【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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 ああ、腹が減った……。

 平民街へと追いやられて既に二ヶ月──カーライルは、おぼつかない足取りで街中を歩いていた。

 最初の頃は、自分が平民になったなど信じられず、悪い冗談だと思い、何度も王宮へと立ち戻った。

 しかし、王宮の門扉は決して彼に開かれることはなく、いつ行っても門前払いを繰り返された。

 その度に馬車を使ったせいで高額な金銭を要求され、最初こそ哀れに思った門番達が支払いをしてくれていたが、回数を重ねるうち「これ以上は勘弁してください」と言われ、それもしてもらえなくなった。

 仕方なく自分の手持ちから支払ったが、そのせいで一週間分の食費──侍女換算──が消し飛んだ。

 自分がそんな思いをしてまで王宮に通っているのに、何故中へ入れてくれないのか。王太子である自分にこんなことをして、無礼だと思わないのか。

 いくらそう訴えてみても、門番達は顔を見合わせて肩を竦めるばかりで。

 仕方なく平民街の家まで歩いて戻り、食事の内容が貧相すぎると侍女に文句を言えば「どこかの誰かさんが無駄に王宮などへ馬車を使って行くから、そのせいで生活費が足りないんです」と睨まれた。

 馬車を使って王宮へ行って何が悪い? 自分の住む場所は王宮のはずで、こんな見窄らしい家ではないのだから、当然だろう?

 とカーライルは言い返したかったが、連日のように王宮へ入れずに追い返されている今、さすがにそれを口にすることは憚られた。

「やることがないのなら、どっかで働き口でも探して来てもらえませんかね? 陛下から餞別代わりにいただいた金銭も、無限にあるわけではありませんので」 

 そう侍女に冷たく言われ、「何故王太子である俺が働き口など──」と反論しようとしたら、彼女の背後にいた護衛の男と視線が合い、その瞳の冷たさに、思わず言葉を飲み込んだ。

 護衛の男は、自分のためにつけられたのだと思っていたが、どうやら侍女を守るためにいるらしいということは、今の家に暮らし始めてすぐに分かった。

 まだ平民街で暮らし始めて間もない頃──王宮から追い出されたこと、平民街での貧しい暮らし、質素な食事に洗濯や掃除など──王太子であった頃とは真逆の生活に苛立ち、つい侍女に手をあげようとした瞬間、護衛の男に横っ面を張り飛ばされたからだ。

「…………っ!」

 男の力は強く、カーライルは殴られた衝撃で吹っ飛ばされて、家の壁に背中から激突した。
 
 あの時の痛みは今でも忘れられない。

 寧ろ、鉱山で暴力を振るわれた時のことを思い出し、男に恐怖心すら抱くようになってしまった。

 そのため逃げるようにして家を出てきたのだが──真面目に働く気など、カーライルにあるわけがなかった。
 

 


 
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