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開闢令嬢その3(3)
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「ん……ここは…どこですの…」
「ようやく目覚めおったか。傘がなければ死んでおったぞ」
「……っは!私、教授を助けに穴へと身を投げたのでしたわ!教授は…?」
「死におった」
「ハァァアアア!? お塵をお噛みに!?」
「当然じゃ。あんな高いところから生身で落ちれば普通死ぬじゃろうが。まったく…ここは令嬢の高貴なる空間。田舎臭さが充満すれば逆に妾たちが死んでしまうわ」
「…?」
「…どうやら、其方は令嬢のなんたるかを知らないようじゃな」
「いかにも、妾こそ令嬢。其方らが探し求めていた高貴なる存在。伝承に伝わる超古代からの生存者じゃ。ここまで生きて辿り着けたことこそ、真の貴人の証。叶えられる限りの願いは叶えようぞ」
「…待って……くださるかしら?教授の死体は……?」
「はて、あんな田舎者に関心を寄せるとは、物好きと言うべきか悪趣味と取るべきか…」
「お黙りッッッ!!!!」
「……なに」
「…たしかに教授は頭にネジが何本か刺さって脳幹まで到達していらっしゃるかと思うほど、古今稀な常識大脱線レディではありましたが!!人間である以上は尊厳をもって弔われるべきでございましょ!?!?さっさと 亡骸をお出し…!!」
「…ふん、そこまで言うなら、ほれ」
「ぎゃああああああああ!!!!」
姫岡は覚悟していました。どんなグロテスクな状態のものが来るのか。腕の2本や3本、曲がるはずのない方向に曲がっていてもおかしくはないと。それでも姫岡は自らの手で、あの深刻イカレポンチの教授であろうと、できる限りの処置を施してあげようとしていたのです。姫岡のその覚悟は、意外なベクトルで裏切られました。
「…た、 田圃着!!」
「血まみれで倒れられていても不快なのでな、死化粧は済ませておいたのじゃ。しかしながら此奴は高貴なる令嬢の空間に煤けた足で転がり込んだ不届き者ぞ。死装束には田圃着がふさわしい。生き様同様、弔いもB級でなければならぬ」
「…だからって、死人の顔に本物の泥を塗りたくるというのは、あまりに…」
「…卒論、か?」
「…!!」
「心残りがあるのだな。人の子の心を読むなど妾には朝飯前じゃぞ。『卒論どうしよう───』と。そのような思いが其方の心をよぎった。悼むべき死人の前で其方は、弔いよりも己の損得を勘定に入れたのじゃ。まるでこの女の尊厳を守るようなフリをしての───」
「きょぉぉぉぉぉじゅぅぅぅぅ!!!!」
姫岡にはためらいがありませんでした。そう、ためらいなく───教授に 接吻をかましたのです。唇を介して息を一度、二度と吹き込み、心臓めがけて両手を高速で押し込み続けました。心肺蘇生です。死んでいようが生きていようが、姫岡は挑まずにいられなかったのです。
「………気は…確かか…?」
「ンギィ!!田んぼのにおいが鼻に居座りますわ!!あっち行ってくださる!?まったく、本当に手のかかること!!」
「…死人にやっても無駄であろうに、なぜ…」
「…まだ!まだですわ!!このお方の生命力を舐めないでくださいまし!!高いところから落ちたくらいで死ぬようなお方では…」
「…ふっ」
謎の令嬢は姫岡を見ながら、呆れ顔で笑いました。その姿は、まるで花咲くとも慎ましく花弁を開ききらない、芍薬の花のよう───
「面白い奴じゃ。それが其方の令嬢道となれば…久々の客人をもてなすのも一興」
「…何の話ですの!早くおアンビュランスをチャーターなさっt…ン」
姫岡の顔目掛けてひらり飛んでくるハンカチーフは頬をつたい、一触れで唇の泥を拭い去りました。ハンカチーフに刺繍された花の根元に、泥の跡がすらりと残ります。
