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第一章 天涯孤独になりました
黒い靄
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騎士の男に抱えられたまま、村の出口へと運ばれていたラズリは、騎士が歩を進めるたび周囲の景色が見知らぬものへと変わっていくことに驚いていた。
既に自分は十年以上もこの村に住んでいて、知らない場所などない筈なのに、今目の前に広がる景色は何なのだろう。
村の外へ出てはいけないという祖父の言葉を厳守するあまり、ラズリは村の外側にある草むらさえも越えたことはなかったから、それを越えた先にここまでの空間があるなんて、思いも寄らなかった。
騎士の行く先には樹木が生垣のように張り巡らされており、その間に一部だけ、かろうじて人一人が通り抜けられる程の隙間が空いている。
恐らくそこが村の出入口なのだろう。普段は雑草などで分からないように擬態されているらしかったが、今はその殆どが踏み倒され、樹木にも擦れたような傷がついている。
深い森の奥にある筈のこの場所を、彼等がどうやって見つけたのかは分からない。
けれど、彼等がここから侵入してきたのは間違いないようで、騎士の男は真っ直ぐにそこを目指して歩いているようだった。
あそこを越えたら、本当に村の外に出てしまう。
以前は外に出ることを切望していたにも関わらず、それが現実のものとなった途端怖くなって、思わずラズリは身を震わせた。
「どうした?」
ラズリの震えに気付いたらしい騎士が、声をかけてくる。
聞かれたところで口に布を詰められている為答えられないのだが、騎士は兜越しにこちらを見つめ、答えを待っているようだ。
口に布を押し込んできたのはミルドだから、ラズリが喋れないことに目の前の騎士は気付いていないのかもしれないが、見ただけで分からないのかと疑問に思う。
「急に震えて……今更になって怖くなったのか?」
布のことには気付かないくせに、言葉だけは核心を突いてくるのが、何だか腹立たしい。
けれど素直に頷くのは癪だし、こんなことで怯えたとは思われたくなくて、ラズリは首を横に振った。
「え、違うのか。じゃあ……まさか、生理現象か?」
今度はあらぬ疑いをかけられた。
どうしよう……。
正直に答えるならば当然『否』だが、もしも『是』と答えたら、少しの間だけでも縛めを解いてくれるかもしれない、という考えが頭を過ぎる。
勿論、縛めを解いてくれない可能性もあるが、それでも僅かながらでも可能性があるなら、それに賭けて頷いた方が得策のようにラズリには思えた。
「…………」
躊躇いながらも、騎士の兜を見つめ、ラズリはこっくりと頷く。
それを見た騎士は、納得したようにラズリを地面に下ろすと、村の出口にある木の幹を、両手でがしりと掴んだ。
「俺はこの木をひん曲げてるから、その間にお前は用を足せ。逃げようなんて考えるなよ」
ラズリが下ろされた場所は、先程生垣のように見えていた木の根元部分で。
いつの間にやら出口へと辿り着いていたらしい。騎士は、出口の両側に立つ木の一本を、なぜだか外側へ捻じ曲げたいようだ。
見ると、そこの隙間は相当狭く、体格の良い騎士の男達がよくも通って来られたものだと、思わず感心してしまうほどしかない。しかも、その時の苦労が伝わってくるかのように、両側の木の幹には擦れてできたた傷が幾つもついている。
一度それで通れたのなら、更に木を傷付けなくてもいいのでは? と思うものの、喋ることができないため伝えられず、ラズリは口の中の布を噛んだ。
自分達の目的の為に人を攫うような真似をしただけでは飽き足りず、周りの環境まで破壊するなんて、この男達はどういう神経をしているんだろうか。
王宮騎士とは本来人々の見本であり、その誉れと共に敬われる存在である筈なのに。
こんな男達が、本当に王宮騎士なのだろうか?
そんな疑念がラズリの中で生まれ、大きく鎌首をもたげてくる。
もしかしたら王宮騎士というのは偽りで、この男達はただの人攫いにすぎないのでは?
