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第二章
コビット商会
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テンドウ族への内偵は兄に任せ、アランは友のランドルフと共に、コビット商会について調べを進めた。
コビット商会の本部は首都ナーバーにあると届出が出されており、届出の住所を尋ねていくと、裏路地に面した古びた家に行き当たった。
「まさかここじゃないよな」
ランドルフは何度か手元に控えたコビット商会の住所を確認し、目の前の半分崩れかけた家で間違いない事を知ると、顔をしかめた。
「ただのあばら家だ。コビット商会なんて立派な名前のわりに、なんだってんだこれは」
悪態をつきながらも、板戸の扉をノックする。
ギギギと蝶番をきしませ、扉から白髪の老人が顔を出した。
「えっと、ここはコビット商会の本部かい?」
違うと思いながらもランドルフが現れた老人に問いかけると、老人はランドルフとアランの身なりを確認し、腰を低くして応じた。
「いえいえ、ここはかれこれ三十年はわしの家でさぁ。何ですかい、そのコバットだかコピットとやらは」
「――だってさ、アラン」
老人の予想通りの答えに、ランドルフがアランを振り返る。
アランは白髪の老人の様子を観察した。
おどおどしたところはない。眼光鋭い老人ではあるが、この者がコビット商会とつながっているようには見えない。
「おまえ、ザカリーは知っているか?」
念のためそうアランが聞くと、老人は「それはもちろん」と答える。
「大商人ザカリーの名は赤子だって知ってまさぁ」
お決まりの答えが返ってくる。
アランは老人の隙間から覗く室内をすばやく観察した。
家こそあばら家だが、内装は以外に清潔感のある、すっきりとした室内だ。
「一人暮らしか?」
「へい。昔は孫と暮らしとりましたが、今は家を出て行ったので一人暮らしでさぁ」
「それは何かと不便だろう」
アランが気遣うように言うと、老人は両手を振った。
「いえいえとんでもない。若い頃は人足なんかで稼いどりましたが、今は出て行った孫が仕送りをしてくれるので、暮らしはむしろ楽な方でさぁ。孫もたまに帰ってきますき、不便はございません」
「そうか」
アランはランドルフに「行くぞ」と促し、老人への質問を終わらせ広場へ戻った。
その後もコビット商会の店舗として登録されている店へ行ってみたが、別の商店だった。
「とんだ偽商会だな」
ランドルフはうそばかりが並べられた届出を懐に押し込んだ。
「これを受け付けた役人は一体何をしていたんだ」
憤慨するランドルフに、アランは
「まぁそんなもんだろう。首都ナーバーに出入りしている商人なんて、山といるんだ。届出だって相当な件数だ。新しくできてはつぶれ、日々入れ替わる商会や商店の届出など、提出されたそのままに受け付け、中身の確認まではされんだろうからな」
「だとしてもだぜ。よくもこんなうそばっかり並べ立てたもんだな」
ランドルフはあちこちを歩いて疲れた足を擦った。
「で? 次はどうするんだ?」
ブーツの紐を結びなおし、皮袋から水分を補給すると、ランドルフは顔を上げる。
アランは「そうだな」としばし考え、
「次はザカリーの方から探ってみるか」
「けどこれまで見て回ったが、コビット商会とザカリーの結びつきを示すものなんてなかったぜ?」
「それでもツハンの商店主が言っていただろう。コビット商会はザカリーの立ち上げた商会だと。公に記録に残さなくとも、そういううわさはもれ聞こえてくることもある」
「……了解」
ランドルフは重い腰を上げた。
ザカリーのことはすぐにわかった。
さすが大商人としてその名を轟かせているだけあって、ザカリーの立ち上げた商会と取引する商店も多い。
彼らの話を総合すると、ザカリーは現在肺病を患っており、最近では直接手腕を振るうことはなく、空気のきれいな内陸部の方で療養しているということだった。
聞き込みの途中、ナーバーに店舗を構える、土地売買を手がける商店主から面白い話を聞いた。半年ほど前にザカリーに売った物件のことだ。
その物件は、さる男爵家がナーバーから馬車で三時間の場所にある内陸部に、十年前に建てた屋敷で、狩猟を趣味としていた男爵家の当時の当主が作らせた屋敷らしい。
屋敷は内陸部の森の中にあり、屋敷の周囲を高い壁で囲わせ、中に獣を放ち、狩猟を愉しんだそうだ。
その男爵家も代替わりし、維持費のかかる広大な別荘を手放そうと売りに出したところ、買い手がついた。
それがザカリーだったという。
ザカリーは別にその屋敷に程近い、同じく内陸部の湖の畔にも別邸を買っており、どちらも値の張る物件を一度に二件も購入するとは、さすが大商人ザカリーと、土地を売った商店主は思ったそうだ。
「決まりだな」
収穫にランドルフは満足気にアランの肩を叩いた。
壁に囲まれた屋敷など、人を監禁しておくにはうってつけの場所だ。
そこからのアランの行動は早かった。
土地売買の商店主から男爵家の家名を聞きだし、男爵家に赴くと屋敷の見取り図を借り受けた。
そして家令のテッドに後を頼むと、その日の夕方には内陸部の屋敷に向かって馬を走らせていた。
