堅物辺境伯の溺愛〜虐げられた王宮奴隷は逃げ出した先で愛を知る〜

咲木乃律

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第四章

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 王都での滞在期間があけ、モント領主一行は無事帰途へとついた。帰りも同じ街道沿いを行く。緊張を強いられる場面の多い王都での役目を終え、親しんだ領地へ帰る道のりがユリウスは好きだった。いつもならば。

「よく眠ってますわね」

「そうだな」

 行きと同じように馬車に分乗している。前の席に座ったリサは、ユリウスの胸に頬を押し当てて眠っているルカを見て、にこりと笑った。ルカの髪はもう隠すことなく黒髪のままだ。エメレンスの仕入れ証明書が通り、ルカは正式にユリウスの所有する奴隷として登録された。
 奴隷のルカとして、このままモント領に連れ帰り、周りに認知させるつもりだ。そうすればもう、王宮騎士団の手を恐れる必要はなくなる。外にも出してやれる。

 あのあと、ハルムの家からルカをモント領館まで連れ帰った。希少種を連れ帰ったモント騎士団員達は驚いていた。それはそうだろう。堅物で通っているユリウスが、突如希少種の奴隷を買ってきたのだから。
 王都での残りの滞在期間中も、ユリウスは屋敷で堂々とルカを伴い行動した。
 今朝も馬車に乗り込むとき、騎士団員達はちらちらとルカを盗み見ていた。ユリウスは構わずルカを抱き上げて馬車に乗って、出発したのが少し前のことだ。

「昨夜はあまり眠らなかったのですか?」

 ルカは馬車が出発してすぐに寝入った。リサがそう思うのも当然だ。

「そんなに遅くはなかったはずだが」

 本当は遅くまでキスをしていた。
 ハルムのところから連れ帰った日から、暇があればユリウスとルカはキスをしている。
 ルカに触れていると、制御はしているが、時々熱を吐き出したくてたまらなくなる。王都へ向かう道中は、浴室で隠れてやり過ごしていたのだが。

 ユリウスは気持ちよさそうに眠るルカを見下ろした。こちらの気も知らずに、無垢な寝顔だ。

―――ねぇユリウス。この間浴室でユリウスもセーエキ出してたの?

 あのとき、ルカを落としそうになったルカの言葉だ。ハルムはぶっと噴き出し、ユリウスは「い、いや、その……」と口ごもった。違うと言えばいいものを、思わず正直な反応を返してしまい、しまったと思ったときには遅かった。ルカは興味津々といった様子で目をきらきらさせた。

―――今度出すとき呼んで。見たいから。

 わかった。必ず呼ぶと頷けるはずもない。返事を濁したら、ルカの監視が強くなった。熱を吐き出したくて浴室に行こうものならルカがついてくる。ならばトイレでと思っても、あまり長いとルカが呼ぶ。おかげで溜まりに溜まっている。
 王都を発つ前日、エメレンスとシミオンに会った。エメレンスはモント領に着くまでに一発やってしまえとつつき、シミオンはまたそちらに行くかもしれないと言っていた。
 欲求不満もこうも溜まると、本当にルカを押し倒してしまいそうだ。無理に事に及ぶことだけはなんとしても避けたい。こうして膝の上にルカを乗せているだけでもたちそうだ。

 ふぅとため息をつくと、リサが心配そうにこちらを覗いてきた。

「お疲れのようですわね。今回の王都ではいろいろありましたものね。次の休憩でノルデンに診てもらうよう言いますね」

「ありがとう」

 ノルデンの診察では治りそうにないが、リサの気遣いへ礼を言った。
 そこからは無言で馬車は進み、小川で昼食をかねて休憩となった。馬車が止まるとリサは早速飛び出していき、ノルデンを連れて戻ってきた。

「ご体調が優れないとか」

「ああ、いや。そういう訳ではないんだ、ノルデン」

 リサはそのまま馬車を降りたので、馬車にはノルデンとユリウス、ルカだけだ。ルカはまだ眠っている。ユリウスはちらりと眠るルカに視線を送った。それだけでノルデンにはわかったようだ。苦笑しながらも、念の為と服の上から聴診器をあて、一通り診察する。

「異常はございませんな。こればかりは私ではお治しいたしかねます」

「わかっている」

「ところでユリウス様。今少々お時間よろしいでしょうか」

「構わない。どうした?」

「ルカのことですが―――」

 行きの道中、ノルデンが王都で希少種の体に関する情報を仕入れてくると話していたことについて話したいという。

「どうだったのだ?」

 それはユリウスも気になっていた。ルカの体は王都で滞在中もどんどん変化を遂げ、今では胸の膨らみはかなり大きくなった。リサによるとまだ月のものはないようだが、時間の問題ではと言っていた。
 希少種の女の成長はこのように急激なものなのか。

「希少種の診察をしたことがあるという者に、何人か当たったのですが、ルカのように急に女らしくなるという変化をした者は見たことがないと言っていました。希少種は男と両性の区別は幼い頃はつけがたく、成長に伴い徐々に変化をするようですが、女は生まれたときからわかるそうで。成長も人と同じだそうです。ルカは今十八だと言っておりましたから、ここに来た時の中性的な体型は特殊なケースです。今やっと、年に見合った体つきに追いついてきたというように思えます」

「やはり、栄養状態の問題か?」

 王宮では日に一度しかパンと牛乳が支給されなかったとルカは言っていた。他は林でとれる物を食べていたそうだが、ユリウスが拾ったときルカはがりがりだった。

「そうですな。それもあるのでしょうが、それだけでは説明のつかないほどルカの成長は著しい。しばらくは体調の変化がないかなど、注意深く見ておく必要がありそうです」

「そうか。わかった。気をつけておこう」

 ルカがもぞりと動いた。薄っすらと目を開き、ノルデンを見て目をまたたいた。

「あれ? ノルデン……」

 違う馬車に乗っているノルデンがいるのが不思議だったようだ。まだ馬車が止まっていることに気がついていない。

「今は休憩中だ。よく眠っていたな」

「ん……」

 ルカはユリウスの胸に目を擦り付けた。

「どうしてノルデンがいるの? ユリウス、元気ないの?」

「いや、今診てもらったが大丈夫だ」

 ユリウスはふと思いついて言ってみた。

「ルカもついでに診てもらうか?」

 本当はルカにノルデンの診察を受けさせたほうがいい。定期的にノルデンに診てもらっていれば、ユリウスも安心だ。
 だめもとでルカに提案してみると、案外ルカはあっさり頷いた。

「うん。お願いします」

 いそいそと服を脱ごうとするので、ノルデンが止めた。

「そのままでよろしゅうございます」

「そうなの?」

 ルカはユリウスの膝からおりると大人しくノルデンの診察を受けた。聴診器を外したノルデンは

「よおございます。どこも異常はございません」

とユリウスに頷きながらそう言った。


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