「この、花は…」
「そう。妾は芍薬を司る高貴なる存在」
「 芍薬令嬢じゃ」
「ようやく目覚めおったか。傘がなければ死んでおったぞ」
「……っは!私、教授を助けに穴へと身を投げたのでしたわ!教授は…?」
「死におった」
「ハァァアアア!? お塵をお噛みに!?」
「当然じゃ。あんな高いところから生身で落ちれば普通死ぬじゃろうが。まったく…ここは令嬢の高貴なる空間。田舎臭さが充満すれば逆に妾たちが死んでしまうわ」
「…?」
「…どうやら、其方は令嬢のなんたるかを知らないようじゃな」
「いかにも、妾こそ令嬢。其方らが探し求めていた高貴なる存在。伝承に伝わる超古代からの生存者じゃ。ここまで生きて辿り着けたことこそ、真の貴人の証。叶えられる限りの願いは叶えようぞ」
「…待って……くださるかしら?教授の死体は……?」
「はて、あんな田舎者に関心を寄せるとは、物好きと言うべきか悪趣味と取るべきか…」
「お黙りッッッ!!!!」
「……なに」
「…たしかに教授は頭にネジが何本か刺さって脳幹まで到達していらっしゃるかと思うほど、古今稀な常識大脱線レディではありましたが!!人間である以上は尊厳をもって弔われるべきでございましょ!?!?さっさと 亡骸をお出し…!!」
「…ふん、そこまで言うなら、ほれ」
「ぎゃああああああああ!!!!」
姫岡は覚悟していました。どんなグロテスクな状態のものが来るのか。腕の2本や3本、曲がるはずのない方向に曲がっていてもおかしくはないと。それでも姫岡は自らの手で、あの深刻イカレポンチの教授であろうと、できる限りの処置を施してあげようとしていたのです。姫岡のその覚悟は、意外なベクトルで裏切られました。
「…た、 田圃着!!」
「血まみれで倒れられていても不快なのでな、死化粧は済ませておいたのじゃ。しかしながら此奴は高貴なる令嬢の空間に煤けた足で転がり込んだ不届き者ぞ。死装束には田圃着がふさわしい。生き様同様、弔いもB級でなければならぬ」
「…だからって、死人の顔に本物の泥を塗りたくるというのは、あまりに…」
「…卒論、か?」
「…!!」
「心残りがあるのだな。人の子の心を読むなど妾には朝飯前じゃぞ。『卒論どうしよう───』と。そのような思いが其方の心をよぎった。悼むべき死人の前で其方は、弔いよりも己の損得を勘定に入れたのじゃ。まるでこの女の尊厳を守るようなフリをしての───」
「きょぉぉぉぉぉじゅぅぅぅぅ!!!!」
姫岡にはためらいがありませんでした。そう、ためらいなく───教授に 接吻をかましたのです。唇を介して息を一度、二度と吹き込み、心臓めがけて両手を高速で押し込み続けました。心肺蘇生です。死んでいようが生きていようが、姫岡は挑まずにいられなかったのです。
「………気は…確かか…?」
「ンギィ!!田んぼのにおいが鼻に居座りますわ!!あっち行ってくださる!?まったく、本当に手のかかること!!」
「…死人にやっても無駄であろうに、なぜ…」
「…まだ!まだですわ!!このお方の生命力を舐めないでくださいまし!!高いところから落ちたくらいで死ぬようなお方では…」
「…ふっ」
謎の令嬢は姫岡を見ながら、呆れ顔で笑いました。その姿は、まるで花咲くとも慎ましく花弁を開ききらない、芍薬の花のよう───
「面白い奴じゃ。それが其方の令嬢道となれば…久々の客人をもてなすのも一興」
「…何の話ですの!早くおアンビュランスをチャーターなさっt…ン」
姫岡の顔目掛けてひらり飛んでくるハンカチーフは頬をつたい、一触れで唇の泥を拭い去りました。ハンカチーフに刺繍された花の根元に、泥の跡がすらりと残ります。
「この、花は…」
「そう。妾は芍薬を司る高貴なる存在」
「 芍薬令嬢じゃ」
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