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:目標を探してみましょう
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しおりを挟む「ただいま~」
「!! お帰りなさい、メグルさん! 大丈夫ですか!? 」
酒場に戻るとすごい勢いでペルに心配された。
何のことだろう。
「別に何もなかったよ? 」
「だってこのガキ、メグルさんの事を呼び捨てに……」
「っガキじゃない! もう少しで15になる! 」
「はっ、まだまだガキじゃねーか」
おっと……。
何でだろう。
普段結構まとめ役で冷静なはずのペルがライと何故か火花散ってる。
なんだかマイクとルーイを見ているかのような……。
ちょっとよくわかんないけど、私は関わらない方が良さそうだ。
「ルーイ、あと1、2ヵ月は【サトゥの街】にいるんだっけ? 」
「はい、全員がLv.25になるまでは滞在する予定なので、あとはペルと俺だけですね」
「へぇ、みんな早いね」
聞けばマイクがLv.27、ルーイがLv.23、ペルがLv.24、一番最後に冒険者になったトムもLv.26になったという。
街の入り口で分かれてから2か月半くらいだけど、みんな大分レベルが上がってる。
他の冒険者に比べても早い方だ。
大体の冒険者は1、2ヶ月でLv.1も上がれば良い方みたいで、クエストで生活費を稼がないといけないし、経験値の関係かLv.25を過ぎた辺りからどんどんレベルが上がりにくくなる。確かゲームでもそうで、次はLv.50以上になったら更にまた上がりにくくなるんだよな。
現に30、40代になってもLv.30~40手前の人も多い様だった。
この街はモンスター素材の納品クエスト多いし、きっとまた節約で野営とかしながらほとんどモンスターとの戦闘漬けだったんだろうな。
……みんなちゃんとご飯食べているかは心配だな。
特に思うのは、
「トムのレベルの上がり方は凄いね。確か前は20手前だった気がするけど」
「トムは元々戦闘に対するセンスが抜群にいいんです。冒険者になってからもレベルが上がるのも早かったし。夜目も利くみたいで、最近はたまにいなくなったかと思うといつの間にかモンスター狩ってくることもあるし。危ないからやめろって言っても聞かなくて……」
はあ、とルーイがため息をつく。
きっと何度言っても聞かなかったんだろうな。
なんともマイペースなトムらしい。
けど、ちゃんと自分の実力は分かっていそうだし無茶することもなさそうだから大丈夫だろう。
……あ、いいこと考えた。
「トム、ちょっとお願い事していいかな? 」
まだ言い合っているペルとライをマイクがそばで煽っている。
ルーイはいい加減うるさいと怒っている中、いつも通り眠そうな顔をしてぼーっとしているトムに声をかけた。
「何ですか~? 」
私が話しかけるとぱっちりと目を開けてこちらを見つめる。
相変わらず17歳には見えないな。
「もし良ければ、ライが15になるあと1か月弱の間で訓練をつけてほしいんだけど」
「はあっ!? 」
「……え~、嫌ですよ~」
ははっ、やっぱり即答か。
でもその間は他のクエストとかも出来なくなるしなー。
お金を渡すと色々角が立ちそうだし、確か前に料理をご馳走した時に凄い勢いで食べてたよね。
「……僕の手料理3か月分でどうだい?今なら新作もつけるよ 」
「メグルさんの手料理……。 それならやります~」
「ずるい! 俺が引き受ける!! 」
「いや、それなら僕が!! 」
「ちょっとメグル、何を勝手に!! 」
いつの間にか話を聞いていたのか、騒がしくなってきたテーブルでしっ、と口に人差し指を当てて促すと静かになった。
うん。みんな素直でいい子だ。
「あと1か月くらいでライが15歳になるんだけど、決闘を見てわかったと思うけど僕はシーフじゃないから戦闘に関してなんて教えられない。ライも本職のシーフに習った方がいいでしょ? トムはレベルも26あるみたいだし、習うには申し分ないと思うけど」
