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40 諦めない
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なんなのよ、なんなのよ!
ユリアが医務室へと入って行くのを見送った後、ミーティアは王太子であるカーライルを探して校舎の中を彷徨いていた。
カーライルに会って、どうするつもりかなどは何も考えていない。ただ、自分勝手な理由で彼がレスターを殺そうとしたことに、もの凄く腹が立っていたのだ。
「いくらここが小説の中の世界だとはいえ、みんなちゃんと生きてるのに……。知ってる人が死んじゃったら、心だって痛むのに……」
どうしてあの王太子は、それが分からないの? と思う。
それとも、王太子なんて偉い立場に転生しちゃったから、人の命なんて何とも思わなくなっちゃったの?
自分のように低位の貴族に転生していたのなら、そんな勘違いをしなくてすんだのかもしれないけれど。
あのバカには、一度身を持って本の中の現実というやつを教えてやる必要がある。でなければ、他にも犠牲者が出るかもしれない。
「だけど……どうしたら良いんだろう?」
現実を教えるといっても、その方法が思い付かない。
そもそも相手は王太子であり、自分はただの男爵令嬢。どうしたって現実的に手の届く存在ではないのだ。
けれどこのままにしておくのは絶対に危険だと分かるから、なんとかして止めたいのだけれど、最悪なことに、あいつが暴走したせいで小説内の筋書きが滅茶苦茶になってしまった。
本当なら、王太子とレスターがヒロインを取り合って戦う前に、もっと様々なイベントがあったはずなのに。
それらを全部ぶっ飛ばして最後のイベントを起こした結果がどうなるか、あいつは分かっているのだろうか?
「勿論あたしだって、どうなるか分からないけど……」
最後のイベントを起こしたことにより、今後は小説から離れて普通の生活ができるなら、まだ良い。
最悪なのは、レスターと王太子との戦いが無かったことにされ、ユリアのハンカチのイベント後から、しれっとまた始められることだ。
そんなことになったら、学園を卒業する前に再度レスターと王太子は戦うことになってしまう。そしてその時こそ、レスターは確実に命を失うのだ。
「今回はイレギュラーだったせいで助かったのかもしれないけど、次は……」
ベッドに横たわるレスターを見て、顔面蒼白になったユリアの表情を思い出す。
あんな顔、できることならさせたくなかった。
小説内で幸せな思いなど全くしていなかったユリアには、小説が現実となったこの世界で、幸せだけを満喫させてあげたかったのに。
「それを、あのバカのせいで……!」
ユリアとレスターの婚約破棄に、王太子が一枚……どころか二枚も三枚も噛んでいたのには驚いたが、まぁ……百歩譲ってそれは許しても良い。
小説内では違ったものの、この世界のユリアはレスターと婚約破棄をしたがっていたから、それがユリアの希望であれば、ミーティアは文句なんて言うつもりはなかった。
だけど、それでも。
王太子に何があったのかは知らないが、苛立つ気持ちのままレスターを殺そうとするなんてあり得ない。短絡的思考すぎて、頭が痛くなってくる。
たとえレスターがいなくなったところで、ユリアの気持ちが王太子に向くとは限らないのに。
「まさか、邪魔になりそうな男全員殺そうだとか……考えてないわよね?」
言ってから恐ろしくなり、ミーティアはぶるりと全身を震わせた。
何せあの男は、少しばかり狂気じみているところがあるのだ。
好意を持つ人の持ち物にときめく気持ちはミーティアだって理解できるが、それをこっそり盗もうとしたり、頬擦りするような気持ちまでは持ち合わせていない。つまり、そんなことをする王太子の心境が理解できない。
しかも、癇癪を爆発させたら無抵抗な人間を叩きのめすなんて──どう考えても正常な思考の持ち主ではないだろう。
転生する前は殺人鬼だったとか……洒落にならないんだけど。
どちらにせよ、あんな危険な男とユリアをくっつけるわけにはいかない。
下手をしたらユリアは婚姻後に監禁され、暴力さえも振るわれるおそれがある。そんなことになったら、投獄された小説内の最後とほぼ同じ展開になるわけで──自分がミーティアとして転生した意味も、全くなくなってしまう。
「とにかく、あの男だけはなんとかしなくちゃ……」
まだ具体的な案はなにもないし、男爵令嬢でしかない自分が王太子相手にできることなど、ほぼないに等しいのかもしれないけれど。それでも最後まで、ユリアを幸せにすることを諦めたくなくて。
自分で自分に気合いをいれるべく、ミーティアは自分の頬を両手で思い切り叩いたのだった。
ユリアが医務室へと入って行くのを見送った後、ミーティアは王太子であるカーライルを探して校舎の中を彷徨いていた。
カーライルに会って、どうするつもりかなどは何も考えていない。ただ、自分勝手な理由で彼がレスターを殺そうとしたことに、もの凄く腹が立っていたのだ。
「いくらここが小説の中の世界だとはいえ、みんなちゃんと生きてるのに……。知ってる人が死んじゃったら、心だって痛むのに……」
どうしてあの王太子は、それが分からないの? と思う。
それとも、王太子なんて偉い立場に転生しちゃったから、人の命なんて何とも思わなくなっちゃったの?
