【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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 平民街の中でも、富裕層にいる者達が集まる区画に、カーライルを乗せた馬車は止まった。

 周囲を高い塀に囲まれ、敷地としては広すぎるほどに広い場所ではあるが、その中心に建つ家は小さい平屋の一軒家だ。

 衛兵達はそこにカーライルを押し込むと、手近にあった椅子へと彼を縛り付けた。

「なっ、何をする⁉︎ ほどけ!」

 これほどのことをされても偉そうに喚くカーライルに、衛兵達は揃って呆れたような視線を向ける。

 服は平民のものを着せられ、王太子としての指輪も取り上げられたばかりか、新即位した王太子殿下にハッキリと廃嫡を告げられたというのに、何故こうも自分の立場を理解しないのか。

 元王太子の今後の暮らし方について、素直に話を聞かないだろうと思ったから彼を椅子へと縛り付けたが、この状態では言ったところで無駄かもしれない、という思いが衛兵達の間に広がった。

「……元王太子殿、我らの話を聞く気はありますか?」

 それでも一応確認だけはしておこうと、隊長らしき男がカーライルへと声を掛ける。

 しかしカーライルは、ふんと鼻息を吐き出しながら顔を逸らせると、「どうして俺がお前達のような者共の話を聞かねばならないんだ?」と撥ねつけた。

 やはりか……。

 途端に、失望にも、諦めにも似た雰囲気が、その場にいた衛兵達から発せられる。

 これではもう、うつ手がない。何を言ったところで、元王太子は受け入れないだろう。

 つい先ほどミシェイルの言った『こんな男が国王にならなくて良かった』という言葉が、彼らの頭の中で反芻される。

 本当にその通りだ。このような他人の話を聞かぬ男が国王になどなっていたら、この国は終わっていたかもしれない。

 そう考えると、今回やらかしてくれて良かったと、衛兵達は心の底から思わずにはいられなかった。

「そうですか……分かりました」

 となれば、あとは帰るだけだ。

 話を聞く気のない平民に、いつまでも拘っているほど衛兵は暇ではない。共に連れて来ていた侍女と護衛に目配せをすると、衛兵達は揃って踵を返した。

「おっ、おい貴様ら! 主人を置いてどこへ行く気だ!?」

 一、二本足を踏み出した途端に、背後から焦ったように声をかけられたが、「私達が従うべきは王太子殿下であり、廃嫡された貴方ではありません」と告げると、彼等はその後いくらカーライルが喚こうとも足を止めることなく、その場を辞したのだった。
 





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