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精神科医フリードリヒ・リンネの憂鬱その5(5)
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「…ガラルディン、今日の午後1番の救急、酷かったぞ。緊急性がない時は無闇に救急を使わせるな」
「またうちのAIに文句か?救急担当の子はまだC齢。人間で言うところの中学生くらいの年齢なんだ。暖かく見守ってやれよ」
「何にしたってフィードバックはせんといかん。あのままでは救える命も救えない」
「無理言うなって!あの患者がどうしても診療受けたいって言うからお前の診療室に送ったんだぜ?つっぱねろってか?」
「検査結果が正常なら帰すべきだっただろ!病院を悪ふざけに使われちゃ困るんだよ!」
「…正常ねぇ……悪ふざけって言っても、あれが悪ふざけだったらとんだ役者だぞ。別に俺だってAIの診断を盲信してるわけじゃないの!だからお前に回したんだよ!」
「それは………」
それは…確かにそう思う。でも転生者だと認めてしまうのは違う。管理棟の受付担当で、AI技術者で、そして俺の大学同期であるガラルディンは、受付台に肘をついて言い放った。
「いやぁにしても、高尚な医療姿勢に感服するね。さすが、金も取らずにカルテも書きかけでその患者を帰しちゃったリンネ先生は言うことが違う!」
「今はそんな話は!してない……それに、俺は金を取るほどのこともやってない」
「お前さんの診療がどれだけ低質だろうと、AIも人間も稼働させるだけで金がかかるの。知ってるか?お前があの患者帰した後、ユーオーディアが料金立て替えてやってたんだぞ」
「…まじか!でも何故?」
「さあね。俺にゃわからん。でもあの娘に感謝してやれよ?お前の健康も心配してるみたいなんだぞ。最近残業ばっかだし…かといって学会活動も最近はやってないらしいじゃんか。どうしたんだよ。何か家に帰りたくない理由でもあるのか」
「…余計なお世話だよ」
AI管理センターを出たあと、結局酒を買った。酒なんて不味くて好きじゃなかったはずだけど、いつの間にか飲酒が日常の一部に組み込まれてやがる。いつからだっけな。忘れた。これも酒のせいかな。
にしても、ユーオーディアは俺に失望して帰ってしまったわけではなかったのか。まあ確かに、そんなのAIがやるにはあまりに感情的な行為だ。
つまり彼女(便宜的にそう呼んでおく)は、俺があの子を追いかけないことを見越して、診療費を確実に徴収するために自ら赴くほうが効率的・論理的だと演算したということか。でも、医療費を徴収したらすぐに帰ってきてもよかったのに、なんで早退したんだろう…
ああもう、やっぱり愛想尽かされてんじゃん。いや、もとよりAIに愛想なんてないか。
そんな色々なことを考えながら歩いていると、いつの間にか家の前だ。カップルがアパートのエレベーター前で戯れあっていたから、のそのそとした足取りで階段を登る。俺が帰ってくる時はなぜいつもエレベーター前にカップルがいるのか。俺を待ち伏せしているのか。俺を嘲笑ってそんなに楽しいか…いやまあ、そんなはずはないんだが。でも万が一、億に一つでもそんな企みがあったとしたら癪だし、第一あんなところに割って入ったら気まずいだけだから、階段を使うしかないんだよな。金曜の夜だってのに、全くワクワクしない。どうせくたばったように寝るだけなんだから、自由なようで不自由な週末だ。
…ああ、どうせなら転生してみたいな。だいぶ前に小説で読んだやつ。酒を気絶するまで呑んで、起きたら別の世界にいる、みたいな。大した努力もせずにイケメン有能になれて、都合よく俺のことを好きになってくれる可愛い女の子がどこからともなく出現して、持ち前の知性と判断力と、溢れんばかりの才能を駆使して社会の重要問題を容易く解決する、みたいな。きっと異世界転生が俺の人生の全ての問題を解決してくれる。異世界転生したら人生ウハウハに違いない。第一、本当に異世界転生した奴は精神科なんて来ないで、前世で培ったスキルを活用しまくって無双するに決まってるよなあ。本当に異世界転生してたら戻してくれなんて言わないよなあ。
……まあ、実際そんな酒の飲み方したら、数日後遺体で発見されるだけだろうけどな。家には誰もいないし。
痛い妄想をしていたらいつの間にか自分の部屋に着いていた。今週も色々あったなあ、特に今日。少なくとも来週はもっと穏やかな日々を送りたいもんだ。一応言っておくか。
「ただいm…」
『どがっっっっっっっっっ!!!!!』
指紋認証開閉式のドアノブを捻ったと思ったら、とてつもない勢いで金属製のドアが開いて、俺の顔面を強打した。
「~~~~~~~~!!!!」
「あ、お帰りなさい」
「痛ってえな!危うく異世界転生するところだったぞ!」
「何言ってるんですか」
「何ってそりゃ…」
「…………え?」
「早く上がってください。夕飯ができてますよ」
