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運営は神様です。

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 僕が三年間遊び続けているオンライン・ロール・プレイング・ゲーム……本当はオンラインの前にMが二つ付くらしいけど忘れた。
 ざっくり言うと、インターネットを使って沢山の人が用意された世界で一緒に遊べるゲームのことだ。
 僕がやってるのは、『フロンティア』という西部劇っぽいスチームパンクな世界で、まだ未開の地を冒険したり、派閥同士で銃撃戦をしたりするゲームだ。
 三年前に始まったこのゲーム。今でこそある程度安定しているけど、サービス開始当初はバグの嵐で酷かったものだ。

・拳銃に実弾を込めたはずなのに、引金を引いても弾が出ないで音だけが鳴り響くことがある。

・髪の毛があるキャラクターなのに、帽子を被らせると、それを脱いだ時に帽子を被ってた部分が禿げる。

・蒸気自動車なのに、ドリフトができるほどスピードが出せる。

・銃による決闘モードで、先に弾を当てた方が血を噴出して倒れる。

 とまあ、例をあげたら枚挙に暇がない。
 これらの不具合はプレイヤーから運営にどんどん報告され、月日が経つにつれて修正されていった。オープンβ版ホントにフロンティアなんて呼ばれてたなぁ。懐かしい。

 まあ、そうやってユーザーからの報告ふまんに対応して、不具合が修正されていったのだけど、修正されなかったものもあった。

 例えばさっきの「蒸気自動車でドリフトができるほどスピードが出せる」だ。
 蒸気自動車を普通に操作すると、実は歩くのと同じくらいのスピードしかでないので、値段は高い、燃料も高い、荷物もそんなに載せられない、スピードは馬車に乗った方が断然速い。という四重苦と呼ばれるくらいの乗り物だった。
 でも、ショートカットキーに石炭を登録して、運転モード中に左右どちらかへのハンドル操作を行うタイミングでショートカットキーで石炭を使うと、突然加速してドリフトを始めてしまう、という不具合が見つかったのだ。しかも、うまくカウンターを当てることで速度を維持したまま直進できるようになるため一時期はバグ技で爆走祭りだ、みたいな有志イベントが企画されたりもした。
 誰もが、これもそのうち修正されるだろうと思っていたのだがなかなか修正されない。世界背景にそぐわないから直してくれ、という声が大きくなり始めた頃、運営から公式発表があった。

「この世界は他のどこでもない『フロンティア』です。蒸気自動車について多数の方からバグとしての報告を頂いておりますが、この『フロンティア』の蒸気自動車は速く走れるものなのです。引き続きスチームパンクの世界でどうぞ爆走ライフもお楽しみください」

 少し後には、ゲーム内で蒸気自動車を購入する際に「蒸気自動車を速く走らせる方法」についてのチュートリアルも実装され、これは不具合ではなく、「そういったもの」なのだと言うことに収められたのであった。
 つまりオフィシャルな機能であり、そういった機能は仕様だ、と言うことになったのだ。
 どう考えてもバグにしか見えなかったのだけど、運営がそう言うのだから、そう言うことなんだろう、と受け入れるしかなかったのだった。

 ちなみにだが、キャラクターメイキングを何回も繰り返していると、時に最初から一〇〇万ドルを持っているキャラクターができることがあった。
 これについては、この情報が出回ってすぐにそういったキャラクターの所持金データがリセットされ、即時にバク修正も行われた。
 開発者さんのブログに書かれた説明によれば、買物処理のテスト用キャラクター作成のロジックが何かのタイミングで適用されてしまっていた、とのことだった。

 何が言いたいかと言うと、つまり、ゲームにおいて不具合が修正されるかどうかは、開発者というか、ゲームの運営の胸先三寸だということだ。
 ゲームの世界を提供してくれている、ゲームの世界を作っている彼らは、つまり、ゲームにおいては本当の意味での神様な訳で、何かやりたければ何でもできてしまう立場な訳だ。

 神様が許せないような不正を働いたユーザーが目につけばユーザーアカウントを消すことができる。現実世界でいうなら存在そのものが消えてしまうか、天に召されてしまうか、と言ったところだ。

 逆に神様にとって気にするほどでもない、それか、それは元々考えてあったことなんだよ、って定義されたものであれば、それが納得のいかない不思議なものであれ、それは、その世界のルールになり得るということだ。

 つまり……
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