『アイドル騎士団・みるきぃクレヨン』  第1話「誰だか知らないケド、あのステージを壊すことは許せないのデス」

蒼辰

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8・さぞやどや顔でステージに立ってるんだろな

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8・さぞやどや顔でステージに立ってるんだろな

「ミュージック・スタート」
 ヘルメットの中でイントロが流れ出した。
 この曲が好きだったんだ。少しだけアップテンポで、メロディーも気持ちよくて。
 ケイオンのアイツが作ってくれた、この曲が。
 さ、ステップ踏み出して、腕の振りも付けて。
 でもって、あれ? いつもより切れてるじゃない、踊り。あたしもだけど、みんなも。ぴしっと揃ってるし。
 さ、歌だよ。

♪just do it
 その一歩を踏み出せ
 キミならきっとできるから

 隣の蔵地下でも、映し出されるわたしたちの姿に、下川先生とコブシが目を丸くしてた。
 踊れてるじゃないか。
 キレもいいじゃないか。

♪退屈な昨日なんか
 置き去りにしてしまえ
 破り捨てろ 汚れた日記など

 それ、ワンツースリーと前に出て、踏みこんで・・・。
 いっけぇ~っ。
 巨大シャボン玉の中で、五人の変態銀髪男どもがびびりまくってる。
 よっしゃ、いっけぇ~っ。

♪just do it

 5人のキックが、巨大シャボン玉の表面に突き刺さった。
 すると、ぶよぶよぶにゃぶにゃしてたシャボン玉の皮が、まるでガラス玉を割るように、砕け散ったではないか。
 粉々になった小さな破片が、ばんっとふくれあがって、でもって、きらきらと空間いっぱいに舞っている。
 赤いのや、黄色いのや、緑のや、紫のや、ピンクのも・・・。
 あれ、あたしたちのイメージカラーといっしょじゃないか。
 きらきら、きらきら。

♪just do it
 その一歩を踏み出せ
 キミならきっとできるから

 五色のキラキラの中で、わたしたちは踊りつづける。
 まいて、まいて、でもって振って。
「あうっ」
「ぎゃっ」
 振った手がパンチになって、五人の変態銀髪男どもがつぎつぎとのけぞる。
 こうなったら、もう止まらないぞ。

♪恐れることなんかない
 明日はもうぼくたちのもの
 手に入れろ 光る1ページを

 ターン、ステップ、キック、でもって腕を上げて、伸ばして・・。
 ダンスの動きが、どれも相手への攻撃となって決まるではないか。
「わっ」
「んぎゃっ」
 変態銀髪男どもも、もはや頭抱えて突っ立てるしかない。

♪just do it
 その一歩を踏み出せ
 キミならきっとできるから

 今や、自分で体を起こした西淵のおじさんも、隣の蔵地下の下川先生とコブシも、わたしたちの動きに見とれてた。
 だって、切れてるんだもん。
 ホンモノのアイドルみたいに踊れてるんだもん。
 これなら、アザミやユリエに上から目線で見下ろされることもない。

♪just do it
 その一歩を踏み出せ
 キミならきっと キミならきっと
 叶えられるからぁ~~~

 最後のターンから、ラストのキック。
「うげっ」
「ぎゃっ」
 変態銀髪男どもが、全員どすんと、壁際で尻餅ついた。
 でもってこっちは、みんなで決めポーズ。
 その時、割れた天窓から、割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてきた。
 もちろん、Wonderersのパフォーマンスが終わって、声援に包まれているのさ。
 ユリエも、さぞやどや顔でステージに立ってるんだろな。
 けど、こっちだって。
 あたしはほんのちょっとだけ、歓声が、わたしたちのもののような気持ちに浸った。
 どんなもんだい。
 あたし的どや顔で、目の前の銀の銀髪男を睨みつけた。
「てっ、たいてっ、たいっ」
 銀のが、落っことした大筒と大玉を拾い、ぱたぱたとたたんでポケットかどこかに突っこみ、
「るげーに!」
 甲高い声で叫んで、真上にジャンプして、割れた天窓から逃げ出してゆく。
 おや、けっこ身体能力あるじゃん。
 残る四人の変態銀髪男どもも、大慌てでつぎつぎとあとを追って逃げ出してゆく。
「まて~い」
 カズラが、追いかけようと前に出る。
 けど、
「姉ちゃんたち、外に出ないでっ」
 コブシの声が響いた。
「あっ、そっ。んじゃ、今日はこれくらいにしといてやるよ」
 カズラがつまんなそうに引き返してくる。
 と、
「ひゅ~~~」
 空気が漏れるみたいな声出して、西淵のおじさんが、腰が抜けたようにへたりこんじゃった。
「だいじょぶですか」
 慌てて、スミレとミズキが支えてあげてる。
「ひ、秘密は、守ったよ」
「はい、ご立派でした」
 下川先生の声だ。
「けど・・・」
「はい?」
「コ、コレクションが・・・」
「コレクション?」
「古伊万里に、古九谷に、京焼に、唐三彩に・・・」
 目線の先に、棚から落ちて粉々に割れた壷やら大皿やらが床に散らばっていた。
「高かったんですね」
 あたしは思わず、同情して言った。
「しかし」
 下川先生が答える。
「地球は、守られたんです」
 こくん。西淵のおじさん、無念のようす。
「そうよ、あたしたちが地球を守ったのよ」
 あーまーの体でカズラが胸を張ってる。
「実感、ある?」
「まぁまぁ、かな」
 スミレの問いにアヤメが答えてる。
 割れた天窓からは、まだ拍手と歓声が聞こえている。
 手を振りながらステージを下りるWonderersの姿が見えるようだ。
「いつか、あたしたちも・・・」
 気付いたら、声に出してた。
「Wonderersより、もっとおっきな、拍手と歓声をもらおう」
「だね」
 ミズキが頷く。
「けどさぁ、今のあたしたちのダンス、切れてたよね」
「うん、自分でもびっくりしちゃったもん。これが地球を救うのかって」
 と、スミレとカズラ。
「今のだったら、いけるよね」
「確かに」
 アヤメとミズキもつづく。
「みんなに、笑顔を届けよう。わたしたちの歌と踊りの力で」
 我ながら、じんせいでいっちゃんきっぱりと、みんなの顔を見ながら、言った。
「うん」
 メンバーのみんなも、きりっと頷く。
 わたしたち、今、イケてるんじゃね?
 と、思った途端、
「アイドル・パフォーマンスには使えないから、アーマー」
 下川先生の声がした。
「へ?」
 わたしたちの顔の筋肉から、あーまーが外れた。
 かくっ。
 その上、
「姉ちゃん、いっこごめん」
「なに」
「ハカセからの伝言、[きっぱり]じゃなくって、[しっかり戦え]だった」
 今さら、かよ。
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