2 / 10
2・もう一曲あるんだけど
しおりを挟む
2・もう一曲あるんだけど
さて、
「きんちょ~するぅ~」
と、のんびりした声で言っているのが、紫担当のカズラです。
ふいっ。やっとメンバー紹介にたどり着きました。
カズラは、メンバーの中でいっちゃん背が高くて、一人だけいっこ上の二年生で、ほいでもって変人です。
「楽しんじゃおぜ」
「うん」
あたしのコトバに、緊張気味に答えたのが、黄色担当のスミレです。
このヒト、なんかあたしになついてきます。今も、汗ばんだ手で、あたしの手をぎゅっと握ってます。
でも、勉強のデキは、メンバーで一番なんだよね。
「ひゅ~っ、たぁ~のしんじゃおぜい」
と、ぴょんぴょんジャンプしてるのが、ピンク担当のあやりんことアヤメです。
この子だけ、いっこ下の附属中の三年生なんだけど、アイドル騎士団ができたと聞いてすっ飛んできました。
根っからのアイドル・キャラなのです。
そして、あたしの後ろで、すぅ~っと深呼吸したのが、緑担当のミズキです。
メンバーの中で際立って背が低いのですが、歌も踊りもなかなかのレベルです。わたしたちの中ではね。
なんつうか、彼女だけが、初パフォーマンスのどきどきより、やってやる的なモノを感じます。
やや謎めいたキャラで、なんでアイドル騎士団選んだのか、気になってるとこあるんだ。
そして、リーダーのあたしは赤担当なので、胸に[みるきぃクレヨン]とロゴの入った真っ赤なTシャツを着ております。
え? メンバーカラーとか、キャラとか、どっかからパクってないか、って?
いえいえそんな。気のせいですよ。
気のせいですってば。
しっかし、ここまであっちゅう間でした。
なんたって三週間前ですよ。入学式の翌日に、下駄箱から玄関に出たとこでのことでした。きゃうっ、初日終わったぞって、のけ反ってジャンプしたら、「きみきみ」と呼び止められたのは。
振り向くと貧相なおじさん・・あ、いえ、下川先生が立ってて、
「きみ、アイドル騎士団で活動してみない? きみなら、センターやってもらってもいいな」
って、要するにスカウトされちゃったんですよ、校内で。
のけ反ってジャンプしたのがよかったのかな。
けど、あたしは知らなかったのです。
アイドル騎士団が、下川先生がシュミで立ち上げたばっかの、ろくに部員もいなけりゃ、予算もない部だってことも。
下川先生が、片っ端から女子に声をかけてたってことも。
でもさ、そりゃ悪い気はしませんよ。
だって、アイドル活動ですよ。なんかJKっぽい高校生活になりそうじゃないですか。
ま、それくらいの軽い気持ちだったんですケドね。
それも、あたしらしいか。
あ、MCの横山さんがステージに上がった。
このヒト、西口共栄会の会長さんで、[ツキイチGGC]の仕掛け人でもあるんですって。
なんでも、商店街にスーパーだとか、輸入食料品店だとか、お店を4軒も持ってるとか。
あ、マイク構えた。
いよいよだぞ。
「ご来場のみなさま、お待たせいたしました」
わぁ~っと拍手がおきる。
ステージの前に四角く並べた椅子席はほぼ埋まってる。その左右と後ろには立ち見のヒトもいて、まだまだお客さんが入ってきてる。
「今月から始まりますツキイチGGCは、毎月第四土曜日に、ここ西口共栄会駐車場を会場に、みなさまにGGC Wonderersの華麗なパフォーマンスをたっぷり楽しんでいただこうというイベントでございます」
またまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「なんといっても、巌厳学園チアリーディング部は、地域の誇り、地域のアイドルでございます」
またまたまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「しかし、お楽しみはちょっとだけ後まわし。先ずは巌厳学園のアイドル騎士団のメンバーが、オープニング・アクトを務めます」
ええ~っ。
ブーイングまでいかないけど、会場にがっかり感が流れてる。
やだなぁ、アウェイかよ。
「それでは、みるきぃクレヨンのみなさんです。ど~ぞ~」
「行くよ」
さっと手を出すあたし。メンバーが、つぎつぎと手のひらを重ねる。
「みるきぃクレヨン、お~っ」
せめて気合いくらい入れなくっちゃ。
ぱらっぱらっ。まばらな拍手に迎えられ、わたしたちは小走りでステージに上がったのであります。
*
その時、ステージから見て左手の駐車場入り口から、にしぶち酒店でシャケ缶を買った銀髪男が会場に入ってきました。
あ、もちろん、わたしたちにはそんなの見えてなかったんですケドね。
銀髪男はじろり、ステージではなく、観客席の人々をサングラスごしにねめまわしております。
やがて・・・。
ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
小さな電子音とともに、銀髪男のサングラスの視野で、一人の男性の顔の横に、赤い小さなアイコンが点滅していました。
すると銀髪男は、男性から視線をそらさないようにしながら、そちらに向かって移動しはじめました。
なんなの?
