【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第一章 回り出した歯車

拉致

 唐突に自分の目の前に現れた人物に驚いたのは、ラズリとて同じであった。

 見ず知らずの男達から逃れ、全速力で走りながら、若干遠回りをして家へと続く一本道へと足を踏み入れたまでは良かったが──その途端、ほど近い距離に感じた人の気配。

 え、誰?

 急には止まれず、現れた人物に思い切りぶつかって尻もちをついたラズリの瞳に映ったのは、先刻野菜畑で自分に声をかけてきた青いマントの男達で。彼等がまだ村から出て行っていなければ、再び遭遇してしまう可能性もあるとは思っていたけれど、まさかこんなにもすぐ顔を合わせることになるなんて、思いもしていなかった。

 まだ、いたんだ……。

 彼等と顔を合わせてから、まだそこまで時間は経っていない。けれどここは、狭くて何もない村だ。どうせすぐに帰るだろうと思っていたのに。

 舌打ちしたくなる気持ちを抑えながら、ラズリは青いマントの男達を見つめる。

 彼等が今立っている場所は、村から少し離れた祖父の家へと通じる、一本道の入り口だ。という事はつまり、既に彼等は祖父に会ってきたのだろう。

 突然部外者に家を訪問され、祖父はどれだけ驚いただろうか。

 早く、帰らないと……。

 祖父の事が心配で堪らない。暴力を振るわれてはいないと思うが、最近の祖父の様子から、自分の目で無事を確認しなければ、安心は出来なかった。

 男達の足元に、ラズリはチラリと視線を向ける。

 一本道の道幅は狭く、彼等に若干端へ避けてもらわなければ、ぶつからずに通り過ぎることはできない。だが、言葉を交わすと無駄な時間を奪られそうだし、一刻も早く祖父の元へ帰りたかったラズリは、結局無言のまま彼等の横を強引に通り抜けることに決めた。

 立ち上がると同時に力強く地面を蹴り、加速するタイミングで上手く男達の横をすり抜ける──瞬間。

 いきなり伸びてきた手に、ラズリは腕を掴まれた。

「痛っ……!」

 それと同時に反対方向へと強い力で引っ張られ、再び尻もちをつきそうになる。しかしそこをうまい具合に抱え上げられ、マントを着けていない男の肩に、軽々と担ぎ上げられてしまった。
 
「なっ……ちょっと、下ろして!」

 突然のことにわけも分からず抵抗するが、肩に乗せられ身体を二つ折りにされた状態では、息をすることすら難しい。そのうち両手両足を他の男達によって拘束され、口に布を咬まされると、ラズリの身体は横抱きに抱え直された。

「……っ、ううーーっ!」

 やめて、離してといくら叫ぼうとしても、口に入れられた布のせいで、くぐもった声しか出せない。

 どうして? なんで? この人達は私をどうするつもりなの?

 聞きたい事は色々あるのに、その一つさえ口にする事はできなくて。

 もがくラズリの顔を上から覗き込むように見てきた青いマントの男は、満足気に微笑うとこう言った。

「なかなか活きのいい娘さんですね。まさか、自分から我らの元へ飛び込んできてくれるとは、思ってもいませんでしたが……。私はあなた様を探してはるばる王宮からやって参りました、ミルドと申す者。以後、お見知り置きを」

 丁寧に頭を下げられたが、そんな事はどうでも良い。

 この人が誰で、何処から来たかなんて、興味すらないのだから。

 知りたい事は、一つだけ。

 どうして私がこんな目に遭わなければならないの?

 ただ、それだけだった。

 しかも、ラズリにとって彼の告げた内容は、全くもって分からない事ばかりで。

 王宮について詳しくは知らないが、ミースヴァル島を治める最高機関だということぐらいは知っている。

 ただ一人の王の下、選ばれた少数精鋭の者だけがそこに身を置くことを許され、その中でも上位にある者は金も権力も、欲しいままに持つことができるという──。

 それゆえ一度王宮勤めに選ばれることができれば、一生の安寧が約束される夢のような場所──村にあった王宮について書かれた本の中には、どれもそのような記述があった。

 そんな場所に住んでいる人が、自分を探してここまでやって来た?

 一体何の冗談なんだろう。

 自分は誰かに探される覚えなんてまったくないし、ましてや王宮から使者を遣わされるような立場でもない。

 産まれた時からずっとこの村に住んでいて、王宮と関わり合いになるどころか、村の外へ出たことすらないというのに。

「王宮では、あなた様をお待ちになっている方がいらっしゃいます。ですから私はあなた様を王宮へとお連れし、その方と引き合わせる為に、ここへと遣わされたのです」
「…………?」
 
 ラズリが心の内で抱いた疑問に、答えるかのようにミルドは言うが、いや、それこそありえない、とラズリは思った。

 どうして王宮に、自分を待っている人がいるのか。

 そもそもその人は、何故自分の存在を知っているのだろう?

 聞けば聞くほど、疑問は大きくなっていく。

「取り敢えず、あなた様を早急に王宮へとお連れしなければなりませんので、詳しい話は道中でさせていただくことに致しましょう」

 ラズリを抱きかかえた男を先導するように、ミルドが村の出口へと向かって歩き出す。

 このままだと、本当に攫われる……!

 危機感を抱いたラズリが滅茶苦茶に暴れようと、全身に力を入れた瞬間──聞き慣れた声が、彼女の耳をうった。











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