86 / 90
補足
6
しおりを挟む
平民街の中でも、富裕層にいる者達が集まる区画に、カーライルを乗せた馬車は止まった。
周囲を高い塀に囲まれ、敷地としては広すぎるほどに広い場所ではあるが、その中心に建つ家は小さい平屋の一軒家だ。
衛兵達はそこにカーライルを押し込むと、手近にあった椅子へと彼を縛り付けた。
「なっ、何をする⁉︎ ほどけ!」
これほどのことをされても偉そうに喚くカーライルに、衛兵達は揃って呆れたような視線を向ける。
服は平民のものを着せられ、王太子としての指輪も取り上げられたばかりか、新即位した王太子殿下にハッキリと廃嫡を告げられたというのに、何故こうも自分の立場を理解しないのか。
元王太子の今後の暮らし方について、素直に話を聞かないだろうと思ったから彼を椅子へと縛り付けたが、この状態では言ったところで無駄かもしれない、という思いが衛兵達の間に広がった。
「……元王太子殿、我らの話を聞く気はありますか?」
それでも一応確認だけはしておこうと、隊長らしき男がカーライルへと声を掛ける。
しかしカーライルは、ふんと鼻息を吐き出しながら顔を逸らせると、「どうして俺がお前達のような者共の話を聞かねばならないんだ?」と撥ねつけた。
やはりか……。
途端に、失望にも、諦めにも似た雰囲気が、その場にいた衛兵達から発せられる。
これではもう、うつ手がない。何を言ったところで、元王太子は受け入れないだろう。
つい先ほどミシェイルの言った『こんな男が国王にならなくて良かった』という言葉が、彼らの頭の中で反芻される。
本当にその通りだ。このような他人の話を聞かぬ男が国王になどなっていたら、この国は終わっていたかもしれない。
そう考えると、今回やらかしてくれて良かったと、衛兵達は心の底から思わずにはいられなかった。
「そうですか……分かりました」
となれば、あとは帰るだけだ。
話を聞く気のない平民に、いつまでも拘っているほど衛兵は暇ではない。共に連れて来ていた侍女と護衛に目配せをすると、衛兵達は揃って踵を返した。
「おっ、おい貴様ら! 主人を置いてどこへ行く気だ!?」
一、二本足を踏み出した途端に、背後から焦ったように声をかけられたが、「私達が従うべきは王太子殿下であり、廃嫡された貴方ではありません」と告げると、彼等はその後いくらカーライルが喚こうとも足を止めることなく、その場を辞したのだった。
周囲を高い塀に囲まれ、敷地としては広すぎるほどに広い場所ではあるが、その中心に建つ家は小さい平屋の一軒家だ。
衛兵達はそこにカーライルを押し込むと、手近にあった椅子へと彼を縛り付けた。
「なっ、何をする⁉︎ ほどけ!」
これほどのことをされても偉そうに喚くカーライルに、衛兵達は揃って呆れたような視線を向ける。
服は平民のものを着せられ、王太子としての指輪も取り上げられたばかりか、新即位した王太子殿下にハッキリと廃嫡を告げられたというのに、何故こうも自分の立場を理解しないのか。
元王太子の今後の暮らし方について、素直に話を聞かないだろうと思ったから彼を椅子へと縛り付けたが、この状態では言ったところで無駄かもしれない、という思いが衛兵達の間に広がった。
「……元王太子殿、我らの話を聞く気はありますか?」
それでも一応確認だけはしておこうと、隊長らしき男がカーライルへと声を掛ける。
しかしカーライルは、ふんと鼻息を吐き出しながら顔を逸らせると、「どうして俺がお前達のような者共の話を聞かねばならないんだ?」と撥ねつけた。
やはりか……。
途端に、失望にも、諦めにも似た雰囲気が、その場にいた衛兵達から発せられる。
これではもう、うつ手がない。何を言ったところで、元王太子は受け入れないだろう。
つい先ほどミシェイルの言った『こんな男が国王にならなくて良かった』という言葉が、彼らの頭の中で反芻される。
本当にその通りだ。このような他人の話を聞かぬ男が国王になどなっていたら、この国は終わっていたかもしれない。
そう考えると、今回やらかしてくれて良かったと、衛兵達は心の底から思わずにはいられなかった。
「そうですか……分かりました」
となれば、あとは帰るだけだ。
話を聞く気のない平民に、いつまでも拘っているほど衛兵は暇ではない。共に連れて来ていた侍女と護衛に目配せをすると、衛兵達は揃って踵を返した。
「おっ、おい貴様ら! 主人を置いてどこへ行く気だ!?」
一、二本足を踏み出した途端に、背後から焦ったように声をかけられたが、「私達が従うべきは王太子殿下であり、廃嫡された貴方ではありません」と告げると、彼等はその後いくらカーライルが喚こうとも足を止めることなく、その場を辞したのだった。
569
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる