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第十五話 飛竜の巣
しおりを挟む僕らは今、飛竜の巣に向けて移動中。
颯馬とルシウスは走り。キアラとシアン、僕とランルカはトロルさんに乗せてもらっている。相当なスピードがでてるはずなんだけど、ルシウスも颯馬も余裕そうだ。雑談しながら走ってる。時折笑い声が聞こえてくるので、すこし混ざりたかったりする。
なにせ、僕とトロルさんは先程から一度も口を開いていないから。
シアンとキアラは移動中にご飯の話で意気投合。今は恋バナに興じている。ランルカはお眠です。
僕の後ろでは女子がキャーキャー言ってる。
僕とトロルさんは寂しいですよ。・・・キアラとシアンの恋バナでも盗み聞きしますか。
『聞き耳』発動っ!
「えぇー、キアラ様的には、どっちが好みなんですかぁ?」
「だからっ!私はそういう目で皆さんを見たことはなくて・・・」
「嘘ですぅ!私は教会でも優秀な人間だったので、看破の魔法が使えるんです!さぁさぁさぁ!吐いちまいましょうよ・・・!」
「うぅぅぅ・・・」
「ほらほらほらほら!さぁどっちです!颯馬様か!ルシウス様かっ!」
その瞬間、僕は聞き耳をやめた。
「トロルさん・・・」
――ウゴ?
「世の中って、残酷だよね・・・」
――・・・・・・ウゴウゴ・・・
トロルさんが優しい言葉をかけてくれる。
僕の味方は、トロルさんしかいない。
女子なんて・・・女子なんて・・・・・・
「・・・がね!白金っ!」
「はっ!?」
「起きたか。着いたぞ、飛竜の巣だ」
気付いたら飛竜の巣に到着していたようだ。
いつの間に・・・。
「ん?どうした、大丈夫か?」
そうか、こいつのせいでなにか悲しい現実に囚われていたんだ。なんだったか・・・思い出せそうにない。でも、
「颯馬、とりあえず一発殴らせてくれないか?」
「お前の頭の中が大変な事態に陥っていることはよく分かった。落ち着け。ここで仲違いをしていてもマイナスしかない。後で事情は聞いてやる。今は飛竜討伐のことを考えろ」
いつか絶対に殺してやる。
このモテ男め!
「見てわかるだろうが、凄まじい溝だ。俺やキアラならまだしも、お前らが這い上がってくるのは相当厳しい。俺とキアラが誘い出すからお前らは安全なところで戦ってくれ」
・・・二人共這い上がれるのか。
かなり凄いよ?この溝。奥見えないし。颯馬が蹴り飛ばした石が地面に到達して音を響かせることも無い。落ちたら間違いなく死ぬ。
飛竜はこの溝の奥の方で身を潜めているとか。
「んじゃ、俺が行ってくるわ」
そう言って、軽いノリで溝にジャンプ。
颯馬さんが何の気なしに自由落下していく。
「って、ちょっと颯馬!?」
「颯馬さん!」
「颯馬様!?」
「うわ、すげェ」
「落ちちゃった!?」
「ですのぉぉぉ!?」
さよならの颯馬。
まぁ、あいつなら戻ってくるか。自信満々だったし。
・・・多分
◇◆◇◆◇◆
◇颯馬視点
落下を続け、十分後、ようやく地面が見えてきた。
相当深いな。なんだこりゃ。ただの峡谷にしては深すぎるぞ。まじでキアラに来させなくて良かったな。落下速度が尋常じゃねぇ。俺でも普通に落ちたら死ぬな。
「はてさて、どうするかな」
・・・空中歩行でも使ってみるか。
空中歩行する時にイメージする光の板。それをゴムのような弾力のある材質に変更。これでも足は持ってかれそうだな。強靭化は付けるとして・・・あぁそれと、板をふむ前に、減速しよう。
「一撃っ!」
んで、つい最近覚えた『異能』雷神だな。よく分からんけど、携帯の充電を試してたら覚えた。
だがあんまし強くない。雷撃よりも俺の方が速いからな。
雷で爪を作り、峡谷を削ってブレーキをかける。
止まらないのは当たり前。まぁ、このくらい減速できてれば問題ないな。
空中歩行のゴムに向かって足から着地。
ゴムが伸び、やがて千切れる。だが、十分減速できた。これなら強靭化だけでも大丈夫だな。無理そうなら神速も使おうと思ってたが、無駄になったな。
――ガンッ!