その男のヒトに、なんの用があるの?
ターゲットとなっていたのは、ステージから見ていっちゃん後ろ。ちょうどにしぶち酒店の裏の壁に寄りかかって、あたしたちに拍手してくれてる白髪のおじさんだった。
ん? それって、西淵のおじさんじゃない。
西淵のおじさんは、息子さんのほうの父親で、って当たり前か。わたしたちの数少ない協力者の一人で、西口共栄会の前会長で、義経マニアでもあります。
あ、応援してくれてる。
*
さ、ステージに上がったわたしたち。
頭の中ですらっとセトリを確認。ったって、3曲しかないんだけどね。セトリってコトバ、使ってみたかったんだもん。
マイク持って横一列。センターはもちろんあたし。
「せ~の」で、みんなでご挨拶。
「みるきぃクレヨンでっす。よろしくお願いしま~す」
うふっ。アイドルっぽい。
ケド反応がない。
ま、しょうがないか。
さ、曲紹介だぞ。
「それでは聞いてください。『学園のある町』」
下川先生がラジカセをぴっ。MDに入ってるカラオケ音源がイントロを奏でます。
「せ~の」
教わったとおりの振り付けで、踊りはじめるわたしたち。
みんなの目がこっち見てる。
けどなんか、思ってたのと違う。白けたような、冷ややかなような、そんな視線。
ただでさえ緊張してるのに、これヤバイかも。
さ、歌だ。
♪学園のある町には
いつでも夢が駆け抜ける
あちゃ、出だし遅れた。
誰か、音程外してる。
♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~
振り向けばそこに
ほら 輝く未来が広がっているぅ~
正直、ノリの悪い曲です。
さ、間奏だ。ターンのあるパート。
うきうきのりのり、でもってターン、ってヨーコさんに教わったんだけど、みんなうきうきのりのりじゃないぞ。
くるっと回って正面向いたら、あれ、空気が変わってる。
笑ってるヤツがいる。おしゃべりしてるヤツがいる。
お客さんをヤツ呼ばわりするな、って? でも、うちのがっこの生徒なんだもん。
ほかのメンバーも気づいてるかな。
気になるけど、センターにいるとほかのメンバーの動き、ぜんぜん見えない。
「学芸会」
ヤジが飛んだ。
「ラジオ体操」
別の声だ。
そりゃわたしたち、期待されてるわけじゃないし、結成三週間、へたっぴなのは分かってるけど・・・。
ざわざわざわ、にやにやにや。
ゆるんだ会場で、わたしたち、浮いてる?
