異世界に来たら勇者するより旅行でしょう

はたつば

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第六章 化物共の戦争

第八十話 過去に残る記録された戦い

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◇第三者視点

  時が経ち、楓は中学生になった。
  幼馴染である柊奏汰、山岸明日香とも良好な関係が続いていた。

「楓、なにしてんの?早くしないと学校遅れるわよ?」

  明日香の凛とした声が響く。あまり身長の伸びなかった明日香がボーっと空を見上げる楓を下から覗いている。ボブカットの明日香は身長こそ低いが、幼い頃の可愛らしさが良い方向に成長し、今では学校一の美少女となった。
  顔もそこそこ良く、成績優秀スポーツ万能戦闘最強そして幼なじみである楓との恋仲を囁かれていたりするが、二人共否定している。

  そんな噂の流れるほど有名人な二人にいつもついていて、どんな問題もその優しい性格で解決する奏汰もまた、なかなか人気者である。というか、楓や明日香よりも身近な感じがしてモテていたりする。

「そうだね。いくら能力があるからって、ギリギリになるのはよくないよ。楓、明日香行こう」

  優しい笑顔の奏汰。輝かしいほどの好青年に育った。
  そしてあの男は

「あぁ。行くとするか・・・」

  黒田楓は幼い頃の輝く笑顔を失い、まるで失敗した不良のような性格になってしまった。容姿は普通なので、自ら不良を意識しているわけでは無いらしい。

「歩いていっても遅れるし、一応能力使うぞ」
「うん」
「わかったわ」

  楓の体が光りだす。肉体の強化を行い、走り出した。
  奏汰の足はその細身には似合わない鬼のような強靭な足に変わった。
  明日香はどこからか絨毯を取り出し、宙に浮かぶその絨毯に飛び乗った。

  三人は高速で動き、止まることなく進む。時には車や建物の上を飛んでいくので大幅な時間短縮になる。

「よし、これなら間に合いそうだな」
「ズルだけどね」
「別にいいわよ。使用を禁止されてるわけでもないじゃない」

  上空から門前へスタッと降りたつと、周りからは注目の視線を浴びることとなる。
  人気者の三人は羨望の眼差しをよく受けるのだ。嫉妬はほぼ無い。それを感じさせぬ程に能力的な差があるからだ。
  能力の存在が当たり前にあるこの世界では彼ら三人は特別なのだ。

  三人は最初こそ戸惑っていたものの、今は何ともなく、スルースキルを身につけている。その視線を華麗に無視し、校舎に向かう三人。
  どこの山岸の力が働いたのか、幼稚園の頃から三人はずっと同じクラスだ。
  能力者学校なので、授業自体は天才や魔術についての講義や能力制御なんかを主に教えている。


  授業、割愛!!!


  放課後となり、夕日が見える時間帯。
  帰宅部という特別な部活動を嗜んでいる楓と奏汰は二人で帰宅。明日香は一人だけの部活『研究開発部』に所属しているので、日が沈む定刻までは学校に残っている。

「今日も授業は退屈だった(白目)」

  全知全能とも呼べる能力を保有する楓にとって授業ほどつまらないものは無い。知ろうとすれば全ての情報を手に入れられる状態にある楓が今更知りたいことなどない。今学校で習っていることなどは生まれたての時の知識欲のせいで全て得てしまっている。教師よりも多くのことを知っているので退屈なことこの上ない。

「僕もだよ(白目)」

  奏汰は全く内容を理解していない。頭自体は悪くないのだが、本来脳筋種族である彼らは自然と知識を遠ざける傾向にある。つまり、学ぶ意欲が欠片も起きないのだ。テスト前に楓から個人レッスンを受けるのはよくある事だ。

「はぁ・・・奏汰、今日仕事は?」
「僕はないよ。楓は?」
「山岸さんから情報提供だけ頼まれてるから、それだけだな」

  奏汰と楓の仕事は軍関係。国からの招集を受けているため、学校での入部義務が無い。

「あ、じゃあ僕も行くよ。」
「なんか用事か?」
「うん。月一の測定にでも行こうかと」
「あ~大変だな」
「でも、あれ結構楽しいよ?」

  楓のような化物的力を持つ者は測りようがないので無いのだが、奏汰のような破壊殲滅を主とする力を持つ者は軍にいる限り、月一で測定をしなければならない。月に1回いつでもいいのだが、奏汰はまだ消化していなかったようだ。

