【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

文字の大きさ
63 / 84
第六章 旦那様の傍にいたい

犬猿の仲

 無言で睨み合うリーゲル様とエルンスト様。

 一体何がどうしてこんな事になっているの?

 お二人はどちらとも何とも言い難い空気を纏っていて、とても口を挟める状態じゃない。

 敢えて言わせてもらうなら、手首の縄を解いて欲しいんだけど……言えない。とても言えないわ。

 悔しさにくぅっと下を向くと、私は不意にエルンスト様に抱きしめられた。

「へ?」
「グラディス! 貴様、手を離せ!」

 リーゲル様の声に怒りが滲み出たような気がして、顔を上げようとしたけれど、エルンスト様にガッチリ抱き込まれていて動けない。

 え、ちょっと。顔ぐらい動かしたいんだけど……なんで!?

 結構力が強いわね……なんて思ってる場合じゃないわ。こっちは手首を縛られているから、突き飛ばすこともできないのよ?

「僕はさ、彼女が傷物にされかけたところを危機一髪助けてあげたんだよ? まぁ、公爵様にとっては白い結婚の身代わり妻が、純潔だろうが傷物だろうが、どうでも良いことかもしれないけど」
「グラディスが傷物に!? それは……助かった、礼を言う」

 助かったと言いながら、リーゲル様のお礼を言う声は、ものすっごく小さい。

 なんなの? 本当はお礼を言いたくない? というか、エルンスト様の仰った通り、私の純潔なんてどうでも良いということ?

 白い結婚を貫くなら、確かにそこはどうでも良いところかもしれないけれど、ハッキリそう言われてしまうと、やっぱり傷付く。

 浮気はダメだけど、それは婚姻を継続させるため。私が純潔かどうかなんて、リーゲル様にとってはどうでも──。

「だが、どうでも良いということはない。グラディスを傷付ける者は私が許さない。今回はグラディスを助けた事に免じて抱擁は不問にしてやるが、とにかく貴様はサッサと離れろ!」

 ベリッ! と音がしそうな勢いで、私の身体がエルンスト様から引き離される。

 待って待って。今、リーゲル様なんて言った?

「ちょ……そんな勝手な──」
「うるさい!」

 ガスッ!

「あ……」

 再度私に手を伸ばしたエルンスト様の顔面に、リーゲル様の靴底がクリーンヒットした。

 リーゲル様……お身体柔らかいんですね、って違う、そうじゃない。

 ああ、エルンスト様もかなり整った顔をしていらっしゃるけど、これは……悲惨だわ。イケメンの顔が踏みつけられるなんて。

 あまりに驚きすぎて、潤みそうになっていた瞳が秒で乾いた。

「グラディスすまない。大丈夫か? できれば私が助けてやりたかったのだが……」

 私を腕の中に囲いつつ、リーゲル様が徐々にエルンスト様から距離を取る。

 いやあのだから、先に手首の縄を……外して?

 言いたいのに言えない、この雰囲気。一体いつになったら私の手は自由になるのかしら。良い加減なんとかしてほしい。

「グラディス、私は君の夫として情けない。私がもっと早くこの場所へ辿り着いていれば、私の手で君を助けられたのに」

 あ~……もしかして、それでお礼を言う声が小さかったとかないですよね? 自分が助けられなかったのが悔しくて……なんて。

 相手はリーゲル様だし、そんな子供みたいなことないとは思うものの、悔し気に私を抱きしめる様子から、少しの疑いを抱いてしまう。

「あの、リーゲル様、助かったので私は別に──」
「だあっ! きたねぇな!」

 あら、エルンスト様が復活なさいましたわ。

 お顔は……うん、汚れてしまっているけど、なんとか大丈夫そうね。リーゲル様に踏まれて不細工になるとか、冗談じゃすみませんものね。

 綺麗にお顔を拭いて……あ、ハンカチを投げ捨てられましたわ。そんな所に捨ててはいけませんよ。

 私がじっと観察していると、エルンスト様はリーゲル様の靴底の跡が残る顔で、こう仰った。

「グラディス嬢が攫われたのは、元はと言えば王女が原因だろう? あんたが何時迄もどっちつかずの態度でいるから、今回彼女に危険が及んだんじゃないか。そんな風に中途半端なままでいるなら、いっそ旦那なんてやめちまえよ」
「うるさい! 貴様に……貴様に私の気持ちなど分かるものか!」
「ああ分からないね。どうでも良い女を大事にして、本当に大切な女を危険に晒す馬鹿のことなんて、分かってたまるか!」

 再び睨み合いを始める二人。

 なんなの? これは犬猿の仲というやつだったりするの?

 それにしてもエルンスト様、相手は筆頭公爵家当主であるリーゲル様なのに、そんな勢い良く噛みついて大丈夫なのかしら。

 どうでも良いことに、私はハラハラしてしまう。

 だって、破落戸との関係はどうあれ、今回エルンスト様は私を助けてくれた。ううん、今回だけじゃなく、この前の夜会の時だって。

 だから、できればリーゲル様と仲良くしてほしいのに、それは出来ないことなの? なんとか二人が手を取り合うことはできないの?

 二人を見つめながらそんな事を考えていたら──更なる混乱を呼ぶ人物が、その場に姿を現した。大きな手荷物? を持って。




 
感想 9

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…