転生科医フリードリヒ・リンネの回顧録

蒼風信子

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精神科医フリードリヒ・リンネの憂鬱その3(3)

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「……えーと、ひとまず落ち着きましょう。事前に検査を受けていただきましたが、そちらは特に問題がありませんでした。今、気分が悪かったりはしますか?」
「いえ、全く。あ、いや…強いて言えば体が少しこそばゆいというか」
「…そうですか。では、今日はどのような件でご相談にいらっしゃいましたか?」
「…はい!さっき言った通り、転生です!!元の世界に帰る方法を探していて…」
「…ああ、はい、えぇぇ…と」


これでもう何人目なんだろう。カルテを打ち込む時、もう『転生』というワードがすぐ予測変換で出てくるようになってしまった。全く不思議なことだ。『転生してきたとかのたまう患者に会うことはないか?』と、同僚に何回か相談してみたことがあるが、一切ないと皆言い切る。なぜか俺だけその手の連中に絡まれる。なんで俺だけ…

…とりあえず、事実確認だけはしっかりやっておきたい。ユーオーディアに耳打ちをする。


「……おい、ユーオーディア。本当に魔法は脳に達してないんだよな?脳機能にも損傷はないんだよ な…?」
「はい、ありません。脳波も安定していますし、知能テスト・口頭コミュニケーション試験結果も正常です。現在もステルスで脳波測定をしていますが平均域からの逸脱は見られません。やはり転生者で間違い無いかと」
「ジョーク言ってる場合じゃ無いだろ!ったくもう…」



「あ、あの…」
「あ!いえ、お気になさらないで!そうですね…とりあえず、ここにくるまでの経緯を教えてもらえますか?」
「はい。と言っても…記憶がはっきりし始めたのが事故が起こった瞬間からで…それでもいいですか?」
「…ええ、構いませんよ」
「学校から帰る途中だったんです。あの時の俺も大概だったんですが、トラックに轢かれそうな猫を助けようとして…」
「高速道路で…?」
「…あ!いや、猫を助けようとしたのは一般道路です。トラックが来てたのに、あんまりにものんびり歩道を歩いてたものだから、つい飛び出しちゃって…そこで意識が途絶えて、目が覚めたら高速道路の真ん中だったんですよ。ほんと、おかしいですよね!!」
「ああ…はい、なるほどね…」
「それで、どうしようもなく路の真ん中で佇んでたら看護師の人が空からやってきて…緊急搬送されてきました」


とりあえず、事故ってからすぐにパトロール中の空挺救急巡視隊に発見されたってとこか。運が良かったな。それはさておき…



…どうしたものか。毎回のことながら診断と治療の糸口が見えない。検査装置は今朝メンテナンスしたばかりだったから、検査結果は正しいはず。でも、誰だって疑いたくなるだろ。二度見したくなるだろ。マシンが何と言おうが、あの話をそのまま飲み込める奴がどこにいる?俺はとても正気の人間だとは思えない。

…かといって、病気の人間のようでもない。開始点がやばすぎるが主張は一貫していてシンプルで、本来つながりのないものを強引に結びつけたりはしていない。心が参っているのかと言えば、そうでもなそうだ。自分の現状に悲観的になっているというより、ただただ自分の置かれている状況を理解できず戸惑っているだけ…に、見える。

でもさ…それでも、何の説明もないまま提示された「私は転生してきました」なんていう頓狂とんきょうな前提を、すでに俺と共有していると思い込むのはやめて欲しいんだが!転生は別に誰も疑いようのない事実じゃないぞ!!




「は…はあ、じゃあ今まで心が落ち着かなかったり、自分の心を制御できなかったりした経験は…?」
「ありません!身体におかしいところは…いや、何から何までおかしいんですが…とにかく、俺は正気です!悪いところはありません!!」


…じゃあなんで来たんだよ!!悪いところないなら病院くるな!!


「…じゃあなんで来たんだよっっ!!」
「…えっ……」
「あっ…」


まずい。現状があまりにも理解不能だったおかげで、脳内の切り替えスイッチがバグって、心の声が口からまろび出てしまった。何とか切り抜けないと…


「あ…!ええっとですね!その、タバコ!!タバコとかはやってませんかね───」
「………そう、ですよね。やっぱり信じられませんよね。俺だって何言えばいいかわかりませんし」
「あの、その…」



「ここに来れば、何かわかるって…思ってたんですけどね」
「ああ!!待って……!!」


少女は何かを諦めたような顔で、そのまま診療室を後にしてしまった。引き留めようもなかった。引き止めたって、俺がしてやれることは何一つない。でも俺が、彼ら転生者に何かしてやったことはあったか?解決できることはなかったか?もっと考えて、もっと準備していれば…
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