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補足
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俺が平民に混じって働く? 冗談だろ……。
街中を歩きながら周囲を見回し、簡素な服装の平民達に、カーライルは蔑むような視線を向ける。
コイツらは生まれた時から平民であり、王太子に転生できた自分とは、そもそもの『格』が違う。なのにどうして自分がこんな者達に混じって働かなければならない? 一体どこで間違えたんだ?
考えてみても、小説を走り読みしただけのカーライルには、どこであらすじが変わったのかなんて分からない。それだけでなく、あらすじ内に現在の出来事が含まれているのかいないのかすら、知ることができないのだ。
しかも、内容を詳しく知らないからこそ、未だ希望を捨て去ることもできずにいる。
今はこうして平民に混じって暮らしているが、どこかで城に戻るタイミングがあるはずなんだ……。
もう既にそんなものはないのだが、小説の最後で王太子が幸せになる未来は、約束された絶対条件としてカーライルの心の中に深く根付いてしまっているものだから、タチが悪い。
ここは小説内の世界なんだから、王太子である自分は必ず幸せになれるはずだ。その相手がヒロインかユリアであるかが違うだけで……。
王太子の資格はとっくに剥奪されているというのに、そのことを理解せず、今なお小説通りの幸せが自分に訪れると信じて疑ってもいない。
ある意味幸せな思考回路をしており、ある意味前向きと捉えられないこともないのだが。いかんせん、どうしたって腹は減るわけで。
果物の匂いに釣られ、たくさんの果物が積まれた屋台に引き寄せられるかのように近づけば、そこにいた女性に声をかけられた。
「あんた、最近引っ越してきた若者だろ? 詳しい事情は知らないけど、見るからに痩せて不健康そうだねぇ……」
じろじろと観察するような視線で見られ、カーライルは露骨に嫌な顔をする。
なんだ、こいつ? 不敬だぞ。
感じた不快感と共に、そう言葉にしようとするも、女性が差し出してきた果物を見た途端、口を噤んだ。
「お金はいいから、これ、持っておいき。若者は栄養を取らなきゃね」
何日ぶりどころか、何週間かぶりになる果物を前にし、カーライルはゴクリと唾を飲み込む。
欲望の赴くまま、それを手に取ろうとして──「美味しかったら、次は買いに来ておくれよ」の言葉に、ピタリと動きを止めた。
「…………は?」
俺が果物を買う? 何故だ?
平民のこいつらが王太子である俺に無償で食い物を渡すのは、当たり前なんじゃないのか?
そんな考えに支配され、果物を掴む寸前で手を止めたまま、カーライルは考えに耽る。
しかし、果物を差し出した女性は当然目の前の若者がそんなことを考えているとは思わず、半ば押し付けるようにして彼の手に果物を握らせた。
「ほら、美味しいよ!」
だが──カーライルはそこで、暴挙に出た。
「ふざけるな!」
と叫ぶと同時に、渡された果物を地面へと叩きつけたのだ。
「私は王太子だぞ! 貴様と私では立場というものが全く違う。それを弁えて口をきくが良い!」
街中を歩きながら周囲を見回し、簡素な服装の平民達に、カーライルは蔑むような視線を向ける。
コイツらは生まれた時から平民であり、王太子に転生できた自分とは、そもそもの『格』が違う。なのにどうして自分がこんな者達に混じって働かなければならない? 一体どこで間違えたんだ?
考えてみても、小説を走り読みしただけのカーライルには、どこであらすじが変わったのかなんて分からない。それだけでなく、あらすじ内に現在の出来事が含まれているのかいないのかすら、知ることができないのだ。
しかも、内容を詳しく知らないからこそ、未だ希望を捨て去ることもできずにいる。
今はこうして平民に混じって暮らしているが、どこかで城に戻るタイミングがあるはずなんだ……。
もう既にそんなものはないのだが、小説の最後で王太子が幸せになる未来は、約束された絶対条件としてカーライルの心の中に深く根付いてしまっているものだから、タチが悪い。
ここは小説内の世界なんだから、王太子である自分は必ず幸せになれるはずだ。その相手がヒロインかユリアであるかが違うだけで……。
王太子の資格はとっくに剥奪されているというのに、そのことを理解せず、今なお小説通りの幸せが自分に訪れると信じて疑ってもいない。
ある意味幸せな思考回路をしており、ある意味前向きと捉えられないこともないのだが。いかんせん、どうしたって腹は減るわけで。
果物の匂いに釣られ、たくさんの果物が積まれた屋台に引き寄せられるかのように近づけば、そこにいた女性に声をかけられた。
「あんた、最近引っ越してきた若者だろ? 詳しい事情は知らないけど、見るからに痩せて不健康そうだねぇ……」
じろじろと観察するような視線で見られ、カーライルは露骨に嫌な顔をする。
なんだ、こいつ? 不敬だぞ。
感じた不快感と共に、そう言葉にしようとするも、女性が差し出してきた果物を見た途端、口を噤んだ。
「お金はいいから、これ、持っておいき。若者は栄養を取らなきゃね」
何日ぶりどころか、何週間かぶりになる果物を前にし、カーライルはゴクリと唾を飲み込む。
欲望の赴くまま、それを手に取ろうとして──「美味しかったら、次は買いに来ておくれよ」の言葉に、ピタリと動きを止めた。
「…………は?」
俺が果物を買う? 何故だ?
平民のこいつらが王太子である俺に無償で食い物を渡すのは、当たり前なんじゃないのか?
そんな考えに支配され、果物を掴む寸前で手を止めたまま、カーライルは考えに耽る。
しかし、果物を差し出した女性は当然目の前の若者がそんなことを考えているとは思わず、半ば押し付けるようにして彼の手に果物を握らせた。
「ほら、美味しいよ!」
だが──カーライルはそこで、暴挙に出た。
「ふざけるな!」
と叫ぶと同時に、渡された果物を地面へと叩きつけたのだ。
「私は王太子だぞ! 貴様と私では立場というものが全く違う。それを弁えて口をきくが良い!」
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