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1話:きみとぼくの願い事
しおりを挟む七月七日、七夕。
雲一つない澄み切った夜空だが、見えている星はまばらだ。
「「「乾杯&ハッピーバースデー!」」」
二つの四人家族が一つ屋根の下に集まり、そんな号令にあわせて次々にグラスを打ち鳴らした。その中心にいて、お祝いの言葉をかけられているのは二人の男子高校生だ。
「誕生日おめでと、アオ」
「……お前もだろ」
今日はぼく、天宮蒼生(あまみや あおい)の誕生日であり、幼馴染の持月晴一(もちづき はるいち)の誕生日でもある。隣り合う一軒家に住む幼なじみ同士である二人は、ともに七夕のほぼ同時刻に産声をあげた。
そんな二人の合同誕生日パーティーは、ぼくらが生まれた翌年から毎年続く恒例行事である。お互いの家で誕生日パーティーを開き合うことになっており、今年は持月家がホストの番なのだ。
リビングにはハルイチの両親と三つ上の姉ちゃん、うちの父母と二つ下の妹。ダイニングテーブルの上には、ごちそうとケーキが並び、笑い声と箸の音があたたかく混じり合っていた。
ぼくはその輪の中で、大皿の唐揚げをつつきながら、そんなお祝いの席に似つかわしくない顔つきで何度目かの溜息をつく。
「じゃあ、みんなの願い事、吊るしていこー!」
ハルの姉ちゃんが声をかけて、全員でリビングの隅に立てかけられた笹に向かう。
両家で行う毎年恒例の行事。願い事を一枚ずつ、短冊に書いて、笹に結ぶ。
一番憂鬱なのは、この『短冊の儀式』なのだ。
今年したいこと、一番の目標を一人ずつ発表させられて、笹飾りに吊るされる。主役の僕らはもちろん毎年「トリ」だ。
子供の頃は楽しかったけれど、中学生の頃から恥ずかしさが勝り、高校生になった今ではもう完全に地獄でしかない。
「勉強がんばる」という当たり障りのない短冊を笹に飾ったぼくの横で、さらさらと筆を走らせていたハルイチは、ためらいなくこう書いていた。
”今年も一年、アオが元気で幸せでありますように”
……マジか。
「ちょ……自分のこと願いなよ」
ぼくがそう文句をつけると、ハルイチはいたずらっぽい笑みを浮かべて、ぼくの耳元に顔を寄せた。
「……いいの? 俺のほんとの願い事、書いちゃっても」
耳元で囁かれたその小声に、とくんと心臓が跳ねる。
「なっ......」
囁かれた耳と頬に血流が集まり、一気に熱くなる。
ぼくが耳を抑えながらハルイチの顔を見ると、おかしそうにくくっと笑って、涼しい顔で短冊を笹に結びつけ始めた。
「あーあ、今年もハルくんはアオにいラブかぁ」
そんなハルイチの短冊を見たぼくの妹がつまらなそうにソファにもたれかかった。
「今年の七夕までにはアオ落とせなかったかー、ハルくん」
さらに、父もビール片手に愉快そうに茶化してきた。
「アオイ? こんな優良物件、引く手あまたなのよ? まごまごしてると、誰かに持ってかれちゃうからねっ」
「ウチの友達からもハルくん彼女いるのとかワンチャン期待して結構聞かれるよー? どうせハルくんがアオにい一途だから紹介しないでおいてあげてるけどー」
などと、口々に好き勝手なことを言ってくる。
こんな話に母や妹まで楽しげに乗ってくるなんて、ありえないだろ。
「なんでこっちがまごまごしてることになってんだよ!」
「そうだよアオママ。ぼくがまだアオの気持ちを動かせてないだけ」
優しそうな声で返すハルイチ。
それを聞いた母は目を潤ませながら、「まっ.....」と口元を手で抑えた。
……そんな感激するようなこと言った?
