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第二章
ヨハンナの行方 2
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したたかな目をした男の話によると、コビット商会はある者からの依頼を受け、エメラルドの髪と瞳をした者を探しているということだった。
特にハーネヤン出身ではない者を連れて行くと、礼金を弾んでもらえると男は聞いて、ヨハンナにハーネヤンの出身かとしつこく尋ねていたらしい。
いくら金になるからとはいえ、人攫いは重罪だぞと部隊長にすごまれると、男はあれは人攫いではない、女も同意の上でついてきたのだと言い出した。
ヨハンナには穏便に話をしてついてきてもらった。
礼金をもらえれば、ヨハンナと山分けしてもいいと思っていたと。それなのに、ヨハンナを連れて行くといきなり拘束し、自分は金だけ渡され放り出されたと。だから本当の人攫いはコビット商会の奴らで、自分ではないと。
詭弁もいいところだ。
アランは男の言うことを信じてはいなかった。食堂で腕を捕まれただけで怖がっていたヨハンナが、金のためにこの男についていくことはありえない。
真実を語れとアランが詰め寄ると、アランの気迫に押された男は観念したように話し始めた。
無理矢理連れて行く気はなかったとしたたかな目をした男は言った。
けれど、昨夜の祭りで酔った客に絡まれ、なけなしの給金を全て奪われ、自棄になった。
それでもまだ人攫いに手を染めるつもりはなかった。
でも翌朝、偶然宿屋の裏の水場で一人でいるヨハンナを見つけた。鞭で打たれた腕が痛むのか、水に腕を浸すヨハンナのエメラルドの髪を見たとき、無意識に体が動いていた。
男の姿に驚いて声を上げようとするヨハンナの鳩尾を殴り昏倒させ、ツハンにあると聞いたコビット商会へと連れて行った。
商会の建物の地下牢には、他にも何人かのエメラルドの色を持つ者が捕らわれており、悪臭がしてひどい環境だったと男は言った。
しばらく商会の建物で待たされ、背の高い、四十歳くらいの身なりのいい男が現れ、ヨハンナをよく見たいと上階の部屋へ連れて行った。
しばらく男はヨハンナの目を覗き込んでいたが、男が探し物に満足したのがわかった。
したたかな目の男はいう。
「口端が一瞬あがりましたからね。たぶん、正解、だったんでしょうね」
男はたんまり礼金をもらい、後はどうなったか知らないと言った。
首都ナーバーから何度か馬を乗り換え、最低限の休息だけで駆け続けて三日。馬車で十日はかかる行程を駆け抜けた。
ツハンに着いたとき、さすがのアランもランドルフもくたくたで、したたかな目をした男の言ったコビット商会の建物にいますぐ踏み込んで荒事になっては勝ち目はないと、今日は周辺の聞き込みに徹することになった。
「コビット商会? さぁ、聞いたことないなぁ」
「私はツハンの街のことは大方把握しているけど、そんな商会が出入りしている話は聞かないねぇ」
ツハンの中心街に軒を連ねる商店へ聴いて回ると、たいてい同じ答えが返ってきた。
商会の建物は目と鼻の先にあるのに、街の人間が知らないというのもおかしな話だ。
何軒目かの店主に聞いたとき、違う答えが返ってきた。
「コビット商会かい? 確かはす向かいのガクさんとこがそんな話をしていたな」
指差す商店へと急ぎ足を向けた。
店主はつばのついた帽子を斜めに被り、店頭に並んだ商品のほこりを払っていた。コビット商会のことを聞くと「あんなとこと取引をするのはおすすめしないよ」と嫌そうな顔をした。
「知っているのか? コビット商会のことを」
アランが勢い込んで聞き返す。店主は被っていた帽子を取り、額の汗を拭った。
「ああ、知ってるも何も輸入綿花を扱う商会があるって小耳に挟んでね。うちでも仕入れたいと伝手を頼ってコビット商会のことを教えてもらったんだ。そしたら商会の建物がこの街にあるっていうんで驚いたよ。そんな話、一言も聞かなかったからね。商売柄、街のいろんな話には通じているつもりだったが、いつからそこにあったのか全く知らなかったんだからね」
それで早速その商会へと赴いたらしい。
「だめだね、あそこは。輸入綿花を扱っているなんてあれはうそだね。こっちから商売の話を持ちかけても、てんで乗ってきやしない。商売をしない商売人がどこにいるっていうんだ」
それになと店主は続ける。
「変な建物だったぞ。厳重な鉄の扉があって、いちいち出入りするのに鍵をかけてやがるんだ。開けるたび、異臭がしてきて、ぞっとしたよ。あんなとこと関わるのは二度とごめんだ。あんたたちも止めといた方がいいぞ」
「その商会ですけど、何か他に詳しいことは知りませんか?」
なおもアランが情報を引き出そうと聞くと、店主は「そうそう」と口を開いた。
「うわさでは商人のザカリーが立ち上げた商会だってことだったんだ。商人ザカリーといやぁ知らない者はいない大商人だ。そのザカリーが立ち上げた商会なら間違いはないだろうと俺も乗り気になっちまったんだよ」
