ハルカとカナタと宇宙人・地球の歴史はビジネスチャンス

蒼辰

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パート1

第1話「谷間と生足」パート1

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*テレビがないっ!

 テレビがないっ!
 歴史番組を見ようと、ハルカがリビングのテレビがあるべき
場所にやってくると、ぬあんと、テレビがないっ。
 購入11年目の27インチ・ブラウン管テレビがないのだ。
 うっすら埃をかぶったテレビ台と、外れたコード類が裏側に
あるだけで、テレビだけがそっくり消えているではないか。
「あ~ん・・!」
「どしたの、姉ちゃん」
 帰ってきた弟のカナタが、階段上って、ドーナツくわえて姿
をあらわした。
 こいつ、いっつもなんか食べてるんだから。
 いや、それどころじゃない。
「見よっ」
「あがっ!」
「お前、なんかやったか?」
「んぎゃ」
 ふむ。どうやらパパとママがテレビを隠すような事態ではな
いらしい。だって、ハルカにも身に覚えがないもの。
「ってことは・・・」
 見ると、リビングから廊下に出る敷居あたりに、テレビの上
に置いてあった写真立てが落ちている。
 よその子に手を振ってるミッキーをバックに、小三と年長さんのハルカとカナタが笑ってる写真が入ってるヤツだ。
「ん・・」
 そうっと廊下に出てみると・・奥の階段に点々とテレビの上
にあった品物・・一昨年海で撮った家族写真のほうの写真立て、ヘアピンとヘアピンを入れてあった小さなお皿、カナタが臨海学校で買ってきた下田の通行手形、ハルカの壊れたキーホルダー・・などなどが落ちているではないか。
「盗人は上の窓から逃げ去ったか」
「ムリくね。屋根裏にそんな窓ないし」
 そっ。狭い階段の上は、ハルカとカナタが子供部屋として使っている屋根裏部屋なのだ。
「ってことは・・・」
 たたたっと階段を下りるハルカ、玄関の傘立てにあった富士
登山記念の木刀と金属バットを抜くと、再びたたたっ。
「行くぞ、弟」
「お? お、おう」
 金属バット受け取って、竹刀のように構えるカナタ。
「目に物見せてくれる」
 中二らしくない台詞のハルカを前に、小五のカナタと二人、
そろりそろりと階段を上がってゆく。
 って、かなり勝ち気な姉と弟なんだ。

「はが?」
 階段上がった屋根裏部屋。
 カナタが電気付けっぱだったので、半分明るいその真ん中に、巨大な銀色の筒状の物体が斜めっているではないか。
 おかげでカナタの本棚が倒れてマンガ本が散らばってるし、
物体とカーテンの向こう側にはハルカの整理箪笥があるんだけ
ど、どうなってることやら。
 でもって、物体の内部からなにかがさごそと音がしている。
 そうっと回りこんでみると、そこに開けっぱのドアがあって、中のようすが見える。
 明るい照明に照らされて、計器みたいなものがいっぱい取
り囲んでいる狭いスペースで、小柄な男(だと思うよ、多分)
が、ハルカんちのテレビを膝に抱いて、なにかごそごそやって
いるではないか。
「ちょっと、あんたっ」
 がたっ、どてっ、ごとぼこっ。
 びっくりした小柄な男、テレビを足元に取り落とし、尻餅を
つき、あげくに後ろの計器に頭をぶっつけた。
「おまがっ」
(痛いと言ったらしい)
「そこでなにやってんのっ」
「あ、怪しい者ではありません」
「そーゆーとこが十分怪しいだろっ」
 木刀と金属バット持ったハルカとカナタがぐいと前に出る。
「ごももっともとも・・・」
 びびりまくりで這いつくばった小男、
「いんでけ、あにだ、えれげ、あにぼだ」
 なんだか訳わかんないことをぶつぶつ言いながら、どっかに
手を突っこむと、いきなりおもちゃの電子銃にそっくりな電子
銃を両手で構えた。
「え?」
「あむそっ」
 小男がレバーを引くと、びびびびびっ、ハルカの体が電磁波
に包まれた。
「きゃ~っ・・!」
 んが、すぐ、ぼんって音がして、電磁波が消え、ふわっと風
が起きて、ハルカのミニスカがふわり。
「わ、わらはっ・・?」
 慌てて電子銃を点検している小男。ともかく、なにかうまく
いかなかったらしい。
 けど、ハルカの目が吊り上がった。
「パンツ、見たね」
「え?」
「見ただろ」
「は、はあ」
「あたしのパンツ見たヤツは許しちゃおかんっ」
 木刀振り上げて躍りかかり、金属バットのカナタがつづく。
 どたばたどたばた。ものの7秒ちょっと。組み伏せられた小
男は、ハルカとカナタに馬乗りされ、腕をねじ上げられ、床に
うつぶせっていた。
「何者だっ」
「は、破滅だ・・・」
 小男の目がみるみるうるうる涙目になる。
「ウチのテレビをどうするつもりっ」
「すべっては、なし、マスカラ、キーテイク、ダサい」
 小男、全て話しますから聞いてください、と言ったらしい。