自分のように低位の貴族に転生していたのなら、そんな勘違いをしなくてすんだのかもしれないけれど。
あのバカには、一度身を持って本の中の現実というやつを教えてやる必要がある。でなければ、他にも犠牲者が出るかもしれない。
「だけど……どうしたら良いんだろう?」
現実を教えるといっても、その方法が思い付かない。
そもそも相手は王太子であり、自分はただの男爵令嬢。どうしたって現実的に手の届く存在ではないのだ。
けれどこのままにしておくのは絶対に危険だと分かるから、なんとかして止めたいのだけれど、最悪なことに、あいつが暴走したせいで小説内の筋書きが滅茶苦茶になってしまった。
本当なら、王太子とレスターがヒロインを取り合って戦う前に、もっと様々なイベントがあったはずなのに。
それらを全部ぶっ飛ばして最後のイベントを起こした結果がどうなるか、あいつは分かっているのだろうか?
「勿論あたしだって、どうなるか分からないけど……」
最後のイベントを起こしたことにより、今後は小説から離れて普通の生活ができるなら、まだ良い。
最悪なのは、レスターと王太子との戦いが無かったことにされ、ユリアのハンカチのイベント後から、しれっとまた始められることだ。
そんなことになったら、学園を卒業する前に再度レスターと王太子は戦うことになってしまう。そしてその時こそ、レスターは確実に命を失うのだ。
「今回はイレギュラーだったせいで助かったのかもしれないけど、次は……」
ベッドに横たわるレスターを見て、顔面蒼白になったユリアの表情を思い出す。
あんな顔、できることならさせたくなかった。
小説内で幸せな思いなど全くしていなかったユリアには、小説が現実となったこの世界で、幸せだけを満喫させてあげたかったのに。
「それを、あのバカのせいで……!」
ユリアとレスターの婚約破棄に、王太子が一枚……どころか二枚も三枚も噛んでいたのには驚いたが、まぁ……百歩譲ってそれは許しても良い。
小説内では違ったものの、この世界のユリアはレスターと婚約破棄をしたがっていたから、それがユリアの希望であれば、ミーティアは文句なんて言うつもりはなかった。
だけど、それでも。
王太子に何があったのかは知らないが、苛立つ気持ちのままレスターを殺そうとするなんてあり得ない。短絡的思考すぎて、頭が痛くなってくる。
たとえレスターがいなくなったところで、ユリアの気持ちが王太子に向くとは限らないのに。
「まさか、邪魔になりそうな男全員殺そうだとか……考えてないわよね?」
言ってから恐ろしくなり、ミーティアはぶるりと全身を震わせた。
何せあの男は、少しばかり狂気じみているところがあるのだ。
好意を持つ人の持ち物にときめく気持ちはミーティアだって理解できるが、それをこっそり盗もうとしたり、頬擦りするような気持ちまでは持ち合わせていない。つまり、そんなことをする王太子の心境が理解できない。
しかも、癇癪を爆発させたら無抵抗な人間を叩きのめすなんて──どう考えても正常な思考の持ち主ではないだろう。
転生する前は殺人鬼だったとか……洒落にならないんだけど。
どちらにせよ、あんな危険な男とユリアをくっつけるわけにはいかない。
下手をしたらユリアは婚姻後に監禁され、暴力さえも振るわれるおそれがある。そんなことになったら、投獄された小説内の最後とほぼ同じ展開になるわけで──自分がミーティアとして転生した意味も、全くなくなってしまう。
「とにかく、あの男だけはなんとかしなくちゃ……」
まだ具体的な案はなにもないし、男爵令嬢でしかない自分が王太子相手にできることなど、ほぼないに等しいのかもしれないけれど。それでも最後まで、ユリアを幸せにすることを諦めたくなくて。
自分で自分に気合いをいれるべく、ミーティアは自分の頬を両手で思い切り叩いたのだった。
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