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戦争は終わったのに
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「あ‥あなた ‥なぜ っ」
「イレーネ…」
俺は兵士のフランツ。王国と他国の5年戦争に従軍していた。
戦争は終わった。俺は故郷に帰ってきた。
4年前、平凡な勤め人だった俺は、徴兵されて戦線に送られた。
愛する妻と泣く泣く別れ、故郷から戦地へと旅立った。
「あなた、必ず生きて帰ってきて。私はずっと待ってますから…」
前の年に結婚したばかりの妻イレーネは、俺に、何度も何度もそう言った。
◆
そして4年たった今、俺の目の前にいるのは、見知らぬ男に肩を抱かれてぶるぶる震えている妻だった。
背中に赤ん坊までいるではないか。
間男…じゃねえや、おそらく「その子どもの父親」は、見た目最高にイカしてる若い男だった。
震えて喋れないイレーネを見てすべての事情を察したであろう、そのハンサムな黒髪男はイレーネと俺を交互に見やる。
今にも倒れそうな妻の体を支えながら。
うーん… 君が支えているのは俺の妻なんだがな。
「ごめんなさい あなた…わたし、わたし、ずっと待ってたのよ。でも1人で心細くて淋しくって…」
「フランツさん、イレーネは悪くありません。
僕がイレーネを支えてあげたくて、色々助けていたらいつの間にか彼女を好きになってしまったんです…ご主人がいることは分かっていました!
申し訳ありません…でも、でも、イレーネを愛してしまったんです」
あー、そういうこと。
夢の中の出来事のように、現実感が無かった。
戦争が終わって、やっとこさ家に帰ってきたと思ったら
妻は他の男とよろしくやっていた。子供までこさえてた。そういうことだ。
誤って戦死の知らせが行った後には、妻が自分の兄弟と結婚していたという話は耳にしたことがあるが……
…いいや、そういうことではないのだよな。
戦争に行った夫、淋しい女、優しくしてくれる見目のいい男。口説かれたのか、ほだされたのか。
どっちでもいいな、もう。
「ガベーレが悪いんじゃない、わたしがっ わたしが弱いから…」
イレーネが、かたわらの男をかばう。
そっかー、この男、ガベーレっていうのか。なんか知らんけどコイツは徴兵は免れたんだ。
身体虚弱か、はたまたお貴族さまか大物商人あたりの息子か縁者かもしれない。
本当なら、引っ越しでもしたかったんだろうけど
今は戦後処理で土地もなかなか買えない。赤ん坊もいるし仕方なくここにいたということかな。
戦争の時の空襲で、都市部の多くの大きな建物が爆撃を受けた。この男の実家も、そのうちのひとつなのかもしれない。
俺たち夫婦が暮らしていたここは、王都郊外で、敵国の爆撃対象区域ではなかった。
戦地からの復員兵は、遠かった俺たちが一番最後だ。
おそらくイレーネとガベーレは、俺を、もう死んだと思っていたのかもしれない。通信手段も今はガタガタだ。
あーあ。
俺はうつむいて、ボロボロの軍服とドロドロの軍靴を目にした。
やっとあのクソみたいな地獄から帰還したってのに。
イレーネに口づけて、イレーネの胸に顔を埋めるはずだったのに。
現実はこれだ。
今は、涙も出てこなかった。
ただただ虚しい。
妻が待っていてくれると思えばこそ、自分に気合いを入れ直して戦うことも出来た。
愛する妻の住む王国を守っているのだ、と自分に言い聞かせて、泥水みたいなスープと堅パンの食事にも耐えてきた。
安い芝居の文句みたいなことを言い合う2人に背を向け、立ち去ろうとした時イレーネの声だけが追いかけてきた。
「フランツ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…私あなたになんて言えばいいか………!」
「離婚の手続きはこっちでしとくから。じゃあ…」
急にドッと疲れがきた。全身が、ズン、と重さを増したような気がする。
俺にはもう妻はいない。
俺はもうここが「家」じゃないんだと理解した。
一刻も早くここから離れなければならない。
でも、どこへ?