  二人は軍基地まで着くと、そこで一旦分かれることにした。

  楓は軍総司令部の山岸総司令官の元へと向かった。
  強能力者をかなりの数保有している日本軍はかなり世界でも幅を利かしており、その力故に各国から狙われることも多い。山岸総司令官はそのトップということでよく暗殺されそうになっている。・・・すべて自分で対処しているようだが。

  総司令部にたどり着いた楓はノックもせずに、部屋の中へと入っていく。

「山岸総司令官」
「む、楓くん!よく来てくれたね。そこの椅子に座って待っててくれ。これが終わったら行くよ」
「わかりました」

  少し薄暗い部屋でコンピューターは休むことなく働きつづけ、モニターはひっきりなしに移動し続けている。総司令部と言うだけあって、忙しいようだ。ここでは山岸総司令官も気のいいおじさんではなく、厳格なトップ。彼も今は忙しそうだ。
  国こそが最もブラックな地である。
  山岸総司令官のお言葉である。

「よし、あとは任せる。・・・できるな?」

『はいっ!』

  その返事で力強く頷いた山岸総司令官は楓の座る椅子へと向き直った。

「遅くなったね、ゴメン」
「いいですよ。忙しそうでしたし」
「最近はロシアもアメリカも軍に入る能力者が増えたみたいで、休みがないよ」
「親父は何を?」
「暇な時には海の方で散らしてくれてるんだけど、最近ちょっと数が多くて、疾風の暇時間だけじゃ足りなくなってきたね」

  化物の対応の方が大事なので、山岸総司令官は何も言えないのだ。

「ふーん。俺が出ようか?」
「いずれ頼むことになりそうかな」

  子供をなるべく戦場に出さないようにはしているが、それも近頃は厳しいようだ。
  楓の耳にも入っている優秀な光魔術師もそろそろ主軸として投入する予定だとか。

「それで?今日は何が知りたいんですか?」
「敵方の主力かな」
「この国に敵がいすぎてどこの誰を知ればいいのか・・・」

  軍の強さにかまかけて他国に喧嘩を売りまくる政治家たち。自分勝手な連中のせいで山岸総司令官達軍部は大変迷惑を被っているとか。敵が増えすぎている。楓と疾風がいれば何とかなりそうな気がする。自ら敵を増やすのもどうかと思うが、身内が戦争に出ない奴らは軍の苦労を知らないのだから仕方がない。

「さっき言った、アメリカとロシアだね。あそこは科学兵器だけでも厄介なのに、強い能力者が増えるとなればこの国も危ない」
「なるほどね・・・」

  楓が能力を発動すると、一瞬で情報が集まってくる。

「・・・酷いな。紙ありますか?名前、顔、所属、能力の説明を写します」
「うん、このメモ帳で大丈夫かな?」
「はい。少しお待ちを」

  何も書かれていないメモ帳に人相とその個人情報が次々と浮かび上がってきた。無論、楓の能力を使ったものだ。
  それを数10人分行い、メモ帳を持ち主に返した。

「ありがとう。えー、なになに?」

  しばしの間山岸総司令官は紙に書かれたそれを見つめる。

「ほぉ。なるほどなるほど。これは厄介だぞ・・・。相手が同盟でも組んで、同時に責めてきたらさすがにまずいな。沈められる可能性まである」

「そんなに戦力差がありますか」

「あるね。切り札として君を使うことになるかもしれない。その時は化物としてではなく、日本人として戦ってもらいたいね」

「了解です」

  既に楓は化物としてそちらの世界でも戦っている。彼の父親である疾風と同じく、原点の守り手として防衛の任についている。未来の主力としてほかの化物にも疾風を通して交流していたりする。
  代々『黒田』は守り手として原点を守っている。たまに失踪する黒田もいるが、その辺りはその親か子供が代理をすることになっている。実際、楓の祖父にあたる黒田颯馬は失踪してしまった。
  化物が一国に加担するのは反則気味だが、これ以上敵はいないので、日本はこのチートを使いまくる。各国からは批判されているが、今更。

