【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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62 レスターの影響力

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 足の治療のため、レスターが他国へ旅立つことになり、私の周りは俄かに騒がしくなった。

 まず、レスターが学園に復帰するのを今か今かと待ち構えていた令嬢達は、一人残らず撃沈することとなり、元々の婚約者達に媚びを売り始めた。そのまま彼女達を受け入れる令息もいれば、今まで他の令息を追いかけていたくせにと冷たくあしらい、婚約を破棄する令息までいたりして、学園内はそんな令嬢と令息達とで混沌としている。

 そもそも、レスターが復学したところで彼は一人しかいないのだから、運良く婚約者になれるとしても、枠は一人分しか空いていないのに、彼女達は何を思ってレスターを追いかけまわしていたのか。……もしかしたら、何も考えていなかったのかもしれないけれど。

「……ねぇユリア、元婚約者の影響力って、本当に凄いね!」

 そんな中、周囲の騒がしさなどものともせずに、私の隣で微笑むのはミーティアだ。

 レスターが他国へと渡る際、その補助要員として彼女も一緒に行くことになった。私としては寂しい限りだけれど、今のレスターには支えとなる人が必要だろうし、何よりミーティア自身が言い出したことでもあるから、彼女には頑張ってきてほしいと思っている。

 実は王太子殿下が王宮から逃げ出したと聞いたあの日、私は慌ててレスターの邸へと向かったのだけれど、馬車内でパルマーク様から突然の愛の告白を受け、動転してしまったせいで、結局レスターのところへは行けなかった。

 代わりにパルマーク様が一人で彼のところへ行ってくれて、その時二人で何を話したのかは教えてもらえなかったけれど、それによってレスターは、国を出ることを決めたということを聞いた。

 その際、いつ戻れるか分からないという理由から、私とレスターとの婚約は正式に解消されたのだ。

 コーラル侯爵家の方々は、「婚約解消ではなく破棄で良い」と仰ってくださったのだけれど、私にも瑕疵はあるから、解消でかまいません、とお願いをした。今後レスターの治療費に、いくらかかるか分からない状況でもあるし。

 と思っていたら、何故かフェルが「金銭面は何も心配いらないぜ。レスターの不幸な境遇に同情した鉱夫が一人、死ぬ気でその分の宝石を掘り出してるからな」と笑いながら言ってきた。

「なに、その鉱夫。めちゃ良い人じゃない……」

 驚いたように言うミーティアに、「だろ?」と微笑うフェルの笑顔が若干邪悪に感じたのは、私の気のせいだったと思いたい。

 最近ちょくちょく学園を休むのも、裏で何かしているからのような気がするし、私やミーティアに害を与えたことはないけど、見たまんまのフェルを信用することは未だにできていないのが現状だ。

「ともかく、そういったわけで金の心配については必要ないから……ミーティア」
「ん? なに?」

 突然真顔になったフェルに、ミーティアが緊張したように背筋を正す。

 一体何を言うのか──ドキドキしながら私が二人を見つめていると、徐にフェルは「お前……レスターのこと襲うなよ」とジト目で言った。

 途端に、怒った顔で手を振り上げるミーティア。

 バッチーン! と小気味良い音を立ててフェルの頬を引っ叩くと、彼女は「冗談は顔だけにして!」と肩を怒らせ去って行った。

「いてて……あいつ、容赦ねぇなぁ」

 ていうか、俺のこの整った顔を冗談扱いするの、アイツだけなんだけど……。

 と苦笑いするフェルに、私はやれやれと肩を竦める。

「ミーティアにあんなこと言えば、打たれるのは分かってたんじゃない? なのにどうしてあんなこと言ったの?」

 聞けばフェルは、「だってアイツ、揶揄うと面白いから……。他国に行ったら暫くアイツで遊べなくなるし、最後に遊んでおいても良いだろう?」と言って、ニッと笑った。

「……ねぇフェル、ミーティアに告白しないの?」

 思わず私の口からそんな疑問が漏れた途端、驚きのあまり大きく目を見開くフェル。

「ははははあ⁉︎ おお俺が好きなのはユリアだって言っただろ⁉︎  じじ冗談はやめろよな!」

 必死に誤魔化しているけれど、吃りすぎてバレバレだし、普段は人を食ったような顔をしているフェルが、真っ赤な顔をしている。それだけで彼の本心は分かりすぎるぐらい分かってしまうのに、どうして私を好きだという嘘まで吐いて誤魔化そうとするのかが分からない。

「レスターとミーティアが一緒に他国へ行って、万が一にもくっついちゃったらどうするつもり?」

 ミーティアを好きなフェルにとって、今、一番の懸念点であるだろう問題を持ち出し、尋ねてみる。

 腐ってもフェルは公爵家の三男だし、男爵令嬢であるミーティアとは、身分差もあって結ばれることは容易でないと知っているけれど、それでも。大好きな二人が上手くいってくれるなら、それ以上に嬉しいことはないと思うから。

 ……まあ、肝心のミーティアの気持ちがよく分からないというのが、問題であるといえば問題ではあるのだけれど。

 ミーティアの去って行った方角へと視線をやり、それからフェルの顔をもう一度見ると、彼はばつが悪そうに頬を掻きながらこう言った。

「まぁ……半年? だし、パルマークの奴も一緒に行かせるから大丈夫だろ」





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