異世界デバッガー〜チートスキル勇者どもに我慢の限界を迎えたから修正パッチで反省させてやった〜

蒼風信子

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限界デバッガー(1)

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「おほっwエンターキーうまw」

見ての通り限界である。薄味で紋切り型の、形だけの感謝の言葉ばっかりもらうだけで、残業代はもらえない。事あるごとに社会人の自覚云々宣う癖して雇用契約と労働基準法を知らないか、知ってて守ってない。アットホームな職場だと聞いて安心した俺が脳みそバグってました。念願のホームは強権政治の崩壊家庭でした。上司どもは脳みその90%を自分の若い頃の苦労話に割いてて使い物にならないし定時で帰るし、社長の息子に至ってはいるだけで働かないしその癖課長職で偉そうだし、気に入らない社員は暇潰しの嫌がらせ要員にするとかいう社会のバグを集めて煮染めたような環境だ。同期は全員辞めた。入りたての時はみんな熱意に溢れていたのに。腱鞘炎とストレートネックが心に転移して一人残らず精神を病んだ。

故に俺は独りバグを取る。たまたま俺の精神が多少頑丈だったのと、ゲーム制作に対する情熱を捨てきれなかったのもあって…

「うがぁぁぁぁぁぁ!!がぁぁぁ!!」

理性は今捨てた。ひしゃげる分厚いディスプレイ。何年も買い替えてなくて轟音を立てるPCに好きでもないエナジードリンクをぶちまける。本当は何もしない上司にかけてやりたい所だが。俺は好きなもので金を稼ぎ生きていきたいのであって、たまたま俺が好きだったものを「作っていると言い張る上司」の養分となり死に果てたいなんて一言も言ってない。23連勤フル残業だ。それだけ働いてればエンターキーを食べるのも自然な流れだろうが。

「……ハァ~~~」

マシンを粗末に扱ったつもりはない。ディスプレイは3秒おきに画面が飛び、PCは単純な処理に40分以上かかっていたのだ。すでに壊れているものに当たっただけだから俺に責任はない、というか金をケチるくせに作業を急かす上司の頭がわるい。ただそれだけ。

「あ、あ…あの…せん…ぱ…」
「何ぃ!!??」
「ああっ!!ごめんなさい失礼します!!」
「……っな、なんだ、臼井か!!なんか質問か!?」
「………ええ~~っとぉ、その……」
「新入社員にこんな時間まで残業させるなんて、ひどい上司だよな全く!早く辞めた方がいいぞこんなところ!体と心がもたない!!」
「あは、あははは、そうですよね~それで…ちょっと…聞きたい事が~~」
「おうよ!!5年目の俺に何でも聞いてくれ!」
「…PCって…どうやって立ち上げるんですか…?」
「………ボタンが…あるだろ……?そこ押せばいいだけだが…」
「押してもつかないんです~~…」
「コンセントに繋いでないからだろ!!」
「……コンセントって…なんですかぁぁ…」
「お、おい!!待て待て待て!お前今までどうやって生きてきたんだよ!!コンセントはコンセントだよ!わかるだろ!?」
「だって…だってえ…」

新入社員の臼井麻里は、目に涙を浮かべて物悲しそうな顔をする。ああ…久々の新入社員で、味気ない生活に多少のスパイスが加わるかと思いきや、こいつ、俺が一番嫌いなタイプの女じゃないか。無能アピールをして自分の仕事を減らすだけ減らした挙句、不真面目な男どもからは人気を得て楽に生きようとする不届き者。こんなやつに時間を割いてることすら腹立たしい。ああもう…

「すまんがそれくらいは自分で調べてくれ!今それどころじゃないんだ!」
「…うっ、うう…」
「………」
「おうちに、帰りたい…」
「……あと何が残ってる」
「……え?」
「…代わりに俺がやっておく。今日は帰って明日までにPCの勉強をしてこい。今のままじゃどこの会社に行ってもクビになるぞ」
「……じゃあ…PCを立ち上げてください…」
「立ち上げるだけじゃどうにもならんだろうが…PCの中にタスクがあるんだな。わかった」

…なんか可哀想で気分が悪いから、渋々相手をしてやる。にしても随分無茶なやつを採用したもんだ。うちの経営はどれだけ傾いてるのか…?

臼井の持ってきたPCをコンセントに繋ぐ。随分変なPCだな。ちょっと宝物っぽいというか…所々に装飾がついてて、独特な模様と光沢があって…

「いいか、見てろよ。このコードをコンセントに繋いだら、このボタンを押して…」
「す、すごい!!光ってる!!すごいですね!!そのボタンを押せば立ち上がるんですね!!やったあ!!」
「そんなに喜ぶことか?誰でもできるだろこんなの…」
「あ、私がボタン押します!私が押すので───」
「え?」
「ああああ!!!」

電源ボタン押したかったのか。それは悪いことをしたな。確かに、初めてパソコンかってもらった時は電源入れるだけでワクワクしたもんだから気持ちはわかる。PC見たことないお嬢様かなんかだったんだろう。にしても、これからこいつの世話を多少なりともすることになるんだよなぁ…随分とめんどくさそうで今から鬱だぜ全く───





「おお!成功したぞ!魔王様!!魔王様じゃぁぁぁ!!!」
「魔王様がきたわ!!これでもう安心ね!!」

「……へ?」

「魔王様!!よくぞ来てくれましたな!!今更隠すこともあるまい、はっきりとお願い申し上げます。どうか、この世界に蔓延る『チートスキル勇者』どもから、この世界を救ってくだされ!!!」
「………?」

とうとう俺にもお迎えが来たのか、オフィスが禍々しい紫色の洞窟になって、PCは全て岩になっている。下には魔法陣、目の前にはツノの生えたお姉さんとヤギ頭の……何か。上司…?上司なのか?え?頭の中で状況を文字起こししても意味をうまく飲み込めない。これってつまりさぁ…





「ああぁぁぁん!!もうどうしてなの~~~!?どうしてあなたが押しちゃうんですかぁ~~~……」

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