「楓くん、軍部的話はここまでにして、ざつだんにうつろう。」
「仕事に戻らなくていいんですか?」
「たまにはいいのさ。普段頑張りすぎてるんだから」

  苦笑いをするしかない楓。

「最近、明日香はどうだい?元気なら嬉しいんだけど」

  頑張りすぎ、というか、ブラックな国に雇われる山岸総司令官は近頃家に帰っていない。帰っても真夜中。顔を見ることがなかなか無いのだ。

「元気です・・・よ・・・?」

  楓の顔から血の気が薄れていく。
  少しすると、真っ青になっていった。

「・・・どうした?」

  心配してその顔を覗き込む。楓はそちらに機械のようなぎこちない様子で顔を向ける。

「明日香が侵略組に攫われた・・・!!」
「ッッッ!!」

  それを聞いた瞬間に、山岸総司令官は血相を変えてその場から走り出した。

「待ってください!落ち着いて!」
「落ち着けるわけないだろ!明日香はまだそちらにいけるほど強くない!!」
「分かってます!ですが、居場所も聞かず何をするつもりですか!!」

  楓に肩を掴まれ、無理やり静止させられ、ようやく落ち着き始める総司令官。

「・・・頼む助けてくれ・・・あの子は私のたった1人の可愛い娘なんだ・・・!」
「分かってます。俺にとっても大切な幼馴染です。そう簡単に手放せません。まずは居場所ですが、これが相当厄介です」
「まさか」
「侵略組の本拠地。神界の影世界。それも、ど真ん中です」

  最悪の場所。
  原典を奪い取ろうと画策する者達。侵略組の中枢。原典の影世界の中で最も厄介。群れることを覚えた化物は厄介。
  それは最強たる疾風や全知全能たる楓も思っている事だ。
  単体なら負ける事はなくとも、最強格が集まって死を持って挑んできたら勝負は分からない。それに、敵方のボスは疾風、最強に並ぶ化物だ。

「・・・奴らの目的は?」
「・・・俺ですね」
「なぜだ」
「俺の全知の力を借りたいみたいです。・・・しかし、この情報を知れば向こう側のトップは攻めてくるでしょうね。本気で、世界を滅ぼす覚悟でね」
「・・・俺はどうすればいいんだ・・・?」
「それは俺が教えて欲しいですね。俺と親父にはこの世界を、人類を守る義務がある。だが、明日香は必ず助ける」
「当たり前だ。楓くん、必ず救ってくれ」
「・・・正直、できる確証はありません」
「そこはできると言って欲しかった」
「それほど敵が強いんです。・・・力は『理不尽』。俺の力とどっこい。経験値的なとこから言えば向こうの方が上でしょう」
「それでも」
「やりますよ。いずれ消さなければいけないやつだ。守護者としても、黒田としてもね。測定室にいる奏汰には『ちょっと遊んでくる』って言っといてください」

  そう言い残し、楓はその場を去ってしまった。

  世界最大の戦争を起こすために。





  次彼が現れたのは、原典中央の円卓。

「お~来たんだね~楓~」

  陽気な口調で話しかけてくるのは、マーリンだ。
  その場には他にも、覇王や翔太などお馴染みのメンバーがいる。

「明日香が攫われた。助けに行ってくる」

「へ~じゃ~私も行くよ~」
「俺も行く」

  お隣産地行ってくるレベルの軽さで明日香奪還に協力する無所属の自由人たち。
  はその圧倒的力を持って侵略組を滅さんとする。これは唐突な話ではない。以前から侵略組は厄介者だったので、この機会に戦争をふっかけて潰したいというのが自由者たちの間で以前から言われていたのだ。

「小細工はいらん。真正面から潰す」

  表の世界から裏の世界へ。
  自由者達は神界の裏世界へと侵入し、敵の中心部へと現れた。

  突然の登場に慌て、逃げ出す侵略組の雑魚たち。
  はじめに動いたのは覇王だった。その場で腕を振りかぶり、王の玉座に向かって振り抜いた。

ーーゴウッッ!!

  吹き荒れる暴風。消し飛ぶ侵略組の下の者共。
  玉座の置かれたその部屋。後には形をなくした装飾の破片達、侵略組の上位者達、そしてその頂点である侵略組の最強のみが残った。

  楓の腕の中には明日香が抱き抱えられている。

  覇王の一撃に合わせて回収したようだ。

「え、か、楓?」
「迎えに来たぞ、明日香」

  その言葉と今の状態に顔を真っ赤にして俯く明日香。
  日本でこの光景を見れば幸せな和やかな気分、または地獄の業火のように煮えたぎる苛立ちが周りから放たれることとなるだろう。だが、ここは神界の影。侵入者に対し、侵略組の者達がひっきりなしに襲いかかっていく。
  建物ごと吹き飛ばしたのは間違いだったと覇王が少しだけ反省した。

