【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
59 / 90

59 腕の檻

しおりを挟む
「ねぇユリア、あいつが今どうなってるか、ユリアは知ってる?」

 教室移動のために、廊下を二人で歩いていると、ミーティアが突然そんなことを言い出した。

「えっと……あいつって誰のこと?」

 ミーティアが『あいつ』呼びする相手が誰だか分からず、私は思い当たる人物を頭に描きながら首を傾げる。

 フェルは何故か最近ちょくちょく学園を休んだり、遅刻や早退をすることが多くなった。パルマーク様はあと一週間、謹慎期間が残っているため、未だ学園に出て来てはいない。レスターは……車椅子で動ける程度に回復はしたものの、学園に復学するか、このまま退学して領地へ引っ込むかでコーラル侯爵が答えを決めかねているらしく、リハビリを続けながら、未だ王都で静養を続けている。

 そう考えると──私は大体全員の現状を把握していると思うけれど、それについてはミーティアも同じはずで。

 だとすると、若干行動が不透明なフェルのことを言っているのかな? と思い聞いてみると、思いっきり首を横に振られた。

「違うわよ! あいつっていうのは王太子のこと! なんかあいつ、謹慎期間中にも関わらず王宮から逃げ出して、行方不明になってるらしいよ」
「え、そうなの⁉︎」

 予想外の内容に、思わず大声を上げてしまう。

 王太子殿下は王宮で厳しく監視されているとコーラル侯爵に聞いていたのに、どうやって逃げ出したというのだろうか。しかも行方不明だなんて……どこかに潜んでまたレスターを狙っているんじゃ? と心配になる。

「ミーティアどうしよう……。レスターは大丈夫かしら……?」

 せっかく元気になってきたのに、ここでまた襲われでもしたら、今度こそ殺されてしまうかもしれない。以前やられた時とは違い、今なら無抵抗でやられることはないだろうけれど、それでも車椅子に乗っている分、不利なことに変わりはないから。

「ユリアは……レスターが心配?」

 様子を窺うように聞いてきたミーティアに、間髪入れず言い返す。

「当たり前でしょう⁉︎ 今までずっと一緒にいたんだもの。心配しないわけがないじゃない!」

 言ってしまってから、強く言い過ぎたと気付き、頭を下げた。

「ご、ごめんねミーティア。私……」
「ううん。要は、ユリアがそれだけレスターのことが心配だっていうことでしょう? 分かってるから大丈夫。それより、彼のところへ行って来なよ。先生にはあたしが伝えておいてあげるからさ」

 にっこりと微笑んでくれるミーティアに、じんわりと胸が暖かくなる。

 本当に彼女は良い友達だ。感謝してもしきれない。

「ありがとうミーティア。私、レスターのところへ行ってくるわ!」

 言うなり、踵を返して駆け出した。

 今はもう、淑女がどうとか言っている場合じゃない。そんなどうでも良いことを気にしている間に、レスターに何かあったら後悔してもしきれないもの。

 そんな気持ちで走り続け、学園の馬車止めに着いたところで、どうやってレスターの家まで行こう? ということに思い至った。今は帰宅時間でもないため、馬車止めには一台の馬車も止まってはいない。

 刹那、そんな私の考えを読んだかのように、一台の馬車がタイミング良く目の前へと滑り込んできた。

 馬車の側面に付けられた家紋は、ネーヴラント伯爵家のものであり。

「え……パルマーク様?」

 驚いてそう言った途端、馬車の扉が開き、パルマーク様がそこから颯爽と降りて来た。かと思ったら、素早く私の身体を抱え上げ、馬車の中へと逆戻りする。

「ちょっ、あの、パルマーク様⁉︎」

 自分は何故今彼に抱えられているのか、どうして彼がこのタイミングで目の前に現れたのか、聞きたいことは山ほどあれど、現状に混乱しすぎて言葉にならない。パルマーク様の振る舞いはいつだって紳士的であり、こんな風に扱われたことはなかったから。

 しかも今更気付いたことなのだけれど、馬車内に使用人の姿はなく、完全に二人きりの状態になっている。

 これはもしかして、マズいのでは……?

 そう思った時には、もう遅かった。

 パルマーク様の膝上に乗せられた状態の私は、一瞬で彼の腕の中に閉じ込められてしまったのだ。

「あ、あの、パルマーク様……?」

 一体何がどうしてと彼の名を呼ぶも、私を拘束する腕の力が弱められることはなく。

 どうしたら良いのか、パルマーク様は急にどうしてしまわれたのかと慌てる私の耳に飛び込んできたのは、切なくも狂おしい彼からの愛の告白だった。

「ユリア嬢……俺は貴女を……愛しています」

 
 









  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました

藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」  リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。 「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」  そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……? ※ なろうにも投稿しています。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...