途中でライが何か言いたそうにしたけど、もう一度人差し指で黙っているように促す。
「ライ、人からものを習うのにずっとそんな態度じゃいけないでしょ。トムは冒険者になってもう2年経ってる。ライよりもずっと先輩だよ。
まだ冒険者を甘く考えてるところがあるみたいだけど、今後は命と引き換えの生活になる。このパーティーから習うことは多いと思うけど? ……トムにも訓練があるし、タダでとは言えないから食事との交換になっちゃうけど、ごめんね?」
私の言葉にライは心当たりがあるのか目を逸らす。
「メグルさんが作る食事と交換ならお釣りが来ますよ~」
にっこりと笑ったトムは本当にそう思っているようで安心した。
数回ご馳走しただけなのにかなり気に入ってもらえたようで良かった。
私の独断ではあるけど、ライの事は何だかほっとけないし。結構スパルタっぽいけど、このパーティーの中で過ごすならライにはいい刺激になると思う。
特にパーティーでの戦闘を見ると、他の職業と連携を取る方法とかモンスターを前にしての身のこなし方とか学ぶべきことは数多くあるだろう。
「……よろしくお願いします」
「ふふ~ん。僕は厳しいからね~。メグルさんからのお願いだからビシビシ行くよ~」
私に言われた事で思い当たる節もあったのか渋々とライが挨拶すると、トムは胸を張って答えた。
どっちも年齢より幼くか見えるから、小学生、中学生くらいの小さな兄弟みたいでなんか和むなあ。
「あの、メグルさんは今後どうするんですか? 」
ペルが気になっていたようで問いかけてきた。
みんなの視線がふと私に集まる。
……私の意思はもう決まった。
「僕はそろそろこの街を出ようと思ってる。次の街に行くよ」
白銀狼との戦闘である意味ショックを受けてから一時は無気力になっていたけど、【サトゥの街】で穏やかに暮らして、ライに付きまとわれて、初めての決闘で人を傷つけてと2か月半の間で結構いろんな事があった。
いろいろあった結果考えてみたけど、私の考えは始まりから根本が変わらなかったみたいだ。
≪死なない程度にこの世界を楽しむ≫
怪我をして、痛い思いをしてまでこの世界を冒険する意味が分からないと思っていた。
今迄みたいに怪我をすることもなく命の心配をせずに安全に生活ができる。それが一番だと思っていた。
ただ、静かに安全に暮らしていただけのこの2か月半は本当に自分が何のために生きているのかわからない毎日だった。
ただ同じような時間をぼーっと過ごして、特にやりたいと思うこともなくて。
生きるための希望もない。
これじゃあ、仕事を中心に生活していた以前の私と一緒だった。
確かに痛みを感じたり、血が流れることはショックだったけどそれは私が力不足だったから起こったこと。
自分よりも弱いモンスターを倒して、知らずうちに調子に乗っていて、挙句の果て油断して怪我をする。……ラルクの事は悪く言えないな。
でもこれからまた特訓して強くなればいいことだ。
最初にも思った事だ。
この世界は広くて果てしない。
魔王が統べるモンスター達と他種族が入り乱れる世界情勢。
現代日本とは生活様式も全然違う剣と魔法の世界。
見たこと触れたことのないもの、食べた事のないもの、考えた事もなかったこと。
全てが興味を引くものばかりで、街でぼーっと過ごしていても生活に必要最低限なクエスト以外にも依頼を受けていたのは好奇心が止められなかったからだ。
何も目標がないなら目標を探すことを旅の目的にすればいいんじゃないか?
それまでは途中でやりたいことをやりたいようにやってみる。
我ながらなんてポジティブ。
以前の私がみたら考え方も逞しくなっていてびっくりするだろうなー。
「という訳で、明日の朝一には【サトゥの街】をでます」
「「「「「……えーーーーっ!? 」」」」」
あれ?そんなに急だったかな?
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