「楓~イチャコラしてるんじゃないよ~。『殲滅』の魔導『首狩りの鎌』」
「邪魔なやつらだね。あまり、僕らの邪魔をするな」
「邪魔者は私が全て殺し尽くすと約束します。機砲を八つ解放します。巻き込まれないようにしてください」
「・・・『死と闇』の薬・・・これ痛いんだよな・・・」
「・・・なっちゃん、アルシャルカ、ゴリ蔵さん。・・・雑魚どもを殲滅するの」
「はいはーい。敵が多くて助かります。ここを・・・こうしてっと・・・よし、それじゃ共食いといきましょう」
「はっはっはっ!ぶっ飛べェェ!!」

  化物が各々の力を解放し、侵略組を喰い荒らしていく。


  毒々しい闇の鎌が大量に出現し、侵略組の首を取り、消滅させていく。

  翔太が手を振れば侵略組は魂ごと虚無の世界へと送られ、その場で消滅する。

  WBN2T3oの周辺に現れた八つの砲台が爆音とともに無限の弾丸を発射する。そのいずれも侵略組の体に触れた瞬間にその体を飲み込んで消え去る。一撃必殺の弾丸だ。

  グサッと自分の体に注射をするカール。段々と姿が変わっていき、見るもの精神を削りきってしまうほどのおぞましい姿に。それから吐き出される負の瘴気は触れたものの肉体を侵食し、腐らせていく。再生なども無効化する理不尽な毒が完全に回るとその場で他人を巻き込むように爆破し、瘴気を撒き散らしていく。

  召喚された化物。ナタリアは手に持った剣を華麗に扱い、斬り殺す。アルシャルカの魔法は何もかもを吹き飛ばす。ゴリ蔵さんの拳はマリアやその仲間達を襲う全ての攻撃を粉砕する。

  柚香に襲いかかった侵略組は目の光を失い、意のままに動く人形となる。真横から襲われた侵略組は洗脳された数名の仲間に喰い殺されてしまった。

  覇王は何も言うまい。
  単なる力の暴力だ。


  楓と敵ボス『サガン』は睨み合う。
  先に口を開いたのはサガン。

「来たか。そこにその少女がいるということは、話す気はないと?」
「・・・ないな。」
「そうか・・・ならば死ね」

  明日香を元の日本、山岸総司令官の元へと帰し、楓はサガンと衝突する。
  二人はその場を離れ、無人の世界へ。

  サガンの持つ能力は『理不尽』。
  圧倒的な力を圧倒的な力にて押し潰す。降りかかる理不尽を己の理不尽さをもって叩き潰す。侵略組最強サガン。

  そのサガンは紛れもない最強であり、最凶だった。

  楓は一瞬にして地面に叩きつけられた。
  負けを悟るが、そこに楓にとってお呼びでないお客が現れた。

「楓!どうしたんだよ!」

  奏汰だ。
  山岸総司令官に楓が「ちょっと遊んでくる」と言っていたと聞き、急いでここまで来たようだ。幼馴染みに嘘は通じない。分かっていたことだが、タイミングが悪すぎる。

「なんで来た!?」
「君ひとりじゃ勝てない!死ぬぞッ!」
「奏汰が来たところで変わんねぇ!サガンは強すぎる!」

  理不尽の王に立ち向かう雑兵が一人加わっただけではなにも変わらない。

「安心しろよ。二人共殺してやる」

  サガンのプレッシャーを肌で感じ、崩れそうになる二人。
  幼い頃からの絆がなければすぐにでも片方を切り離して逃げ帰っていただろう。

  楓は立ち上がり、奏汰も鬼の体へと変わる。
  それは共に戦うという意思の表れ。

「行くぞ!」
「うん!」

  怒鬼に莫大な力を流し込む楓。全能の力は世界を統べるものが生物を作るために持つ力。生物に力を流し込むことが出来るのが全能だ。人間や動物に与えることが出来る力ならばいかなるものにも与えることが出来る。一人間に与える力ならば化物相手ではまるで対抗できないだろうが、億万の人間に与える力を一人に与えれば、かなり強くすることが出来る。