わざわざこんな隠された村を見つけ出してまで仕事に励むなど、迷惑極まりないが。
もしそうだとしたら、自分は彼等に連れて行かれた後、どんな目に遭わされるか分かったものではない。
やっぱり、逃げないと──。
そう思った刹那、ラズリは地面に身を投げ出すと、転がるように移動し始めた。
「あっ! …‥待て!」
しかし、すぐさま騎士に勘付かれ、追いかけられる。
捕まらないようにとラズリは必死に転がって逃げるが、縛られている両手が邪魔で、一回転する毎に毎回つかえ、速度が落ちてしまう。
けれど、ここで逃げきれなければ、後は地獄へと一直線なのだ。
村から一歩でも外へ出たら、もう逃げ出すことすらできなくなってしまう。
捕まったら最後と自分自身を叱咤して、ラズリは地面を転がる際の身体の痛みに、歯を食いしばるようにして耐えた。
しかし──。
「……はい、鬼ごっこ終了~」
そんなラズリの必死の頑張りも虚しく、身体が草むらに衝突して止まったところで、騎士に再び捕らえられてしまう。
「ったく、お転婆なお嬢さんだな。そんな状態で逃げられるわけないだろって……」
苦し気に肩で息をするラズリに対し、騎士はまったく息を乱しておらず、ひょいと再び抱きかかえられる。
うまくいけば逃げられるとラズリは思っていたのだが、騎士の男はどこか適当な所でラズリの身体が止められるだろうと、予想していたらしい。
「案外止まるの早かったよなぁ」
などと言った後、
「まぁこれで気が済んだだろ? 両手足拘束された状態じゃ、どう頑張ったって逃げられないって分かっただろうし」
と、嘲りを含んだ声で笑った。
こんな最低な人達が、王宮騎士の筈がない!
騎士のあまりな態度にラズリは激昂し、せめて男の胸に全力で頭突きしてやろうと、身構えた瞬間──。
「ラズリを離せ!」
背後から、声がした。
「王宮騎士だかなんだか知らねぇが、この村で勝手なことしやがって!」
「ラズリを何処へ連れて行く気だ?」
聞き覚えのある声の主は、村人達だ。
恐らくラズリが攫われそうになっていることに気付いて、助けに来てくれたのだろう。
「んーーっ!」
彼等に聞こえるように、ラズリが声にならない声をあげると、騎士はラズリを抱えたままの体勢で、勢い良く後ろを振り返った。
「ラズリ!」
視界が回転すると、そこには確かに、ラズリのよく知る村人達が、束になって立っていて。
彼等は全員が全員、畑を耕す鍬やら鋤やら、思い思いの農具を手にし、騎士を睨みつけていた。
「んんっ……」
騎士に手を出すのは危ないと、ラズリはくぐもった声を出す。
すると、村人達の視線は一斉にラズリへと向き、その瞳が驚愕に見開かれた。
「……っ?」
そこまで驚いた顔をされるとは思わなくて、ついラズリも思わず目を見開いてしまう。
しかし、次いで村人達から放たれた言葉に、慌てて自分の身体を見回した。
「き、貴様……ラズリに一体何をした?」
「年頃の娘の身体をそんなになるまで乱暴に扱うなんて、あんた本当に騎士なのか?」
「まさかとは思うが……よ、嫁に行けない身体にされたわけじゃ……」
みんなは何を言ってるの?
不思議に思ったが、成程、先ほど地面を転がったせいか、ラズリの纏っている衣服はところどころ破れ、手足も傷だらけになっている。
これでは妙な疑いをかけられても仕方がない……とは思うものの、この騎士にそんなことをされたなどとは、間違っても思われたくない。
「んっ……んんーーっ!」
そのため、違う違うと首を振りつつ訴えるも、村人達には一向に伝わらず。
「だったら、どうする?」
なんて、騎士の男が挑発めいた発言をしたものだから、村人達の怒りの温度は更に上昇したようだった。
「いくら王宮騎士だといっても、大事な娘を傷物にされたとあっちゃあ黙っていられねえ!」
「その娘は嫁に行くまで、俺達が大切に守っていく筈だったのに」
言いながら、じりじりと騎士との距離を詰めてくる。
駄目……やめて。この男達は王宮騎士なんかじゃなく、只の人攫いかもしれないのよ。そうしたらみんなに勝ち目なんてないから……。
そう思って村人達に首を振って見せるのに、彼等はラズリの思いに気付いてはくれない。
ラズリを抱きかかえる騎士の周囲を取り囲むようにしながら、ゆっくりと農具を振り上げていく。
だが、そんな村人達の様子に、騎士は何ら臆することなく笑い声をあげた。
「はははっ。そんな物騒な物を持ちだして、どうするつもりだ? 人を攻撃したことなどないくせに」
できるものならやってみろと言わんばかりに胸を張り、騎士の男は村人達を見回す。
それにムッとしたらしい彼等は、声を荒げて言い返した。
「うるさいっ! 早くラズリを返せ!」
「そうだぞ! いくら王宮から来たと言っても、こんな人攫いのような真似、許されるわけがねぇ!」