「あ、リンネさんお帰りなさい」
「ええええええ!?!?!?」
「またうちのAIに文句か?救急担当の子はまだC齢。人間で言うところの中学生くらいの年齢なんだ。暖かく見守ってやれよ」
「何にしたってフィードバックはせんといかん。あのままでは救える命も救えない」
「無理言うなって!あの患者がどうしても診療受けたいって言うからお前の診療室に送ったんだぜ?つっぱねろってか?」
「検査結果が正常なら帰すべきだっただろ!病院を悪ふざけに使われちゃ困るんだよ!」
「…正常ねぇ……悪ふざけって言っても、あれが悪ふざけだったらとんだ役者だぞ。別に俺だってAIの診断を盲信してるわけじゃないの!だからお前に回したんだよ!」
「それは………」
それは…確かにそう思う。でも転生者だと認めてしまうのは違う。管理棟の受付担当で、AI技術者で、そして俺の大学同期であるガラルディンは、受付台に肘をついて言い放った。
「いやぁにしても、高尚な医療姿勢に感服するね。さすが、金も取らずにカルテも書きかけでその患者を帰しちゃったリンネ先生は言うことが違う!」
「今はそんな話は!してない……それに、俺は金を取るほどのこともやってない」
「お前さんの診療がどれだけ低質だろうと、AIも人間も稼働させるだけで金がかかるの。知ってるか?お前があの患者帰した後、ユーオーディアが料金立て替えてやってたんだぞ」
「…まじか!でも何故?」
「さあね。俺にゃわからん。でもあの娘に感謝してやれよ?お前の健康も心配してるみたいなんだぞ。最近残業ばっかだし…かといって学会活動も最近はやってないらしいじゃんか。どうしたんだよ。何か家に帰りたくない理由でもあるのか」
「…余計なお世話だよ」
AI管理センターを出たあと、結局酒を買った。酒なんて不味くて好きじゃなかったはずだけど、いつの間にか飲酒が日常の一部に組み込まれてやがる。いつからだっけな。忘れた。これも酒のせいかな。
にしても、ユーオーディアは俺に失望して帰ってしまったわけではなかったのか。まあ確かに、そんなのAIがやるにはあまりに感情的な行為だ。
つまり彼女(便宜的にそう呼んでおく)は、俺があの子を追いかけないことを見越して、診療費を確実に徴収するために自ら赴くほうが効率的・論理的だと演算したということか。でも、医療費を徴収したらすぐに帰ってきてもよかったのに、なんで早退したんだろう…
ああもう、やっぱり愛想尽かされてんじゃん。いや、もとよりAIに愛想なんてないか。
そんな色々なことを考えながら歩いていると、いつの間にか家の前だ。カップルがアパートのエレベーター前で戯れあっていたから、のそのそとした足取りで階段を登る。俺が帰ってくる時はなぜいつもエレベーター前にカップルがいるのか。俺を待ち伏せしているのか。俺を嘲笑ってそんなに楽しいか…いやまあ、そんなはずはないんだが。でも万が一、億に一つでもそんな企みがあったとしたら癪だし、第一あんなところに割って入ったら気まずいだけだから、階段を使うしかないんだよな。金曜の夜だってのに、全くワクワクしない。どうせくたばったように寝るだけなんだから、自由なようで不自由な週末だ。
…ああ、どうせなら転生してみたいな。だいぶ前に小説で読んだやつ。酒を気絶するまで呑んで、起きたら別の世界にいる、みたいな。大した努力もせずにイケメン有能になれて、都合よく俺のことを好きになってくれる可愛い女の子がどこからともなく出現して、持ち前の知性と判断力と、溢れんばかりの才能を駆使して社会の重要問題を容易く解決する、みたいな。きっと異世界転生が俺の人生の全ての問題を解決してくれる。異世界転生したら人生ウハウハに違いない。第一、本当に異世界転生した奴は精神科なんて来ないで、前世で培ったスキルを活用しまくって無双するに決まってるよなあ。本当に異世界転生してたら戻してくれなんて言わないよなあ。
……まあ、実際そんな酒の飲み方したら、数日後遺体で発見されるだけだろうけどな。家には誰もいないし。
痛い妄想をしていたらいつの間にか自分の部屋に着いていた。今週も色々あったなあ、特に今日。少なくとも来週はもっと穏やかな日々を送りたいもんだ。一応言っておくか。
「ただいm…」
『どがっっっっっっっっっ!!!!!』
指紋認証開閉式のドアノブを捻ったと思ったら、とてつもない勢いで金属製のドアが開いて、俺の顔面を強打した。
「~~~~~~~~!!!!」
「あ、お帰りなさい」
「痛ってえな!危うく異世界転生するところだったぞ!」
「何言ってるんですか」
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「…………え?」
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「あ、リンネさんお帰りなさい」
「ええええええ!?!?!?」
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