*イポポタス・タブラカス・カバーオ

「わたくしは、惑星クンダーリの二大帝国のひとつヘンピーノ
帝国から派遣された、イポポタス・タブラカス・カバーオと申
します」
 柱に縛りつけられた小男が、仕方なさそうにぼそぼそと名乗
る。
「惑星クンダーリ?」
「どこそれ」
「63億光年ほど離れた惑星です」
「ってことは、あんた、うっちゅ~じんっ?」
「ちだまの方から見ると、そうなります」
「ちだま?」
「この惑星のことを、そう呼ぶのではないのですか」
「そら地球だろ」
「漢字読めないんだ」
「宇宙人ねえ」
 じろりと小男カバーオを見るハルカ。
「で、信じるか?」
「信じるっ」
 カナタ、目を輝かせちゃってる。
「ふむ、ひとまず信じよう」
 もっかい、カバーオを睨みつけるハルカ。
「で、その宇宙人が、なんだって人んちのテレビを盗もうとし
たわけ?」
 見たかったんだから、あの番組。ったくもう。
「宇宙船の、メインモニターが故障しまして・・・」
 カバーオによると、地球上空を、地球人の目には見えないす
んばらしいスピードで航行中、突然、ぼんっとメインモニター
が消えてしまったのだという。
 そこで、仕方なく手動操縦で人気のない場所に不時着を試み
たのだが、なんせ初めての手動操縦。不覚にも、ハルカの家の
屋根に突き刺さってしまったのだという。
「まるっきし町の中じゃんか」
「3800キロほど計算を間違えました」
「算数も弱いんだ」
 カナタの言葉に、カバーオがむっと反抗的な目を向ける。
「で、なんでテレビなのよ」
 こだわるハルカ。
「で、ですから、なんとかモニターを修理できないものかと・・
しかし、このような原始的なモニターでは・・」
「原始的で悪かったな」
「せめて、60インチ8Kクオリティの液晶モニターで、できれば3Dなら」
「ぜーたくっ」
「しかし、それがないと宇宙船は修理できません」
「できないと、どうなるわけ?」
「ずっと、ここに・・・」
「なぬ~っ」
 ぐすん。カバーオ、カバ系の顔をくしゃっとゆがめて、泣き
出しちゃった。
「わたしだって、困ってるんです」
 そりゃそ~だろ~けどさ~。ハルカとカナタ、思わずカオを
見合わせちゃった。
 うう、うううう・・・。
 カバーオ、柱に縛りつけられたまま、ぼろぼろと声をあげて
泣いている。
 よく見ると、身長は155センチのハルカよりちょっと低いく
らい。濃い灰色の冴えないズボンと、同じ色のボタンのない上
着に、丸い庇のついた帽子をかぶっている。
 なんつうか、昔の駅員さんとか郵便配達の人とか、そんな雰
囲気。
 見た目は人間と変わらなくて、人間で言えば情けなさそうな
顔をしている。
 その情けない顔がさらに情けなくなって、大の大人がぼろぼ
