『私』の願いとその代償。

ブー横丁

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0回目〈11〉side Y

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 ずん、ずん、ずん、と玄関まで手を握って歩く晃人君に引っ張られる。

「晃人君?おーい、どこまで行くのー?」
なんだか、リードをつけられた犬になった気分だよ。
 すると、慌てて晃人君が手を離してくれた。
「ゆ、結ちゃん。ごめん。」
「いや、全然いいんだけどね。会えたらいいなって思ってたし。」
そう言ったら晃人君の顔が真っ赤になった。
「なら、良かった、、。」
「うん。約束、してるんだもんね?(笑)どっか行こうか。」
「うん!」

えへへ。小学校以来だから、制服で一緒に歩くの初めてかも!
 
 浮かれていた私は、私の事を睨みつけている視線に気が付かなかった。

◇◇
「ここ。覚えてる?」
「ここ、、」
晃人君が連れてきてくれたのは、春ちゃんと3人でよく来た駄菓子屋さんだった。

「お婆ちゃんが歳だから、来月閉店するんだって。だから、結ちゃんのこと連れてきたかったんだよね。」
店内を見回すと、今も変わらず懐かしい駄菓子が雑多に並んでいる。

「これ、懐かしいな。これ、晃人君、めっちゃ食べてたよね。」
そう言って『さんちゃんイカ』を手に取る。私も晃人君と友達になってから何となく見かけたら買うようになっていた。

「今もめっちゃ食うよ。結ちゃんはこのちっちゃい餅よく食ってたよね。」
これ、サクランボ味の他に青リンゴ味もあるんだよね。いつもどっちにするか迷ってたなぁ。今日はサクランボ味にしよう。
 沢山買って、2人で春ちゃんへのお土産にした。高校生だから、小学生の時よりリッチなのだ。

「春、六時には帰ってくると思うからうちで待ってなよ。」
「あ、じゃあ念の為ママにlime(らいむ)しとくね。」
「てか、スマホ持ってるなら教えてよ。」
「ごめんごめん。入学祝いで一昨日買ってもらったんだ。はい、これ私の連絡先のQRコードだよ。」
ちなみに柚月とはもう連絡先交換済みです。

「お、来たきた。あんがと。スタンプ送る。」
ポン、と来たスタンプは何故かタマオカートの重量級のカメさんだった。友達追加っと。

「何これ、ウケる。」
「結ちゃんと初めて遊んだゲームがこれだからさ。」
「晃人君、最初キノヒコで私のオバケのマルサにボロ負けだったもんね。」
「…うーわ、今日は負かすわ。」

◇◇◇
ブーーーン。
 晃2人でタマオカートでお菓子の国を爆走する。
「えー、晃人君上手くなったね。」
私がドライバーに選んだオバケのマルサが、バナナの皮を投げられてスピンしている。
「ん、今日は絶対勝つ!」
むうう。
「あ、晃人くん、そういえばさ。」
「んー?」
あー、、抜かされた。。
「さっき私の事、結(ゆい)って呼んでたよね。」
…あれ?晃人君のでっかいカメが池に落ちちゃった。

「た、タンマ!」そう言いながら晃人君は画面を停止させる。
「今のはずるいって!」
おお、耳が真っ赤だ。
「なんかごめん、気になったから、、」
晃人君は一瞬沈黙した後、こう言った。

「…結ちゃんは結(ゆい)って言われるの、嫌?」

「ううん!ビックリしたけど、全然嫌じゃないよ。ただ何でかなーって。」
すると、パァっと晃人君が嬉しそうな顔をした。

「じゃあ、これからも、結って呼ぶ。」
「んー、答えになってないけど。。いいや、じゃあ、私も晃人って呼ぶ。」
なんだろ。このくすぐったい雰囲気。

 お互い何となく照れくさくて、黙っていたら、晃人君の顔がどんどん近づいてきて…。


バン!!

ドアが開けられて、慌てて晃人君が離れる。

「母さん!ノックくらいしろよ!」
「結ちゃんー!まあまあ、背も伸びて、すっかり美人さんになって!」
「百合子さんは全然変わらないですー。」
本当に美人なんだよね。高校生の息子がいるようには見えない。
「もうー、お上手なんだからっ。あ、春待つんなら、ご飯も食べてく?」
「えー、いいんですか?!」
「いいのよー。久しぶりだから腕を振るっちゃうわ。うふふ。」
何が出るのかなぁ。百合子さん、料理上手だから楽しみだ!

◇◇◇
 あの後、春ちゃんと再会して百合子さんお手製のハンバーグを食べて、暗いからって百合子さんの運転で家まで送ってくれた。

 こっそり、後部座席で隣り合ってる晃人君が春ちゃんに気づかれないように手を重ねてきた。なんだか、恥ずかしい。
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