図書館で本を読むことがランニングとセットで日課になりつつあった。その日は須藤と会った気まずさもあって小説一冊を熟読していたら1時間経っていた。時刻は5時半。本を読み切った達成感に満ち溢れた。暗くなる前に軽く走ってから帰ろうと思い、図書館を出て、公園を走りだした。文化部に所属しているが、走るのは好きだ。走ってる間は何も考えられない位苦しくなる。嫌なことがあった日はいつもより多く走るようにしている。少し走ったところで後ろから、
「あれ?羽島未来?」
と私のフルネームを呼ばれて足を止めた。振り向くと、1時間前にすれ違ったはずの須藤だった。
「須藤…」
私はなぜ声をかけられたか不思議で仕方なかった。それ以前に1時間前に須藤はこの公園を出る所だったのである。なぜ今ここにいるのか、私の事を1時間どこかからか見ていたのか、という恐怖があった。
「せっかく会えたんだし、ちょっとベンチで話さない?」
と須藤に言われて、一緒に公園のベンチに座った。須藤と私も中学時代いじめられていたので、雰囲気的には親近感は湧いていたが、それだけだ。座って何をするのだろうと思いながら須藤が
「未来って何部?」
と訪ねてきた。中学の時は羽柴と名字呼びだったのに、なぜ急に名前で呼ばれたのか違和感を覚えながら、
「パソコン部だよ。須藤は?」
と聞くと、
「俺は一年の前期は男子テニス部入ってたけど、みんな俺より弱いから、辞めて今は、釣り部」
私たちの学校は、一年生の間だけは、部活に必ず所属しなければならない。釣り部は活動が全くないいわば帰宅部だ。これ以上部活の会話を繋げられないと悟った私は
「そうなんだ」
としか言えなくて黙り込んでしまった。私の中の須藤は気弱なイメージだったが、自分より弱いという理由で、部活を辞めるところにどこか自分の実力に天狗になっているように見えた。別に私には関係のない話だが、力をひけらかしているところにモヤッとした。お互い共通の話題がないためしばらく沈黙が続いた。私はこの場を切り上げて走り出したかったが隣にいる須藤の雰囲気がそうはさしてくれなかった。しばらくして須藤は
「寒くなってきたな、、2月だし、夕方だと冷えるよな。手繋いでも良い?」とおもむろに私の右手を握ってきた。私はもう意味が分からなかった。寒いなら帰れば良いし、私自身気まずさが優って帰りたかった。すると須藤は
「未来の手あったかい。俺、冷え性だから、未来の手ここに乗せて?」
と私の手を握ったまま須藤の太ももに私の手が移動された。私は怒りに近いものを感じていた。私は中学時代男子からいじめを受けていたので、男子に嫌なイメージしかない。なので女子に暖を取られるなら許せるが、男子だと許せなかった。頭の中でもう帰ってよと何度も叫んでいた。しかし、男性の恐怖で言葉にできなかった。私が反応しないのを良いことに須藤の言動がエスカレートしていった。須藤は私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せ、
「未来、好きだよ」
と言って私の唇を奪った。私は何が起きたか信じられなくて、その場から逃げるようにして帰った。その夜、同じクラスで話しやすい茂木君からメッセージが来た。

「進学補習で一緒の須藤から未来さんの連絡先教えてほしいって言われたけど、大丈夫かな?」

私は茂木君を困らせたくなかったので、

「うん。大丈夫だよ!ありがとう」

と返信した。しばらくして、須藤から連絡が
「須藤だよ!よろしく。」
と来たので、私も
「よろしく」
とだけ返した。すると須藤は
「未来とキスした場所に明日も来てほしい」
とメッセージを、送ってきたので、私はびっくりした。しかし茂木君に変な事を言って、クラスで噂話になっても困るので、
「分かった」
とだけメッセージを返した。次の日の朝、スマートフォンに目をやると、須藤から200件近くのメッーセージや、不在着信があった。私は恐怖を覚えた。内容を見ると、
「電話したい。」

「なんで無視するの?」

「俺らキスまでした仲じゃん」

と夜中に5分おきぐらいに来ていた。中には

「返信をしないのって人としてありえない。未来は顔がブスなんだから返信ぐらいしてね。」

「返信しないのは人としてクズ」

等と人格を否定されるものまで含まれていた。
流石に怖くなった。しかし誰にも相談できずに1人息苦しくなっていた。正直いうと、誰とも関わりたくなかった。その日も須藤の誘いに断りきれず公園で会いに行くと、
「やぁ、未来。来てくれてありがとう。未来と会えて嬉しいよ。メッセージで酷いこと言ってごめんね。あれ、本心じゃないから、、、」といい、同じ事をされたが、何も感じなかった。中学時代同じようにいじめられていた境遇だから、メッセージの須藤は虚像で、今目の前にいる須藤が本物となぜか信じていた。ただ息が荒い須藤を見ながらこいつは何がしたいんだろうと、あきれていた。須藤は私の所属しているパソコン部の部室まで、商業科の友達と部室に乗り込んできたこともあった。私と須藤は普通科なので、須藤がパソコン部のある棟にいることが不自然だ。そして、私が部活動を終え、部室を出ると須藤に
「未来。この後いつもの場所に集合して」
と言われ、私は本当は嫌だったが、
パソコン部員の仲間にバレたくなかったため、
「…分かった。」