ろおいおいと泣いているんだ。
 大の大人、なんだと思うよ、多分。
 ふ~う。溜め息ひとつついたハルカ。
「つまり、60インチ8Kクオリティで、できれば3Dの液晶テレビがあれば、宇宙船を修理してここから出てってくれるわけね」
「はい」
「あんた、お金は?」
「ヘンピーノ通貨なら」
「んなもん使えるわけないでしょ」
 カバーオ、またちょっぴりむっ。
「お金がないなら働けば。ウチ、お店だし」
 お、カナタ、い~こと言う。
 ハルカとカナタのパパとママは、一階でレストランとついで
に古道具屋を経営していて、ハルカとカナタもしょっちゅう手
伝わされているのだ、タダで。
 んが、
「それはダメですっ」
 カバーオ、唾が飛ぶほどきっぱりと言う。
「なんで?」
「他の惑星人に発見されてはいけない規則なのです。発見され
て、公になれば、身の破滅です」
「身の破滅?」
「惑星への帰還が許されないのです、うう、うううう・・・」
 またまた、声を上げて泣き出した。
「けど、あたしたちに発見されてんじゃん」
「ですから、その、お二人が黙っててくれて、公にならなけれ
ば・・・」
「あたしたちに宇宙人をかくまえってわけ?」
「お願いします・・・」
 うう、ううう。泣き続けるカバーオちゃん。
「泣き落としかよ」
「わたしだって困ってるんです。たった一人で遠い惑星にやっ
てきて、宇宙船が故障してしまった気持ち、分かるでしょ」
 分かるかい、んなもん。ハルカ、やれやれと腰に手をあてる
と、
「分かる」
 カナタがとなりでしっかり頷いていた。
「姉ちゃん、なんとかしてやろうよ」
 だって。
 ありゃま。
 けど、ずっとここにいられるのも困るし、誰かに見つかって
オオヤケになって、取り調べを受けたり、身体検査されたり、
おまけに故郷に帰れなくなっちゃうというのもなんか可哀想で
はある。
「しょうがねえなあ」
「60インチ8Kクオリティで、3Dの液晶テレビさえあれ
ば・・・」
「なんか、お金になりそうなもの、持ってないの?」
「宇宙船の備品を売れというのですか。そんなこと出来ません。
宇宙船は帝国のものですし、そもそも他惑星への技術移転は禁
止されています」
 うるさい規則の多い宇宙人だな、こいつ。
「そもそもあんた、なにしにチダマに来たわけよ」
「わたしは、歴史記録官=ヒストリアンであります」
「ヒストリアン?」
 カバーオによると、文明を持つ惑星が発見されると、どのよ
うな歴史と文明を持つ惑星か、危険がないかどうかを、歴史を
通して調査する仕事なんだって。
「歴史を調査するって、どうやって?」
「宇宙船に装備したタイムマシンを使用して、さまざまな時代
の現実を見てくるのであります」
「タイムマシン?」
 ハルカの目が、きらりと光った。


