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第六章 旦那様の傍にいたい
犬猿の仲
無言で睨み合うリーゲル様とエルンスト様。
一体何がどうしてこんな事になっているの?
お二人はどちらとも何とも言い難い空気を纏っていて、とても口を挟める状態じゃない。
敢えて言わせてもらうなら、手首の縄を解いて欲しいんだけど……言えない。とても言えないわ。
悔しさにくぅっと下を向くと、私は不意にエルンスト様に抱きしめられた。
「へ?」
「グラディス! 貴様、手を離せ!」
リーゲル様の声に怒りが滲み出たような気がして、顔を上げようとしたけれど、エルンスト様にガッチリ抱き込まれていて動けない。
え、ちょっと。顔ぐらい動かしたいんだけど……なんで!?
結構力が強いわね……なんて思ってる場合じゃないわ。こっちは手首を縛られているから、突き飛ばすこともできないのよ?
「僕はさ、彼女が傷物にされかけたところを危機一髪助けてあげたんだよ? まぁ、公爵様にとっては白い結婚の身代わり妻が、純潔だろうが傷物だろうが、どうでも良いことかもしれないけど」
「グラディスが傷物に!? それは……助かった、礼を言う」
助かったと言いながら、リーゲル様のお礼を言う声は、ものすっごく小さい。
なんなの? 本当はお礼を言いたくない? というか、エルンスト様の仰った通り、私の純潔なんてどうでも良いということ?
白い結婚を貫くなら、確かにそこはどうでも良いところかもしれないけれど、ハッキリそう言われてしまうと、やっぱり傷付く。
浮気はダメだけど、それは婚姻を継続させるため。私が純潔かどうかなんて、リーゲル様にとってはどうでも──。
「だが、どうでも良いということはない。グラディスを傷付ける者は私が許さない。今回はグラディスを助けた事に免じて抱擁は不問にしてやるが、とにかく貴様はサッサと離れろ!」
ベリッ! と音がしそうな勢いで、私の身体がエルンスト様から引き離される。
待って待って。今、リーゲル様なんて言った?
「ちょ……そんな勝手な──」
「うるさい!」
ガスッ!
「あ……」
再度私に手を伸ばしたエルンスト様の顔面に、リーゲル様の靴底がクリーンヒットした。
リーゲル様……お身体柔らかいんですね、って違う、そうじゃない。
ああ、エルンスト様もかなり整った顔をしていらっしゃるけど、これは……悲惨だわ。イケメンの顔が踏みつけられるなんて。
あまりに驚きすぎて、潤みそうになっていた瞳が秒で乾いた。
「グラディスすまない。大丈夫か? できれば私が助けてやりたかったのだが……」
私を腕の中に囲いつつ、リーゲル様が徐々にエルンスト様から距離を取る。
いやあのだから、先に手首の縄を……外して?
言いたいのに言えない、この雰囲気。一体いつになったら私の手は自由になるのかしら。良い加減なんとかしてほしい。
「グラディス、私は君の夫として情けない。私がもっと早くこの場所へ辿り着いていれば、私の手で君を助けられたのに」
あ~……もしかして、それでお礼を言う声が小さかったとかないですよね? 自分が助けられなかったのが悔しくて……なんて。
相手はリーゲル様だし、そんな子供みたいなことないとは思うものの、悔し気に私を抱きしめる様子から、少しの疑いを抱いてしまう。
「あの、リーゲル様、助かったので私は別に──」
「だあっ! きたねぇな!」
あら、エルンスト様が復活なさいましたわ。
お顔は……うん、汚れてしまっているけど、なんとか大丈夫そうね。リーゲル様に踏まれて不細工になるとか、冗談じゃすみませんものね。
綺麗にお顔を拭いて……あ、ハンカチを投げ捨てられましたわ。そんな所に捨ててはいけませんよ。
私がじっと観察していると、エルンスト様はリーゲル様の靴底の跡が残る顔で、こう仰った。
「グラディス嬢が攫われたのは、元はと言えば王女が原因だろう? あんたが何時迄もどっちつかずの態度でいるから、今回彼女に危険が及んだんじゃないか。そんな風に中途半端なままでいるなら、いっそ旦那なんてやめちまえよ」
「うるさい! 貴様に……貴様に私の気持ちなど分かるものか!」
「ああ分からないね。どうでも良い女を大事にして、本当に大切な女を危険に晒す馬鹿のことなんて、分かってたまるか!」
再び睨み合いを始める二人。
なんなの? これは犬猿の仲というやつだったりするの?
それにしてもエルンスト様、相手は筆頭公爵家当主であるリーゲル様なのに、そんな勢い良く噛みついて大丈夫なのかしら。
どうでも良いことに、私はハラハラしてしまう。
だって、破落戸との関係はどうあれ、今回エルンスト様は私を助けてくれた。ううん、今回だけじゃなく、この前の夜会の時だって。
だから、できればリーゲル様と仲良くしてほしいのに、それは出来ないことなの? なんとか二人が手を取り合うことはできないの?