と言い、公園に向かうのであった。この頃になると須藤の指定する場所が増え、須藤の家の近所の公園になったり、マンションの駐輪場に呼び出されたこともあった。
指定された公園は天気がいい日は親子で溢れかえるぐらい混んでいて、そういう時は草むらの茂みに連れて行かれ、周りから見えないのをいいことに須藤は下半身を露出し、私の腕を握り須藤の下半身にあてがわれた。
「お前は露出狂か?!」
と心の中で何回叫んだか分からない。
マンションの駐輪場に呼び出された時は、なぜか、そこにパイプ椅子が一つだけあってそこに座る須藤の自慰行為を見せられる事もあった。たまにマンションの階段に連れて行かれ段差に座って話すこともあった。すると、

「もう、無理。未来可愛い…」

と言い、座っている私に覆い被さるように上に乗ってきて、逃げようにも上にのられていて逃げれない。
段差があるから後ろに倒れようとすると、

「これだと未来が逃げないからいいな」

と須藤がボソッと呟くのであった。
そして一番驚いたのが、図書館が休館日のある日の月曜、私が古本屋に行き、立ち読みをしていると肩を叩かれ、見ると横に須藤がいた。
そして、男性トイレに連れ込まれ、須藤にキスをされ、自慰行為をみせられた。そして、須藤から解放され家に帰ってスマートフォンを見ると、
「未来。古本屋にいるよね?」
「俺もいるよ。」
「隣に」
というメッセージが立て続けに送られてきていた。ホラー的な恐怖を覚えた

この頃から須藤に対するストレスで不眠症に悩んでいたが、介護の仕事をしている母親に相談しても、

「そういう事いう人ほど絶対寝れてるから」
と笑われた。


学年が上がっても私と須藤は同じクラスにならなかった。一度同じ部活の瑠奈ちゃんに悩みがあると打ち明けたら、

「未来が断らないのがいけないんじゃん!話聞くだけで瑠奈の方がイライラする。もう、その話瑠奈にしないで!もし悩んでいるなら、水曜日のスクールカウンセラーの先生お婆ちゃんだけど、めっちゃ優しいから、行ってみたら?」

と言われて翌日養護教諭の先生の元へ行き、予約を取ることにした。
保健室に行ったのだが、部活の同性の先輩とすれ違い「やぁ、未来ちゃん」と手を振られたので、手を振りかえし「先輩こんにちは。」と返したが、部活と違い元気のない私を不思議な目で見ていた。

「…失礼します…来週のカウンセリング予約したいんですが、、、」
と養護教諭の先生に伝えると

「オッケー!何曜日にする?」

と笑顔聞かれたので瑠奈ちゃんに勧められた先生にしようと思い、

「水曜日でお願いします。」

と伝えると、

「じゃあ、16時半から予約とるね!ちなみにカウンセリングで相談したこと担任の先生にも伝わるけど大丈夫?」

と聞かれて、正直大丈夫じゃなかった。その担任は男の先生で苦手だった。けど背に腹は変えられないと思い、

「予約ありがとうございます。大丈夫です。」

と伝えた。

そして次の水曜にカウンセリングを受け、匿名で何をされたかを洗いざらい泣きながら話した。すると、
「その人と少しずつ離れていってあなたが幸せになれるといいね」
というアドバイスをもらえたが、最終的にそのカウンセラーの先生は、
「あなた相談に来る誰よりメンタル強そうだから大丈夫よ。」
と他人行儀に返された。泣いた人にいう言葉か?何を根拠にそう言ってるんだろうとも思った。

一年時に仲の良かった紫音ちゃんは須藤と同じクラスだが、少し須藤に対する愚痴を匿名で相談させてもらっていた。すると紫音ちゃんは
「同じクラスの友達に同じこと言ってる子がいる」
と言って紹介されたのが菜乃華だった。次の日菜乃華は英会話の授業で須藤と隣の席になり、号泣嘘泣きした事で発覚した。その日の授業後、帰りのホームルームが終わって部活に行こうとした時、私の担任から
「未来、ちょっと残って」
と呼び止められた。その後、なのかと2人相談室に通され三時間にわたる聞き取りがあり私は須藤から送られてきた卑猥な画像、メッセージを全てさらけ出した。いつのまにか私もなのかも号泣していた。少ししてから私となのかは別の部屋に分けられた。私は数学の女性の先生と2人きりになった。分けられる前に先生に男性恐怖症とボソッと呟いたからだろう。須藤の話を先生に伝えるのが怖くて10月なのに手足が血が通ってないんじゃないかと思うぐらい冷え切って感覚がなくなっていた。聞き取りが終わったのが8時を回っていたので、親が学校に呼び出されて、事情も全て知られてしまった。私は母に軽蔑の眼差しを向けられ、「なぜ、そんな変な人と関わっているの!変だと思ったらすぐに切りなさい。」
須藤のセクハラが先生たちの明るみに出て、親に伝わり、大ごとになってしまった。2週間くらい家の中の空気がギクシャクしていた。

須藤はその件があり、それから2週間後退学することになった。なのかがいなければ、須藤を切れなかったかもしれない。そう思うと、なのかは私の王子様なのだ。
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