*ヒヒック型タイムマシン

「これがタイムマシンなわけ?」
 斜めってる宇宙船の真ん中あたりに這い上がると、卵形で表
面もつるっと白いカプセルがあった。
「はっ、ヒヒック型タイムマシンであります」
「せまっ」
 早くもカプセルに乗りこんだカナタが、ベンチ式シートの上
で、手足を広げてクモみたいに張りついている。宇宙船が斜めっ
てるからしょうがないんだよね。
「詰めなさいよ」
 後から乗りこむハルカが、お尻でくいとカナタを端に寄せ
る。
「さ、乗って」
「わたしもですか」
「当たり前でしょ、あんたしか使えないんだから」
「つ、使うって?」
「体験試乗よ」
「はあ?」
「いいから、早く」
「し、しかし、タイムマシンの使用には規則がありまして・・・」
「パパ~~、ママ~~」
 急に、外に向かって大声で叫ぶハルカ。
「あたしたちの部屋に宇宙人がいるの~、ケーサツ呼んで~~」
「わぁわぁわぁ」
 慌ててさえぎるカバーオ。
「わかりましたよ」
 てなわけで、小柄なカバーオが、ハルカとカナタのベンチシートの前の、小さな操縦席に渋々乗りこむ。
「で、あの、どの時代に行けばいいんでしょう」
「そうね。先ずはテストってことで、あたしが赤ん坊だった13年前でお願い」
「了解いたしました」
 なにやら計器をがちゃがちゃやっているカバーオ。
「しゅばんこっ」
 ヘンピーノ語でレッツゴーらしき言葉とともに、赤いボタン
をプシュッ。
 すると、ガラガラガラ、ジャ~~ッ・・トイレから水が流れ
るみたいな音とともに、卵形のカプセルがふぉ~んと光りに包
まれる。
 やがて、ぽとん。トイレにう××が落ちるみたいな音がして、光りが止まった。
「到着いたしました」
「感じ悪い音っ」
 言いながら、カプセルのドアを開けるハルカ。
 途端に、ハルカのお目々がきら~んと光った。
「なっつかしいっ」
 そこは、ハルカんちの裏手。
 今ではマンションが建っちゃったところの一部が昔は空き地
で、小さいころのハルカとカナタの遊び場だったんだ。
 でもって、そこには5才くらいの女の子と2才くらいの男の子がいて、女の子が男の子からプラスティックのバットを無理やり取り上げたもんで、男の子がわ~んっと泣き出したところ。
「泣くなっ」
 女の子が男の子の頭をバットでぽかり。
「ふっぎゃ~~っ」
 いよいよ激しく泣く男の子。
「ひっど~い」
 と、飛び出したのはカナタ。
「ちっちゃい子いじめちゃダメだろ。返してあげな」
 女の子からバットを取り上げて、男の子に返している。女の
子はというと、むっす~~っと不満そう。
「思い出したわ」
 見ていたハルカがぽつり。
「あん時の知らない大きな子がカナタだったとは」
 そこに戻ってくるカナタ。
「どこの子だろ、ねえ、姉ちゃん」
「あたしとあんただよっ」
「へ?」
 バッとカバーオを睨みつけるハルカ。
「13年前っつったのに、8年前じゃんか。どうなってんのよっ」
「あ、あの、現在の技術では、この程度の誤差はどうしようも
ないんです。ただ、歴史を検証するには、まあ実用になってる
ようなわけでして」
「あ~ん、姉ちゃんがボクをいじめた~」
「るっさいよっ」
 けど、ハルカのお目々がきら~ん。
「これ、使えるかも」
 ねえ、ハルカちゃん、なにか企んでるでしょ。