考えるのも億劫だ。
かつての我が家が見えないくらい遠くまで来た。郊外なので家はまばらだ。
緑の低い生垣に覆われた田舎家のところまで来た。
ああ…ここはシュテッフィー婆さんちか。よくウチにタマゴをくれたっけ。
生垣を曲がったところに、よく見知った人物が立っていた。
「トルーデ…なぜここに?」
戦地で共に戦った戦友トルーデ・ケストナー。俺のかつての上官であり友でもある。男装しているが女性。
無能も少なくない貴族の軍人たちの中において
幼少期から剣も武術も兵法も極めたケストナー家の令嬢トルーデは、クズでも無能でもなく、仁義に篤い、優秀で有能な軍人でもあった。
男女が共に学ぶ、軍の専門教育機関を卒業。
護身術は勿論、各種武術を習得済みの彼女らは滅法強い。
そして幼少期から毒物にも慣らされている。
ああ、肝心なことを言い忘れてた。トルーデは、ものすごく顔が整っている。
艶やかな金髪ロングに、青い目。軽く日焼けしている。肌も、すっごくキレイなんだよなー。
美形、美人、カッコいい…
ベ◯ばらのオ◯カル様が三次元に出現したみたいなモンよ。(真剣)
◆
上官ってことで、俺には雲の上のお人だったんだが
この麗しい上官殿に、なぜだか妙に懐かれてしまった。
階級差も身分差もあるから無理!!ゼッタイ無理無理無理無理!…と何度も言ったのだが
「死地で一緒に戦ったんだから、自分を友と呼んでくれ」
とか言われて。ここ2年ばかし付き纏われ……いやいや表現が良くないな、コホン、ものすごく話しかけられて
仲良しになって分かったが、トルーデは、ものすごくいい奴で、話してて楽しい。
運動、筋トレの話なんかもする。
おい、それが共通の話題かよ!と言われそうだが、士官学校出のトルーデは運動、筋トレも凄いのよ……。
俺は、筋トレも鍛錬も、入隊してからだから経験浅いけど。
で、お互い他者の目がないところではざっくばらんな話し方でいいことにして
俺たちは友情を構築するに至った。
しかしいまだに、なんで俺が友達??わかんない。うん、なんでなんだろうな??
地味顔の俺、最下位の二等兵の俺、なにか取り柄があるわけでもない…。
俺は妻帯者で、愛妻家で通ってた。二等兵仲間からは「カミさんの話は耳タコだ」とも言われた。
◆
なにかと俺を構いに来るトルーデの姿を見て
それをやっかんだ奴らに、「少尉殿のお気に入りの男か?」と冷やかされもしたが
俺なんかに、そんな興味が湧くわけがなかろうよ。普通オブ普通の俺に。
トルーデからそういう、色事のような気配を感じたことはない。
◆◆◆
あ、でも俺もう妻帯者じゃなくなったわ。ついさっき。手続きはまだだけど。精神的にもう、捨てられ男じゃ……。
帰りの船から降りる時、トルーデが妙にソワソワしてたが
その理由が、俺を尾行するからだったとは……。
トルーデの長い金髪は脇でゆるく結び前に流してあり、俺のボロボロの格好とは真逆の、こざっぱりとした白っぽいシャツ、ベスト、黒いトラウザーズにショートブーツ。
なぜだろう、立ってるだけで、風さえも光って見える美形だな!!!
「なんでここにいるんだよ?」
「 ───あれ、なんでだろう…?えっと、散歩?」
トルーデが頭をかきつつ「ヘヘッ」と笑う。
いやいやいやいやナチュラルに俺を尾行してきたんだろ!
そしてただ笑ってるだけなのに眩しい……!!!
