【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
72 / 90

72 三人一緒

しおりを挟む
 レスターに他国での治療をフェルが受け入れさせた週明け──パルマーク様が一ヶ月ぶりに学園へと復帰した。

 今回起きた事件の渦中にいる人物、且つ王太子殿下やレスターがいないため、詳しい事情を知るのは彼だけということで、学生達がもの凄い勢いで群がっている。

 あの日何があったのか──とか、王太子殿下やレスターはどうして学園に来ないのか──とか、とにかくみんながみんな好き勝手に質問を口にしていて、パルマーク様はまるで雪だるまのように頭だけを出した状態で、周囲をたくさんの学生達に包囲され、歩くのも大変そうだ。

「や~……あれ、すげぇな。俺だったら絶対もみくちゃにされてるわ」

 害の及ばない遠くの窓からパルマーク様と周囲を囲む集団を観察しつつ、フェルがブルっと全身を震わせる。

「そうね。パルマーク様は身体つきもガッシリしてるし、背も高いから何とかなってるけど、フェルだったらプチッと潰されてるでしょうね」

 なんて、冗談を言うミーティア。

 二人の会話に耳を傾けながら、私はレスターのところへパルマーク様と二人で向かった馬車の中──不意に抱きしめられ、熱い告白を受けたあの日のことを思い出していた。

 あの時の私は過去最大に動揺しながら、それでも抱きしめてくる彼の腕に、些細な抵抗を示した。

「……ごめんなさい、私……」

 決してパルマーク様が嫌だったわけじゃない。色々と親切にして下さるパルマーク様に、好意のようなものを抱いていたことは確かだ。けれどそれが、恋愛感情によるものかどうかが分からなかったから、受け入れることができなかった。

 パルマーク様に対する気持ちも、レスターに対する気持ちもハッキリしない有耶無耶な状態で、彼の優しさに縋るのは、卑怯なような気がしたから。

 だからこそ、私は今も送られてくるパルマーク様からの手紙に、彼の望む返答を送ることができないでいる。

 心というのは厄介なもので、いくら考えても簡単に答えなど出ないから。

 そのため、いつまでも待たせるのがあまりに申し訳なくて、一度だけ「ごめんなさい。気持ちの整理に時間がかかるため、暫くそっとしておいてください」と返信したのだけれど、それでも彼からの手紙が途絶えることはなかった。

「レスターを支える貴女を俺が支えたい」「俺は貴女を決して一人にしない」「いつ迄も待っている」など──それはもう、熱烈ともいえる内容のものが、今でも毎日届けられる。

 最近では家族まで「新しい婚約者候補か?」なんて言い出してしまい、手紙一つで外堀が埋められていっている感じが、しないでもない。

 そんな状態でも、自分の気持ちが伴わなければ安易に彼の気持ちに応えることはできないし、何よりレスターの「僕がいない間に、ユリアに別の婚約者ができたら嫌だ」発言も気にかかっていたりして、どうするのが正解なのか分からないでいるのが現状だ。

 もちろんパルマーク様の気持ちはとても嬉しいし、誠実そうな彼となら幸せになれるかもしれないと思わなくもないけれど、それでも。

 学園に入学するまでは、レスターだって誠実な人だったのだ。それが、学園に入学したというだけで、ああも変わってしまった。

 その前例があるからこそ、パルマーク様も何かの切っ掛けで変わってしまうかもしれない、と疑わずにはいられなくて。もしかしたらその気持ちのせいで、彼を受け入れられないのかも──と。

 そんな風に一人で考えごとに没頭していた私は、だから隣でヒソヒソ話されるフェルとミーティアの会話を、完全に聞き逃してしまっていた。

「ねぇフェル、レスターとパルマークが他国へ行ったら、ユリアは本当に心穏やかに暮らせるようになるの?」
「う~ん……正直それは本人次第のところがあるから、言い切るのは難しいっちゃ難しいんだが」
「ええ⁉︎ なにそれ⁉︎ ユリアが幸せに暮らせないなら、あたしレスター達と一緒に他国へなんて行きたくないんだけど⁉︎」
「だよなぁ……。ユリアはそもそも学園で『訳あり』呼ばわりされてるからな……。それを考えると、お前はもちろん、毎日毎日執着ヤバめのパルマークも、いないよりは残しておいた方が良かったかもしれねぇな……」
「えっ……パルマークが執着ヤバめってなに⁉︎」
「いや、アイツさ……毎日毎日ユリアに愛の手紙を送りつけてるらしくて……段々ストーカーっぽくなってきてるからさ、物理的に無理やり引き離すべく、レスターと一緒に他国へ行かせることにしたんだよな」
「ええぇ……そうなのかぁ……」

 パルマークも結構ヤバい人だったんだねぇ……と青くなるミーティアに、フェルディナントは優しい笑みを浮かべる。

「もういっそ、ユリアも一緒に連れてくか?」
「えっ⁉︎ そんなことできるの⁉︎」

 ミーティアの顔に一瞬喜びの表情が浮かんだのを、見逃すようなフェルディナントではない。

「ああ。俺の家の力を持ってすれば可能だ。……けど、もちろん俺たち以外にそのことは絶対に秘密だぞ。レスターやパルマークにもだ。分かったか?」
「うん、うん! 絶対秘密にする! やったぁぁぁ!」

 喜びのあまり、ついフェルディナントに抱き付いてしまったミーティアは──その瞬間にユリアと目が合い、真っ赤になってしゃがみ込んだのだった──。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。 誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。 無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。 ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。 「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。 アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。 そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜

水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」 効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。 彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。 だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。 彼に残した書き置きは一通のみ。 クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。 これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

処理中です...