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精神科医フリードリヒ・リンネの憂鬱その2 (2)
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「はぁぁぁ」
ああ、これは、だめだ。説明が全く頭に入ってこない。史上最憂鬱な金曜の午後に、大きなため息が一つ。
「2次解析完了。患者の容態は極めて安定かつ健常。精神障害をトリガーする特定の疾患も見られず、国際規定値以上の魔法曝露も見られない。緊急性レベルを緑に下方修正。なお、患者は診察を希望している模様。間も無く到着するとのことです」
「…相変わらずガバガバの急患AIめ!ほとんど無傷なら歩いて来させろっての!医療リソースは有限なんだぞ!」
「AIを目の前にして他のAIの悪口を言うのは、ブーヘンヴァルト条約の第9条AI人権予備規定に抵触する可能性があります。ハラスメントですからお辞めになった方が賢明です」
「うるさい!正当な批判だ!どうして自動車事故で搬送された患者───しかも無傷の奴を精神科に転送するのか!?しかもまた転生だ何だと抜かしやがるし…」
「来たようです」
診療室直通のエレベーターはまだ精神2科のある42階まで登ってきていないのに、何やら35階あたりからガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてきて、だんだん大きくなる。エレベーターが42階に近づくほどに、やかましくなっていく。
「覚悟決めてください。あなたはお医者さんなんですから」
「…わかってるよ、ちくしょう…」
エレベーターのドアが開いた。
「いやいや…そんなわけ……」
「本当なんです!!俺は元々男で…」
「だいぶ強く頭打ったみてえだな…ちゃんと診てもらえよ?」
「…だから~~~!……はっ!」
何やら騒いでいる少女が患者らしい。相手してやってたホムンクルスの方は呆れ顔だ。エレベーターのドアが開いてやっと到着したことに気づいた模様で、慌てて廊下を抜け診療室に入ってくる。
「わわ、す、すいません!!」
「落ち着いてください。ひとまずはお怪我がなかったようで安心です。緊急搬送でごたついたため、各種手続きが済んでいません。ひとまず身分証明書はお持ちでしょうか」
「…すみません、多分持ってないです…というか、あっても役に立たないというか…」
「では、あなたは憂沼姫華さんで間違いありませんか?」
「……だから知りませんっ!…誰ですか…!?」
ユーオーディアは何食わぬ顔のまま、事故現場から転送されてきたデータの一部をスクリーンに映した。
「これが、現場から回収した運転免許証です。名義は憂沼姫華。横にあなたのものと思しき顔写真が写っています」
「……か、っk、k、鏡く、ください」
動揺しすぎだろう。自分の名前も思い出せないくらいなのに、本当にどこも悪くないのか…?そもそもどこも悪くないなら病院にかかるなっての。ユーオーディアが鏡を差し出すと、少女はひったくるように鏡を手に取った。
「ああああ………」
鏡を見るなり、膝から崩れ落ちる少女。地面に手をついて小刻みに震えている。色々複雑なお年頃だから……というわけでもなさそうだ。次に飛び出してくる言葉が怖くてしょうがない。
「……あの、信じてもらえるかわからないですけど、男なんですよ、俺…」
「申し訳ございません。自認は自由ですが、診断及び治療は生物学的性別に基づいて行われるのが規則となっております」
「…違うんです、そういうことじゃないんです!!」
……さて、一人称こそ「俺」で、性自認も男性だが、見た目はどこからどう見ても女子学生である。服装も男性に寄せているという印象もなく…おおよそ学校で強制させられるような格好でもない。グラデーションがかかった薄い水色の髪に、デコレーションの施された黒い眼帯。化粧は濃くはないが広範囲に及び、手が込んでいるといった印象。青系のアイシャドウに薄い青系の口紅。耳についた大量の星形ピアスはなかなか重そうで、制服は水色を基調に大幅アレンジされている。その他アクセサリーもじゃらじゃら付いていて…まとめると、俺からするとかなり、怖い。焼きそばパン買って来いとか言ってきそうなオラつきと、怒ったときは躊躇なく殴ってきそうな危うさを感じる容貌である。その実在を確かめたことはないものの、いわゆる地雷系メイクというものだろうか。でもこの身なりの割には、俺が学生時代恐れ慄いていたような人種の、いわゆる『覇気や勝ち気からくる近寄り難さ』のようなものが全く感じられない。むしろ気弱そうに見える。目線は基本的に俺の膝を向いていて、時折キョロキョロ泳ぐ。人と目を合わせることが苦手だった学生時代の自分を見ているようで、多少心にくるものがあった。
「あのぉ!!!ぶっちゃけると、俺多分異世界に転生しちゃったみたいなんですけどぉ!!何とかならないですか……!!」