「とっととラズリを置いて、村から出て行け!」
言うが早いか、一人の村人の手がラズリへと伸ばされる。
一瞬それに助けを期待するも、すんでのところで騎士に躱され、ラズリの身体はまるで荷物のように小脇に抱え直された。
これでは益々身動きが取れず、ラズリは村人達に悲し気な瞳を向けるしかない。
いつも助けてもらってばかりで、村のみんなに何も返せていないのに。
最後の最後まで、こんな風に迷惑をかけることしかできないなんて。
しかしそんなラズリの気持ちを、村人達は理解したかのように、気にするなと一蹴した。
「ラズリは何も悪くない! だからそんな顔をするな!」
「そいつの言う通りだぞ! どう考えても悪いのは王宮騎士のやつらだ。そもそも最初に会った時、てめぇらラズリを連れて行くなんて一言も言わなかっただろーが!」
この嘘吐き野郎が! と、一人が毒を吐いたのを皮切りに、村人達は口々に騎士へと罵声を浴びせかける。
だが──。
「俺達は、嘘は吐いてない筈だぜ? 確かに娘を連れて行くとは言わなかったが、連れて行かないと言った覚えもないからな。それに、俺達の目的も知らず、娘がいることを教えてくれたのはお前らだろうが。都合良く責任転嫁してんじゃねぇよ」
とても王宮騎士とは思えぬ口調で、村人達の罵声などものともせずに、騎士はそう口にした。
途端に、村人達は気まずそうな顔をして黙り込む。
それを見れば、騎士の言ったことが真実であることは、火を見るより明らかで。
その様子に、騎士は堪えきれないといった風に笑いを溢しながら、更に言葉を続けた。
「くくっ……。思えば最初からお前達は親切だったよな。当てもなく森を彷徨っていた俺達に、この村の場所を教えてくれたばかりか、道案内までしてくれて……。そして今度は、あまりにも呆気なくて面白くないと思っていたところへ、雁首揃えてやって来てくれるとはな」
こんなにも親切な人間がいるとは思わなかったと、心底楽し気に笑い、笑いによるその振動は、騎士に抱えられているラズリにまで伝わってくる。
それにしても──今この騎士が言ったことは、どういうことなのだろうか。
彼の言葉を鵜呑みにするなら、今回起こった出来事のすべての原因は、村人達にあるという風に聞こえたけれど。
「んんっ、んっ!」
気になったラズリは、尋ねようと声をあげた。
「なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」
そこでようやく布を口に詰められているせいでラズリが喋れないことに気付いたのか、騎士は口から布を取るために手を伸ばしかけたが、ギリギリのところで手を止め、僅かに逡巡する。
が、余程気分が良かったのだろう。
「口がきけたところで逃げられるわけでもないしな……」
数瞬の間の後ぽつりと呟くと、ラズリの唾液で布が濡れそぼっていることに若干顔を顰めつつも、口に詰められていた布を引き抜いてくれた。
刹那──。
「うわああああああああ!」
叫ぶような声と共に、村人の一人が農具を振り上げ、騎士へと突撃した!
「ふ……馬鹿か」
騎士はそれを難なく躱すと、甲冑を着けた足で村人の背中を蹴り飛ばす。
同時に、周りの村人達も一斉に騎士へと襲いかかったが、当然ながら誰一人として騎士に攻撃を当てることはできず、最初の村人と同じように、全員が蹴り飛ばされて吹っ飛んだ。
「……なんだぁ? お前ら。人数いれば何とかなると思ってたのか? 天下の王宮騎士様を見縊るにもほどがあるだろ」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!」
なんとか立ち上がった村人が、今度はラズリを奪うべく、農具を捨てて突進してくる。
しかしそれも敢えなく躱され、先程より強く蹴りを入れられたらしい村人は、転倒すると激しく咳き込んだ。
「ウォルターさん!」
悲鳴混じりでラズリが叫ぶ。
ウォルターと呼ばれた村人は、暫く咳き込んだ後、ラズリを安心させるかのように弱々しい笑みを向けてきた。
辛うじて大丈夫そうではあるものの、村人達は皆一様に地面へと倒れ込んでいて、起き上がれそうにない。
明らかに弱い人達を相手にこんな酷いことをするなんて、この人達はやっぱり騎士じゃなく、人攫いなんだ……。
ラズリがそう確信を強めた時。
「最初に攻撃を仕掛けてきたのはそいつらだろ? 俺は応戦しただけだ。よっぽどお嬢ちゃんに自分達の失態を知られたくなかったんだな。……必死すぎて笑える」
騎士の男は、心底楽し気にそう言った。
「……失態ってなに?」
だからつい、ラズリは聞き返してしまった。
敵わないと知りつつ村のみんなが騎士に向かって行ったのには、それなりの理由があるということは分かる。そしてそれはきっと、ラズリには知られたくないことなのだろうということも。
けれど、そこまでして隠したいことって何なんだろうと、気になってしまう自分もいて。
だから、聞いてしまったのだ。好奇心を抑えられずに。
「ラ、ラズリ……」
後生だから聞かないでくれとばかりに、村人がラズリの名を呼ぶ。
しかし、村人達の気持ちなど意に介さない騎士は、なんの躊躇いもなく、つらつらと彼等の失態についてラズリに語ってくれた。
「そいつらにとっては失態だが、俺達にとっては幸運だった。なんせ、俺達が森の中を彷徨ってる時に、そいつらがキノコを採ってるところに偶然出会したんだからな。これはラッキーってことで、王宮騎士の名の下、この村に案内してもらったってわけだ」
「そうだったんだ……」
言われてラズリは、ふと思い出した。
そういえば、ウォルターからお裾分けにと度々キノコを貰っていたが、どこに生えているものなのか、ずっと疑問に思っていたことを。
本人に聞いても教えてくれなかったし、家に招待された時にさり気なく探してみても、どこにも元となるものが見つけられなかったから、ずっと気になっていた。
まさか、村の外へ採りに行っていたなんて。
「すまない、ラズリ……。村長には何度も注意されていたんだが、キノコだけはどうしても村の中には生えなくて……だから極力少ない回数、時間のみで採りに行っていたんだが……こんな深い森の中にやって来る人間がいるとは思わなくて。俺が村長の言う通りにしていれば、こんなことには……」
ウォルターは地面に這い蹲りながら体の向きを変え、ラズリに向かって土下座するかのように、額を地べたに擦り付けてくる。
それを見た他の村人達も、みな同じようにラズリに向かって頭を下げた。
「俺達も同罪だ。すまねぇラズリ、すまねぇ……」
「や、やだ、みんなやめて。私だってお裾分けでキノコ貰ってたし、美味しいからいつも楽しみにしてたんだよ? 食べてた私だって同罪だよ。だから……ね? みんなのせいじゃないよ」
精一杯優しく声をかければ──。
村人達は、声をあげて泣きだした。
「すまねぇ! すまねぇラズリ!」
「俺達が村のルールを破ったせいで、こんなことになっちまって……」
「村長の言葉を軽く考えていた俺達が悪いんだ。。すまない……何遍謝ったって足りないとは思うが、すまないラズリ……」
何度も何度も地面に額を打ち付け、擦り、村人達は謝罪を繰り返す。
「み、みんな! もういいよ、私は大丈夫だから……」
なんとか村人達の気持ちを落ち着けようと、ラズリが声を発した時──。
「……やれやれ、めんどくせぇな」
ポツリと呟くような騎士の声が耳に入ったかと思うと、くるりと方向転換され、村人達に背を向けさせられた。
そのまま、騎士は何事もなかったかのように歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って。まだ私、みんなと話終わってない……」
ラズリは騎士を見上げて言うが、その言葉は、騎士の冷たい声によって遮られた。
「もう十分だろう。少しは楽しませてくれるかと期待したが……安っぽい芝居に興味はない」
無駄な時間を浪費した、と言われてしまえば、それ以上何も言えなくなってしまう。
暫く無言で運ばれた後、騎士の手によって村から外へと出されたラズリは、絶望感に襲われ、涙を流した。
村から出たいと思ったことは何度もあったけれど。
こんな風に出たいわけじゃなかった。こんな風にみんなと別れたいわけじゃなかった。
悲しくて、辛くて、とめどなく涙が頬を伝って流れ落ちていく。
みんなには、もう会えないのかな……。
おじいちゃんは……少しだけ元気になってたみたいだけど、もっとちゃんと話したかったな……。
ざわざわ、ざわざわと、心残りや後悔が黒い靄となって胸の中へと広がっていく。
ずっと村にいたかった。なのにどうして、私だけこんな目に遭うの?
悪いことなんてしてない。おじいちゃんや村のみんなのために、一生懸命やってきただけなのに……なんで?
ざわざわ、ざわざわ。
際限なく増える黒い靄で、胸の中が埋め尽くされていく気がする。
それと同時に、胸の中の恨みや後悔も、大きく膨れていくような感覚を覚えて。
ざわざわ、ざわざわ。
なにこれ、気持ち悪い……。
行きたくない……。なんで私だけ……。
黒い靄がもたらしてくる感覚に、気持ち悪いと思う反面、溢れる黒い感情を止められない。
こんなの不公平じゃない。どうしていつも私ばかり……私だけが辛い目に遭うの?
気持ち悪い……気分が悪い。こんなの嫌、こんな風に思いたくないのに!
どうして? あの時もそうだった。あの時からずっと私は……。
どうして……どうシテ……ドウシテ!
瞬間、ラズリの胸の中が真っ黒になり、視界までもが黒く埋め尽くされる。
否、埋め尽くされたと思った──刹那。
突然見えた赤い光が、黒い靄を打ち消した!
