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第四章 旦那様がグイグイ来ます
手を繋ぐ理由
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何故? どうして? 私は一体何をしてしまったの?
王女殿下のことについて口出ししたのが、そんなにいけなかったのだろうか?
あまりの冷たさに凍り付いてしまいそうな瞳で睨まれ、目を逸らすこともできず、私はただただリーゲル様の瞳を見つめ続ける。
怒らせるつもりはなかった。
寧ろ喜んでくれるとさえ思っていた。
なのに何故?
「……っ、すまない」
リーゲル様が不意に目を逸らし、俯いてソファに腰を下ろす。
謝るのは、彼を怒らせてしまった私の方なのに。
「……あの、リーゲル様、申し訳ありません。よろしければ、私の何が気に障ったのか教えていただけないでしょうか?」
まだ少し怯える気持ちがありつつも、そっと彼の様子を窺う。
せっかくリーゲル様から歩み寄ってきてくれたのに、私がそれを台無しにしてしまった。
誰よりも、何よりも彼と仲良くなりたいと望んでいるはずが、どうして正反対のことばかりしてしまうんだろう。
「リーゲル様……どうか、お願い致します」
俯いたまま顔を上げない彼の手に、意を決して自分の手を重ねる。
ハッとして此方に向けられたアイスブルーの瞳に微笑みかければ、そこにはもう怒気の名残すらも残ってはいなくて。
やはり私が悪かったのだと、怒りが収まったことに安堵すると共に申し訳なさを感じ、私は再度謝罪の言葉を述べた。
「私の心ない一言のせいでリーゲル様の気分を害してしまい、本当に申し訳ありませんでした。ですが私は、決してあなたを怒らせようと言ったわけではなく、良かれと思って口に出したのだということだけは、理解していただけますか?」
「ああ……だろうな」
一瞬思案気な表情を浮かべた後、リーゲル様が頷きを返してくれる。
それから何を思ったのか、彼の手に重ねていた私の手が、そっと握られた。
「…………!」
ただそれだけのことなのに私の心臓は跳ね上がり、ビクリと肩を揺らしてしまう。
落ち着け、落ち着くのよグラディス。手なんて夜会でダンスを踊った時にも握ったじゃない。
私達は夫婦なんだし、手を握るぐらいどうってことないわ。
自分にそう言い聞かせるも、恥ずかしさと緊張により、じんわりと手が汗ばんでくるのを感じる。
どうしよう。手汗が気になって幸せに浸るどころじゃないわ。
リーゲル様に気持ち悪いと思われたら死んでしまうかもしれない。
どうしよう、どうすれば。
いつ手汗に気付かれるかと思うとハラハラして、話をするどころではない。
どうやったらさり気なく彼と手を放すことができるのか、ついそればかりを考えてしまう。
「……ス、グラディス?」
「は、はいぃ!」
その時リーゲル様に名前を呼ばれていることに気付き、私は大慌てで返事をする。が、元気に返事をしすぎたらしい。
ポカンとした顔で見つめられ、それにより私は自分の犯した過ちに気付き、恥ずかしさで真っ赤になった。
「ご、ごめんなさい! 私、あの、ええと……」
あまりの恥ずかしさに顔を隠す振りをして、さり気なく──を装いつつも、力を入れて──握られていた手を引っこ抜く。
顔を両手で覆いながら確認すると、やはりリーゲル様に握られていた方の手だけが汗ばんでいた。
良かった。この程度の汗なら気付かれなかったかも。
安堵のため息を吐きながら、お行儀が悪いと思いつつもドレスで手汗をこっそり拭う。
だって、変にハンカチなんか出したりしたら、リーゲル様に怪しまれてしまいそうだし。
だから仕方がないのよ、と、何か言いた気に此方を見つめるポルテに内心で言い訳すると、私は何事もなかったかのように、両手を重ねて膝の上に置いた。
よし、これで何とかなったわ。
と、安心したのは束の間。
次の瞬間、今度はなんと両手をリーゲル様に握られてしまったのだ!
「えっ……!」
反射的に手を引っ込めようとする私に対し、彼が両手を握る手に力を込めることで対抗してくる。
待って待って。どうして私の手を握るの?
せっかくリーゲル様の手から逃れられたと思ったのに、今度は両手共に捕まってしまうなんて。
しかも何故だか、今回は簡単に引っこ抜けそうにない。
今度こそは逃がさないといったような、強い意思のようなものが彼の手から感じられる。
「あ、あの、どうされました? 私の手に……何かありましたか?」
気付かれないように手を引っ込めようと、微妙に力を入れつつも、私は引き攣った微笑みを浮かべて尋ねる。
するとリーゲル様は、にっこりと眩しい程の笑顔で微笑まれると、ううんと首を横に振った。
「では、この手は──」
「夫婦で手を繋ぐと、何かいけないことでもあるのかい? ないだろう?」
「は、はい。それは勿論です。ですが──」
「先程から君は私の話を遮ってばかりで、殿下と私に関する話を、何一つまともに聞いてくれていなかったということに、漸く思い当たったんだ」
確かに、そう言われればそうかもしれない。
私はリーゲル様の口から決定的な一言を言われるのが嫌で、殿下との話を聞くことを避けていた。
話そうとする彼の言葉を遮り、自分の言いたいことだけを言い、耳を塞いで。
でも、それと私達が手を繋ぐことに、何の関係が?
何の関係も……ないわよね?
疑問を頭に思い浮かべながら、僅かに首を傾げる。
どう考えても、因果関係が見つからない。
難しい顔をする私を見て、ポルテがひっそりとため息を吐いていたことなど、私は微塵も気付かなかった。
王女殿下のことについて口出ししたのが、そんなにいけなかったのだろうか?
