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補足
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カーライルの大声に、辺りはしん──と静まりかえった。
驚き、固まっている平民達を見て、カーライルはどうだ、とばかりに、ふん、と鼻を鳴らす。
そのうえで、地面に投げつけたものとは別の果物に手を伸ばそうとして──先程の女性に、強い力で手首を捻りあげられた。
「いっ、いたたたっ! 貴様、何をする⁉︎」
なんとか手を振り払って逃れるも、鬼のような形相をした女性と目があい、カーライルは思わず後退りする。
な、なんだ、この女は? どうしてこのような目で俺を睨みつけてくるんだ?
不思議に思うも、まさかそれが自分が地面に投げつけた果物のせいだとは、つゆほども気付かない。
「き……貴様、私に対して不敬だっ……!」
「不敬だぞ」と言おうとしたところで何者かに突き飛ばされ、カーライルは無様にも尻もちをついてしまった。
「だっ、誰だっ!」
怒りのままに声を上げるも、返事をする者はいない。それどころか、数人に周囲を取り囲まれた。
自分を取り囲んでいる平民達は、皆一様に怒った顔をしている。
この状況は、不味いのではないか?
基本お気楽極楽なカーライルも、流石にそう思った。
手首を捻りあげられ、突き飛ばされ、周囲を囲まれ──この状況で無事ですむと思えるほど、お花畑の住人ではなかったからだ。
「お、お前達、私は王太子──」
「てめぇは王太子なんかじゃねぇだろうが!」
肩に強い衝撃を感じた刹那、カーライルは仰向けに倒れた。
肩を蹴られたのだと理解する間もなく、我が身に迫る幾つもの靴裏が目に飛び込んできて──。咄嗟に頭を庇うように身体を丸めるも、平民達は容赦なかった。
「せっかく食いもんを恵んでやろうと思ったのに、勿体ないことしやがってよぉ!」
「なにが王太子だ。ただの頭のイカれたガキじゃねぇか」
「でも本物の王太子ってのも、頭がイカれてたんだろ? 優秀な側近候補を自分勝手な理由で再起不能にしたとかなんとか……」
「じゃあコイツ、本当に王太子だったりして⁉︎」
「どっちにしろ『元』だけどな!」
各々好き勝手なことを言い、笑いながらカーライルを足蹴にしてくる。
違う……。俺は頭がイカれてなんかない。
俺は、小説の通りに行動したはずで……だから、何も間違ってなんかなくて……。
自分に言い聞かせるかのように内心で繰り返すも、少しずつ──本当に少しずつだが、カーライルの中に疑いが生まれてきていた。
俺は……本当に正しかったのか? あそこでレスターを瀕死にしたのは、小説通りだったといえるのか……?
小説の最後の場面で、ヒロインを奪い合い戦った、王太子とレスター。
けれど自分がレスターを叩きのめしたあの時、ユリアを取り合ったりなどはしていなくて。
どう考えても、小説とは異なる時期、異なる展開。それでも最後は小説通りになると思い、今までなんの不安も抱いてはいなかったが。
もしかして俺は、どうしようもない間違いを犯したんじゃ……。
その時初めて、そう──思った。
驚き、固まっている平民達を見て、カーライルはどうだ、とばかりに、ふん、と鼻を鳴らす。
そのうえで、地面に投げつけたものとは別の果物に手を伸ばそうとして──先程の女性に、強い力で手首を捻りあげられた。
「いっ、いたたたっ! 貴様、何をする⁉︎」
なんとか手を振り払って逃れるも、鬼のような形相をした女性と目があい、カーライルは思わず後退りする。
な、なんだ、この女は? どうしてこのような目で俺を睨みつけてくるんだ?
不思議に思うも、まさかそれが自分が地面に投げつけた果物のせいだとは、つゆほども気付かない。
「き……貴様、私に対して不敬だっ……!」
「不敬だぞ」と言おうとしたところで何者かに突き飛ばされ、カーライルは無様にも尻もちをついてしまった。
「だっ、誰だっ!」
怒りのままに声を上げるも、返事をする者はいない。それどころか、数人に周囲を取り囲まれた。
自分を取り囲んでいる平民達は、皆一様に怒った顔をしている。
この状況は、不味いのではないか?
基本お気楽極楽なカーライルも、流石にそう思った。
手首を捻りあげられ、突き飛ばされ、周囲を囲まれ──この状況で無事ですむと思えるほど、お花畑の住人ではなかったからだ。
「お、お前達、私は王太子──」
「てめぇは王太子なんかじゃねぇだろうが!」
肩に強い衝撃を感じた刹那、カーライルは仰向けに倒れた。
肩を蹴られたのだと理解する間もなく、我が身に迫る幾つもの靴裏が目に飛び込んできて──。咄嗟に頭を庇うように身体を丸めるも、平民達は容赦なかった。
「せっかく食いもんを恵んでやろうと思ったのに、勿体ないことしやがってよぉ!」
「なにが王太子だ。ただの頭のイカれたガキじゃねぇか」
「でも本物の王太子ってのも、頭がイカれてたんだろ? 優秀な側近候補を自分勝手な理由で再起不能にしたとかなんとか……」
「じゃあコイツ、本当に王太子だったりして⁉︎」
「どっちにしろ『元』だけどな!」
各々好き勝手なことを言い、笑いながらカーライルを足蹴にしてくる。
違う……。俺は頭がイカれてなんかない。
俺は、小説の通りに行動したはずで……だから、何も間違ってなんかなくて……。
自分に言い聞かせるかのように内心で繰り返すも、少しずつ──本当に少しずつだが、カーライルの中に疑いが生まれてきていた。
俺は……本当に正しかったのか? あそこでレスターを瀕死にしたのは、小説通りだったといえるのか……?
小説の最後の場面で、ヒロインを奪い合い戦った、王太子とレスター。
けれど自分がレスターを叩きのめしたあの時、ユリアを取り合ったりなどはしていなくて。
どう考えても、小説とは異なる時期、異なる展開。それでも最後は小説通りになると思い、今までなんの不安も抱いてはいなかったが。
もしかして俺は、どうしようもない間違いを犯したんじゃ……。
その時初めて、そう──思った。
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