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59 腕の檻
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「ねぇユリア、あいつが今どうなってるか、ユリアは知ってる?」
教室移動のために、廊下を二人で歩いていると、ミーティアが突然そんなことを言い出した。
「えっと……あいつって誰のこと?」
ミーティアが『あいつ』呼びする相手が誰だか分からず、私は思い当たる人物を頭に描きながら首を傾げる。
フェルは何故か最近ちょくちょく学園を休んだり、遅刻や早退をすることが多くなった。パルマーク様はあと一週間、謹慎期間が残っているため、未だ学園に出て来てはいない。レスターは……車椅子で動ける程度に回復はしたものの、学園に復学するか、このまま退学して領地へ引っ込むかでコーラル侯爵が答えを決めかねているらしく、リハビリを続けながら、未だ王都で静養を続けている。
そう考えると──私は大体全員の現状を把握していると思うけれど、それについてはミーティアも同じはずで。
だとすると、若干行動が不透明なフェルのことを言っているのかな? と思い聞いてみると、思いっきり首を横に振られた。
「違うわよ! あいつっていうのは王太子のこと! なんかあいつ、謹慎期間中にも関わらず王宮から逃げ出して、行方不明になってるらしいよ」
「え、そうなの⁉︎」
予想外の内容に、思わず大声を上げてしまう。
王太子殿下は王宮で厳しく監視されているとコーラル侯爵に聞いていたのに、どうやって逃げ出したというのだろうか。しかも行方不明だなんて……どこかに潜んでまたレスターを狙っているんじゃ? と心配になる。
「ミーティアどうしよう……。レスターは大丈夫かしら……?」
せっかく元気になってきたのに、ここでまた襲われでもしたら、今度こそ殺されてしまうかもしれない。以前やられた時とは違い、今なら無抵抗でやられることはないだろうけれど、それでも車椅子に乗っている分、不利なことに変わりはないから。
「ユリアは……レスターが心配?」
様子を窺うように聞いてきたミーティアに、間髪入れず言い返す。
「当たり前でしょう⁉︎ 今までずっと一緒にいたんだもの。心配しないわけがないじゃない!」
言ってしまってから、強く言い過ぎたと気付き、頭を下げた。
「ご、ごめんねミーティア。私……」
「ううん。要は、ユリアがそれだけレスターのことが心配だっていうことでしょう? 分かってるから大丈夫。それより、彼のところへ行って来なよ。先生にはあたしが伝えておいてあげるからさ」
にっこりと微笑んでくれるミーティアに、じんわりと胸が暖かくなる。
本当に彼女は良い友達だ。感謝してもしきれない。
「ありがとうミーティア。私、レスターのところへ行ってくるわ!」
言うなり、踵を返して駆け出した。
今はもう、淑女がどうとか言っている場合じゃない。そんなどうでも良いことを気にしている間に、レスターに何かあったら後悔してもしきれないもの。
そんな気持ちで走り続け、学園の馬車止めに着いたところで、どうやってレスターの家まで行こう? ということに思い至った。今は帰宅時間でもないため、馬車止めには一台の馬車も止まってはいない。
刹那、そんな私の考えを読んだかのように、一台の馬車がタイミング良く目の前へと滑り込んできた。
馬車の側面に付けられた家紋は、ネーヴラント伯爵家のものであり。
「え……パルマーク様?」
驚いてそう言った途端、馬車の扉が開き、パルマーク様がそこから颯爽と降りて来た。かと思ったら、素早く私の身体を抱え上げ、馬車の中へと逆戻りする。
「ちょっ、あの、パルマーク様⁉︎」
自分は何故今彼に抱えられているのか、どうして彼がこのタイミングで目の前に現れたのか、聞きたいことは山ほどあれど、現状に混乱しすぎて言葉にならない。パルマーク様の振る舞いはいつだって紳士的であり、こんな風に扱われたことはなかったから。
しかも今更気付いたことなのだけれど、馬車内に使用人の姿はなく、完全に二人きりの状態になっている。
これはもしかして、マズいのでは……?
