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補足
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ミシェイルがカーライルへと見せつけたもの──それは、王太子である証となる指輪だった。
「なっ……馬鹿な!」
カーライルは大きく目を見開いてミシェイルの指に嵌められた指輪を凝視し、次いで同じ指輪が嵌まっているであろう自分の指へと目を向ける。
しかし──そこにあるべき指輪は、どこにも見当たらなかった。
「なんで……」
訳が分からず、カーライルはじっと自分の指を見つめながら呟く。
王宮を出る時には、確かに嵌めていたはずだ。何故なら部屋を抜け出すのにカーテンを掴んだ際、指輪が食い込んで痛みを感じたことを記憶しているから。
では、鉱山ではどうだった? あそこで原石掘りをさせられていた時、自分の指に指輪は嵌まっていただろうか?
「…………っ!」
そこまで考えた瞬間、カーライルは思い当たる出来事へと記憶が行き当たり、一気に顔色を青ざめさせた。
鉱山では、指輪を嵌めていた記憶が全くない。それどころか、ツルハシを握った時や、手を洗った時──指輪の感覚などまるでなかった。
「もしかして……鉱山に連れて行かれた時に、俺は指輪を奪われたということなのか……?」
自分が誰かに指輪を奪われたのだとしたら、その時しか考えられない。
何者かによって王宮から鉱山へと運ばれる際、自分は意識を失っていたはずだから。その時に指輪を抜き取られたのだとしたら、気付かなくても当然だろう。
「……だ、だからって、そんな騙しうちのようなことをして無理矢理指輪を奪ったところで、貴様なんかが王太子になれるはずが──」
そう、そのはずだ。
たとえ王太子の指輪が自分の指になかったとしても、この国の王太子は自分のはずで──。
そう言おうとしたのだが。
「残念。私はもう既に王太子の座についているのだよ」
男の告げた内容に、カーライルは二の句が継げなかった。
「え……お前が……王太子? え? なんで?」
分からない。情報が整理できない。
この国の王太子は自分であって、こんな男ではないはずなのに、どうして?
一体なにが、どうなっている?
混乱するカーライルに、ミシェイルはやれやれといったような目を向けた後、大仰に肩を竦めてこう言った。
「つくづく貴様のような男が国王にならなくて良かったと私は思っているよ。貴様は謹慎期間中に王宮から抜け出したことにより廃太子され、その後の言動、行動により廃嫡となった。故に私が貴様に代わり王太子を拝命したというわけだ」
「嘘だ!」
それについて、カーライルはすぐさま批判の声を上げた。
そんなの嘘だ。そんなはずはない。
だって自分は王太子だ。小説の世界では、廃太子などにならなかった。
王太子という立場のまま、ずっと幸せに暮らせたはずだ。
「嘘だ嘘だ嘘だ! 王太子は俺だ! お前なんかが王太子になれるはずがない!」
気持ちのままに叫ぶも、返されたのは冷ややかな視線で。
「……精神年齢がお子様すぎて話にならんな。……おい、そいつをさっさと指定された場所へ捨ててこい。これ以上私の大切な時間をそんな男に費やすのは惜しいのでな」
「了解しました」
その言葉を受け、ミシェイルの後ろから現れた衛兵達が、即座にカーライルを取り押さえてくる。
「なっ、なんだお前達⁉︎ 俺は王太子だぞ? 離せ!」
こんな理不尽な仕打ちは納得できないと喚き、暴れるも、一対多数の上、子供対大人というほどの体格差。
抵抗むなしくカーライルは、問答無用で馬車に押し込まれると、平民街へ運ばれて行ったのだった。
「なっ……馬鹿な!」
カーライルは大きく目を見開いてミシェイルの指に嵌められた指輪を凝視し、次いで同じ指輪が嵌まっているであろう自分の指へと目を向ける。
しかし──そこにあるべき指輪は、どこにも見当たらなかった。
「なんで……」
訳が分からず、カーライルはじっと自分の指を見つめながら呟く。
王宮を出る時には、確かに嵌めていたはずだ。何故なら部屋を抜け出すのにカーテンを掴んだ際、指輪が食い込んで痛みを感じたことを記憶しているから。
では、鉱山ではどうだった? あそこで原石掘りをさせられていた時、自分の指に指輪は嵌まっていただろうか?
「…………っ!」
そこまで考えた瞬間、カーライルは思い当たる出来事へと記憶が行き当たり、一気に顔色を青ざめさせた。
鉱山では、指輪を嵌めていた記憶が全くない。それどころか、ツルハシを握った時や、手を洗った時──指輪の感覚などまるでなかった。
「もしかして……鉱山に連れて行かれた時に、俺は指輪を奪われたということなのか……?」
自分が誰かに指輪を奪われたのだとしたら、その時しか考えられない。
何者かによって王宮から鉱山へと運ばれる際、自分は意識を失っていたはずだから。その時に指輪を抜き取られたのだとしたら、気付かなくても当然だろう。
「……だ、だからって、そんな騙しうちのようなことをして無理矢理指輪を奪ったところで、貴様なんかが王太子になれるはずが──」
そう、そのはずだ。
たとえ王太子の指輪が自分の指になかったとしても、この国の王太子は自分のはずで──。
そう言おうとしたのだが。
「残念。私はもう既に王太子の座についているのだよ」
男の告げた内容に、カーライルは二の句が継げなかった。
「え……お前が……王太子? え? なんで?」
分からない。情報が整理できない。
この国の王太子は自分であって、こんな男ではないはずなのに、どうして?
一体なにが、どうなっている?
混乱するカーライルに、ミシェイルはやれやれといったような目を向けた後、大仰に肩を竦めてこう言った。
「つくづく貴様のような男が国王にならなくて良かったと私は思っているよ。貴様は謹慎期間中に王宮から抜け出したことにより廃太子され、その後の言動、行動により廃嫡となった。故に私が貴様に代わり王太子を拝命したというわけだ」
「嘘だ!」
それについて、カーライルはすぐさま批判の声を上げた。
そんなの嘘だ。そんなはずはない。
だって自分は王太子だ。小説の世界では、廃太子などにならなかった。
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「嘘だ嘘だ嘘だ! 王太子は俺だ! お前なんかが王太子になれるはずがない!」
気持ちのままに叫ぶも、返されたのは冷ややかな視線で。
「……精神年齢がお子様すぎて話にならんな。……おい、そいつをさっさと指定された場所へ捨ててこい。これ以上私の大切な時間をそんな男に費やすのは惜しいのでな」
「了解しました」
その言葉を受け、ミシェイルの後ろから現れた衛兵達が、即座にカーライルを取り押さえてくる。
「なっ、なんだお前達⁉︎ 俺は王太子だぞ? 離せ!」
こんな理不尽な仕打ちは納得できないと喚き、暴れるも、一対多数の上、子供対大人というほどの体格差。
抵抗むなしくカーライルは、問答無用で馬車に押し込まれると、平民街へ運ばれて行ったのだった。
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