とんだ勘違いだったがねと店主は呟いた。
特にハーネヤン出身ではない者を連れて行くと、礼金を弾んでもらえると男は聞いて、ヨハンナにハーネヤンの出身かとしつこく尋ねていたらしい。
いくら金になるからとはいえ、人攫いは重罪だぞと部隊長にすごまれると、男はあれは人攫いではない、女も同意の上でついてきたのだと言い出した。
ヨハンナには穏便に話をしてついてきてもらった。
礼金をもらえれば、ヨハンナと山分けしてもいいと思っていたと。それなのに、ヨハンナを連れて行くといきなり拘束し、自分は金だけ渡され放り出されたと。だから本当の人攫いはコビット商会の奴らで、自分ではないと。
詭弁もいいところだ。
アランは男の言うことを信じてはいなかった。食堂で腕を捕まれただけで怖がっていたヨハンナが、金のためにこの男についていくことはありえない。
真実を語れとアランが詰め寄ると、アランの気迫に押された男は観念したように話し始めた。
無理矢理連れて行く気はなかったとしたたかな目をした男は言った。
けれど、昨夜の祭りで酔った客に絡まれ、なけなしの給金を全て奪われ、自棄になった。
それでもまだ人攫いに手を染めるつもりはなかった。
でも翌朝、偶然宿屋の裏の水場で一人でいるヨハンナを見つけた。鞭で打たれた腕が痛むのか、水に腕を浸すヨハンナのエメラルドの髪を見たとき、無意識に体が動いていた。
男の姿に驚いて声を上げようとするヨハンナの鳩尾を殴り昏倒させ、ツハンにあると聞いたコビット商会へと連れて行った。
商会の建物の地下牢には、他にも何人かのエメラルドの色を持つ者が捕らわれており、悪臭がしてひどい環境だったと男は言った。
しばらく商会の建物で待たされ、背の高い、四十歳くらいの身なりのいい男が現れ、ヨハンナをよく見たいと上階の部屋へ連れて行った。
しばらく男はヨハンナの目を覗き込んでいたが、男が探し物に満足したのがわかった。
したたかな目の男はいう。
「口端が一瞬あがりましたからね。たぶん、正解、だったんでしょうね」
男はたんまり礼金をもらい、後はどうなったか知らないと言った。
首都ナーバーから何度か馬を乗り換え、最低限の休息だけで駆け続けて三日。馬車で十日はかかる行程を駆け抜けた。
ツハンに着いたとき、さすがのアランもランドルフもくたくたで、したたかな目をした男の言ったコビット商会の建物にいますぐ踏み込んで荒事になっては勝ち目はないと、今日は周辺の聞き込みに徹することになった。
「コビット商会? さぁ、聞いたことないなぁ」
「私はツハンの街のことは大方把握しているけど、そんな商会が出入りしている話は聞かないねぇ」
ツハンの中心街に軒を連ねる商店へ聴いて回ると、たいてい同じ答えが返ってきた。
商会の建物は目と鼻の先にあるのに、街の人間が知らないというのもおかしな話だ。
何軒目かの店主に聞いたとき、違う答えが返ってきた。
「コビット商会かい? 確かはす向かいのガクさんとこがそんな話をしていたな」
指差す商店へと急ぎ足を向けた。
店主はつばのついた帽子を斜めに被り、店頭に並んだ商品のほこりを払っていた。コビット商会のことを聞くと「あんなとこと取引をするのはおすすめしないよ」と嫌そうな顔をした。
「知っているのか? コビット商会のことを」
アランが勢い込んで聞き返す。店主は被っていた帽子を取り、額の汗を拭った。
「ああ、知ってるも何も輸入綿花を扱う商会があるって小耳に挟んでね。うちでも仕入れたいと伝手を頼ってコビット商会のことを教えてもらったんだ。そしたら商会の建物がこの街にあるっていうんで驚いたよ。そんな話、一言も聞かなかったからね。商売柄、街のいろんな話には通じているつもりだったが、いつからそこにあったのか全く知らなかったんだからね」
それで早速その商会へと赴いたらしい。
「だめだね、あそこは。輸入綿花を扱っているなんてあれはうそだね。こっちから商売の話を持ちかけても、てんで乗ってきやしない。商売をしない商売人がどこにいるっていうんだ」
それになと店主は続ける。
「変な建物だったぞ。厳重な鉄の扉があって、いちいち出入りするのに鍵をかけてやがるんだ。開けるたび、異臭がしてきて、ぞっとしたよ。あんなとこと関わるのは二度とごめんだ。あんたたちも止めといた方がいいぞ」
「その商会ですけど、何か他に詳しいことは知りませんか?」
なおもアランが情報を引き出そうと聞くと、店主は「そうそう」と口を開いた。
「うわさでは商人のザカリーが立ち上げた商会だってことだったんだ。商人ザカリーといやぁ知らない者はいない大商人だ。そのザカリーが立ち上げた商会なら間違いはないだろうと俺も乗り気になっちまったんだよ」
とんだ勘違いだったがねと店主は呟いた。
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