あまりの冷たさに凍り付いてしまいそうな瞳で睨まれ、目を逸らすこともできず、私はただただリーゲル様の瞳を見つめ続ける。
怒らせるつもりはなかった。
寧ろ喜んでくれるとさえ思っていた。
なのに何故?
「……っ、すまない」
リーゲル様が不意に目を逸らし、俯いてソファに腰を下ろす。
謝るのは、彼を怒らせてしまった私の方なのに。
「……あの、リーゲル様、申し訳ありません。よろしければ、私の何が気に障ったのか教えていただけないでしょうか?」
まだ少し怯える気持ちがありつつも、そっと彼の様子を窺う。
せっかくリーゲル様から歩み寄ってきてくれたのに、私がそれを台無しにしてしまった。
誰よりも、何よりも彼と仲良くなりたいと望んでいるはずが、どうして正反対のことばかりしてしまうんだろう。
「リーゲル様……どうか、お願い致します」
俯いたまま顔を上げない彼の手に、意を決して自分の手を重ねる。
ハッとして此方に向けられたアイスブルーの瞳に微笑みかければ、そこにはもう怒気の名残すらも残ってはいなくて。
やはり私が悪かったのだと、怒りが収まったことに安堵すると共に申し訳なさを感じ、私は再度謝罪の言葉を述べた。
「私の心ない一言のせいでリーゲル様の気分を害してしまい、本当に申し訳ありませんでした。ですが私は、決してあなたを怒らせようと言ったわけではなく、良かれと思って口に出したのだということだけは、理解していただけますか?」
「ああ……だろうな」
一瞬思案気な表情を浮かべた後、リーゲル様が頷きを返してくれる。
それから何を思ったのか、彼の手に重ねていた私の手が、そっと握られた。
「…………!」
ただそれだけのことなのに私の心臓は跳ね上がり、ビクリと肩を揺らしてしまう。
落ち着け、落ち着くのよグラディス。手なんて夜会でダンスを踊った時にも握ったじゃない。
私達は夫婦なんだし、手を握るぐらいどうってことないわ。
自分にそう言い聞かせるも、恥ずかしさと緊張により、じんわりと手が汗ばんでくるのを感じる。
どうしよう。手汗が気になって幸せに浸るどころじゃないわ。
リーゲル様に気持ち悪いと思われたら死んでしまうかもしれない。
どうしよう、どうすれば。
いつ手汗に気付かれるかと思うとハラハラして、話をするどころではない。
どうやったらさり気なく彼と手を放すことができるのか、ついそればかりを考えてしまう。
「……ス、グラディス?」
「は、はいぃ!」
その時リーゲル様に名前を呼ばれていることに気付き、私は大慌てで返事をする。が、元気に返事をしすぎたらしい。
ポカンとした顔で見つめられ、それにより私は自分の犯した過ちに気付き、恥ずかしさで真っ赤になった。
「ご、ごめんなさい! 私、あの、ええと……」
あまりの恥ずかしさに顔を隠す振りをして、さり気なく──を装いつつも、力を入れて──握られていた手を引っこ抜く。
顔を両手で覆いながら確認すると、やはりリーゲル様に握られていた方の手だけが汗ばんでいた。
良かった。この程度の汗なら気付かれなかったかも。
安堵のため息を吐きながら、お行儀が悪いと思いつつもドレスで手汗をこっそり拭う。
だって、変にハンカチなんか出したりしたら、リーゲル様に怪しまれてしまいそうだし。
だから仕方がないのよ、と、何か言いた気に此方を見つめるポルテに内心で言い訳すると、私は何事もなかったかのように、両手を重ねて膝の上に置いた。
よし、これで何とかなったわ。
と、安心したのは束の間。
次の瞬間、今度はなんと両手をリーゲル様に握られてしまったのだ!
「えっ……!」
反射的に手を引っ込めようとする私に対し、彼が両手を握る手に力を込めることで対抗してくる。
待って待って。どうして私の手を握るの?
せっかくリーゲル様の手から逃れられたと思ったのに、今度は両手共に捕まってしまうなんて。
しかも何故だか、今回は簡単に引っこ抜けそうにない。
今度こそは逃がさないといったような、強い意思のようなものが彼の手から感じられる。
「あ、あの、どうされました? 私の手に……何かありましたか?」
気付かれないように手を引っ込めようと、微妙に力を入れつつも、私は引き攣った微笑みを浮かべて尋ねる。
するとリーゲル様は、にっこりと眩しい程の笑顔で微笑まれると、ううんと首を横に振った。
「では、この手は──」
「夫婦で手を繋ぐと、何かいけないことでもあるのかい? ないだろう?」
「は、はい。それは勿論です。ですが──」
「先程から君は私の話を遮ってばかりで、殿下と私に関する話を、何一つまともに聞いてくれていなかったということに、漸く思い当たったんだ」
確かに、そう言われればそうかもしれない。
私はリーゲル様の口から決定的な一言を言われるのが嫌で、殿下との話を聞くことを避けていた。
話そうとする彼の言葉を遮り、自分の言いたいことだけを言い、耳を塞いで。
でも、それと私達が手を繋ぐことに、何の関係が?
何の関係も……ないわよね?
疑問を頭に思い浮かべながら、僅かに首を傾げる。
どう考えても、因果関係が見つからない。
難しい顔をする私を見て、ポルテがひっそりとため息を吐いていたことなど、私は微塵も気付かなかった。
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