  楓はそれが可能だ。神も世界もできないようなことをやってのけるのがこの男だ。

  だが、相手が悪い。
  敵が悪い。相手は理不尽の権化だ。力があればそれを上からねじ伏せる。

  怒鬼の拳は理不尽の顔面を捉えるが、
「効かねぇよ・・・。ガキが何人束になろうが俺には勝てん」
  横薙ぎに打ち込まれたサガンの蹴りが怒鬼の腹に入り、怒鬼は臓器を潰され吐血しながら吹き飛んでいく。

「奏汰!!」
「よそ見してんじゃねぇよ!」
「かはッ!」

  もろに腹パンをくらい、膝をつく。その傷もすぐに癒えるが、立ち向かう気力はそう簡単には戻らず、腹を抑えたまま下を向いている。敵は恐ろしい化物だ。能力頼りに生きてきた楓とは地力が違う。

「お前だけは生かしてやる。その代わり、あのガキは殺すぜ」

  それを聞いてようやく前を向き、立ち上がる。絶望を払い除ける友との絆。

「やめろ・・・!それだけはやめてくれ・・・!」
「うっせぇよ、雑魚」

  しかしそれも、理不尽に潰される。
  顔を上げたところに下から顎を狙った蹴りがはいると、楓の体は小石でも蹴るかのような軽さで吹き飛ばされた。意識を刈られ、次は地面に伏すこととなった。

  そして、楓が次に顔を上げた時には奏汰の意識はなく、自分の前で半身を失っていた。

「奏汰ァァァ!!」

  楓の力が発動しない。いつもなら簡単に治るはず。簡単に意識を戻してやれるはずなのに。奏汰の体は再生せず、惨たらしい姿のまま動こうとしない。

  上空から楓と奏汰を見下ろしていたサガンは怒りを浮かべて、焦るように答えを求めた。

「弱いんだよ、お前は。・・・言え、正解はなんだ」
「言えない。お前が知るべきではない・・・!」
「貴様が生まれた理由はこの俺に真実を伝えるためだ」
「違う。お前を・・・殺るためだ」
「お前のようなガキがんなことできるわけねぇだろォが!」

  また蹴り飛ばされる。

  サガンが戦う理由はちっぽけなものだ。世界全体を壊しかねない戦争をする彼らには小さすぎる理由。だが、何千年、何万年経ってもおさまることのない怒り。過去の失敗は万の時を経て、強大なバケモノを生み出した。

  転がった楓をサガンが睨みつける。

「誰だ・・・!どのように!なぜ・・・!」
「お前はそれを知れば止まらなくなる・・・!」
「今更何も関係ないだろ!!俺は世界を滅ぼす覚悟がある!」
「知ったところで何も変わらない!」
「俺が死ぬ時に知っているか、知らないか。大きすぎる違いだッ!」

  サガンから世界そのものを潰せそうな程の圧力が放たれる。
  楓はなんとかしてその場から逃れようとするが

「無駄だ。今のお前では俺には勝てない!」
「ぐっ・・・!!」
「時を待つべきだったな!黒田!お前を殺すことは不可能だ!だがな!永遠の果てに送り込むことはできるぜ!!」

  楓の手首から先が虚空に消える。

「がッッ!!」

  しかし、その直後には何事も無かったかのように手が生えている。

「やっぱり、すげぇな!その力はッ!同じ化物として尊敬しちまう!」
「クソがッ」
「ほらな、スタミナももう戻ってんだろ!お前みたいな化物がいるからこの世界はこんな理不尽がありふれてんだッ!お前と疾風を消し飛ばしてこの世界から黒田を全滅させ、必ず復讐を果たす!そんな自体になる前にさっさと吐けよッ!」

  理不尽が理不尽としてこの世に存在しているのは世の理不尽を根絶させるため。

「なぜあいつが死ななければならなかったんだッ!無実で無意味で無害なあいつが消されなければならなかったッ!吐けよ、黒田ァァ!!」

  彼の最も大切にしていた少女は名も知らぬ弱者に殺された。いや、消されたのだ。世界を滅ぼすには小さすぎる。犯人なんてものは簡単に見つかるし、殺害も容易だった。しかし、その裏にいたはずの者はまるで分からなかった。彼の理不尽をもってしても、突き止められなかった。

