『アイドル騎士団・みるきぃクレヨン』  第1話「誰だか知らないケド、あのステージを壊すことは許せないのデス」

蒼辰

文字の大きさ
6 / 10

6・きっかけさえあれば、って?

しおりを挟む
6・きっかけさえあれば、って?

「パ、パワーが上がってないって、どうすりゃいいの?」
 下川先生の声がうわずっている。
「当人たちが信じてないんです。姉ちゃん、信じてっ」
 いきなりヘルメットの中でコブシの声が響いた。
「信じるって、なにを?」
「おのれの強さを」
「はぁ?」
 んなこといきなり言われたって。今まで、自分が強い人間だなんて思ったコト、一度もないのに。
 その間にも、
「きゃっ」
「ヤダ、もう」
「やめてったら」
 メンバーみんなぼこぼこ状態です。
 ミズキとスミレは、奥の畳敷きのスペースで、黒と白ののアタックから逃げ回ってて、そこにある棚の上の壷やら皿やらがぐらぐら揺れてる。
 ほかにも大きいのや小さいのや木の箱がいっぱい並んでるけど、なんなんだ?
「ハカセに連絡とってみたら」
 下川先生がうわずった声で言い、
「ですね」
 コブシがコンソールかちゃかちゃやり始める。
 ってやってる間に、とうとうミズキとスミレが、黒と白の変態銀髪男に羽交い締めにされちゃった。
 西淵のおじさんがピンクのに抱きしめられてる。
 カズラは尻餅ついたまんまだし、アヤメは這って、銀のの攻撃から逃げまわってる。
 でもってあたしは、青の銀髪男に壁ドンされそうになってた。
 ここにいたって初めて、銀の銀髪男が余裕かましたようすを見せる。
 ピンクに抱きしめられた西淵のおじさんの肩に手をかけちゃって、
「ラルブレッセ・スルーパのムスターシ、どこあるっ?」
 わたしたちを見回して、
「お前たち、知ってるのはず、ゆうっ」
 って、なに言ってるのか分からないんですけど。
「ゆうわないと、このおっちゃんどう、なる?」
 西淵のおじさんの頭をごしごししている。
 ん? あ、脅かしてるのか。
「ゆうっ」
 西淵のおじさんがひきつっちゃってる、なんとかしなきゃ。けど、どうしたら・・?
「コブシッ、どうすりゃいいのっ」
 *
 その時、コブシの目の前のモニターには、どこか温泉地らしい場所で、悠然とソフトクリームをなめてる四角い顔のおじさんが映し出されていた。
「ハカセッ」
「は~い、元気ぃ」
 って軽いな、おい。
「初めての出動なんですけど、パワーが上がらないんです」
「あ~、よくあることよくあること」
「でも・・」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
「けど・・」
「きっかけさえあれば、ちゃんとパワーは上がるから」
「きっかけ?」
「そっ」
 おじさん、おいしそうにソフトクリームをぺろり。
 *
 隣の蔵地下でそんなやりとりをしている間にも、
「おっちゃん、どうなってもいい?」
 銀の銀髪男が、西淵のおじさんの頭、両手で抱えてゆすぶっている。
 おじさん、泣きそうじゃん。
 ひどいことする。けど、どうすればいいんだ?
「コブシッ」
「き、きっかけさえあれば、って・・・」
 なんで自信なさげなんだよ。
 きっかけったって・・・。
 ふにゃ~。
 その時、事態とはなんの関係もないのどかな猫の声が聞こえた。
 一匹の子猫が階段を下りてきて、そこでまたひと鳴き。
 ふにゃ~。
 遊んでくれって? 悪いけど今、取り込み中で・・と思った瞬間、駆けだした子猫が銀髪男の足元にすり寄った。
 ふにゃ~っ。
 すると、
「やめろっ、こっちくんなっ」
 銀の銀髪男が、足すくませて叫んでる。こいつ、猫、苦手なのか。
 な~ご。
「くんなっ」
 すり寄る子猫を蹴り上げちゃった。
 一メートル以上も吹っ飛ばされて、ふぎゃっ。
 でもって、バランス崩した銀の銀髪男が、思わず西淵のおじさんの首を絞めちゃった。
