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42 偽りの姿
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「……で? あの時の事件の真相は聞くことができたのか?」
ファンティス男爵家の応接室で、遠慮なく紅茶とお菓子を貪りながら、フェルは単刀直入にそう聞いてくる。
今日ここに三人で集まったのは、その話をするためだ。
学園で話しても、街中のカフェで話しても、王太子殿下が関わっている以上、内容が少しでも漏れると大変なことになるため、私達は三人で話し合い、一番こういった話をするのに適したミーティアの邸へと集まることにしたのだ。
フェルの邸はもちろん、私の家の邸にも、使用人がたくさんいる。けれど貧しいミーティアの邸には、ほぼ使用人がいないため、話を盗み聞きされる心配もなければ、外部に内容が漏れる心配もない。そう考えて、私達はミーティアの両親にわざわざ外出までしてもらい、こうして顔を突き合わせることにしたのだけれど。
「一応話を聞くことはできたんだけどね……」
「ん? どうかしたのか?」
話すのを躊躇うような私の様子に、フェルとミーティアが揃って首を傾げる。
王太子殿下がレスターに大怪我を負わせた、あの事件──あれの真相を、私は意識を取り戻したレスターから全て聞いていた。
それはとても驚くべき内容で、同時に、俄かには信じがたいようなものだった。
医務室でパルマーク様に聞いた話も十分酷いものだったけれど、レスターに聞いた話は、その更に上をいっていて。
だからこそ私は、二人にこの話をしても良いものか、悩んでしまったのだ。
この話をすれば、殿下に対する二人の認識は確実に変わってしまう。男爵令嬢であるミーティアはともかく、筆頭公爵家の子息でもあるフェルに、この話をしても良いのかどうか……。
このことについては、ミーティアの邸に来るまでずっと考え続けていたことだった。
国内で最も力のある家の人間に、王族の悪しき部分を話してしまって良いものなのか。それは叛意にならないだろうか。
いくら考えても答えは出ず、結局今日という日を迎えてしまった。直前で断ることもできなくはなかったけれど、そんなことをしてもズルズルと日数を無意味に引き延ばすだけで、何も変わらないと分かっていたから。
けれどやっぱり、いざ話そうとすると躊躇ってしまう。
今更ながらどうしようかと悩んでいると、紅茶を一気飲みしたフェルが音を立ててカップを置き、真正面からじっと私の瞳を見つめてきた。
「大体の話なら俺は掴んでるから、変な気なんて遣わずに、コーラル侯爵令息から聞いたことを全て正直に話してくれ。あの王太子がクソみたいな奴だなんてこと、俺は昔から知ってるからな」
「え……そうなの?」
驚いた様子で聞き返したミーティアに、フェルは大きく頷く。そうして、紅茶のおかわりを要求しながら言葉を継いだ。
「ほら、俺とあいつって同じ歳だろう? だからさ、息子同士を早いうちから仲良くさせようっていう王家の企みのもと、俺達は幼い頃、よく一緒に遊ばされてたんだ。けど、あいつって本当に性格悪くてさ~……ちょっと気に入らないことがあるとすぐ八つ当たりするし、生き物虐めて遊ぶし、とにかく俺とはまったく性格が合わなくて……半年も経たずに遊ぶのをやめた覚えがある」
「そ、そうなのね……」
それを聞いただけで、学園では殿下が如何に何重にも猫を被っていたのかが分かる。
これまで私に見せていた優しい姿は、完全に偽りだったんだ。
「だから何も気にすることなく本当のことを教えてくれ。寧ろあんな奴が国王になったら、この国は終わりだろ? 俺としてはサッサとあいつを追い詰めて、できればこの国から追い出してやりたいと思ってるんだが……それはそれで、押し付けられた国の迷惑になるか?」
真面目な顔で悩み出したフェルの背中を、ミーティアが「気が早い!」と言って、思いっ切り叩く。
この二人、最近ちょっと良い雰囲気になってきたような気がするんだけど……ただ気が合うだけなのかなんなのか、不明なのよね。