*マリー・アントワネット

「マリー・アントワネット?」
「そっ、前から憧れてたの」
「マリー・アントワネットに?」
「お~っほほほほっ」
 突然、手の甲を口元に、高笑いするハルカ。
「パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃない」
 あ、小芝居だったのね。で、素に戻るハルカ。
「豪華な宮殿、華やかなドレス、優雅な舞踏会、晩餐会のご馳
走に、おいしいお菓子。ね、どんな生活だったか、見てみたく
ない?」
「姉ちゃんらしいや」
 夢見るハルカと呆れるカナタ。
 でもって、堅物のカバーオ。
「あの、そのような理由でタイムマシンを使用することは・・・」
「お黙りっ」
 あれ? まだマリー・アントワネットやってた。
「んじゃ、なに、あんたの存在がオオヤケになって、尋問受け
たり身体検査されたりしたあげくに、あんたのお星さまに帰れ
なくなってもい~わけ?」
「うっ・・・」
 言葉に詰まっちゃうカバーオ。
「それとも、60インチ8Kクオリティの3Dテレビを手に入れて、宇宙船を修理するのと、どっちがいい?」
「そんなの、聞くまでもないじゃないですか」
 しょんぼり俯いて答えるカバーオ。
「けど、マリー・アントワネットとテレビと、ど~ゆ~関係が
あんのさ」
「あたしに考えがあるの」
 きっぱり言うハルカちゃん。あ~ん、そのお目々はやっぱり
なんか企んでるぅ。
「考え?」
「先ずはテストよ。うまくいけば、60インチ8Kクオリティの3Dテレビくらい、すぐに買えるわ」
「ホントですか?」
 がばっと顔を上げるカバーオ。
「あたしを信じる?」
「信じないほうがい~と思うよ」
 横から口を出すカナタ。
「う・・」
 思わずハルカとカナタの顔を見比べるカバーオ。
 その時、カバーオの胸をす~っとさびしい空気が吹き抜けて
いった。
 だってさ、不時着した見知らぬ惑星で、頼れる人間が中学二
年の女の子しかいないんだもん。
「わたくしも、あの、重大な規則違反を犯す訳でありまして・・」
「だから、なに?」
「わたくしが、ダメということには従っていただきたいと・・」
「例えば?」
 うっと言葉に詰まっちゃうカバーオ。
「それは、その時になってみませんと・・・だって」
 不意に顔を上げて訴える。
「あなたたちの文明にはないマシンを利用させるんですよ」
 うるうるした目が、必死の思いを物語っている。
 ふうむ、そうまで言うならしょうがないか。
「だからさ、今回はテストよ。うまくいったら、どうやって60インチ8Kクオリティの3Dテレビを買うお金を稼ぐか説明するから、やるかやらないか、自分で決めればいいじゃない」
「はあ」
「いいわね」
「分かりました」
 カバーオ、仕方なさそうに答える。
 やった、マリー・アントワネットに会えるぞ。
「えらいっ、え~と・・名前、なんだっけ?」
「イポポタス・タブラカス・カバーオ」
「じゃ、カバッちでいいか」
「それはいけませんっ」
 カバーオ、激しく抵抗した。
「へ?」
「カバーオですっ、カバッちではありませんっ」
「あ、そ~なの」
「ひと文字違いで、大変な違いなんですから」
 なんだって。ふ~ん。
「分かったわ、カバーオ。んじゃ、マリー・アントワネットの
時代に、ゴ~ッ!」
「んな、いきなり言われても。いつの時代ですか?」
「え~とぉ・・・」
 口ごもっちゃうハルカ。
「自分も知らねんじゃん」
「るっさいね」
「歴史上の人物ですね」
「もっちろん」
「では、ウサンクサペディアで調べれば、なんとか」
「ウサンクサペディア?」
「チダマの大体の歴史を大まかに整理したおおよその目安にな
るデータです」
「アバウトやなあ」
 小さな背中を丸くして、カバーオがなにやら計器をがちゃが
ちゃ。
「あ、出ました。1750年代から1790年代あたりに、フランスらへんに生きてた人」
「ホントに大体なデータやな」
「そこらへんでよろしいですか」
「パリよ、パリッ。花の都パリよっ」
「分かりました」
 また計器をがちゃがちゃのカバーオ。
「ぼくも行くの?」
「宇宙船の突き刺さった子供部屋で、いつパパやママに見つか
るか、どきどきしながら待つのとどっちがいい?」
「行く」
 こういう姉と弟らしい。
「しゅばんこっ」
 再び、ガラガラガラ、ジャ~ッ・・トイレから水が流れるみ
たいな音とともに、卵形のカプセルがふぉ~んと光りに包まれ
た。


