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2・もう一曲あるんだけど
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2・もう一曲あるんだけど
さて、
「きんちょ~するぅ~」
と、のんびりした声で言っているのが、紫担当のカズラです。
ふいっ。やっとメンバー紹介にたどり着きました。
カズラは、メンバーの中でいっちゃん背が高くて、一人だけいっこ上の二年生で、ほいでもって変人です。
「楽しんじゃおぜ」
「うん」
あたしのコトバに、緊張気味に答えたのが、黄色担当のスミレです。
このヒト、なんかあたしになついてきます。今も、汗ばんだ手で、あたしの手をぎゅっと握ってます。
でも、勉強のデキは、メンバーで一番なんだよね。
「ひゅ~っ、たぁ~のしんじゃおぜい」
と、ぴょんぴょんジャンプしてるのが、ピンク担当のあやりんことアヤメです。
この子だけ、いっこ下の附属中の三年生なんだけど、アイドル騎士団ができたと聞いてすっ飛んできました。
根っからのアイドル・キャラなのです。
そして、あたしの後ろで、すぅ~っと深呼吸したのが、緑担当のミズキです。
メンバーの中で際立って背が低いのですが、歌も踊りもなかなかのレベルです。わたしたちの中ではね。
なんつうか、彼女だけが、初パフォーマンスのどきどきより、やってやる的なモノを感じます。
やや謎めいたキャラで、なんでアイドル騎士団選んだのか、気になってるとこあるんだ。
そして、リーダーのあたしは赤担当なので、胸に[みるきぃクレヨン]とロゴの入った真っ赤なTシャツを着ております。
え? メンバーカラーとか、キャラとか、どっかからパクってないか、って?
いえいえそんな。気のせいですよ。
気のせいですってば。
しっかし、ここまであっちゅう間でした。
なんたって三週間前ですよ。入学式の翌日に、下駄箱から玄関に出たとこでのことでした。きゃうっ、初日終わったぞって、のけ反ってジャンプしたら、「きみきみ」と呼び止められたのは。
振り向くと貧相なおじさん・・あ、いえ、下川先生が立ってて、
「きみ、アイドル騎士団で活動してみない? きみなら、センターやってもらってもいいな」
って、要するにスカウトされちゃったんですよ、校内で。
のけ反ってジャンプしたのがよかったのかな。
けど、あたしは知らなかったのです。
アイドル騎士団が、下川先生がシュミで立ち上げたばっかの、ろくに部員もいなけりゃ、予算もない部だってことも。
下川先生が、片っ端から女子に声をかけてたってことも。
でもさ、そりゃ悪い気はしませんよ。
だって、アイドル活動ですよ。なんかJKっぽい高校生活になりそうじゃないですか。
ま、それくらいの軽い気持ちだったんですケドね。
それも、あたしらしいか。
あ、MCの横山さんがステージに上がった。
このヒト、西口共栄会の会長さんで、[ツキイチGGC]の仕掛け人でもあるんですって。
なんでも、商店街にスーパーだとか、輸入食料品店だとか、お店を4軒も持ってるとか。
あ、マイク構えた。
いよいよだぞ。
「ご来場のみなさま、お待たせいたしました」
わぁ~っと拍手がおきる。
ステージの前に四角く並べた椅子席はほぼ埋まってる。その左右と後ろには立ち見のヒトもいて、まだまだお客さんが入ってきてる。
「今月から始まりますツキイチGGCは、毎月第四土曜日に、ここ西口共栄会駐車場を会場に、みなさまにGGC Wonderersの華麗なパフォーマンスをたっぷり楽しんでいただこうというイベントでございます」
またまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「なんといっても、巌厳学園チアリーディング部は、地域の誇り、地域のアイドルでございます」
またまたまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「しかし、お楽しみはちょっとだけ後まわし。先ずは巌厳学園のアイドル騎士団のメンバーが、オープニング・アクトを務めます」
ええ~っ。
ブーイングまでいかないけど、会場にがっかり感が流れてる。
やだなぁ、アウェイかよ。
「それでは、みるきぃクレヨンのみなさんです。ど~ぞ~」
「行くよ」
さっと手を出すあたし。メンバーが、つぎつぎと手のひらを重ねる。
「みるきぃクレヨン、お~っ」
せめて気合いくらい入れなくっちゃ。
ぱらっぱらっ。まばらな拍手に迎えられ、わたしたちは小走りでステージに上がったのであります。
*
その時、ステージから見て左手の駐車場入り口から、にしぶち酒店でシャケ缶を買った銀髪男が会場に入ってきました。
あ、もちろん、わたしたちにはそんなの見えてなかったんですケドね。
銀髪男はじろり、ステージではなく、観客席の人々をサングラスごしにねめまわしております。
やがて・・・。
ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
小さな電子音とともに、銀髪男のサングラスの視野で、一人の男性の顔の横に、赤い小さなアイコンが点滅していました。
すると銀髪男は、男性から視線をそらさないようにしながら、そちらに向かって移動しはじめました。
なんなの?
