【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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15 二ヶ月ぶりの言葉

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 唐突に聞こえた声に顔を上げれば、そこにいたのはレスターだった。

 そして何故か、彼はフェルの両腕を掴み、高々と持ち上げている。

「どうして……」

 なんの用事があってここへ来たの? 学園内では、距離を置くと言っていたのに。

 彼の行動の意味が分からず、私は彼に質問しようと口を開く。が、それよりも早く、怒ったようなフェルの声が耳を打った。

「おい、俺の腕を掴んでるのは誰だ⁉︎ サッサと離せ!」

 両腕を掴まれたまま暴れる様子に、私は慌ててレスターの腕へと縋り付き、手を離すようにお願いする。

 どうして彼がフェルの両腕を掴んだのかは不明だけれど、オリエル公爵家の令息であるフェルに失礼な真似をして、目を付けられでもしたら大変だ。せっかく王太子殿下の側近候補にまでなったのに、こんなことでその道が閉ざされてしまったら、後悔してもしきれないに違いない。

 そう考えたからこそ、私は手を離すことを渋るレスターの手を掴んでまで、無理矢理彼の手を引き剥がそうとしたのだけれど。

「この男に……好意があるのか?」

 突然、思ってもいないことを彼に言われた。

「え……なに……?」

 あまりにも突然すぎて、レスターが口にした科白をすぐには理解できず、思わずフェルを見てしまう。

 すると、彼も私と同じ気持ちだったようで、真正面から目が合った。

「今……なんて言った?」

 漸く腕の自由を取り戻したフェルも、訝し気に表情を歪めながら尋ねる。けれどレスターは答えない。

 どうしたら良いのかと、またもフェルへと視線を向けると、今度はそこへミーティアが勢い良く飛び込んで来た。

「ちょっとフェル! あんた一体なにをやってんのよ!」
「え? なにをって……ぐえっ!」
「あんなにユリアに近付いて……関係を疑われでもしたら、どうするつもり⁉︎」
「ご、ごめん……ゆる、ゆるし……てぇぇぇ……」

 ミーティアに襟首を掴まれ、激しく揺さぶられながらも謝るフェル。そんな二人を見ていると、彼がオリエル公爵家の令息だなんてまったく思えないから不思議だ。とはいえ、その肩書きは嘘ではないから、油断は禁物でもあるけれど。

 一歩離れた場所で、二人のやりとりを微笑ましく見守っていると、音もなく私に近付いてきたレスターが、囁くようにこう聞いてきた。

「……二人は、君の知り合いか?」

 そんなことを聞いてどうするんだろうと思いつつ、私は端的に答える。

「ええ。友達ですけど、それが……?」

 レスター見たさに沢山の令嬢達が四阿に集っている関係上、少しでも親しい雰囲気を発しないよう、私なりに気をつかったつもりだった。けれど、それが気に入らなかったのか、彼は僅かに眉を顰めると、「先程の距離は、友人として相応しくない。もう少し気をつけるように」と注意してきた。

「貴方が……!」

 途端に言い返しそうになり口を開くも、周囲からの視線を感じ、私はぐっと言葉を飲み込む。

 いつも令嬢達に囲まれているレスターが、それを言うとは思わなかった。私に比べレスターの方が、よほど令嬢達との距離が近いのに。

 そうは思っても、ここで言うのは得策ではない。

 そもそも彼は普段、自分から令嬢達に寄って行くことはなく、あちらから言い寄られているだけなのだ。距離が近いのはそっちだと、レスターに言ったところで彼にはどうしようもないことだし、令嬢達に注意してもらったところで、彼女達は聞き耳など持ちはしないだろう。

 でも、それでも。

 数少ない友人であるフェルに、クラスメイトの名前も分からず困っていた私に声を掛けてくれたフェルに対して、そんな風に言われるのは気に入らなかった。

 学園では距離を置こうと言ってきたのは、他ならぬレスターなのに。

 向こうから勝手に近付いてくる相手は良くて、こちらから近付くのは駄目だなんて納得できない。確かに今回は自分でも距離が近かったと思うし、ミーティアがフェルを怒鳴りつけるほどのことだった、というのも分かる。

 だけど、学園に入学してから、もう丸二ヶ月口をきいていないのに、こんな時だけ喋りにくるなんて、レスターが何を考えているのか全く理解できない。私は彼にとって、既に捨てられるしかない存在なのに。

 どうせなら、彼とはもっと違うことを話したかった。それが駄目なら、せめてどちらかの家で話がしたかった。

 なのに彼が取った行動は、こんな場所でたった一言。私への注意を促しただけ。

「酷いよ、レスター……」

 視界が歪み、涙ぐんだことを気付かれたくなかった私は、俯いて四阿から駆け出した。

「ユリア‼︎」

 咄嗟にレスターが私の名を呼んだような気がしたけれど、私は足を止めなかった。








 
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