*パリ・1772年

 ぽとん。感じ悪い音がして、光りが止まる。
「着いたのねっ」
 いきなりバッとドアを開けるハルカ。
 んが・・。
 目の前に広がっていたのは、いびつなカタチの田んぼと、ぽ
つんとたっているわらぶき屋根の農家、そして、歩いているちょ
んまげつけたお百姓さんの姿だった。
「どこ、ここ」
「ドアを閉めてください」
「ん」
 カバーオに言われて、ドアを閉めるハルカ。
 またまた、ガラガラガラ、ジャ~ッ・・トイレから水が流れ
るみたいな音とともに、卵形のカプセルがふぉ~んと光りに包
まれる。
「またなんか間違ったの?」
「違います。先ず時間を移動してから、空間を移動するんです」
「あん? どういうこと」
「さっきのは、240年ほど前の、あなたがたの家があった場所
です」
「ふ~ん、江戸時代のあたしんちのあたりって、あんなだった
んだ」
「どうして江戸時代だって分かるの?」
「だって、水戸黄門みたいだったじゃない」
「あ、なるほど」
 あっさり納得しちゃうカナタ。
 けど、おおまか間違っちゃいない。マリー・アントワネット
が生きていた時代は、日本でいうと江戸時代の中頃。田沼意次
が老中という職についてて、賄賂が横行したってなことが教科
書に書いてあったでしょ。
 だいたいそんな時代。
 あれ? ウサンクサペディアがうつってきたぞ。
 ま、ともかく、ぽとん。またまたあの感じ悪い音がして、カ
プセルの光りが止まる。
「到着です」
「いよいよねっ」
 ハルカがバッとドアを開けて飛び出すと・・。
 ど~んと広い空の下に、いくつもの屋根やでこぼこの屋上が
ど~んと連なっていた。
「どこ、ここ」
「あ、屋上だ」
 後から出てきたカナタ、足場を探している。
 なにしろ、煙突やら天窓やらで、平らなとこがあんましないんだ。
「それくらい分かるわよ」
 と、あたりを見回すと・・・。
「わおっ」
 ハルカ、思わず声を上げた。
 だって、見覚えのある建物が目に飛びこんできたんだもん。
「パリだッ!」
「はい、1772年のパリ市内です」
 カプセルの中から、計器を見ながらカバーオが言う。
「なんでパリだって分かるの?」
「だって、ほら」
 ハルカが指さす先に、教会らしいふたつの塔が、建物の連な
りの上にぽこんと頭を出していた。
「ノートルダム寺院だよ」
「なにそれ」
「ほら『ノートルダムの鐘』で主人公が住んでた」
「見てねえ」
「ちっ」
「エッフェル塔は?」
「ん~と」
 見回してみたけど、それらしい姿はない。
「こっからは見えないんじゃないの」
 ってハルカちゃん、エッフェル塔は1889年の建設。この時
代まだありませんから。カナタくんも、
「ふ~ん」
 って納得しないの。
「けどさ、なんでこんな屋上に着陸するわけ」
 もそもそカプセルから出てきたカバーオに振り向いて、聞く。
「発見されては困るので、人目につかないところを自動的に選
ぶのです」
「ふ~ん」
 カバーオ、カプセルを隅っこに移動させている。
「わたくしはここで待機しておりますから」
「あ~ん? いっしょに行かないっつの」
「わたしが、他の惑星人に発見されてはいけないのはご存じで
しょ」
「そらそうだけど」
 ハルカ、なんとなく不安になった。
「マリー・アントワネットだよ。歴史を記録するのがあんたの
仕事じゃないの?」
「これは任務ではありませんから」
「そうだけどさあ」
「わたしになにか期待されても困ります」
 きっぱり言われちゃった。
「それに、タイムマシンになにかあったら、元の時代に戻れな
くなりますよ」
 ぎくっ。言われてみりゃ、確かにそうだ。
「分かったわよ。あたしたちだけで行ってくるわよ」
「なんとかなるって」
 カナタったら、ついてくるだけのくせして調子い~んだから。
「これを」
 なにやら小さな機械を手渡すカバーオ。
「なに?」
「イサダホンです」
「イサダホン?」
「ダサい名前」
 むっとやな顔するカバーオ。
「チダマで言うスマホのようなものです」
「スマホ?」
「チウーオというアイコンを押せば、タイムマシンまで道案内してくれます」
「あ~ら、い~とこあるじゃない」
「迷子にでもなられてはこちらが困りますから」
「言ってくれるわね」
「では、なるべく早く戻ってください」
 言いながら、小さなリモコンをぴっ。
 すると、つるんと白いカプセルの表面が、あっという間にま
わりの眺めに同化して、見えなくなっちゃった。
 あ~ら、ハイテク。
「分かった。あんたこそちゃんと待っててよね」
「そこまで不人情ではありません」
 むっとした顔で言うと、周囲と同化したカプセルのドアを開
けて、中に入っちゃった。
 ふ~う。
 ともかく、そんなわけで、ハルカとカナタは、二人だけで
1772年のパリの街へと足を踏み出すことになった。

[パート2へ]
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