【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
41 / 90

41 美しい笑み

しおりを挟む
 それから三日後──王家の動きは迅速だった。

 まず、王太子殿下は三ヶ月間の謹慎処分となり、学園に来なくなった──学園の生徒達には体調不良という名目で、休むことが伝えられた。

 パルマーク様は、殿下の愚行を外部に漏らしたという理由から、一ヶ月の謹慎処分を言い渡され──今回は王族の行き過ぎた行いを未然に防いだということで、その程度の罰で済んだらしい──同じく学園には来ていない。

「コーラル侯爵令息が死に掛けた時点でとは言えないと思うが、死んでないからギリオッケーとか、そういう感じなのかもな」

 とは、今回の殿下達の処遇について教えてくれた、フェルの言葉だ。

 刑が確定した後にパルマーク様から直々にいただいたお手紙には、「本来ならもっと重い刑になるはずだったが、からの申し入れにより、信じられないほどに減刑された」と記されていた。

 ある方というのはどなたなのか、何故その方がパルマーク様の減刑を願い出てくれたのか、分からないことばかりではあるけれど。どちらにしても、パルマーク様の処分が重いものでなくて良かった。

 彼は自らの身を危険に晒してまで、レスターを救ってくれたのだもの。その彼が重い罰を受けていたりしたら、レスターもきっと目を覚ました時、悲しむに違いない。だから本当に良かったと思う。

 そして、私はというと──未だ目を覚まさないレスターの家へ、毎日通って看病をしていた。

 看病と言っても、特にやることはない。ただ彼を見舞って、一定時間傍にいるだけだ。

 彼が大怪我を負ってから、もう既に二週間が経過したというのに、レスターは今なお夢の中の住人と化していて、日々眠り続けている。

 彼のご両親は毎日邸へと通う私にすまなさそうな顔をするけれど、「もう来なくて良い」とは決して言わないし、寧ろ私の好きな茶葉を使った紅茶などでもてなしてくれるから、本心では私が訪ねていくことを喜んでくれているのだろう。私も別に毎日レスターの所へ行くのは苦ではないし、まだ婚約者であることに変わりはないから、そのことについては何の不満も持ってはいない。

 強いて言うなら、婚約破棄の話が進まなくなってしまったことは残念だけれど、私の気持ちは既に決まっているから、まぁいいやと思うことにしている。

 けれども何故かミーティアだけは、あの事件以来「婚約破棄は考え直した方が良い」と言って、妙にレスターを押してくるようになってしまったから、若干対処に困っているのだけれど。

 それからもう一人。謹慎中のパルマーク様はどうやら暇であるらしく、謹慎処分となってから毎日のように私の家へ手紙が届き、今では文通友達のようになりつつある。

 最初は特に書くことがなかった手紙だけれど、パルマーク様に好きな物や好きな色、趣味などを聞かれて答えれば、それらのものに関する豊富な話題が手紙に認められて返ってくるため、レスターの近況報告のつもりで始めた手紙のやりとりが、今ではすっかり毎日の楽しみになってしまった。

 謹慎が解けたら一緒に街へ行こうなどという約束もしてしまうほど、私達の関係は変わりつつある。

 レスターとの週末の外出は、年齢的にまだ子供であったこともあり、いつも使用人達に囲まれてのものだった。

 それでも学園に入学したら、二人だけでの外出も許可されるのだからと楽しみにしていた気持ちは、レスター本人の冷たい言葉によって打ち砕かれてしまったから。

 そのため学園に入ってからは、少しも街へ行く気分にはなれず、週末はいつも邸の中で過ごしていた。たまにミーティアが外出に誘ってくれても、気が向かないと、ずっと断ってきたのだ。

 けれどパルマーク様のおかげで、漸く街へ行ってみたいという気持ちになれた。

 無論、婚約者のいる身で他の男性と二人きりで街へ行くなど許されないことは分かっているから、ミーティアやフェル、護衛達も一緒にはなるけれど。

 それでも、何ヶ月ぶりかになる街への外出だ。楽しみでないわけがなかった。

 今日も今日とて、一日一日迫り来る外出の日のことを考えながら、私がいつも通りにレスターの部屋の扉を開けると──。
 
「ユリ……ア……?」

 久し振りに見る緑柱石色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。

「…………‼︎」

 あまりの驚きに声を失い、私はそのまま部屋の入り口で足を止めてしまう。

 嘘……あれは……本当に? 夢ではないの……?

 目の前の現実をつい疑ってしまい、動かないまま、私は彼の姿を凝視する。

 そうして、どちらも動かない──レスターは動けないの間違いだが──状態のまま、数秒ほど経過しただろうか……レスターがベッドに横たわったまま、弱々しくこちらへと手を伸ばしてきた。

「ユリア……」
「……っ、レスター!」

 まるでその手に引き寄せられるかのように、私はすぐさま彼の元へと駆け寄り、その手を握る。

「レスター、レスター……!」

 ああ、神様……ありがとうございます!
 
 両手で握った彼の手を自分の額に当て、私はあまりの嬉しさに、我知らず涙を溢れさせた。

「レスター……良かった……」

 血の通った温かい手。そして、約二週間もの間寝たきりだったために、頬がこけてしまってはいるけれど、ほんのりと赤みのさした頬。

 まだ目覚めたばかりで然程力が入らないのか、私の手を握り返してくる力は弱々しいけれど、それでも彼が生きているんだと実感できて嬉しくなる。

「レスター……レスター……」

 喜びのあまり語彙力のなくなってしまった私に、レスターはとても美しい笑みで微笑んでくれた。
 




 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...