そう思ったら、しゅわ~んと視野が遠くなった。
いっちゃん後ろの西淵のおじさんが、心配そうに見ている。
でもってそこに、銀髪男が近づいてる。
けど、それどころじゃなかった。
♪ひろぉ~がっているぅ~
チャチャン、チャンチャチャン、チャ~ン。
ふいっ、一曲目が終わったぜ。
「ありがとうございましたぁ」
声を揃えて、一同、礼っ。
拍手がぱらっぱら。
ざわめきとかすかな笑い声。
こっち見てるみんなの目が、どれも冷たく見える。
「カンナ、曲紹介」
「あ」
スミレに促されて、我に返った。
「つぎの曲、聞いてください。『風を追いかけて』」
うっ。声が裏返ってる。
下川先生がラジカセをぴっ。さっきと似たようなイントロが流れ出す。
練習どおりに踊りはじめて、一回ターン。
チラッと見えたメンバーの顔が、なんかひきつってる。
けど、やりきるっきゃないっ。
歌っ。
♪長い坂道を~
駅に向かって下ってゆこう
風を追いかけて 風を追いかけて
いつか追い越せる
その日に向かって
最初の曲と、行きと帰りみたいな曲です。ま、下川先生の作詞作曲ですから。
けど、それどころじゃなかった。
誰か、声がうわずってる。次の出だし、誰か遅れた。自分が音程外しまくってるのは分かってたけど、ほかのメンバーもだ。
体、動いちゃいるけど、びしっとしてない。なんかロボットみたい。
ぎごっ、ぎごっ、ぎごちなっ。
「も~い~」
誰かが叫んだ。
「そんなもんでやめとけ~」
「時間のむだぁ~」
どっと笑い声が起こる。
間奏の間、必死こいて体動かしながら、涙目になってきた。
♪青い空の下を~
二番の出だしといっしょに、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールが起こった。
ラジカセのカラオケも聞こえない。自分の声も聞こえない。
「ジージーシー、ジージーシー」
コールの圧力でもうばんらばんら。ぐちゃぐちゃになってた。
足が震えて、がくがくして、情けなくて、そしてとうとう涙が一筋、ほっぺたを落ちた。
♪はしぃ~ってゆ~こ~を~
もう歌なんかじゃない。一人ひとり、ただ叫んでるだけみたいな感じ。
ともかく、短いエンディング。
中央に集まって、ばらばらだけど、ともかくポーズ。
「ありがとうございましたぁ」
その声も、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールにかき消された。
合間に、「早く引っこめぇ~」とか「さっさと帰れぇ~」とか聞こえてくる。
もう一曲あるんだけど。
あたしが一番、好きな歌が・・・。
さて、
「きんちょ~するぅ~」
と、のんびりした声で言っているのが、紫担当のカズラです。
ふいっ。やっとメンバー紹介にたどり着きました。
カズラは、メンバーの中でいっちゃん背が高くて、一人だけいっこ上の二年生で、ほいでもって変人です。
「楽しんじゃおぜ」
「うん」
あたしのコトバに、緊張気味に答えたのが、黄色担当のスミレです。
このヒト、なんかあたしになついてきます。今も、汗ばんだ手で、あたしの手をぎゅっと握ってます。
でも、勉強のデキは、メンバーで一番なんだよね。
「ひゅ~っ、たぁ~のしんじゃおぜい」
と、ぴょんぴょんジャンプしてるのが、ピンク担当のあやりんことアヤメです。
この子だけ、いっこ下の附属中の三年生なんだけど、アイドル騎士団ができたと聞いてすっ飛んできました。
根っからのアイドル・キャラなのです。
そして、あたしの後ろで、すぅ~っと深呼吸したのが、緑担当のミズキです。
メンバーの中で際立って背が低いのですが、歌も踊りもなかなかのレベルです。わたしたちの中ではね。
なんつうか、彼女だけが、初パフォーマンスのどきどきより、やってやる的なモノを感じます。
やや謎めいたキャラで、なんでアイドル騎士団選んだのか、気になってるとこあるんだ。
そして、リーダーのあたしは赤担当なので、胸に[みるきぃクレヨン]とロゴの入った真っ赤なTシャツを着ております。
え? メンバーカラーとか、キャラとか、どっかからパクってないか、って?