その男のヒトに、なんの用があるの?
ターゲットとなっていたのは、ステージから見ていっちゃん後ろ。ちょうどにしぶち酒店の裏の壁に寄りかかって、あたしたちに拍手してくれてる白髪のおじさんだった。
ん? それって、西淵のおじさんじゃない。
西淵のおじさんは、息子さんのほうの父親で、って当たり前か。わたしたちの数少ない協力者の一人で、西口共栄会の前会長で、義経マニアでもあります。
あ、応援してくれてる。
*
さ、ステージに上がったわたしたち。
頭の中ですらっとセトリを確認。ったって、3曲しかないんだけどね。セトリってコトバ、使ってみたかったんだもん。
マイク持って横一列。センターはもちろんあたし。
「せ~の」で、みんなでご挨拶。
「みるきぃクレヨンでっす。よろしくお願いしま~す」
うふっ。アイドルっぽい。
ケド反応がない。
ま、しょうがないか。
さ、曲紹介だぞ。
「それでは聞いてください。『学園のある町』」
下川先生がラジカセをぴっ。MDに入ってるカラオケ音源がイントロを奏でます。
「せ~の」
教わったとおりの振り付けで、踊りはじめるわたしたち。
みんなの目がこっち見てる。
けどなんか、思ってたのと違う。白けたような、冷ややかなような、そんな視線。
ただでさえ緊張してるのに、これヤバイかも。
さ、歌だ。
♪学園のある町には
いつでも夢が駆け抜ける
あちゃ、出だし遅れた。
誰か、音程外してる。
♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~
振り向けばそこに
ほら 輝く未来が広がっているぅ~
正直、ノリの悪い曲です。
さ、間奏だ。ターンのあるパート。
うきうきのりのり、でもってターン、ってヨーコさんに教わったんだけど、みんなうきうきのりのりじゃないぞ。
くるっと回って正面向いたら、あれ、空気が変わってる。
笑ってるヤツがいる。おしゃべりしてるヤツがいる。
お客さんをヤツ呼ばわりするな、って? でも、うちのがっこの生徒なんだもん。
ほかのメンバーも気づいてるかな。
気になるけど、センターにいるとほかのメンバーの動き、ぜんぜん見えない。
「学芸会」
ヤジが飛んだ。
「ラジオ体操」
別の声だ。
そりゃわたしたち、期待されてるわけじゃないし、結成三週間、へたっぴなのは分かってるけど・・・。
ざわざわざわ、にやにやにや。
ゆるんだ会場で、わたしたち、浮いてる?
