鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する20(過去編①)

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朱丸の頼みで、村のみんなを埋葬し、墓を作った。
《帰ろうか。小太郎の村に》
「……」
《小太郎…》
だいぶ落ち込んでいる。
《やっぱりオイラの体ないね。小太郎の中に一緒に入ったのかな? それとも魂だけで、肉体は消滅したのかな?》
「朱丸。オレさ、人間なのか?」
《え?》
「おまえが中に入ったから、鬼になったのか?」
《…わからない。でも、人間だったら妖力で、傷が治せたりしない》
小太郎は、自嘲気味に笑った。
「ハハ…オレも鬼か…。だったら、すごく長生きなんだろ?」
《う、うん》
「そうか。……余計なこと…して…」
《え?》
「人間のまま、死なせてくれりゃ良かったのに」
《小太郎…》
「オレはさ、もしかしてこれから、人間を襲うようになるんじゃないのか? 朱丸の爺ちゃんの血を舐めて、もっと欲しいって。もっと食べたいって。思ったんだ」
《……》
「怖いよ…朱丸。怖い…」
小太郎は、座り込み泣きだした。
「う…ああ…ひっ…ぐすっ…」
《小太郎…オイラ…う…あああ…ひっ…ずびっ…うああ~ん》
「あ…ぐっ…う」
小太郎が胸を押さえて、蹲った。
《…ぐすっ…小太郎?》
「ハアッ…ハアッ…心臓が…ギュッって」
《あ…オイラが泣いたから?》
「そうか…もな…」
《小太郎、オイラ…勝手に小太郎のこと、生き返らせちゃって、ごめん》
「いや、オレの方こそごめん。本当なら、命助けてもらったのにお礼言うどころか、文句言って…」
《…人間を襲うことないよ。だってオイラたち鬼は、長い間、人間を襲ったりしないで生きてきたんだ》
「そういやそうか。でも、妖力ってどうやって増えるんだ?」
《何か特別なことがないかぎり、妖力は使わなかった。普通に人間と同じように、米や野菜、魚なんかを食べてきたんだ。たまには、猪や鹿を食べることもあったけど。野生動物にも少しは妖力の元がある。でも、人間や妖怪の方が圧倒的に多い。思考する生き物の方がたくさんあるんだって、爺ちゃんが言ってた。どうしても必要な時は、妖怪を食べてたよ》
「そうか」
それから朱丸は、なぜ、小太郎の中に入ったのか説明した。
祖父にもらった石。飲み込んでしまったけど、不思議な声が願いを叶えてくれた。眠って起きたら、小太郎の心臓と混ざり合っていた。そして、自分の存在が小太郎の心臓を動かしていると気づく。
なぜ、願いを叶えてくれると言った存在が、自分を小太郎の中に入れたのか? 止まった心臓を動かすのに必要だったのか? 詳しいことはわからない。
「朱丸。村に帰ろう。オレの村に」
《うん》
結界の外に出ると、すでに桃寿郎達はいなかった。
自分の村に向かう。
「朱丸はいいのか?」
《え?》
「オレの中に入って、自由がないじゃん」
《オイラは、小太郎と一緒なら、それでいいんだ》
朱丸の純粋な気持ちは、小太郎には少しくすぐったかった。

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