「フランツ…なんと言っていいか分からないが その…残念だったな」
見てたのかよ さっきの一部始終。
「イレーネ…」
俺は兵士のフランツ。王国と他国の5年戦争に従軍していた。
戦争は終わった。俺は故郷に帰ってきた。
4年前、平凡な勤め人だった俺は、徴兵されて戦線に送られた。
愛する妻と泣く泣く別れ、故郷から戦地へと旅立った。
「あなた、必ず生きて帰ってきて。私はずっと待ってますから…」
前の年に結婚したばかりの妻イレーネは、俺に、何度も何度もそう言った。
◆
そして4年たった今、俺の目の前にいるのは、見知らぬ男に肩を抱かれてぶるぶる震えている妻だった。
背中に赤ん坊までいるではないか。
間男…じゃねえや、おそらく「その子どもの父親」は、見た目最高にイカしてる若い男だった。
震えて喋れないイレーネを見てすべての事情を察したであろう、そのハンサムな黒髪男はイレーネと俺を交互に見やる。
今にも倒れそうな妻の体を支えながら。
うーん… 君が支えているのは俺の妻なんだがな。
「ごめんなさい あなた…わたし、わたし、ずっと待ってたのよ。でも1人で心細くて淋しくって…」
「フランツさん、イレーネは悪くありません。
僕がイレーネを支えてあげたくて、色々助けていたらいつの間にか彼女を好きになってしまったんです…ご主人がいることは分かっていました!
申し訳ありません…でも、でも、イレーネを愛してしまったんです」
あー、そういうこと。
夢の中の出来事のように、現実感が無かった。
戦争が終わって、やっとこさ家に帰ってきたと思ったら
妻は他の男とよろしくやっていた。子供までこさえてた。そういうことだ。
誤って戦死の知らせが行った後には、妻が自分の兄弟と結婚していたという話は耳にしたことがあるが……
…いいや、そういうことではないのだよな。
戦争に行った夫、淋しい女、優しくしてくれる見目のいい男。口説かれたのか、ほだされたのか。
どっちでもいいな、もう。
「ガベーレが悪いんじゃない、わたしがっ わたしが弱いから…」
イレーネが、かたわらの男をかばう。
そっかー、この男、ガベーレっていうのか。なんか知らんけどコイツは徴兵は免れたんだ。
身体虚弱か、はたまたお貴族さまか大物商人あたりの息子か縁者かもしれない。
本当なら、引っ越しでもしたかったんだろうけど
今は戦後処理で土地もなかなか買えない。赤ん坊もいるし仕方なくここにいたということかな。
戦争の時の空襲で、都市部の多くの大きな建物が爆撃を受けた。この男の実家も、そのうちのひとつなのかもしれない。
俺たち夫婦が暮らしていたここは、王都郊外で、敵国の爆撃対象区域ではなかった。
戦地からの復員兵は、遠かった俺たちが一番最後だ。
おそらくイレーネとガベーレは、俺を、もう死んだと思っていたのかもしれない。通信手段も今はガタガタだ。
あーあ。
俺はうつむいて、ボロボロの軍服とドロドロの軍靴を目にした。
やっとあのクソみたいな地獄から帰還したってのに。
イレーネに口づけて、イレーネの胸に顔を埋めるはずだったのに。
現実はこれだ。
今は、涙も出てこなかった。
ただただ虚しい。
妻が待っていてくれると思えばこそ、自分に気合いを入れ直して戦うことも出来た。
愛する妻の住む王国を守っているのだ、と自分に言い聞かせて、泥水みたいなスープと堅パンの食事にも耐えてきた。
安い芝居の文句みたいなことを言い合う2人に背を向け、立ち去ろうとした時イレーネの声だけが追いかけてきた。
「フランツ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…私あなたになんて言えばいいか………!」
「離婚の手続きはこっちでしとくから。じゃあ…」
急にドッと疲れがきた。全身が、ズン、と重さを増したような気がする。
俺にはもう妻はいない。
俺はもうここが「家」じゃないんだと理解した。
一刻も早くここから離れなければならない。
でも、どこへ?