そう思ったら、しゅわ~んと視野が遠くなった。
いっちゃん後ろの西淵のおじさんが、心配そうに見ている。
でもってそこに、銀髪男が近づいてる。
けど、それどころじゃなかった。
♪ひろぉ~がっているぅ~
チャチャン、チャンチャチャン、チャ~ン。
ふいっ、一曲目が終わったぜ。
「ありがとうございましたぁ」
声を揃えて、一同、礼っ。
拍手がぱらっぱら。
ざわめきとかすかな笑い声。
こっち見てるみんなの目が、どれも冷たく見える。
「カンナ、曲紹介」
「あ」
スミレに促されて、我に返った。
「つぎの曲、聞いてください。『風を追いかけて』」
うっ。声が裏返ってる。
下川先生がラジカセをぴっ。さっきと似たようなイントロが流れ出す。
練習どおりに踊りはじめて、一回ターン。
チラッと見えたメンバーの顔が、なんかひきつってる。
けど、やりきるっきゃないっ。
歌っ。
♪長い坂道を~
駅に向かって下ってゆこう
風を追いかけて 風を追いかけて
いつか追い越せる
その日に向かって
最初の曲と、行きと帰りみたいな曲です。ま、下川先生の作詞作曲ですから。
けど、それどころじゃなかった。
誰か、声がうわずってる。次の出だし、誰か遅れた。自分が音程外しまくってるのは分かってたけど、ほかのメンバーもだ。
体、動いちゃいるけど、びしっとしてない。なんかロボットみたい。
ぎごっ、ぎごっ、ぎごちなっ。
「も~い~」
誰かが叫んだ。
「そんなもんでやめとけ~」
「時間のむだぁ~」
どっと笑い声が起こる。
間奏の間、必死こいて体動かしながら、涙目になってきた。
♪青い空の下を~
二番の出だしといっしょに、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールが起こった。
ラジカセのカラオケも聞こえない。自分の声も聞こえない。
「ジージーシー、ジージーシー」
コールの圧力でもうばんらばんら。ぐちゃぐちゃになってた。
足が震えて、がくがくして、情けなくて、そしてとうとう涙が一筋、ほっぺたを落ちた。
♪はしぃ~ってゆ~こ~を~
もう歌なんかじゃない。一人ひとり、ただ叫んでるだけみたいな感じ。
ともかく、短いエンディング。
中央に集まって、ばらばらだけど、ともかくポーズ。
「ありがとうございましたぁ」
その声も、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールにかき消された。
合間に、「早く引っこめぇ~」とか「さっさと帰れぇ~」とか聞こえてくる。
もう一曲あるんだけど。
あたしが一番、好きな歌が・・・。
さて、
「きんちょ~するぅ~」
と、のんびりした声で言っているのが、紫担当のカズラです。
ふいっ。やっとメンバー紹介にたどり着きました。
カズラは、メンバーの中でいっちゃん背が高くて、一人だけいっこ上の二年生で、ほいでもって変人です。
「楽しんじゃおぜ」
「うん」
あたしのコトバに、緊張気味に答えたのが、黄色担当のスミレです。
このヒト、なんかあたしになついてきます。今も、汗ばんだ手で、あたしの手をぎゅっと握ってます。
でも、勉強のデキは、メンバーで一番なんだよね。
「ひゅ~っ、たぁ~のしんじゃおぜい」
と、ぴょんぴょんジャンプしてるのが、ピンク担当のあやりんことアヤメです。
この子だけ、いっこ下の附属中の三年生なんだけど、アイドル騎士団ができたと聞いてすっ飛んできました。
根っからのアイドル・キャラなのです。
そして、あたしの後ろで、すぅ~っと深呼吸したのが、緑担当のミズキです。
メンバーの中で際立って背が低いのですが、歌も踊りもなかなかのレベルです。わたしたちの中ではね。
なんつうか、彼女だけが、初パフォーマンスのどきどきより、やってやる的なモノを感じます。
やや謎めいたキャラで、なんでアイドル騎士団選んだのか、気になってるとこあるんだ。
そして、リーダーのあたしは赤担当なので、胸に[みるきぃクレヨン]とロゴの入った真っ赤なTシャツを着ております。
え? メンバーカラーとか、キャラとか、どっかからパクってないか、って?
