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第一章 天涯孤独になりました
美貌の青年
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音がする。
何かが爆けるような、大きな物が崩れるような。
この音は何──?
意識を失い、村からやや離れた場所に寝かされていたラズリは、意識が覚醒してくると同時に聞こえてきた音に、耳をすませていた。
なんだか焚き火の音に似ているような気がするけれど、それよりももっと大きな……。ううん、そんなことより、どうしてこんな音が聞こえるんだろう?
覚醒したといっても意識はまだぼんやりとしている為、状況を把握できない。
体はピクリとも動かせず、目を開けようにも、瞼は痙攣するばかりで。
どうして、こうなったんだっけ……。
意識を失ったのだということは何となく自覚しているため、そうなった原因を探ろうと記憶を辿る。
しかしその刹那、まるでそれを遮るかのような轟音と地響きによって体を大きく揺さぶられ、ラズリの意識は否応なく引きずり起こされた。
「…………っ!」
あまりの衝撃に驚いたせいか、唐突に意識が鮮明になり、痙攣していた瞼が開く。同時に、金縛りにあっていたかのように動かせなかった体も、解放されたかのように軽くなった。
今のは何?
両手足は未だ拘束されたままだったが、顔の向きを変え、ラズリは音のする方向へと視線を向ける。
瞬間、そこにあった光景に息を呑んだ。
「なに、あれ……」
視線の先には、炎の海が広がっていた。
炎はどす黒い煙を吐き出しながら空高く燃え上がり、生き物のように揺らめいている。
時折り風に煽られて小さくなるも、次の瞬間には威力をいや増し、勢力を拡大するべく次々と周囲の木々を屠っているようだ。
あまりにも信じがたい光景に、ラズリは瞬きすらも忘れ、食い入るように炎を見つめた。
どうして? なんで?
意識を失う前と後とで状況が違い過ぎていて、理解が追い付かない。
説明を求めて周囲を見回すも、誰の姿も見えず、教えてもらうことはできなさそうだ。
どうして誰もいないの? 燃えてるのは森? それとも……。
それ以上は考えたくなくて、頭を振ると嫌な考えを追い出す。
そうした上で、ラズリは自らを安心させるかのように、前向きな考えを懸命に頭の中に浮かべた。
村はきっと大丈夫。多分私は気を失ってる間に、村から離れた場所に連れて来られたんだ。それで、偶然山火事を見つけて……。
必死にそう考えようとするけれど、嫌な気持ちは頭から離れてくれない。
誰か助けて。誰でもいい、とにかくたった一言『村は大丈夫』だと言ってくれさえすれば、それだけで救われるから。
「大丈夫……だよね?」
祈るように、誰にともなくラズリは呟く。
「燃えてるのは……違うよね? みんなは大丈夫だよね?」
返事をしてくれる人などいないのに、尋ねずにはいられない。
「ねえ……大丈夫なんだよね? 燃えてるのは村じゃないんだよね?」
声が震える。
泣きそうになって歯を食いしばると、聞き覚えのない声が聞こえた。
「大丈夫といえば大丈夫だが、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないな」
「え……」
突然聞こえた声に、ラズリは驚き、もう一度周囲を見回す。けれどやっぱり誰もいない。
「あれ……?」
気のせいだったかと首を傾げて、ラズリが再び村の方角へと目を向けた刹那、そこにあった人物の顔を見て、驚愕に目を見開いた。
「………………!」
目の前にいたのは、見たこともない程に整った、美しい顔の青年だった。
白磁のような肌は滑らかで肌理細かく、真っ赤な瞳が物凄く映える。同じ色の髪は肩に付くか付かないか程度の長さで無造作に風に靡いていて、燃え盛る炎のようだ。
そこまではいい。
細かいことを言わせて貰えば、髪の毛はなんとなく伸ばしているだけで、その長さに揃えているわけじゃないよね? とか、櫛を通してるだけでセットしてないよね? とか言いたいが、それはいい。
今ラズリが言いたいのは一つだけ。
それは服装。
美貌の青年の服装は、凄く……物凄く残念だった。
「……はあ」
つい、隠しきれず大きなため息を吐いてしまうほどに。
「え、なんだ? どうした?」
不思議そうに首を傾げる様子ですら、本に出て来る王子様のようなのに、どうして。
どうして纏っている服が、真っ赤な布切れ一枚なのか。
勿論ズボンは履いているし、靴だって履いている──同色の、真っ赤なやつを。
なんでそこまで赤一色に揃えなきゃいけないの? と思わないこともないけれど、それよりも。その上着として纏っている布は服なの? とまず問いたい。
単に赤い布を洋服がわりに纏っているだけなんじゃ? と。
なまじ美形なだけに、残念で堪らない。
つい気持ちのままの視線を向けると、青年はたじろいだ。
「な、なんだよ。せっかく助けに来てやったのに、そういう態度とっていいと思ってんのか?」
「えっ⁉︎」
青年に言われた言葉が咄嗟に理解できず、ラズリは声をあげる。
「なに? 今……なんて言ったの?」
聞き間違えかもしれないと、もう一度聞き返す。
けれど美貌の青年は、再び同じ台詞を吐いた。
「俺はお前を助けに来た。分かったか?」
何かが爆けるような、大きな物が崩れるような。
この音は何──?