考えるのも億劫だ。
かつての我が家が見えないくらい遠くまで来た。郊外なので家はまばらだ。
緑の低い生垣に覆われた田舎家のところまで来た。
ああ…ここはシュテッフィー婆さんちか。よくウチにタマゴをくれたっけ。
生垣を曲がったところに、よく見知った人物が立っていた。
「トルーデ…なぜここに?」
戦地で共に戦った戦友トルーデ・ケストナー。俺のかつての上官であり友でもある。男装しているが女性。
無能も少なくない貴族の軍人たちの中において
幼少期から剣も武術も兵法も極めたケストナー家の令嬢トルーデは、クズでも無能でもなく、仁義に篤い、優秀で有能な軍人でもあった。
男女が共に学ぶ、軍の専門教育機関を卒業。
護身術は勿論、各種武術を習得済みの彼女らは滅法強い。
そして幼少期から毒物にも慣らされている。
ああ、肝心なことを言い忘れてた。トルーデは、ものすごく顔が整っている。
艶やかな金髪ロングに、青い目。軽く日焼けしている。肌も、すっごくキレイなんだよなー。
美形、美人、カッコいい…
ベ◯ばらのオ◯カル様が三次元に出現したみたいなモンよ。(真剣)
◆
上官ってことで、俺には雲の上のお人だったんだが
この麗しい上官殿に、なぜだか妙に懐かれてしまった。
階級差も身分差もあるから無理!!ゼッタイ無理無理無理無理!…と何度も言ったのだが
「死地で一緒に戦ったんだから、自分を友と呼んでくれ」
とか言われて。ここ2年ばかし付き纏われ……いやいや表現が良くないな、コホン、ものすごく話しかけられて
仲良しになって分かったが、トルーデは、ものすごくいい奴で、話してて楽しい。
運動、筋トレの話なんかもする。
おい、それが共通の話題かよ!と言われそうだが、士官学校出のトルーデは運動、筋トレも凄いのよ……。
俺は、筋トレも鍛錬も、入隊してからだから経験浅いけど。
で、お互い他者の目がないところではざっくばらんな話し方でいいことにして
俺たちは友情を構築するに至った。
しかしいまだに、なんで俺が友達??わかんない。うん、なんでなんだろうな??
地味顔の俺、最下位の二等兵の俺、なにか取り柄があるわけでもない…。
俺は妻帯者で、愛妻家で通ってた。二等兵仲間からは「カミさんの話は耳タコだ」とも言われた。
◆
なにかと俺を構いに来るトルーデの姿を見て
それをやっかんだ奴らに、「少尉殿のお気に入りの男か?」と冷やかされもしたが
俺なんかに、そんな興味が湧くわけがなかろうよ。普通オブ普通の俺に。
トルーデからそういう、色事のような気配を感じたことはない。
◆◆◆
あ、でも俺もう妻帯者じゃなくなったわ。ついさっき。手続きはまだだけど。精神的にもう、捨てられ男じゃ……。
帰りの船から降りる時、トルーデが妙にソワソワしてたが
その理由が、俺を尾行するからだったとは……。
トルーデの長い金髪は脇でゆるく結び前に流してあり、俺のボロボロの格好とは真逆の、こざっぱりとした白っぽいシャツ、ベスト、黒いトラウザーズにショートブーツ。
なぜだろう、立ってるだけで、風さえも光って見える美形だな!!!
「なんでここにいるんだよ?」
「 ───あれ、なんでだろう…?えっと、散歩?」
トルーデが頭をかきつつ「ヘヘッ」と笑う。
いやいやいやいやナチュラルに俺を尾行してきたんだろ!
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