いえいえそんな。気のせいですよ。
気のせいですってば。
しっかし、ここまであっちゅう間でした。
なんたって三週間前ですよ。入学式の翌日に、下駄箱から玄関に出たとこでのことでした。きゃうっ、初日終わったぞって、のけ反ってジャンプしたら、「きみきみ」と呼び止められたのは。
振り向くと貧相なおじさん・・あ、いえ、下川先生が立ってて、
「きみ、アイドル騎士団で活動してみない? きみなら、センターやってもらってもいいな」
って、要するにスカウトされちゃったんですよ、校内で。
のけ反ってジャンプしたのがよかったのかな。
けど、あたしは知らなかったのです。
アイドル騎士団が、下川先生がシュミで立ち上げたばっかの、ろくに部員もいなけりゃ、予算もない部だってことも。
下川先生が、片っ端から女子に声をかけてたってことも。
でもさ、そりゃ悪い気はしませんよ。
だって、アイドル活動ですよ。なんかJKっぽい高校生活になりそうじゃないですか。
ま、それくらいの軽い気持ちだったんですケドね。
それも、あたしらしいか。
あ、MCの横山さんがステージに上がった。
このヒト、西口共栄会の会長さんで、[ツキイチGGC]の仕掛け人でもあるんですって。
なんでも、商店街にスーパーだとか、輸入食料品店だとか、お店を4軒も持ってるとか。
あ、マイク構えた。
いよいよだぞ。
「ご来場のみなさま、お待たせいたしました」
わぁ~っと拍手がおきる。
ステージの前に四角く並べた椅子席はほぼ埋まってる。その左右と後ろには立ち見のヒトもいて、まだまだお客さんが入ってきてる。
「今月から始まりますツキイチGGCは、毎月第四土曜日に、ここ西口共栄会駐車場を会場に、みなさまにGGC Wonderersの華麗なパフォーマンスをたっぷり楽しんでいただこうというイベントでございます」
またまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「なんといっても、巌厳学園チアリーディング部は、地域の誇り、地域のアイドルでございます」
またまたまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「しかし、お楽しみはちょっとだけ後まわし。先ずは巌厳学園のアイドル騎士団のメンバーが、オープニング・アクトを務めます」
ええ~っ。
ブーイングまでいかないけど、会場にがっかり感が流れてる。
やだなぁ、アウェイかよ。
「それでは、みるきぃクレヨンのみなさんです。ど~ぞ~」
「行くよ」
さっと手を出すあたし。メンバーが、つぎつぎと手のひらを重ねる。
「みるきぃクレヨン、お~っ」
せめて気合いくらい入れなくっちゃ。
ぱらっぱらっ。まばらな拍手に迎えられ、わたしたちは小走りでステージに上がったのであります。
*
その時、ステージから見て左手の駐車場入り口から、にしぶち酒店でシャケ缶を買った銀髪男が会場に入ってきました。
あ、もちろん、わたしたちにはそんなの見えてなかったんですケドね。
銀髪男はじろり、ステージではなく、観客席の人々をサングラスごしにねめまわしております。
やがて・・・。
ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
小さな電子音とともに、銀髪男のサングラスの視野で、一人の男性の顔の横に、赤い小さなアイコンが点滅していました。
すると銀髪男は、男性から視線をそらさないようにしながら、そちらに向かって移動しはじめました。
なんなの?
その男のヒトに、なんの用があるの?
ターゲットとなっていたのは、ステージから見ていっちゃん後ろ。ちょうどにしぶち酒店の裏の壁に寄りかかって、あたしたちに拍手してくれてる白髪のおじさんだった。
ん? それって、西淵のおじさんじゃない。
西淵のおじさんは、息子さんのほうの父親で、って当たり前か。わたしたちの数少ない協力者の一人で、西口共栄会の前会長で、義経マニアでもあります。
あ、応援してくれてる。
*
さ、ステージに上がったわたしたち。
頭の中ですらっとセトリを確認。ったって、3曲しかないんだけどね。セトリってコトバ、使ってみたかったんだもん。
マイク持って横一列。センターはもちろんあたし。
「せ~の」で、みんなでご挨拶。
「みるきぃクレヨンでっす。よろしくお願いしま~す」
うふっ。アイドルっぽい。
ケド反応がない。
ま、しょうがないか。
さ、曲紹介だぞ。
「それでは聞いてください。『学園のある町』」
下川先生がラジカセをぴっ。MDに入ってるカラオケ音源がイントロを奏でます。
「せ~の」
教わったとおりの振り付けで、踊りはじめるわたしたち。
みんなの目がこっち見てる。
けどなんか、思ってたのと違う。白けたような、冷ややかなような、そんな視線。
ただでさえ緊張してるのに、これヤバイかも。
さ、歌だ。
♪学園のある町には
いつでも夢が駆け抜ける
あちゃ、出だし遅れた。
誰か、音程外してる。
♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~
振り向けばそこに
ほら 輝く未来が広がっているぅ~
正直、ノリの悪い曲です。
さ、間奏だ。ターンのあるパート。
うきうきのりのり、でもってターン、ってヨーコさんに教わったんだけど、みんなうきうきのりのりじゃないぞ。
くるっと回って正面向いたら、あれ、空気が変わってる。
笑ってるヤツがいる。おしゃべりしてるヤツがいる。
お客さんをヤツ呼ばわりするな、って? でも、うちのがっこの生徒なんだもん。
ほかのメンバーも気づいてるかな。
気になるけど、センターにいるとほかのメンバーの動き、ぜんぜん見えない。
「学芸会」
ヤジが飛んだ。
「ラジオ体操」
別の声だ。
そりゃわたしたち、期待されてるわけじゃないし、結成三週間、へたっぴなのは分かってるけど・・・。
ざわざわざわ、にやにやにや。
ゆるんだ会場で、わたしたち、浮いてる?
そう思ったら、しゅわ~んと視野が遠くなった。
いっちゃん後ろの西淵のおじさんが、心配そうに見ている。
でもってそこに、銀髪男が近づいてる。
けど、それどころじゃなかった。
♪ひろぉ~がっているぅ~
チャチャン、チャンチャチャン、チャ~ン。
ふいっ、一曲目が終わったぜ。
「ありがとうございましたぁ」
声を揃えて、一同、礼っ。
拍手がぱらっぱら。
ざわめきとかすかな笑い声。
こっち見てるみんなの目が、どれも冷たく見える。
「カンナ、曲紹介」
「あ」
スミレに促されて、我に返った。
「つぎの曲、聞いてください。『風を追いかけて』」
うっ。声が裏返ってる。
下川先生がラジカセをぴっ。さっきと似たようなイントロが流れ出す。
練習どおりに踊りはじめて、一回ターン。
チラッと見えたメンバーの顔が、なんかひきつってる。
けど、やりきるっきゃないっ。
歌っ。
♪長い坂道を~
駅に向かって下ってゆこう
風を追いかけて 風を追いかけて
いつか追い越せる
その日に向かって
最初の曲と、行きと帰りみたいな曲です。ま、下川先生の作詞作曲ですから。
けど、それどころじゃなかった。
誰か、声がうわずってる。次の出だし、誰か遅れた。自分が音程外しまくってるのは分かってたけど、ほかのメンバーもだ。
体、動いちゃいるけど、びしっとしてない。なんかロボットみたい。
ぎごっ、ぎごっ、ぎごちなっ。
「も~い~」
誰かが叫んだ。
「そんなもんでやめとけ~」
「時間のむだぁ~」
どっと笑い声が起こる。
間奏の間、必死こいて体動かしながら、涙目になってきた。
♪青い空の下を~
二番の出だしといっしょに、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールが起こった。
ラジカセのカラオケも聞こえない。自分の声も聞こえない。
「ジージーシー、ジージーシー」
コールの圧力でもうばんらばんら。ぐちゃぐちゃになってた。
足が震えて、がくがくして、情けなくて、そしてとうとう涙が一筋、ほっぺたを落ちた。
♪はしぃ~ってゆ~こ~を~
もう歌なんかじゃない。一人ひとり、ただ叫んでるだけみたいな感じ。
ともかく、短いエンディング。
中央に集まって、ばらばらだけど、ともかくポーズ。
「ありがとうございましたぁ」
その声も、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールにかき消された。
合間に、「早く引っこめぇ~」とか「さっさと帰れぇ~」とか聞こえてくる。
もう一曲あるんだけど。
あたしが一番、好きな歌が・・・。
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