その晩は共に駆けてきたランドルフと共に、森の中で野営をし、翌朝早くアランは屋敷に忍び込み、ようやくヨハンナの姿を見つけた。
コビット商会の本部は首都ナーバーにあると届出が出されており、届出の住所を尋ねていくと、裏路地に面した古びた家に行き当たった。
「まさかここじゃないよな」
ランドルフは何度か手元に控えたコビット商会の住所を確認し、目の前の半分崩れかけた家で間違いない事を知ると、顔をしかめた。
「ただのあばら家だ。コビット商会なんて立派な名前のわりに、なんだってんだこれは」
悪態をつきながらも、板戸の扉をノックする。
ギギギと蝶番をきしませ、扉から白髪の老人が顔を出した。
「えっと、ここはコビット商会の本部かい?」
違うと思いながらもランドルフが現れた老人に問いかけると、老人はランドルフとアランの身なりを確認し、腰を低くして応じた。
「いえいえ、ここはかれこれ三十年はわしの家でさぁ。何ですかい、そのコバットだかコピットとやらは」
「――だってさ、アラン」
老人の予想通りの答えに、ランドルフがアランを振り返る。
アランは白髪の老人の様子を観察した。
おどおどしたところはない。眼光鋭い老人ではあるが、この者がコビット商会とつながっているようには見えない。
「おまえ、ザカリーは知っているか?」
念のためそうアランが聞くと、老人は「それはもちろん」と答える。
「大商人ザカリーの名は赤子だって知ってまさぁ」
お決まりの答えが返ってくる。
アランは老人の隙間から覗く室内をすばやく観察した。
家こそあばら家だが、内装は以外に清潔感のある、すっきりとした室内だ。
「一人暮らしか?」
「へい。昔は孫と暮らしとりましたが、今は家を出て行ったので一人暮らしでさぁ」
「それは何かと不便だろう」
アランが気遣うように言うと、老人は両手を振った。
「いえいえとんでもない。若い頃は人足なんかで稼いどりましたが、今は出て行った孫が仕送りをしてくれるので、暮らしはむしろ楽な方でさぁ。孫もたまに帰ってきますき、不便はございません」
「そうか」
アランはランドルフに「行くぞ」と促し、老人への質問を終わらせ広場へ戻った。
その後もコビット商会の店舗として登録されている店へ行ってみたが、別の商店だった。
「とんだ偽商会だな」
ランドルフはうそばかりが並べられた届出を懐に押し込んだ。
「これを受け付けた役人は一体何をしていたんだ」
憤慨するランドルフに、アランは
「まぁそんなもんだろう。首都ナーバーに出入りしている商人なんて、山といるんだ。届出だって相当な件数だ。新しくできてはつぶれ、日々入れ替わる商会や商店の届出など、提出されたそのままに受け付け、中身の確認まではされんだろうからな」
「だとしてもだぜ。よくもこんなうそばっかり並べ立てたもんだな」
ランドルフはあちこちを歩いて疲れた足を擦った。
「で? 次はどうするんだ?」
ブーツの紐を結びなおし、皮袋から水分を補給すると、ランドルフは顔を上げる。
アランは「そうだな」としばし考え、
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「けどこれまで見て回ったが、コビット商会とザカリーの結びつきを示すものなんてなかったぜ?」
「それでもツハンの商店主が言っていただろう。コビット商会はザカリーの立ち上げた商会だと。公に記録に残さなくとも、そういううわさはもれ聞こえてくることもある」
「……了解」
ランドルフは重い腰を上げた。
ザカリーのことはすぐにわかった。
さすが大商人としてその名を轟かせているだけあって、ザカリーの立ち上げた商会と取引する商店も多い。
彼らの話を総合すると、ザカリーは現在肺病を患っており、最近では直接手腕を振るうことはなく、空気のきれいな内陸部の方で療養しているということだった。
聞き込みの途中、ナーバーに店舗を構える、土地売買を手がける商店主から面白い話を聞いた。半年ほど前にザカリーに売った物件のことだ。
その物件は、さる男爵家がナーバーから馬車で三時間の場所にある内陸部に、十年前に建てた屋敷で、狩猟を趣味としていた男爵家の当時の当主が作らせた屋敷らしい。
屋敷は内陸部の森の中にあり、屋敷の周囲を高い壁で囲わせ、中に獣を放ち、狩猟を愉しんだそうだ。
その男爵家も代替わりし、維持費のかかる広大な別荘を手放そうと売りに出したところ、買い手がついた。
それがザカリーだったという。
ザカリーは別にその屋敷に程近い、同じく内陸部の湖の畔にも別邸を買っており、どちらも値の張る物件を一度に二件も購入するとは、さすが大商人ザカリーと、土地を売った商店主は思ったそうだ。
「決まりだな」
収穫にランドルフは満足気にアランの肩を叩いた。
壁に囲まれた屋敷など、人を監禁しておくにはうってつけの場所だ。
そこからのアランの行動は早かった。
土地売買の商店主から男爵家の家名を聞きだし、男爵家に赴くと屋敷の見取り図を借り受けた。
そして家令のテッドに後を頼むと、その日の夕方には内陸部の屋敷に向かって馬を走らせていた。
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