「学業、運動、顔……すべてがハイスペックな上にこんなに純粋で一途なんて......いい男に育ててくれてほんとありがとねぇ、ハルママ」
「ふっふっふっ、我が息子ながらいい仕上がりよねー?」
ハルイチのお母さんまで誇らしげに胸を張って、愛息子の背中をバンバン叩いた。
「ウチも早くハルくんがお兄ちゃんになってほしー。めちゃ自慢してインスタあげよ」
「アオくんが弟かあ……正直ハルより弟感あるけどね、今時点で」
「あ! ねねね。綾姉、そうなったらウチらも姉妹になるのかな?」
「やーん、それもいいわー、妹までできちゃうー」
うちの妹とハル姉は勝手にとんでもないことを言い合いながらキャッキャとハグしあってる始末。
「なんなん、みんな当たり前みたいに......ぼくは男でハルも男だよ!? ふつうもっとこうさー、深刻な感じになったりとかさー」
両家の面々を前に、ぼくは叫ぶように抗議した。
でも、返ってきたのは、きょとんとした一瞬の静寂のあと、わははという笑い声だった。
「今でもアオちゃんは息子みたいなもんだからなあ。ほんとの息子になってなにか変わるか? もちろんアオちゃんの気持ちが大事だけど、もしそうなったらウチは大歓迎だし、そうならなくても、アオちゃんが息子なのは変わらないよ」
「父上様、良いこと言った」
ハルイチはちらし寿司を頬につめこみながら、箸をぴっと掲げて父に賛同した。
ハル父に頭をわしゃわしゃ撫でられる。
やさしくて、あったかい手。
ここまで言ってもらえて嬉しくないわけじゃない。
でもーー
(……べつに、ほんとに結婚できるわけでもないのに)
ぐらぐらと胸の奥が揺れる。
普通さ、息子同士の色恋沙汰なんて、親に言うのも死ぬほど悩むんじゃないの? SNSとか動画も調べたけど、そもそも自分のセクシャリティをカミングアウトするだけでも大変な思いをしている人がいっぱいいた。
ハルイチがそうだからってご両親に泣いてほしいわけじゃないけどーーあまりにも悩まなすぎじゃない?
あっけらかんとしすぎていて、逆にぼくのほうが戸惑ってしまう。
ぼくがハルイチの顔を思わず見やると、とびっきりの優しい笑顔を向けてきた。
「アオ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……ないだろ」
それもこれも、きっと、ぼくらが "運命的すぎる" せいだ。
生まれた日が同じ七夕で、保育器時代からお隣さんで、家もお隣、親同士も仲良し。生まれて初めてしゃべった言葉が、お互いに「ハル」と「アオ」だった(その様子はばっちり収録され、繰り返し家族パーティーで放映されている)。
幼稚園、小学校、中学、高校、ずっーと同じクラスで、放課後もずっと一緒に遊んで、たぶん親よりも多くの時間を過ごした。
なぜかいつも、よくわからない力が僕らを引き合わせてるんじゃないかと感じてしまうような瞬間がたくさんあってーーこういうのがきっと”一生の親友”なんだと思っていたーーそう、昨年の七夕までは。
「うう......もう知らんっ!!」
箸を置いて、立ち上がる。
「アオ? 部屋いくの?」
「そ、そうだよ! 読むなよ心を!」
優しい声音にぷいっと背を向けて、ぼくは”ハルイチの部屋”に向かった。
自分の家じゃないのに、ある意味自分の部屋より落ち着く場所。
勝手知ったる階段を不機嫌気味にずんずんと踏み鳴らしながら、
「もーあの子ったら。拗ねるといっつもハルくんのお部屋にいっちゃうの、子どもの頃から変わらないわねぇ」
「そうそう。かわいかったわあ、小三のときにさーー」
そんな母の声や家族たちの笑い声を背に、ハルイチの部屋のドアを閉めた。
†
ハルイチは、アオイを追うために立ち上がると、
「みんな、応援してくれるのは嬉しいけど、アオのことあんまりいじめないでね? 悪いのは……好きになっちゃった俺だから」
優しいけれど、どこか儚げな笑顔で家族の空気を和らげつつも、ひとつまみの神妙さを加えた。
「ハルくん、はやくアオにいゲットしちゃえっ」と、無邪気に応援してくれるアオイの妹のリナに、「ありがと」と手をあげる。
(……安心してね、アオ。今年こそ、運命を信じさせてあげるから)
ハルイチは心の奥底でそうつぶやきながら、アオイのいる”自分の部屋”へと向かっていた。
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