そう思った時には、もう遅かった。
パルマーク様の膝上に乗せられた状態の私は、一瞬で彼の腕の中に閉じ込められてしまったのだ。
「あ、あの、パルマーク様……?」
一体何がどうしてと彼の名を呼ぶも、私を拘束する腕の力が弱められることはなく。
どうしたら良いのか、パルマーク様は急にどうしてしまわれたのかと慌てる私の耳に飛び込んできたのは、切なくも狂おしい彼からの愛の告白だった。
「ユリア嬢……俺は貴女を……愛しています」
教室移動のために、廊下を二人で歩いていると、ミーティアが突然そんなことを言い出した。
「えっと……あいつって誰のこと?」
ミーティアが『あいつ』呼びする相手が誰だか分からず、私は思い当たる人物を頭に描きながら首を傾げる。
フェルは何故か最近ちょくちょく学園を休んだり、遅刻や早退をすることが多くなった。パルマーク様はあと一週間、謹慎期間が残っているため、未だ学園に出て来てはいない。レスターは……車椅子で動ける程度に回復はしたものの、学園に復学するか、このまま退学して領地へ引っ込むかでコーラル侯爵が答えを決めかねているらしく、リハビリを続けながら、未だ王都で静養を続けている。
そう考えると──私は大体全員の現状を把握していると思うけれど、それについてはミーティアも同じはずで。
だとすると、若干行動が不透明なフェルのことを言っているのかな? と思い聞いてみると、思いっきり首を横に振られた。
「違うわよ! あいつっていうのは王太子のこと! なんかあいつ、謹慎期間中にも関わらず王宮から逃げ出して、行方不明になってるらしいよ」
「え、そうなの⁉︎」
予想外の内容に、思わず大声を上げてしまう。
王太子殿下は王宮で厳しく監視されているとコーラル侯爵に聞いていたのに、どうやって逃げ出したというのだろうか。しかも行方不明だなんて……どこかに潜んでまたレスターを狙っているんじゃ? と心配になる。
「ミーティアどうしよう……。レスターは大丈夫かしら……?」
せっかく元気になってきたのに、ここでまた襲われでもしたら、今度こそ殺されてしまうかもしれない。以前やられた時とは違い、今なら無抵抗でやられることはないだろうけれど、それでも車椅子に乗っている分、不利なことに変わりはないから。
「ユリアは……レスターが心配?」
様子を窺うように聞いてきたミーティアに、間髪入れず言い返す。
「当たり前でしょう⁉︎ 今までずっと一緒にいたんだもの。心配しないわけがないじゃない!」
言ってしまってから、強く言い過ぎたと気付き、頭を下げた。
「ご、ごめんねミーティア。私……」
「ううん。要は、ユリアがそれだけレスターのことが心配だっていうことでしょう? 分かってるから大丈夫。それより、彼のところへ行って来なよ。先生にはあたしが伝えておいてあげるからさ」
にっこりと微笑んでくれるミーティアに、じんわりと胸が暖かくなる。
本当に彼女は良い友達だ。感謝してもしきれない。
「ありがとうミーティア。私、レスターのところへ行ってくるわ!」
言うなり、踵を返して駆け出した。
今はもう、淑女がどうとか言っている場合じゃない。そんなどうでも良いことを気にしている間に、レスターに何かあったら後悔してもしきれないもの。
そんな気持ちで走り続け、学園の馬車止めに着いたところで、どうやってレスターの家まで行こう? ということに思い至った。今は帰宅時間でもないため、馬車止めには一台の馬車も止まってはいない。
刹那、そんな私の考えを読んだかのように、一台の馬車がタイミング良く目の前へと滑り込んできた。
馬車の側面に付けられた家紋は、ネーヴラント伯爵家のものであり。
「え……パルマーク様?」
驚いてそう言った途端、馬車の扉が開き、パルマーク様がそこから颯爽と降りて来た。かと思ったら、素早く私の身体を抱え上げ、馬車の中へと逆戻りする。
「ちょっ、あの、パルマーク様⁉︎」
自分は何故今彼に抱えられているのか、どうして彼がこのタイミングで目の前に現れたのか、聞きたいことは山ほどあれど、現状に混乱しすぎて言葉にならない。パルマーク様の振る舞いはいつだって紳士的であり、こんな風に扱われたことはなかったから。
しかも今更気付いたことなのだけれど、馬車内に使用人の姿はなく、完全に二人きりの状態になっている。
これはもしかして、マズいのでは……?
そう思った時には、もう遅かった。
パルマーク様の膝上に乗せられた状態の私は、一瞬で彼の腕の中に閉じ込められてしまったのだ。
「あ、あの、パルマーク様……?」
一体何がどうしてと彼の名を呼ぶも、私を拘束する腕の力が弱められることはなく。
どうしたら良いのか、パルマーク様は急にどうしてしまわれたのかと慌てる私の耳に飛び込んできたのは、切なくも狂おしい彼からの愛の告白だった。
「ユリア嬢……俺は貴女を……愛しています」
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