いえいえそんな。気のせいですよ。
気のせいですってば。
しっかし、ここまであっちゅう間でした。
なんたって三週間前ですよ。入学式の翌日に、下駄箱から玄関に出たとこでのことでした。きゃうっ、初日終わったぞって、のけ反ってジャンプしたら、「きみきみ」と呼び止められたのは。
振り向くと貧相なおじさん・・あ、いえ、下川先生が立ってて、
「きみ、アイドル騎士団で活動してみない? きみなら、センターやってもらってもいいな」
って、要するにスカウトされちゃったんですよ、校内で。
のけ反ってジャンプしたのがよかったのかな。
けど、あたしは知らなかったのです。
アイドル騎士団が、下川先生がシュミで立ち上げたばっかの、ろくに部員もいなけりゃ、予算もない部だってことも。
下川先生が、片っ端から女子に声をかけてたってことも。
でもさ、そりゃ悪い気はしませんよ。
だって、アイドル活動ですよ。なんかJKっぽい高校生活になりそうじゃないですか。
ま、それくらいの軽い気持ちだったんですケドね。
それも、あたしらしいか。
あ、MCの横山さんがステージに上がった。
このヒト、西口共栄会の会長さんで、[ツキイチGGC]の仕掛け人でもあるんですって。
なんでも、商店街にスーパーだとか、輸入食料品店だとか、お店を4軒も持ってるとか。
あ、マイク構えた。
いよいよだぞ。
「ご来場のみなさま、お待たせいたしました」
わぁ~っと拍手がおきる。
ステージの前に四角く並べた椅子席はほぼ埋まってる。その左右と後ろには立ち見のヒトもいて、まだまだお客さんが入ってきてる。
「今月から始まりますツキイチGGCは、毎月第四土曜日に、ここ西口共栄会駐車場を会場に、みなさまにGGC Wonderersの華麗なパフォーマンスをたっぷり楽しんでいただこうというイベントでございます」
またまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「なんといっても、巌厳学園チアリーディング部は、地域の誇り、地域のアイドルでございます」
またまたまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「しかし、お楽しみはちょっとだけ後まわし。先ずは巌厳学園のアイドル騎士団のメンバーが、オープニング・アクトを務めます」
ええ~っ。
ブーイングまでいかないけど、会場にがっかり感が流れてる。
やだなぁ、アウェイかよ。
「それでは、みるきぃクレヨンのみなさんです。ど~ぞ~」
「行くよ」
さっと手を出すあたし。メンバーが、つぎつぎと手のひらを重ねる。
「みるきぃクレヨン、お~っ」
せめて気合いくらい入れなくっちゃ。
ぱらっぱらっ。まばらな拍手に迎えられ、わたしたちは小走りでステージに上がったのであります。
*
その時、ステージから見て左手の駐車場入り口から、にしぶち酒店でシャケ缶を買った銀髪男が会場に入ってきました。
あ、もちろん、わたしたちにはそんなの見えてなかったんですケドね。
銀髪男はじろり、ステージではなく、観客席の人々をサングラスごしにねめまわしております。
やがて・・・。
ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
小さな電子音とともに、銀髪男のサングラスの視野で、一人の男性の顔の横に、赤い小さなアイコンが点滅していました。
すると銀髪男は、男性から視線をそらさないようにしながら、そちらに向かって移動しはじめました。
なんなの?
その男のヒトに、なんの用があるの?