凄まじい音が鳴り響き、耳がキーンとする。
地面には巨大なクレーターが出来てしまった。
今の音で飛竜が目覚めたのか、小さな鳴き声が聞こえてくる。まだまだ遠いみたいだ。
しかし暗いな。
俺の目でも全く見えん。光がない。
「雷神」
しゃーねーわな。
白金とかには見せられねぇな。あいつ嫉妬するし。
俺の周囲に雷の玉が浮く。数個は偵察に行かせている。
落ちるのに時間がかかったぶん、全ての飛竜を引っ張り出したいところだが・・・さてさて、何匹いるんだか。
俺に殺気を向けてるのが20体。興味本位で見てきてるのが8体。気付いてねぇのが確認できるだけで80体程。深層は横に広い作りになってるようだ。1匹につき、一つ部屋があるみたいだ。
なんとかしておびき出したい。怒らせれば、出てくるか?
ここ一帯に閃光弾でも使えば出てくるだろうか。
・・・ものは試し。爆音付きでやって見るか。
つっても、閃光弾自体は持ってねぇから雷神でここら一帯を光らせよう。音は・・・地面でも踏み抜けばいいか。荒業が一番楽だったりするし。
「はっ!」
峡谷の深層にある飛竜の部屋全てを内から照らせるような光を放つ。死角を作らないように、光源は大量に配置する。
それと同時に地面を思いっきり踏みつける。広がった地下空間が崩落しそうなまでに揺れる。・・・やり過ぎたか。
――クエッ!クエェェェ!
・・・なんだ?飛竜の鳴き声か?
イメージしてたのとだいぶ違うがまぁいい。この場にいる全飛竜の目が俺に向いている。飛竜が短気なのも関係しているだろうが、視線に殺気が混じり、奴らの位置が把握しやすい。
とりあえず、逃げるか。
経験値的には俺がここで殺しきってもいいんだが、依頼のこともあるし、なにより今日の目的は実力の確認と、連携だ。こんなところで遊んでるわけにもいかん。行き帰りだけでかなりの時間がかかっているからな。
神速と空中歩行を使って飛竜を上空へと誘導する。
にしてもこいつら・・・かなり遅いな。
行きよりも帰りの方が時間がかかりそうだ。
・・・愚痴の一つや二つ、覚悟しておくか。
◇◆◇◆◇◆
◇白金 時也視点
遅いな~もう二十分は経ってるはずなんだけど・・・。
最初の方は心配してたみんなも、徐々に落ち着きを取り戻し、今は仲良くみんなでしりとり中だ。喋れないトロルさんだけ颯馬の帰り待ちである。ごめんね、トロルさん。
そんなこんなでもう十分経ち、僕が回答に時間をかけ始めた頃、トロルさんがドスドスと音を鳴らして近付いてきた。
――うご!うご!
どうやら、下から颯馬が這い上がってきたらしい。
それも、かなりの数の飛竜を連れて。僕がトロルさんの通訳をしていると、「そんな馬鹿な」とみんな言うので、峡谷を覗いてみることに。
すると・・・
「颯馬ー!」
「うわー!颯馬ですのぉ!」
本当に颯馬さんが這い上がってきてました。
それも、高速で。飛竜もかなり怒っているようで、必死になって颯馬を追いかけている。僕達、こんな速いの倒せるの?
溝から上空に飛び出し、僕らがいる方の地面に降り立つ。それも、僕の隣に。
それを見た飛竜がこちらに向かってくる。
そして、颯馬は僕の後ろに立った。
ん?
「ちょちょちょ!颯馬!?颯馬サァン!?死んじゃうって!」
「ははは!退屈だったろ!いい運動になるぞ!」
「違う違う違う!そういう冗談いらないから!た、助けてルシウスぅ!」
向かってくる三体の飛竜。
大きな顎に僕の体が収まろうとした瞬間、飛竜の体が細切れになった。
「ったく。遊びすぎだぜェ?颯馬ァ、白金ェ」
「ルシウス様ぁぁぁ!ベリーサンクスよぉ!」
ルシウス様が助けてくださいました。呼んでみるものだね。
でも、今僕の後ろにいるバカは後で殺そう。
「ナイスルシウス。んじゃ、俺とルシウス、トロルさんが前衛。キアラとシアンが後衛でいこう。キアラは基本全体攻撃で頼む」
「了解しました!任せてください!」
「私も大丈夫です。颯馬様、ルシウス様、キアラ様、トロル様よろしくお願いします」
「あれ?僕は?」
僕とランルカすること無くない?
「お前は発明品の試運転でもしてろ。新しいのいくつか、作ったんだろ?」
「ん?あぁ、うん。そうそう、ここで言うことでもないけど、家帰ったら僕の工房に来てね。多分、喜ぶと思う」
「・・・了解した。んじゃ、ランルカについてはルシウスに任せていいか?」
「おう。任せとけ。こいつらも強くなったからなァ。一匹二匹なら殺れると思うぜェ」
よし、じゃぁ、いこうかっ!
飛竜討伐、開始!
――――――
はたつばです。
切るタイミングを探していたら、こんな所にいい単語がありました。
見つけた瞬間に「ここだっ!」と叫びました。
次回もよろしくです。
出すのが一日遅れてしまい、申し訳ありませんでした!
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