「…………っ!」
瞬時に頭の中が真っ白になり、ラズリは大きく目を見開く。
しかしその瞳を、そっと閉じさせる者がいた。
『まだ……早い。お前はまだ……そのままで……』
どこかで聞いたような優しい声と温もりに、ラズリの尖った感情が丸くなっていく。
この声……前に、どこかで……。
思い出そうとして意識を傾けるも、睡魔に襲われ集中することができない。
あなたは……誰? どうして私……を……。
頭の中でそう問いかけたのを最後に、ラズリの意識は途切れた──。
既に自分は十年以上もこの村に住んでいて、知らない場所などない筈なのに、今目の前に広がる景色は何なのだろう。
村の外へ出てはいけないという祖父の言葉を厳守するあまり、ラズリは村の外側にある草むらさえも越えたことはなかったから、それを越えた先にここまでの空間があるなんて、思いも寄らなかった。
騎士の行く先には樹木が生垣のように張り巡らされており、その間に一部だけ、かろうじて人一人が通り抜けられる程の隙間が空いている。
恐らくそこが村の出入口なのだろう。普段は雑草などで分からないように擬態されているらしかったが、今はその殆どが踏み倒され、樹木にも擦れたような傷がついている。
深い森の奥にある筈のこの場所を、彼等がどうやって見つけたのかは分からない。
けれど、彼等がここから侵入してきたのは間違いないようで、騎士の男は真っ直ぐにそこを目指して歩いているようだった。
あそこを越えたら、本当に村の外に出てしまう。
以前は外に出ることを切望していたにも関わらず、それが現実のものとなった途端怖くなって、思わずラズリは身を震わせた。
「どうした?」
ラズリの震えに気付いたらしい騎士が、声をかけてくる。
聞かれたところで口に布を詰められている為答えられないのだが、騎士は兜越しにこちらを見つめ、答えを待っているようだ。
口に布を押し込んできたのはミルドだから、ラズリが喋れないことに目の前の騎士は気付いていないのかもしれないが、見ただけで分からないのかと疑問に思う。
「急に震えて……今更になって怖くなったのか?」
布のことには気付かないくせに、言葉だけは核心を突いてくるのが、何だか腹立たしい。
けれど素直に頷くのは癪だし、こんなことで怯えたとは思われたくなくて、ラズリは首を横に振った。
「え、違うのか。じゃあ……まさか、生理現象か?」
今度はあらぬ疑いをかけられた。
どうしよう……。
正直に答えるならば当然『否』だが、もしも『是』と答えたら、少しの間だけでも縛めを解いてくれるかもしれない、という考えが頭を過ぎる。
勿論、縛めを解いてくれない可能性もあるが、それでも僅かながらでも可能性があるなら、それに賭けて頷いた方が得策のようにラズリには思えた。
「…………」
躊躇いながらも、騎士の兜を見つめ、ラズリはこっくりと頷く。
それを見た騎士は、納得したようにラズリを地面に下ろすと、村の出口にある木の幹を、両手でがしりと掴んだ。
「俺はこの木をひん曲げてるから、その間にお前は用を足せ。逃げようなんて考えるなよ」
ラズリが下ろされた場所は、先程生垣のように見えていた木の根元部分で。
いつの間にやら出口へと辿り着いていたらしい。騎士は、出口の両側に立つ木の一本を、なぜだか外側へ捻じ曲げたいようだ。
見ると、そこの隙間は相当狭く、体格の良い騎士の男達がよくも通って来られたものだと、思わず感心してしまうほどしかない。しかも、その時の苦労が伝わってくるかのように、両側の木の幹には擦れてできたた傷が幾つもついている。
一度それで通れたのなら、更に木を傷付けなくてもいいのでは? と思うものの、喋ることができないため伝えられず、ラズリは口の中の布を噛んだ。
自分達の目的の為に人を攫うような真似をしただけでは飽き足りず、周りの環境まで破壊するなんて、この男達はどういう神経をしているんだろうか。
王宮騎士とは本来人々の見本であり、その誉れと共に敬われる存在である筈なのに。
こんな男達が、本当に王宮騎士なのだろうか?
そんな疑念がラズリの中で生まれ、大きく鎌首をもたげてくる。
もしかしたら王宮騎士というのは偽りで、この男達はただの人攫いにすぎないのでは?
わざわざこんな隠された村を見つけ出してまで仕事に励むなど、迷惑極まりないが。
もしそうだとしたら、自分は彼等に連れて行かれた後、どんな目に遭わされるか分かったものではない。
やっぱり、逃げないと──。
そう思った刹那、ラズリは地面に身を投げ出すと、転がるように移動し始めた。
「あっ! …‥待て!」
しかし、すぐさま騎士に勘付かれ、追いかけられる。
捕まらないようにとラズリは必死に転がって逃げるが、縛られている両手が邪魔で、一回転する毎に毎回つかえ、速度が落ちてしまう。
けれど、ここで逃げきれなければ、後は地獄へと一直線なのだ。
村から一歩でも外へ出たら、もう逃げ出すことすらできなくなってしまう。
捕まったら最後と自分自身を叱咤して、ラズリは地面を転がる際の身体の痛みに、歯を食いしばるようにして耐えた。
しかし──。
「……はい、鬼ごっこ終了~」
そんなラズリの必死の頑張りも虚しく、身体が草むらに衝突して止まったところで、騎士に再び捕らえられてしまう。
「ったく、お転婆なお嬢さんだな。そんな状態で逃げられるわけないだろって……」
苦し気に肩で息をするラズリに対し、騎士はまったく息を乱しておらず、ひょいと再び抱きかかえられる。
うまくいけば逃げられるとラズリは思っていたのだが、騎士の男はどこか適当な所でラズリの身体が止められるだろうと、予想していたらしい。
「案外止まるの早かったよなぁ」
などと言った後、
「まぁこれで気が済んだだろ? 両手足拘束された状態じゃ、どう頑張ったって逃げられないって分かっただろうし」
と、嘲りを含んだ声で笑った。
こんな最低な人達が、王宮騎士の筈がない!
騎士のあまりな態度にラズリは激昂し、せめて男の胸に全力で頭突きしてやろうと、身構えた瞬間──。
「ラズリを離せ!」
背後から、声がした。
「王宮騎士だかなんだか知らねぇが、この村で勝手なことしやがって!」
「ラズリを何処へ連れて行く気だ?」
聞き覚えのある声の主は、村人達だ。
恐らくラズリが攫われそうになっていることに気付いて、助けに来てくれたのだろう。
「んーーっ!」
彼等に聞こえるように、ラズリが声にならない声をあげると、騎士はラズリを抱えたままの体勢で、勢い良く後ろを振り返った。
「ラズリ!」
視界が回転すると、そこには確かに、ラズリのよく知る村人達が、束になって立っていて。
彼等は全員が全員、畑を耕す鍬やら鋤やら、思い思いの農具を手にし、騎士を睨みつけていた。
「んんっ……」
騎士に手を出すのは危ないと、ラズリはくぐもった声を出す。
すると、村人達の視線は一斉にラズリへと向き、その瞳が驚愕に見開かれた。
「……っ?」
そこまで驚いた顔をされるとは思わなくて、ついラズリも思わず目を見開いてしまう。
しかし、次いで村人達から放たれた言葉に、慌てて自分の身体を見回した。
「き、貴様……ラズリに一体何をした?」
「年頃の娘の身体をそんなになるまで乱暴に扱うなんて、あんた本当に騎士なのか?」
「まさかとは思うが……よ、嫁に行けない身体にされたわけじゃ……」
みんなは何を言ってるの?
不思議に思ったが、成程、先ほど地面を転がったせいか、ラズリの纏っている衣服はところどころ破れ、手足も傷だらけになっている。
これでは妙な疑いをかけられても仕方がない……とは思うものの、この騎士にそんなことをされたなどとは、間違っても思われたくない。
「んっ……んんーーっ!」
そのため、違う違うと首を振りつつ訴えるも、村人達には一向に伝わらず。
「だったら、どうする?」
なんて、騎士の男が挑発めいた発言をしたものだから、村人達の怒りの温度は更に上昇したようだった。
「いくら王宮騎士だといっても、大事な娘を傷物にされたとあっちゃあ黙っていられねえ!」
「その娘は嫁に行くまで、俺達が大切に守っていく筈だったのに」
言いながら、じりじりと騎士との距離を詰めてくる。
駄目……やめて。この男達は王宮騎士なんかじゃなく、只の人攫いかもしれないのよ。そうしたらみんなに勝ち目なんてないから……。
そう思って村人達に首を振って見せるのに、彼等はラズリの思いに気付いてはくれない。
ラズリを抱きかかえる騎士の周囲を取り囲むようにしながら、ゆっくりと農具を振り上げていく。
だが、そんな村人達の様子に、騎士は何ら臆することなく笑い声をあげた。
「はははっ。そんな物騒な物を持ちだして、どうするつもりだ? 人を攻撃したことなどないくせに」
できるものならやってみろと言わんばかりに胸を張り、騎士の男は村人達を見回す。
それにムッとしたらしい彼等は、声を荒げて言い返した。
「うるさいっ! 早くラズリを返せ!」
「そうだぞ! いくら王宮から来たと言っても、こんな人攫いのような真似、許されるわけがねぇ!」
「とっととラズリを置いて、村から出て行け!」
言うが早いか、一人の村人の手がラズリへと伸ばされる。
一瞬それに助けを期待するも、すんでのところで騎士に躱され、ラズリの身体はまるで荷物のように小脇に抱え直された。
これでは益々身動きが取れず、ラズリは村人達に悲し気な瞳を向けるしかない。
いつも助けてもらってばかりで、村のみんなに何も返せていないのに。
最後の最後まで、こんな風に迷惑をかけることしかできないなんて。
しかしそんなラズリの気持ちを、村人達は理解したかのように、気にするなと一蹴した。
「ラズリは何も悪くない! だからそんな顔をするな!」
「そいつの言う通りだぞ! どう考えても悪いのは王宮騎士のやつらだ。そもそも最初に会った時、てめぇらラズリを連れて行くなんて一言も言わなかっただろーが!」
この嘘吐き野郎が! と、一人が毒を吐いたのを皮切りに、村人達は口々に騎士へと罵声を浴びせかける。
だが──。
「俺達は、嘘は吐いてない筈だぜ? 確かに娘を連れて行くとは言わなかったが、連れて行かないと言った覚えもないからな。それに、俺達の目的も知らず、娘がいることを教えてくれたのはお前らだろうが。都合良く責任転嫁してんじゃねぇよ」
とても王宮騎士とは思えぬ口調で、村人達の罵声などものともせずに、騎士はそう口にした。
途端に、村人達は気まずそうな顔をして黙り込む。
それを見れば、騎士の言ったことが真実であることは、火を見るより明らかで。
その様子に、騎士は堪えきれないといった風に笑いを溢しながら、更に言葉を続けた。
「くくっ……。思えば最初からお前達は親切だったよな。当てもなく森を彷徨っていた俺達に、この村の場所を教えてくれたばかりか、道案内までしてくれて……。そして今度は、あまりにも呆気なくて面白くないと思っていたところへ、雁首揃えてやって来てくれるとはな」
こんなにも親切な人間がいるとは思わなかったと、心底楽し気に笑い、笑いによるその振動は、騎士に抱えられているラズリにまで伝わってくる。
それにしても──今この騎士が言ったことは、どういうことなのだろうか。
彼の言葉を鵜呑みにするなら、今回起こった出来事のすべての原因は、村人達にあるという風に聞こえたけれど。
「んんっ、んっ!」
気になったラズリは、尋ねようと声をあげた。
「なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」
そこでようやく布を口に詰められているせいでラズリが喋れないことに気付いたのか、騎士は口から布を取るために手を伸ばしかけたが、ギリギリのところで手を止め、僅かに逡巡する。
が、余程気分が良かったのだろう。
「口がきけたところで逃げられるわけでもないしな……」
数瞬の間の後ぽつりと呟くと、ラズリの唾液で布が濡れそぼっていることに若干顔を顰めつつも、口に詰められていた布を引き抜いてくれた。
刹那──。
「うわああああああああ!」
叫ぶような声と共に、村人の一人が農具を振り上げ、騎士へと突撃した!
「ふ……馬鹿か」
騎士はそれを難なく躱すと、甲冑を着けた足で村人の背中を蹴り飛ばす。
同時に、周りの村人達も一斉に騎士へと襲いかかったが、当然ながら誰一人として騎士に攻撃を当てることはできず、最初の村人と同じように、全員が蹴り飛ばされて吹っ飛んだ。
「……なんだぁ? お前ら。人数いれば何とかなると思ってたのか? 天下の王宮騎士様を見縊るにもほどがあるだろ」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!」
なんとか立ち上がった村人が、今度はラズリを奪うべく、農具を捨てて突進してくる。
しかしそれも敢えなく躱され、先程より強く蹴りを入れられたらしい村人は、転倒すると激しく咳き込んだ。
「ウォルターさん!」
悲鳴混じりでラズリが叫ぶ。
ウォルターと呼ばれた村人は、暫く咳き込んだ後、ラズリを安心させるかのように弱々しい笑みを向けてきた。
辛うじて大丈夫そうではあるものの、村人達は皆一様に地面へと倒れ込んでいて、起き上がれそうにない。
明らかに弱い人達を相手にこんな酷いことをするなんて、この人達はやっぱり騎士じゃなく、人攫いなんだ……。
ラズリがそう確信を強めた時。
「最初に攻撃を仕掛けてきたのはそいつらだろ? 俺は応戦しただけだ。よっぽどお嬢ちゃんに自分達の失態を知られたくなかったんだな。……必死すぎて笑える」
騎士の男は、心底楽し気にそう言った。
「……失態ってなに?」
だからつい、ラズリは聞き返してしまった。
敵わないと知りつつ村のみんなが騎士に向かって行ったのには、それなりの理由があるということは分かる。そしてそれはきっと、ラズリには知られたくないことなのだろうということも。
けれど、そこまでして隠したいことって何なんだろうと、気になってしまう自分もいて。
だから、聞いてしまったのだ。好奇心を抑えられずに。
「ラ、ラズリ……」
後生だから聞かないでくれとばかりに、村人がラズリの名を呼ぶ。
しかし、村人達の気持ちなど意に介さない騎士は、なんの躊躇いもなく、つらつらと彼等の失態についてラズリに語ってくれた。
「そいつらにとっては失態だが、俺達にとっては幸運だった。なんせ、俺達が森の中を彷徨ってる時に、そいつらがキノコを採ってるところに偶然出会したんだからな。これはラッキーってことで、王宮騎士の名の下、この村に案内してもらったってわけだ」
「そうだったんだ……」
言われてラズリは、ふと思い出した。
そういえば、ウォルターからお裾分けにと度々キノコを貰っていたが、どこに生えているものなのか、ずっと疑問に思っていたことを。
本人に聞いても教えてくれなかったし、家に招待された時にさり気なく探してみても、どこにも元となるものが見つけられなかったから、ずっと気になっていた。
まさか、村の外へ採りに行っていたなんて。
「すまない、ラズリ……。村長には何度も注意されていたんだが、キノコだけはどうしても村の中には生えなくて……だから極力少ない回数、時間のみで採りに行っていたんだが……こんな深い森の中にやって来る人間がいるとは思わなくて。俺が村長の言う通りにしていれば、こんなことには……」
ウォルターは地面に這い蹲りながら体の向きを変え、ラズリに向かって土下座するかのように、額を地べたに擦り付けてくる。
それを見た他の村人達も、みな同じようにラズリに向かって頭を下げた。
「俺達も同罪だ。すまねぇラズリ、すまねぇ……」
「や、やだ、みんなやめて。私だってお裾分けでキノコ貰ってたし、美味しいからいつも楽しみにしてたんだよ? 食べてた私だって同罪だよ。だから……ね? みんなのせいじゃないよ」
精一杯優しく声をかければ──。
村人達は、声をあげて泣きだした。
「すまねぇ! すまねぇラズリ!」
「俺達が村のルールを破ったせいで、こんなことになっちまって……」
「村長の言葉を軽く考えていた俺達が悪いんだ。。すまない……何遍謝ったって足りないとは思うが、すまないラズリ……」
何度も何度も地面に額を打ち付け、擦り、村人達は謝罪を繰り返す。
「み、みんな! もういいよ、私は大丈夫だから……」
なんとか村人達の気持ちを落ち着けようと、ラズリが声を発した時──。
「……やれやれ、めんどくせぇな」
ポツリと呟くような騎士の声が耳に入ったかと思うと、くるりと方向転換され、村人達に背を向けさせられた。
そのまま、騎士は何事もなかったかのように歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って。まだ私、みんなと話終わってない……」
ラズリは騎士を見上げて言うが、その言葉は、騎士の冷たい声によって遮られた。
「もう十分だろう。少しは楽しませてくれるかと期待したが……安っぽい芝居に興味はない」
無駄な時間を浪費した、と言われてしまえば、それ以上何も言えなくなってしまう。
暫く無言で運ばれた後、騎士の手によって村から外へと出されたラズリは、絶望感に襲われ、涙を流した。
村から出たいと思ったことは何度もあったけれど。
こんな風に出たいわけじゃなかった。こんな風にみんなと別れたいわけじゃなかった。
悲しくて、辛くて、とめどなく涙が頬を伝って流れ落ちていく。
みんなには、もう会えないのかな……。
おじいちゃんは……少しだけ元気になってたみたいだけど、もっとちゃんと話したかったな……。
ざわざわ、ざわざわと、心残りや後悔が黒い靄となって胸の中へと広がっていく。
ずっと村にいたかった。なのにどうして、私だけこんな目に遭うの?
悪いことなんてしてない。おじいちゃんや村のみんなのために、一生懸命やってきただけなのに……なんで?
ざわざわ、ざわざわ。
際限なく増える黒い靄で、胸の中が埋め尽くされていく気がする。
それと同時に、胸の中の恨みや後悔も、大きく膨れていくような感覚を覚えて。
ざわざわ、ざわざわ。
なにこれ、気持ち悪い……。
行きたくない……。なんで私だけ……。
黒い靄がもたらしてくる感覚に、気持ち悪いと思う反面、溢れる黒い感情を止められない。
こんなの不公平じゃない。どうしていつも私ばかり……私だけが辛い目に遭うの?
気持ち悪い……気分が悪い。こんなの嫌、こんな風に思いたくないのに!
どうして? あの時もそうだった。あの時からずっと私は……。
どうして……どうシテ……ドウシテ!
瞬間、ラズリの胸の中が真っ黒になり、視界までもが黒く埋め尽くされる。
否、埋め尽くされたと思った──刹那。
突然見えた赤い光が、黒い靄を打ち消した!
「…………っ!」
瞬時に頭の中が真っ白になり、ラズリは大きく目を見開く。
しかしその瞳を、そっと閉じさせる者がいた。
『まだ……早い。お前はまだ……そのままで……』
どこかで聞いたような優しい声と温もりに、ラズリの尖った感情が丸くなっていく。
この声……前に、どこかで……。
思い出そうとして意識を傾けるも、睡魔に襲われ集中することができない。
あなたは……誰? どうして私……を……。
頭の中でそう問いかけたのを最後に、ラズリの意識は途切れた──。
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