ターゲットとなっていたのは、ステージから見ていっちゃん後ろ。ちょうどにしぶち酒店の裏の壁に寄りかかって、あたしたちに拍手してくれてる白髪のおじさんだった。
ん? それって、西淵のおじさんじゃない。
西淵のおじさんは、息子さんのほうの父親で、って当たり前か。わたしたちの数少ない協力者の一人で、西口共栄会の前会長で、義経マニアでもあります。
あ、応援してくれてる。
*
さ、ステージに上がったわたしたち。
頭の中ですらっとセトリを確認。ったって、3曲しかないんだけどね。セトリってコトバ、使ってみたかったんだもん。
マイク持って横一列。センターはもちろんあたし。
「せ~の」で、みんなでご挨拶。
「みるきぃクレヨンでっす。よろしくお願いしま~す」
うふっ。アイドルっぽい。
ケド反応がない。
ま、しょうがないか。
さ、曲紹介だぞ。
「それでは聞いてください。『学園のある町』」
下川先生がラジカセをぴっ。MDに入ってるカラオケ音源がイントロを奏でます。
「せ~の」
教わったとおりの振り付けで、踊りはじめるわたしたち。
みんなの目がこっち見てる。
けどなんか、思ってたのと違う。白けたような、冷ややかなような、そんな視線。
ただでさえ緊張してるのに、これヤバイかも。
さ、歌だ。
♪学園のある町には
いつでも夢が駆け抜ける
あちゃ、出だし遅れた。
誰か、音程外してる。
♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~
振り向けばそこに
ほら 輝く未来が広がっているぅ~
正直、ノリの悪い曲です。
さ、間奏だ。ターンのあるパート。
うきうきのりのり、でもってターン、ってヨーコさんに教わったんだけど、みんなうきうきのりのりじゃないぞ。
くるっと回って正面向いたら、あれ、空気が変わってる。
笑ってるヤツがいる。おしゃべりしてるヤツがいる。
お客さんをヤツ呼ばわりするな、って? でも、うちのがっこの生徒なんだもん。
ほかのメンバーも気づいてるかな。
気になるけど、センターにいるとほかのメンバーの動き、ぜんぜん見えない。
「学芸会」
ヤジが飛んだ。
「ラジオ体操」
別の声だ。
そりゃわたしたち、期待されてるわけじゃないし、結成三週間、へたっぴなのは分かってるけど・・・。
ざわざわざわ、にやにやにや。
ゆるんだ会場で、わたしたち、浮いてる?
そう思ったら、しゅわ~んと視野が遠くなった。
いっちゃん後ろの西淵のおじさんが、心配そうに見ている。
でもってそこに、銀髪男が近づいてる。
けど、それどころじゃなかった。
♪ひろぉ~がっているぅ~
チャチャン、チャンチャチャン、チャ~ン。
ふいっ、一曲目が終わったぜ。
「ありがとうございましたぁ」
声を揃えて、一同、礼っ。
拍手がぱらっぱら。
ざわめきとかすかな笑い声。
こっち見てるみんなの目が、どれも冷たく見える。
「カンナ、曲紹介」
「あ」
スミレに促されて、我に返った。
「つぎの曲、聞いてください。『風を追いかけて』」
うっ。声が裏返ってる。
下川先生がラジカセをぴっ。さっきと似たようなイントロが流れ出す。
練習どおりに踊りはじめて、一回ターン。
チラッと見えたメンバーの顔が、なんかひきつってる。
けど、やりきるっきゃないっ。
歌っ。
♪長い坂道を~
駅に向かって下ってゆこう
風を追いかけて 風を追いかけて
いつか追い越せる
その日に向かって
最初の曲と、行きと帰りみたいな曲です。ま、下川先生の作詞作曲ですから。
けど、それどころじゃなかった。
誰か、声がうわずってる。次の出だし、誰か遅れた。自分が音程外しまくってるのは分かってたけど、ほかのメンバーもだ。
体、動いちゃいるけど、びしっとしてない。なんかロボットみたい。
ぎごっ、ぎごっ、ぎごちなっ。
「も~い~」
誰かが叫んだ。
「そんなもんでやめとけ~」
「時間のむだぁ~」
どっと笑い声が起こる。
間奏の間、必死こいて体動かしながら、涙目になってきた。
♪青い空の下を~
二番の出だしといっしょに、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールが起こった。
ラジカセのカラオケも聞こえない。自分の声も聞こえない。
「ジージーシー、ジージーシー」
コールの圧力でもうばんらばんら。ぐちゃぐちゃになってた。
足が震えて、がくがくして、情けなくて、そしてとうとう涙が一筋、ほっぺたを落ちた。
♪はしぃ~ってゆ~こ~を~
もう歌なんかじゃない。一人ひとり、ただ叫んでるだけみたいな感じ。
ともかく、短いエンディング。
中央に集まって、ばらばらだけど、ともかくポーズ。
「ありがとうございましたぁ」
その声も、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールにかき消された。
合間に、「早く引っこめぇ~」とか「さっさと帰れぇ~」とか聞こえてくる。
もう一曲あるんだけど。
あたしが一番、好きな歌が・・・。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる