【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
42 / 90

42 偽りの姿

しおりを挟む
「……で? あの時の事件の真相は聞くことができたのか?」

 ファンティス男爵家の応接室で、遠慮なく紅茶とお菓子を貪りながら、フェルは単刀直入にそう聞いてくる。

 今日ここに三人で集まったのは、その話をするためだ。

 学園で話しても、街中のカフェで話しても、王太子殿下が関わっている以上、内容が少しでも漏れると大変なことになるため、私達は三人で話し合い、一番こういった話をするのに適したミーティアの邸へと集まることにしたのだ。

 フェルの邸はもちろん、私の家の邸にも、使用人がたくさんいる。けれど貧しいミーティアの邸には、ほぼ使用人がいないため、話を盗み聞きされる心配もなければ、外部に内容が漏れる心配もない。そう考えて、私達はミーティアの両親にわざわざ外出までしてもらい、こうして顔を突き合わせることにしたのだけれど。

「一応話を聞くことはできたんだけどね……」
「ん? どうかしたのか?」

 話すのを躊躇うような私の様子に、フェルとミーティアが揃って首を傾げる。

 王太子殿下がレスターに大怪我を負わせた、あの事件──あれの真相を、私は意識を取り戻したレスターから全て聞いていた。

 それはとても驚くべき内容で、同時に、俄かには信じがたいようなものだった。

 医務室でパルマーク様に聞いた話も十分酷いものだったけれど、レスターに聞いた話は、その更に上をいっていて。

 だからこそ私は、二人にこの話をしても良いものか、悩んでしまったのだ。

 この話をすれば、殿下に対する二人の認識は確実に変わってしまう。男爵令嬢であるミーティアはともかく、筆頭公爵家の子息でもあるフェルに、この話をしても良いのかどうか……。

 このことについては、ミーティアの邸に来るまでずっと考え続けていたことだった。

 国内で最も力のある家の人間に、王族の悪しき部分を話してしまって良いものなのか。それは叛意にならないだろうか。

 いくら考えても答えは出ず、結局今日という日を迎えてしまった。直前で断ることもできなくはなかったけれど、そんなことをしてもズルズルと日数を無意味に引き延ばすだけで、何も変わらないと分かっていたから。

 けれどやっぱり、いざ話そうとすると躊躇ってしまう。

 今更ながらどうしようかと悩んでいると、紅茶を一気飲みしたフェルが音を立ててカップを置き、真正面からじっと私の瞳を見つめてきた。

「大体の話なら俺は掴んでるから、変な気なんて遣わずに、コーラル侯爵令息から聞いたことを全て正直に話してくれ。あの王太子がクソみたいな奴だなんてこと、俺は昔から知ってるからな」
「え……そうなの?」

 驚いた様子で聞き返したミーティアに、フェルは大きく頷く。そうして、紅茶のおかわりを要求しながら言葉を継いだ。

「ほら、俺とあいつって同じ歳だろう? だからさ、息子同士を早いうちから仲良くさせようっていう王家の企みのもと、俺達は幼い頃、よく一緒に遊ばされてたんだ。けど、あいつって本当に性格悪くてさ~……ちょっと気に入らないことがあるとすぐ八つ当たりするし、生き物虐めて遊ぶし、とにかく俺とはまったく性格が合わなくて……半年も経たずに遊ぶのをやめた覚えがある」
「そ、そうなのね……」

 それを聞いただけで、学園では殿下が如何に何重にも猫を被っていたのかが分かる。

 これまで私に見せていた優しい姿は、完全に偽りだったんだ。

「だから何も気にすることなく本当のことを教えてくれ。寧ろあんな奴が国王になったら、この国は終わりだろ? 俺としてはサッサとあいつを追い詰めて、できればこの国から追い出してやりたいと思ってるんだが……それはそれで、押し付けられた国の迷惑になるか?」

 真面目な顔で悩み出したフェルの背中を、ミーティアが「気が早い!」と言って、思いっ切り叩く。

 この二人、最近ちょっと良い雰囲気になってきたような気がするんだけど……ただ気が合うだけなのかなんなのか、不明なのよね。

 そんなことを考えつつ、「分かった。二人には嘘偽りなくすべてを話すわ」と言うと、その場の空気が一瞬でピリついた──。

 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる

ラム猫
恋愛
 王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています ※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

処理中です...