二人を見つめながらそんな事を考えていたら──更なる混乱を呼ぶ人物が、その場に姿を現した。大きな手荷物? を持って。
一体何がどうしてこんな事になっているの?
お二人はどちらとも何とも言い難い空気を纏っていて、とても口を挟める状態じゃない。
敢えて言わせてもらうなら、手首の縄を解いて欲しいんだけど……言えない。とても言えないわ。
悔しさにくぅっと下を向くと、私は不意にエルンスト様に抱きしめられた。
「へ?」
「グラディス! 貴様、手を離せ!」
リーゲル様の声に怒りが滲み出たような気がして、顔を上げようとしたけれど、エルンスト様にガッチリ抱き込まれていて動けない。
え、ちょっと。顔ぐらい動かしたいんだけど……なんで!?
結構力が強いわね……なんて思ってる場合じゃないわ。こっちは手首を縛られているから、突き飛ばすこともできないのよ?
「僕はさ、彼女が傷物にされかけたところを危機一髪助けてあげたんだよ? まぁ、公爵様にとっては白い結婚の身代わり妻が、純潔だろうが傷物だろうが、どうでも良いことかもしれないけど」
「グラディスが傷物に!? それは……助かった、礼を言う」
助かったと言いながら、リーゲル様のお礼を言う声は、ものすっごく小さい。
なんなの? 本当はお礼を言いたくない? というか、エルンスト様の仰った通り、私の純潔なんてどうでも良いということ?
白い結婚を貫くなら、確かにそこはどうでも良いところかもしれないけれど、ハッキリそう言われてしまうと、やっぱり傷付く。
浮気はダメだけど、それは婚姻を継続させるため。私が純潔かどうかなんて、リーゲル様にとってはどうでも──。
「だが、どうでも良いということはない。グラディスを傷付ける者は私が許さない。今回はグラディスを助けた事に免じて抱擁は不問にしてやるが、とにかく貴様はサッサと離れろ!」
ベリッ! と音がしそうな勢いで、私の身体がエルンスト様から引き離される。
待って待って。今、リーゲル様なんて言った?
「ちょ……そんな勝手な──」
「うるさい!」
ガスッ!
「あ……」
再度私に手を伸ばしたエルンスト様の顔面に、リーゲル様の靴底がクリーンヒットした。
リーゲル様……お身体柔らかいんですね、って違う、そうじゃない。
ああ、エルンスト様もかなり整った顔をしていらっしゃるけど、これは……悲惨だわ。イケメンの顔が踏みつけられるなんて。
あまりに驚きすぎて、潤みそうになっていた瞳が秒で乾いた。
「グラディスすまない。大丈夫か? できれば私が助けてやりたかったのだが……」
私を腕の中に囲いつつ、リーゲル様が徐々にエルンスト様から距離を取る。
いやあのだから、先に手首の縄を……外して?
言いたいのに言えない、この雰囲気。一体いつになったら私の手は自由になるのかしら。良い加減なんとかしてほしい。
「グラディス、私は君の夫として情けない。私がもっと早くこの場所へ辿り着いていれば、私の手で君を助けられたのに」
あ~……もしかして、それでお礼を言う声が小さかったとかないですよね? 自分が助けられなかったのが悔しくて……なんて。
相手はリーゲル様だし、そんな子供みたいなことないとは思うものの、悔し気に私を抱きしめる様子から、少しの疑いを抱いてしまう。
「あの、リーゲル様、助かったので私は別に──」
「だあっ! きたねぇな!」
あら、エルンスト様が復活なさいましたわ。
お顔は……うん、汚れてしまっているけど、なんとか大丈夫そうね。リーゲル様に踏まれて不細工になるとか、冗談じゃすみませんものね。
綺麗にお顔を拭いて……あ、ハンカチを投げ捨てられましたわ。そんな所に捨ててはいけませんよ。
私がじっと観察していると、エルンスト様はリーゲル様の靴底の跡が残る顔で、こう仰った。
「グラディス嬢が攫われたのは、元はと言えば王女が原因だろう? あんたが何時迄もどっちつかずの態度でいるから、今回彼女に危険が及んだんじゃないか。そんな風に中途半端なままでいるなら、いっそ旦那なんてやめちまえよ」
「うるさい! 貴様に……貴様に私の気持ちなど分かるものか!」
「ああ分からないね。どうでも良い女を大事にして、本当に大切な女を危険に晒す馬鹿のことなんて、分かってたまるか!」
再び睨み合いを始める二人。
なんなの? これは犬猿の仲というやつだったりするの?
それにしてもエルンスト様、相手は筆頭公爵家当主であるリーゲル様なのに、そんな勢い良く噛みついて大丈夫なのかしら。
どうでも良いことに、私はハラハラしてしまう。
だって、破落戸との関係はどうあれ、今回エルンスト様は私を助けてくれた。ううん、今回だけじゃなく、この前の夜会の時だって。
だから、できればリーゲル様と仲良くしてほしいのに、それは出来ないことなの? なんとか二人が手を取り合うことはできないの?
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