ふるふる震えながらも、力を振り絞って、さっきより数割増の大声でとんでもないことを叫ぶ少女。まあ、うん、そうなるか……
ああ、これは、だめだ。説明が全く頭に入ってこない。史上最憂鬱な金曜の午後に、大きなため息が一つ。
「2次解析完了。患者の容態は極めて安定かつ健常。精神障害をトリガーする特定の疾患も見られず、国際規定値以上の魔法曝露も見られない。緊急性レベルを緑に下方修正。なお、患者は診察を希望している模様。間も無く到着するとのことです」
「…相変わらずガバガバの急患AIめ!ほとんど無傷なら歩いて来させろっての!医療リソースは有限なんだぞ!」
「AIを目の前にして他のAIの悪口を言うのは、ブーヘンヴァルト条約の第9条AI人権予備規定に抵触する可能性があります。ハラスメントですからお辞めになった方が賢明です」
「うるさい!正当な批判だ!どうして自動車事故で搬送された患者───しかも無傷の奴を精神科に転送するのか!?しかもまた転生だ何だと抜かしやがるし…」
「来たようです」
診療室直通のエレベーターはまだ精神2科のある42階まで登ってきていないのに、何やら35階あたりからガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてきて、だんだん大きくなる。エレベーターが42階に近づくほどに、やかましくなっていく。
「覚悟決めてください。あなたはお医者さんなんですから」
「…わかってるよ、ちくしょう…」
エレベーターのドアが開いた。
「いやいや…そんなわけ……」
「本当なんです!!俺は元々男で…」
「だいぶ強く頭打ったみてえだな…ちゃんと診てもらえよ?」
「…だから~~~!……はっ!」
何やら騒いでいる少女が患者らしい。相手してやってたホムンクルスの方は呆れ顔だ。エレベーターのドアが開いてやっと到着したことに気づいた模様で、慌てて廊下を抜け診療室に入ってくる。
「わわ、す、すいません!!」
「落ち着いてください。ひとまずはお怪我がなかったようで安心です。緊急搬送でごたついたため、各種手続きが済んでいません。ひとまず身分証明書はお持ちでしょうか」
「…すみません、多分持ってないです…というか、あっても役に立たないというか…」
「では、あなたは憂沼姫華さんで間違いありませんか?」
「……だから知りませんっ!…誰ですか…!?」
ユーオーディアは何食わぬ顔のまま、事故現場から転送されてきたデータの一部をスクリーンに映した。
「これが、現場から回収した運転免許証です。名義は憂沼姫華。横にあなたのものと思しき顔写真が写っています」
「……か、っk、k、鏡く、ください」
動揺しすぎだろう。自分の名前も思い出せないくらいなのに、本当にどこも悪くないのか…?そもそもどこも悪くないなら病院にかかるなっての。ユーオーディアが鏡を差し出すと、少女はひったくるように鏡を手に取った。
「ああああ………」
鏡を見るなり、膝から崩れ落ちる少女。地面に手をついて小刻みに震えている。色々複雑なお年頃だから……というわけでもなさそうだ。次に飛び出してくる言葉が怖くてしょうがない。
「……あの、信じてもらえるかわからないですけど、男なんですよ、俺…」
「申し訳ございません。自認は自由ですが、診断及び治療は生物学的性別に基づいて行われるのが規則となっております」
「…違うんです、そういうことじゃないんです!!」
……さて、一人称こそ「俺」で、性自認も男性だが、見た目はどこからどう見ても女子学生である。服装も男性に寄せているという印象もなく…おおよそ学校で強制させられるような格好でもない。グラデーションがかかった薄い水色の髪に、デコレーションの施された黒い眼帯。化粧は濃くはないが広範囲に及び、手が込んでいるといった印象。青系のアイシャドウに薄い青系の口紅。耳についた大量の星形ピアスはなかなか重そうで、制服は水色を基調に大幅アレンジされている。その他アクセサリーもじゃらじゃら付いていて…まとめると、俺からするとかなり、怖い。焼きそばパン買って来いとか言ってきそうなオラつきと、怒ったときは躊躇なく殴ってきそうな危うさを感じる容貌である。その実在を確かめたことはないものの、いわゆる地雷系メイクというものだろうか。でもこの身なりの割には、俺が学生時代恐れ慄いていたような人種の、いわゆる『覇気や勝ち気からくる近寄り難さ』のようなものが全く感じられない。むしろ気弱そうに見える。目線は基本的に俺の膝を向いていて、時折キョロキョロ泳ぐ。人と目を合わせることが苦手だった学生時代の自分を見ているようで、多少心にくるものがあった。
「あのぉ!!!ぶっちゃけると、俺多分異世界に転生しちゃったみたいなんですけどぉ!!何とかならないですか……!!」
ふるふる震えながらも、力を振り絞って、さっきより数割増の大声でとんでもないことを叫ぶ少女。まあ、うん、そうなるか……
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