いや、一応苦労してますけども。

GURA

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「あの時のメグルさん、超怖かったです。でもかっこよかったなー」

「やめてよ。僕もあれはやり過ぎたと思ってるんだから」

「【コソン火山】から同行してもらった時とは雰囲気全然違いましたかね」

「メグルさんは怒らすと怖えな!」

「絶対敵にしちゃダメだよね~」


決闘の翌日。
再開したペル達と一緒にギルド酒場で一緒に昼食をとっていた。

【サトゥの街】の入り口で分かれてからの近況報告や、昨日の決闘の経緯を話していると大分わいわいとした雰囲気になってきた。

周りの冒険者たちは昨日の決闘を見たせいか、遠巻きにちらちらと視線を向けている。
いきなり取って食ったりとかしませんから。



まあ、かなり頭にきていたにせよ今思い出してもさすがにやりすぎた感はあるよね。

相当頭にきたにしても人を傷つけていい理由にはならないし、結局こっちも力で押さえつけたようなもんだし。

何が正解かは今でもわかんないけど、あの時の私に思いついたのはあの方法しかなかった。


あんな傲慢な態度をとる奴には実力行使が一番かなと。
自ら血を流して痛みを感じてこの世界が現実っていう自覚を持ってくれたらいいけど、一歩間違ったらトラウマになって再起不能もんだよね。

私もまだまだ考えが浅いな……。



あれからすぐに制限時間となり、あの男ラルクを近くにいた冒険者たちに教会に運んでもらい神父さんに治療してもらった。

治療費は既に払っているし、目が覚めるまではお願いして教会に置いていてもらうことにした。

傷自体は大したことないみたいですぐに塞がったし大丈夫だろう。
……問題は精神的なものとこれからの過ごし方だな。


これに懲りたらもう少し周りに迷惑をかけないようにしてくれたらいいけど。



「メグル、 ちょっといいか……? 」

「ライ、どうかした? 」

わいわいと騒いでいるとライが声をかけてきた。
目線は下に向けて、ギュッと服の裾を両手で握っている。

てか、ペルはなんでそんなにライを睨んでるんだ?
他の3人もライとの面識はないせいか、深刻そうな雰囲気に黙って視線を向けている。



「……あのさ、俺、」

「……ちょっと外に出ようか。皆はここに居てね」

昨日の今日だし、酒場の中だと変に周りからも注目を浴びてしまう。
現に周囲もなんだと変に静まり返っていて何とも話しづらい雰囲気だった。


今にも立ち上がり跡を付いてきそうなペルにも釘をさしておき、ライの手を引いて酒場の外に出た。


少し外れた路地は人通りが少なくなっていて、木の陰に腰掛けて休むことにした。

「こんなとこまでごめんね。で、話って何? 」

話の腰を折ってしまったことに謝ってライに話の続きを促す。


急にどうしたんだろう。もしかして怒ってるとか?

自分は弟子にするのを断っておいて、師匠と慕っていたラルクに公衆の面前で恥をかかせたから怒るのも無理はないな。
……これはさすがに嫌われちゃったかな。


「…っごめんなさい!! 」

「ん? 」

いきなり口を開いたかと思えば、頭を深く下げて謝られた。
え? 何? どういうこと?

「えっと、何を謝ってるの? 」

これは私に怒るところじゃないのか?


「……いままでしつこく付きまとって、掌返したように他の人の弟子になって、……それなのにメグルは俺を助けてくれて……、うぇっ、認めてもらいたかった! メグルが俺を、ひっ、…弟子にしてくれないのは、うぅっ、俺がまだまだ弱いせいだって……」

とうとう堪え切れずに泣き始めたライはしきりにごめんなさいを繰り返していた。
ライを隣に座らせて落ち着くようにとゆっくり背中を撫でる。


すると何故か余計に泣き出してしまった。

……なんでだ。


取りあえず、ライが落ち着くまでそのまま黙って背中を撫で続ける。

途中でまた話し始めたけど、泣きながら話す言葉は支離滅裂で聞き取れず、怒ってないよ。とだけ伝えておいた。



「……落ち着いた? 」

「うぅ~…」

しばらくして落ち着いたライはひとしきり泣いて少し羞恥心が出てきたらしい。


「俺、皆に落ちこぼれだって言われて、体も小さいし、力も弱いし。
あと少しで15になるし皆に負けてられないって思って……。冒険者は結果がすべてだろ?
それなら有名な冒険者になって皆を見返してやろうって思ってた。」


ライを教会に運んだ時に神父さんにも聞いた事だ。

皆の輪から外されたことで体のことが大分コンプレックスになっている。
でもそのコンプレックスを克服ためにライなりに頑張っていた事も知っている。


「メグルに助けられたとき、俺焦ってた。
他の皆はモンスターとの実践したりしてて。もうメグルも知ってると思うけど、……俺、親いないからさ、それでも俺は一人でできるんだって証明したかった」

でも、結果は足が竦んで動けなかった……。

そう言って膝を立てて座ったまま自分を抱き込むように袖をギュッと握り小さくなる。


「ラルクさんに弟子にしてって言ったのは、始めて森でモンスターと戦っているときに剣の振り方がめちゃくちゃなのは俺にも分かった。

……けど、あんなに自信を持ってどうどうと剣を振るえるのが正直羨ましかった。
なんであんなに自分に自信が持てるんだろうって。

俺は弱いし、すぐ負けるとか思うし、モンスターと戦うのも正直怖い。
もしかしたら心が弱いからあの時バードリにすらも立ち向かえないかと思った。

……っメグルが俺を弟子にしないのも技術云々じゃなくて、精神的な弱さを見越してるのかなって。あの人に付いていけば心の強さってものが分かるかと思った。

まさか怖いと思っていたモンスターの中に置き去りにされるとは思ってもみなかったけど……。」


時々また泣き出しそうになりながらも、必死に思っていたことを吐き出す。
あの頃は生意気な態度だったし簡単にあしらっちゃったけど、ライにとっては勇気を出して必死だったんだな。


「教会で目が覚めて思った。

……俺はメグルが強く断らないのをいいことに、なんだかんだ言いつつも相手にしてくれるメグルに縋って甘えてたんだ。

そう思ったら、なんか急に恥ずかしくなって情けなくなって、メグルに謝らなきゃって思って」


初めてのモンスターとの戦闘で混乱してダメかと思っていたところに、目の前でさっとモンスターを倒して助けてくれた姿を見て。

あー、確かに私もこのくらいの歳でそんな事されたなら憧れるかもしれない。


もしかしたら私のことをある意味、近所のお姉さん的な感じで慕ってくれていたのかもしれないな。
いや、今はどっちかというとお兄さんか。


ほら、これくらいの年の子だと10個上ってとてつもなく大きな存在に見えてなんとなく美化されるやつ。
そう考えるとちょっと可愛いな。


親や同級生の子たちと接してこれなかった分、人と親しくなる方法も人への甘え方も段々とわからなくなったんだろうな。

周りの大人達の前では褒めてもらいたくて、必死に良い子でいようと気を張って頑張っていたんだろうか。

いうなれば愛情欠乏。
あ、前の世界で言うとかまってちゃんかな?


思わずふふっと笑った私にライは少し恥ずかし気な顔でこちらを見てきた。


「はいはい、怒ってないから。最初からもうちょっと素直で謙虚な態度ならね~」

「うっ、……俺だってそう思ったけど、あんな逆ギレしといて今更取り繕うも何もないと思って、……今後、気を付けます」


「ふふっ、もう僕には敬語じゃなくていいよ。その方が慣れちゃったし」

今更敬語のライもちょっと変な感じだし。って言うと、なんだよ! と突っかかってきた。

やっぱりライはこうじゃないとね。



「さて、ペル達も待ってるだろうし、酒場に戻ろうか」

立ち上がってライのふわふわの髪を一度撫でると嬉しそうに微笑んだ。


    
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