  だからこそ、黒田楓が必要なのだ。

  木下柚香は世界と楓が完璧に隠蔽している今は知らない情報だし、世界とは戦うという選択肢はない。

「教えてくれよ!」

  世界は終わる。
  知られてしまえばサガンの怒りによって、世界は終焉を迎える。

「・・・そうかよ。なら、お前の脳をもらうぞ・・・!その全知をいただこう!」

  腕を消され、足を消され、臓器も一瞬で吹き飛んだ。
  胴体はほぼ全て削り取られ、手をつけられなかった頭部は眼球のみを貫かれた。

「どうせ、世界は終わる。・・・お前が復活するのは世界が終わった後だよ・・・」

  それだけが楓の耳に残り、彼の意識は闇に落ちた。

「さて、貰うぞッッ・・・うがッッ!!」

  楓の脳にサガンが手を伸ばした瞬間に、理不尽を吹き飛ばす希望の風が吹いた。

「・・・くそ・・・!来たか、疾風ェ!」
「当たり前だろ。息子の危機に駆けつけねぇ親がどこにいる・・・!」

  最強と最強がぶつかる。

  怒りに満ちている疾風。普段見せる、太陽のような優しい父の姿はそこになく、死へと引きずり込む地獄の鬼のような雰囲気を感じる。
  体の90%を失った楓と半身を失った奏汰を暖かく優しい風の結界で守り、サガンには暴力的なウイルスを撒き散らし、ありとあらゆるものを風化させる悪魔のような風を向けている。

「お前は理不尽だが、俺は親として楓を守る義務がある」
「俺以上の理不尽が何を言う。・・・だが、そのお前の理不尽は俺の糧にしかならない」

  理不尽を理不尽を持って潰す。それは新たな理不尽が現れれば、その上をいく力を手に入れてたたき落とすということ。敵が強ければ強いほどサガンは強くなる。

「それがどうした。それに、俺は弱いぞ。楓に比べたら無力にもほどがある。親父にも最後まで勝てなかったしな」

  あくまで自分は最強ではないと主張する疾風。

「貴様が雑魚と言うなら、俺はどうなるよ」
「俺と同じだよ。お前は必ず楓に殺される。必ずな」
「世迷言を・・・!それはつまり、お前が俺に殺されるってことじゃねぇかよォ!」

  近付いたサガンの拳が疾風の腕ガードに阻まれるが、疾風はそのまま吹き飛んでいく。
  あまりの軽さにサガンが驚いていると、疾風は吹き飛ばされた先で笑みを浮かべながら答えを出した。

「俺はここで殺されるよ。自分の力の9割をその風の結界に使ったからな。全く力が出せん」
「お前がそこまですることかよ・・・!」
「するさ。父親はな、何よりも息子を優先するんだよ」
「そんなもん・・・いつか後悔するのはお前のガキだぞ」
「だろうな。だが、ここで楓が死ねばそれすらさせてやれないだろ」

  何を言っているのか、首を傾げながら疾風はそう言った。

「・・・ここで死ねば、その後俺は結界を壊すだけだぞ」
「大丈夫だよ。そのために、頼れるヤツに頼んでおいた」
「は?」

「やっほ~お久しぶりだなお二人さん」

  唐突に現れた真っ白な少年。

「お前はッ!」
「どうも~世界でーす」

  全ての素である最初の世界であり、全ての世界を管理する者。

「なぜお前がいる!戦闘には参加しないはずじゃ!」
「それは僕の気分次第だよ。でも、今回するのは運び屋だけ。疾風の命を守るために来たわけじゃない。僕はそこまで善人じゃないからね」

  不敵な笑みを浮かべる世界。
  善であり悪である。絶対的正義であり、絶対的悪である。どちらの存在にもなれるのが世界というものだ。全ては彼の裁量で決まってしまう。
  世界がいつ始まるかも、終わるのかも彼次第。
  それはまさしく、理不尽の塊であった。

「いつかお前も殺してやるよ・・・」
「あはは、楽しみにしておくよ」

  それだけ言うと、世界は風の結界に包まれた楓と奏汰を連れて『転移』した。

「やっぱりこの世は理不尽だらけだな。本当はこんな能力俺にはあってねぇはずなんだかな・・・ちっ・・・疾風、お前だけはここで始末させて貰うぞ」
「抵抗はするけどね」

  誰の目にも留まらぬ無の世界で最強と最強の戦いが始まった。





ーーーーーーーーーー
はたつばです。

この頃の世界さんはチートなのです。
次回更新!来週土曜、19:30です!

今(書いてる時)のはたつばの頭を『緑色の地球外生命体で、世界に散らばったドラゴンの玉を見つけ出す漫画に登場する魔貫○殺砲使い』が支配している。
↑どうでもよいけどね!
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