そんなことを考えつつ、「分かった。二人には嘘偽りなくすべてを話すわ」と言うと、その場の空気が一瞬でピリついた──。
ファンティス男爵家の応接室で、遠慮なく紅茶とお菓子を貪りながら、フェルは単刀直入にそう聞いてくる。
今日ここに三人で集まったのは、その話をするためだ。
学園で話しても、街中のカフェで話しても、王太子殿下が関わっている以上、内容が少しでも漏れると大変なことになるため、私達は三人で話し合い、一番こういった話をするのに適したミーティアの邸へと集まることにしたのだ。
フェルの邸はもちろん、私の家の邸にも、使用人がたくさんいる。けれど貧しいミーティアの邸には、ほぼ使用人がいないため、話を盗み聞きされる心配もなければ、外部に内容が漏れる心配もない。そう考えて、私達はミーティアの両親にわざわざ外出までしてもらい、こうして顔を突き合わせることにしたのだけれど。
「一応話を聞くことはできたんだけどね……」
「ん? どうかしたのか?」
話すのを躊躇うような私の様子に、フェルとミーティアが揃って首を傾げる。
王太子殿下がレスターに大怪我を負わせた、あの事件──あれの真相を、私は意識を取り戻したレスターから全て聞いていた。
それはとても驚くべき内容で、同時に、俄かには信じがたいようなものだった。
医務室でパルマーク様に聞いた話も十分酷いものだったけれど、レスターに聞いた話は、その更に上をいっていて。
だからこそ私は、二人にこの話をしても良いものか、悩んでしまったのだ。
この話をすれば、殿下に対する二人の認識は確実に変わってしまう。男爵令嬢であるミーティアはともかく、筆頭公爵家の子息でもあるフェルに、この話をしても良いのかどうか……。
このことについては、ミーティアの邸に来るまでずっと考え続けていたことだった。
国内で最も力のある家の人間に、王族の悪しき部分を話してしまって良いものなのか。それは叛意にならないだろうか。
いくら考えても答えは出ず、結局今日という日を迎えてしまった。直前で断ることもできなくはなかったけれど、そんなことをしてもズルズルと日数を無意味に引き延ばすだけで、何も変わらないと分かっていたから。
けれどやっぱり、いざ話そうとすると躊躇ってしまう。
今更ながらどうしようかと悩んでいると、紅茶を一気飲みしたフェルが音を立ててカップを置き、真正面からじっと私の瞳を見つめてきた。
「大体の話なら俺は掴んでるから、変な気なんて遣わずに、コーラル侯爵令息から聞いたことを全て正直に話してくれ。あの王太子がクソみたいな奴だなんてこと、俺は昔から知ってるからな」
「え……そうなの?」
驚いた様子で聞き返したミーティアに、フェルは大きく頷く。そうして、紅茶のおかわりを要求しながら言葉を継いだ。
「ほら、俺とあいつって同じ歳だろう? だからさ、息子同士を早いうちから仲良くさせようっていう王家の企みのもと、俺達は幼い頃、よく一緒に遊ばされてたんだ。けど、あいつって本当に性格悪くてさ~……ちょっと気に入らないことがあるとすぐ八つ当たりするし、生き物虐めて遊ぶし、とにかく俺とはまったく性格が合わなくて……半年も経たずに遊ぶのをやめた覚えがある」
「そ、そうなのね……」
それを聞いただけで、学園では殿下が如何に何重にも猫を被っていたのかが分かる。
これまで私に見せていた優しい姿は、完全に偽りだったんだ。
「だから何も気にすることなく本当のことを教えてくれ。寧ろあんな奴が国王になったら、この国は終わりだろ? 俺としてはサッサとあいつを追い詰めて、できればこの国から追い出してやりたいと思ってるんだが……それはそれで、押し付けられた国の迷惑になるか?」
真面目な顔で悩み出したフェルの背中を、ミーティアが「気が早い!」と言って、思いっ切り叩く。
この二人、最近ちょっと良い雰囲気になってきたような気がするんだけど……ただ気が合うだけなのかなんなのか、不明なのよね。
そんなことを考えつつ、「分かった。二人には嘘偽りなくすべてを話すわ」と言うと、その場の空気が一瞬でピリついた──。
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