意識を失い、村からやや離れた場所に寝かされていたラズリは、意識が覚醒してくると同時に聞こえてきた音に、耳をすませていた。
なんだか焚き火の音に似ているような気がするけれど、それよりももっと大きな……。ううん、そんなことより、どうしてこんな音が聞こえるんだろう?
覚醒したといっても意識はまだぼんやりとしている為、状況を把握できない。
体はピクリとも動かせず、目を開けようにも、瞼は痙攣するばかりで。
どうして、こうなったんだっけ……。
意識を失ったのだということは何となく自覚しているため、そうなった原因を探ろうと記憶を辿る。
しかしその刹那、まるでそれを遮るかのような轟音と地響きによって体を大きく揺さぶられ、ラズリの意識は否応なく引きずり起こされた。
「…………っ!」
あまりの衝撃に驚いたせいか、唐突に意識が鮮明になり、痙攣していた瞼が開く。同時に、金縛りにあっていたかのように動かせなかった体も、解放されたかのように軽くなった。
今のは何?
両手足は未だ拘束されたままだったが、顔の向きを変え、ラズリは音のする方向へと視線を向ける。
瞬間、そこにあった光景に息を呑んだ。
「なに、あれ……」
視線の先には、炎の海が広がっていた。
炎はどす黒い煙を吐き出しながら空高く燃え上がり、生き物のように揺らめいている。
時折り風に煽られて小さくなるも、次の瞬間には威力をいや増し、勢力を拡大するべく次々と周囲の木々を屠っているようだ。
あまりにも信じがたい光景に、ラズリは瞬きすらも忘れ、食い入るように炎を見つめた。
どうして? なんで?
意識を失う前と後とで状況が違い過ぎていて、理解が追い付かない。
説明を求めて周囲を見回すも、誰の姿も見えず、教えてもらうことはできなさそうだ。
どうして誰もいないの? 燃えてるのは森? それとも……。
それ以上は考えたくなくて、頭を振ると嫌な考えを追い出す。
そうした上で、ラズリは自らを安心させるかのように、前向きな考えを懸命に頭の中に浮かべた。
村はきっと大丈夫。多分私は気を失ってる間に、村から離れた場所に連れて来られたんだ。それで、偶然山火事を見つけて……。
必死にそう考えようとするけれど、嫌な気持ちは頭から離れてくれない。
誰か助けて。誰でもいい、とにかくたった一言『村は大丈夫』だと言ってくれさえすれば、それだけで救われるから。
「大丈夫……だよね?」
祈るように、誰にともなくラズリは呟く。
「燃えてるのは……違うよね? みんなは大丈夫だよね?」
返事をしてくれる人などいないのに、尋ねずにはいられない。
「ねえ……大丈夫なんだよね? 燃えてるのは村じゃないんだよね?」
声が震える。
泣きそうになって歯を食いしばると、聞き覚えのない声が聞こえた。
「大丈夫といえば大丈夫だが、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないな」
「え……」
突然聞こえた声に、ラズリは驚き、もう一度周囲を見回す。けれどやっぱり誰もいない。
「あれ……?」
気のせいだったかと首を傾げて、ラズリが再び村の方角へと目を向けた刹那、そこにあった人物の顔を見て、驚愕に目を見開いた。
「………………!」
目の前にいたのは、見たこともない程に整った、美しい顔の青年だった。
白磁のような肌は滑らかで肌理細かく、真っ赤な瞳が物凄く映える。同じ色の髪は肩に付くか付かないか程度の長さで無造作に風に靡いていて、燃え盛る炎のようだ。
そこまではいい。
細かいことを言わせて貰えば、髪の毛はなんとなく伸ばしているだけで、その長さに揃えているわけじゃないよね? とか、櫛を通してるだけでセットしてないよね? とか言いたいが、それはいい。
今ラズリが言いたいのは一つだけ。
それは服装。
美貌の青年の服装は、凄く……物凄く残念だった。
「……はあ」
つい、隠しきれず大きなため息を吐いてしまうほどに。
「え、なんだ? どうした?」
不思議そうに首を傾げる様子ですら、本に出て来る王子様のようなのに、どうして。
どうして纏っている服が、真っ赤な布切れ一枚なのか。
勿論ズボンは履いているし、靴だって履いている──同色の、真っ赤なやつを。
なんでそこまで赤一色に揃えなきゃいけないの? と思わないこともないけれど、それよりも。その上着として纏っている布は服なの? とまず問いたい。
単に赤い布を洋服がわりに纏っているだけなんじゃ? と。
なまじ美形なだけに、残念で堪らない。
つい気持ちのままの視線を向けると、青年はたじろいだ。
「な、なんだよ。せっかく助けに来てやったのに、そういう態度とっていいと思ってんのか?」
「えっ⁉︎」
青年に言われた言葉が咄嗟に理解できず、ラズリは声をあげる。
「なに? 今……なんて言ったの?」
聞き間違えかもしれないと、もう一度聞き返す。
けれど美貌の青年は、再び同じ台詞を吐いた。
「俺はお前を助けに来た。分かったか?」
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