偏執の枷〜わたしの幸せはわたしが決める〜

咲木乃律

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第三章

龍の加護

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「一つ、はっきりさせておきたいんだが」
 
 アランがセキとコクに向き合う。

「俺の琥珀の瞳と黄龍の関与は関係ないとみていいんだな?」

 黄龍の加護持ちだといわれ続けてきたアランの琥珀の瞳だ。
 本人はただの遺伝だと主張しているが、周りはそれを認めない。いい加減、うんざりしていたアランが聞くと、セキもコクもきっぱりと否定した。

「「ないね」」

 というか、とコクが補足する。

「さっきも言ったけど、龍の加護なんてない。あるとすれば、母様だけができる特殊な能力だけだね。母様は、人の子に龍語を話せる力を与えることができるんだ。でもね、これもあくまで話せるってだけだよ。他に何か特別なことができるわけじゃない」

「それがヨハンナということか?」

 アランの問いに、セキがこくりと頷く。

「そうだよ。ヨハンナは母様が龍の涙を与えた子なんだ。お腹の中にいるときに、母様の涙を受けると、その子は母様の色を持って生まれ、龍語を話せる」

「龍語というのは、そんなに特別なものなのか? おまえたちはこうして人の姿をとって、俺たちと意思疎通できるじゃないか」

 龍が人となって人の言葉を話すなら、何も龍語は特別なものではない。

 アランがそう言うと、コクは、

「人型をとれるのは、僕たち世代が手に入れた能力なんだよ。母様は人型はとれない。僕たちと兄様の白龍だけの能力なんだ。それでも龍語は僕たちにとって特別な言葉だ。龍語は、対象に直接語りかける特殊な言葉なんだ。どれだけ離れてても聞こえる。僕たち龍にとって、心地のいい言葉なんだよ」

 なるほどなとエグバルトが言い、続けて、

「龍語をもって、龍と意思疎通できるというのは、特別なことなのだな。龍は間違いなくこのメータ大陸で最強の生き物だ。そんな龍の言葉を話せれば、龍を自分の思いの通りに動かすこともできるということだ。もし私の想像する通りの龍が、首都ナーバーで大暴れしたなら、我々は太刀打ちできん。壊滅状態となるだろう。国を滅ぼすなど、造作もないことのように聞こえるぞ」

 皇帝の言葉に、グラントリーとブライアンはうーむと唸り、腕を組んで沈黙した。
 兄たちのことだ。
 実際、そうなった際の対策を頭の中で算段し始めたのだろう。

――話を元に戻そう。

 アランは兄たちの思考を遮り、強引にこちらに注意をむけさせた。

 けれど、エグバルトは次兄のグラントリーに話の主導権を渡し、自らは腕を組み、そのまま黙考した。

「それで、テンドウの里への出入り口のことだが……」

 アランが話をはじめへ戻す。

 もともとセキとコクには、一つしかないテンドウの里への入口のことで相談を持ちかけていた。
 潮の満ち引きで日に二度は通れるはずの道は、テンドウ族が里に入ってのち、まだ一度も潮が引かない状態が続いている。
 
 その間に各地に走らせた内偵部隊が、次々に黄帝城へと知らせを寄越してきていた。

 それらの中には、病気平癒の延命治療として、実際に神子を抱いたという人間もいた。

 あの内陸部の屋敷で秘事として大金を支払い、神子と情を交わしたと。

 そうして集められた資金が、今回の砲撃の武器へと化けたことは想像に難くない。

 ザカリー所有の内陸部の屋敷も調べさせたが、部隊が到着したときにはもぬけのからで、何一つ残されていなかった。

 その過程で商人ザカリーにも軍の内偵が入り、ザカリーは肺病の治癒のため、男神子と定期的に寝ていたこと、その見返りとしてセヴェリに資金提供していたことを供述した。

 ザカリーはただちに捕らえられ、今は幽閉されている 
 が、彼の肺病は重く、長くはもたないだろうとの報告だ。

 今回のテンドウ族の突破が、ザカリーはじめ、神子をだしにして集められた資金が元になっていることは間違いない。
 現地に残された大砲は、最新式のものだったというし、応戦で放たれた銃も性能のいいものだった。

 神子を売ることで資金を集め、それが帝国へ抵抗するための道具へと化けたことは見過ごせない。

 十ハ年前と同じことが繰り返されようとしていることがわかった今、エグバルトはじめ、グラントリー、ブライアンの心は決まっていた。

――里への入口が開き次第突入する。

 もたらされた報告からそう決定し、軍と議会でそれぞれ皇帝の意向が伝えられたのが二日前のことだ。
 
 セービン伯爵はじめ、強硬派は勢いづき、マシューはじめ穏健派は皇帝の決定に異を唱えたが、それで皇帝の決定事項が覆ることはない。

 マシューは、テンドウ族が神子を売っているというが、今現在テンドウの里への入口が塞がれているのだから、今は神子を売ることはできないはずだ、よって攻める意味はないと理屈をこねたが、やはり覆らなかった。

 グラントリーはただちに軍を編成し、いつでも攻め込めるよう、テンドウの里へ向けて部隊を送り出した。

 が――。

 肝心の入口が水に浸かったままでは攻めることはできない。
 そこでおそらく緑龍によって塞がれているのであろう里の入口を、開けるように緑龍を説得してもらえないか。

 それに対する回答が、開口一番のセキとコクの言葉だった。

 
「とにかく僕たちの呼びかけに、母様は答えてくれないんだよ。だからさ、直接会いに行かないと、道をあけてもらうのは難しいよ」

 セキがは再び菓子を口に頬張りながらそう言う。

「でもさ、僕たち今はまだヨハンナから離れたくないんだよ」とコク。

「そうそう。ヨハンナの心がもうちょっと治ってからにしたいんだよ。みんなで急いでるとこかわいそうだとは思うけどさ」とセキ。

「ううむ」

 グラントリーはどうしたものかとアランへ視線を送る。
 アランはそれを受けて「おい、セキにコク」と口を開く。

「ヨハンナのことは俺が見ている。心配するな」
「それが一番不安なんだよなぁ」

 セキが目をすがめ、コクも同じくアランを睨む。

「だって昨日ヨハンナを泣かせちゃったじゃん」とセキ。
「そうだよ。僕たちがついていながら不覚だったよ」とコク。

 ちゃっかり持ち出したお菓子のために、ヨハンナから目を離しておいてよく言う。

 と思ったが、アランの落ち度は間違いないのでぐっとこらえた。

 言い訳しない末の弟へ、こいつは何かやらかしたなという三人の兄の冷えた視線が飛んだ。
 
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