 それを見て、尻餅ついてたカズラがぴょんと立ち上がった。
「ひっど~い」
「動かない」
 銀の銀髪男も反応する。
「おっちゃん、どうなっていい?」
 もっと締め上げてる。
「うぐ」
 おじさん、苦しそ。
「どうなって、いい?」
「子猫をいじめるなんて、許せないっ」
「え? そっち?」
 銀の銀髪男が戸惑った瞬間、カズラが突進していた。
「カズラッ」
 思わず叫びながら、あたしも突進。
 なにがどうなったか分からないけど、気がつくと、銀とピンクの変態銀髪男が尻餅ついてて、西淵のおじさんはあたしが抱きとめていた。
 ほいでもって、棚の壷やら皿やらが、いくつか落っこちてがちゃんと割れた。
 その瞬間、西淵のおじさんが深いため息ついて脱力した。
「もうだいじょぶだよ、おじさん」
 キュッと抱きしめてあげた。
 *
 途端にコブシがパッと笑顔。
「きっかけ、ありました」
「そっ」
 モニターの四角い顔のおじさんもにこっとソフトクリームぺろり。
 *
 目を丸くしているのは銀の銀髪男。
「モノホン、シュバリアン、なんで?」
「聞いてません」
 ピンクが返事する。
「もっと簡単な作戦だって・・」
「分かりません」
「どうすんだよ」
「それは命令でありますか」
「くあっ」
 とかやってる間に、こっちの耳元では、
「パワーが上がってる」
 コブシの声が響いてた。
「その調子。みんな、おのれの強さを、信じてっ」
「分かったよ、コブシ」
 おのれの強さとかを、ちょっとだけ信じる気持ちになった。でもって、分かった。
「こいつら、西淵のおじさんからなにか聞き出そうとしてるのよ」
 銀の銀髪男が、うっと焦った。
「ってことは、おじさんに危害は加えられないのよ」
「そうだ、カンナ、偉いっ」
 耳元で下川先生の声が響いた。みんなも、はは~んって目であたしを見てる。
 どうやら図星だったね。
「なんか分かんないけど、なにが起きるのかわかんないけど、信じよ、おのれの強さとかを」
「おうっ」
 カズラとアヤメが、あたしと一緒に身構えた、その瞬間、
「よぉ~っしゃ」
 羽交い締めされてたスミレとミズキが、おのれの強さを信じてみた。
 両腕に力をこめると、ぬあんと、羽交い締めしてた黒と白の変態銀髪男が吹き飛ばされたではないか。
 白いのは部屋の隅っこに逆さにどすん。黒いのは、青いのとピンクのをなぎ倒して、いっしょにどさり。
 その勢いで、またまた壷だの皿だのがいくつも落っこちて、ガシャガシャガシャン。
 あたしの腕の中で西淵のおじさんが、ふぁ~~っ。
「やった、やったよ」
「あたしら、つおい」
 スミレとミズキがうれしそうにこっちサイドに走ってくる。
 焦ったのは尻もちついたまんまの銀の銀髪男。
「アーマーがインフレートしております」
 逆さのまんまの白いのの報告に、
「わぁ~って、るよん、なもの」
 ぶつぶつ言いながらもぞもぞと立ち上がる。
「やるかっ」
 あたしが身構えると、
「わあっ」
 大の字になって後ろに飛び退いて、棚にがしゃん。またまたいくつかお皿や茶碗ががしゃん。
 くぇっ。おじさん、喉の奥でヘンな声出した。
「こっちゃ、こっ、イルカクーコ変態っす」
「はっ」
 四人の変態銀髪男がどどどっと銀ののまわりに集まり、ついでにまたまたお皿と壷落として、がちゃん。
 おじさんが喉の奥でくぇっ。
 ほんで、銀ののが、ポケットから色もカタチもレモンみたいのを取りだし、焦りながらぎゅっと握りつぶした。
 すると、ぶおっと分厚くてでかいシャボン玉みたいなのが広がり、五人の変態銀髪男どもを包みこんでしまった。
 なんじゃこりゃ。
「お前たち、つおい。けど、こっち負けない。お前たち、この皮、破けない」
 ん? なんか知らんケド、防御態勢に入ったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...