【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

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第六章 旦那様の傍にいたい

再会

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 目を覚ました時、周囲のあまりの薄暗さに、私は思わず首を傾げた。

 あれ……ここは、どこだっけ?

 なんだか頭がクラクラするし、身体も怠いような気がする。ついさっきまでは、何ともなかったのに。

 リーゲル様とジュジュは何処へ行ったのかしら?

 辺りを見回しても、暗くて何も見えない。

 どうして私だけこんな所にいるの? 二人はどうしてしまったの?

 意識がなくなる直前の行動を思い返して──私は、宿屋を出た所で何者かに襲われたことを思い出した。

 そうだ、確か薬のようなものを嗅がされて、気が遠くなったんだったわ。

 だとしたら、私はここに攫われてきたということになる。

 一体誰が、何の為に私を攫ったのかしら?

 私なんかを攫ったところで、得することがあるとは思えないのに。

「まさか……お金?」

 ふと思い付いたことだけれど、それが一番可能性が高いかもしれないと思った。

 いくら形だけとはいえ、私は公爵夫人だ。犯人は私の命と引き換えに、お金を要求するつもりなのかもしれない。

 リーゲル様はお優しい方だから、そうなれば絶対にお金を払ってしまう。

 私のことなんて、捨て置いてくれて良いのに。

 きっと今は、宿に戻らない私のことを心配して、ジュジュと一緒に探してくれていることだろう。私なんかの為に、リーゲル様がそこまでする必要なんてないのに。

 でも、彼が私の為に動いてくれているのだとしたら、私も待つだけじゃなく、自分で動かなければならない。

 何故なら私は、一人じゃ何にもできない深窓の令嬢なんかじゃなく、自分で道を切り拓く、行動力ある令嬢なのだから。

 そうと決まればすぐにでも動こうと、身体を起こす。幸いにも、私の身体は拘束などされていなかった為、難なく立ち上がることができた。けれど問題は──。

「まず、出口を探さなくちゃよね」

 周りがほぼ見えないため、両手を前に突き出してゆっくりと進む。足元に何かあってもいけないから、足も地面を擦るようにようにして、慎重に。

 本当は一刻も早く逃げ出したいけれど、焦りは禁物と自分で自分に言い聞かせ、ゆっくり、着実に前へと進んだ。

 どれぐらい進んだだろうか──漸く壁らしき物に手がついたと思った刹那、がチャリと音がして、右側から眩しい程の光が入り込んできた。

 恐らくそこが出入口なのだろう。それは分かるのだけれど、ずっと暗闇の中にいたせいで目が慣れず、私は何度も瞬きをしながら、光の差す方向を見るだけで精一杯だった。

 こんなんじゃ、逃げるどころじゃないわね……。

 暫く光に目を凝らすようにじっと見つめていると、光の中を歩いて近付いて来る男がいることに気が付いた。

 誰かしら? まさか、私を攫った男……?

 壁に手をついたまま見ていると、男は部屋の中程で一旦足を止め、首を傾げて室内を見回した。そうして私と目が合うと、驚いた顔をして、早足で此方へと向かってきたのだ。

 どうやら、まだ私が気を失ったままだと思っていたらしい。

 目の前まで来た男は、恐らく私が寝かされていただろう部屋の中心へと目をやった後、軽く肩を竦めた。

「思ったよりも効きが悪かったな。こんなに早く目が覚めるとは思わなかったぜ」
 
 それとも分量が少なかったのか? と呟く男は、如何にも破落戸といった風体の男で。

「あなたが私を攫ったの?」

 と聞くと、

「じゃなきゃ、ここに居ねぇだろ」

 と言って、いやらしい顔で笑った。

「どうして私を? 一体何が目的なの?」

 私を攫う理由なんてお金以外に思いつかないけど、一応聞くだけ聞いてみる。もしかしたら、万が一にも違う理由があるのかもしれないし。

 そう思って答えを待つと、男は私の手首を掴んでこう言った。

「答える義理はねぇな」

 こっちに来い、と言われ、無理矢理腕を引っ張って暗い部屋から連れ出される。

 けれど、明るい部屋に出た途端、両腕を後ろに回され、縄のような物で手首を一纏めにして縛り上げられた。

「うっ……」

 痛みに声を漏らすも、手首の拘束は弛まない。それどころか、そのままの状態で大き目のソファへ向かって、背後から身体をドン! と押された。

「何をするの!? やめて!」

 間髪入れずのしかかって来る男に恐怖を覚え、大声を出す。それによって、男が更に興奮するということなど、知る筈もなく。

 大声をあげた私に興奮を増した男は鼻息を荒くし、私のドレスの中へと汚らしい手を差し込んできた。

「いやああああああああ!!」
「ぐぎゃっ!」

 声を限りに叫んだ瞬間、何故だか男も悲鳴を上げ、ややあってソファから転げ落ちる。恐怖で目を閉じていた私が恐る恐る目を開けると、転げ落ちた男の首には鞭のような物が幾重にも巻き付いており、男はそれを外そうと、必死の形相で藻搔いていた。

「ぐっ……あ……っ」

 苦しむ男の顔は醜く歪んでいて、とても直視できずに私は目を逸らす。

 手を出されなくて良かったと思うけれど、あの鞭は一体──。

 男の首に巻き付いている鞭の先にそっと目を向けると、それを握っていたのは見覚えのある人物で。

「あ、あなたは……」

 驚愕に目を見張ると、彼は穏やかな笑みを浮かべてこう言った。

「やぁ。まさか、こんな所で君に会えるとは思わなかったよ。できれば、他の場所で会いたかったけれどね」 





 
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