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九、街灯
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カチリと歯が鳴る。
分厚いコートの上からじわじわと寒さが染み込み、躰を冷やす。
元々体温が低いためか、マフラーをしても、手袋をしても、躰が暖まる気配はない。…その割には人一倍寒さばかり感じるのだから、嫌になる。
肩をすくめながら足を早めた。
バスなどとうに終わっている田舎道。朝はバスを使えるのだが、夜は毎晩、同じ道を歩いて家まで帰るのだ。
街灯はほとんどない。いや、ほとんど、ではない。一本しかないのだ。
丁度、街灯がなければ一番暗いであろう山際の道に、ポツンと一本だけ。やけに古びた街灯が立っているのだ。電球も古いのだろうか。すれ違う人もいない中、その街灯の下だけは何だか少しだけ暖かく、ほんのちょっと休みたくなるのだ。
今日も変わらず街灯が辺りを照らしていた。やはり、この下だけは、気の持ちようかもしれないが、やけに暖かく感じる。特に、こんな、体の芯から冷えるような日にはいつもより暖かく思えた。
「…いつも、ありがとう。」
感謝を込めて、ポンポンと街灯の柱を軽く叩く。心なしか、灯りが揺らいだ気がした。
「…よしっ、帰るか!」
気合を入れ直し、灯りから一歩、二歩と遠ざかる。ちょっと振り返り、また明日、と街灯に声をかけてから家に帰る。
今日も凍えることなく無事帰りつけた。
翌日、雪が降った。
通りで寒いと思った。なんでも、十数年来の大雪で、交通機関も馬鹿になっているとか。バスも動いていないらしい。これは参った。かと言って、歩いて行ける距離で休むわけにもいかず、初めて歩いて向かうことになった。
毎晩通る道でも、朝と夜とでは景色が全く違う。ましてや雪が積もっているのだ。何だか知らない道を歩いているような気分になった。
山際を通るとき、何だか違和感を感じたが、急いでいたので止まることはできなかった。
なんだかんだと一日が終わる。ヘトヘトになりながら帰路につく。いつも通りの道を通って帰る。今日も街灯は暖かく辺りを照らしていた。
(…あれ?)
漸く朝の違和感の正体に気付いた。
朝、同じ道を歩いたのに『街灯を見ていない』。
なかったのだ。朝には確かに何もなかった。
いや、でも、しかし。
今確かに街灯は明るく灯っていて、毎晩それを見ているのだ。
信じられない気持ちになりながらもそっと街灯に触れる。なんの変哲もない街灯に見える。ここ数年、毎晩見てきた街灯は、何やら秘密があるのだろうか。
首をひねりつつ、もはや習慣となってしまった『また明日』を告げて家に帰る。
グーグルマップで見てみても、やはり街灯は見当たらない。その晩、暫く頭を悩ませていたが、とうとう匙を投げることにした。
アレは、そういうモノなのだ。
あの、数年来の友人とも言うべき街灯は、きっと明日も暖かく照らしてくれるのだろう。そういうコトも、あるものなのだ。
世の中には、理屈で説明のつかないもののほうが多いのかもしれない。そう自分を納得させて眠りについた。
明日も寒くなりそうだ。
分厚いコートの上からじわじわと寒さが染み込み、躰を冷やす。
元々体温が低いためか、マフラーをしても、手袋をしても、躰が暖まる気配はない。…その割には人一倍寒さばかり感じるのだから、嫌になる。
肩をすくめながら足を早めた。
バスなどとうに終わっている田舎道。朝はバスを使えるのだが、夜は毎晩、同じ道を歩いて家まで帰るのだ。
街灯はほとんどない。いや、ほとんど、ではない。一本しかないのだ。
丁度、街灯がなければ一番暗いであろう山際の道に、ポツンと一本だけ。やけに古びた街灯が立っているのだ。電球も古いのだろうか。すれ違う人もいない中、その街灯の下だけは何だか少しだけ暖かく、ほんのちょっと休みたくなるのだ。
今日も変わらず街灯が辺りを照らしていた。やはり、この下だけは、気の持ちようかもしれないが、やけに暖かく感じる。特に、こんな、体の芯から冷えるような日にはいつもより暖かく思えた。
「…いつも、ありがとう。」
感謝を込めて、ポンポンと街灯の柱を軽く叩く。心なしか、灯りが揺らいだ気がした。
「…よしっ、帰るか!」
気合を入れ直し、灯りから一歩、二歩と遠ざかる。ちょっと振り返り、また明日、と街灯に声をかけてから家に帰る。
今日も凍えることなく無事帰りつけた。
翌日、雪が降った。
通りで寒いと思った。なんでも、十数年来の大雪で、交通機関も馬鹿になっているとか。バスも動いていないらしい。これは参った。かと言って、歩いて行ける距離で休むわけにもいかず、初めて歩いて向かうことになった。
毎晩通る道でも、朝と夜とでは景色が全く違う。ましてや雪が積もっているのだ。何だか知らない道を歩いているような気分になった。
山際を通るとき、何だか違和感を感じたが、急いでいたので止まることはできなかった。
なんだかんだと一日が終わる。ヘトヘトになりながら帰路につく。いつも通りの道を通って帰る。今日も街灯は暖かく辺りを照らしていた。
(…あれ?)
漸く朝の違和感の正体に気付いた。
朝、同じ道を歩いたのに『街灯を見ていない』。
なかったのだ。朝には確かに何もなかった。
いや、でも、しかし。
今確かに街灯は明るく灯っていて、毎晩それを見ているのだ。
信じられない気持ちになりながらもそっと街灯に触れる。なんの変哲もない街灯に見える。ここ数年、毎晩見てきた街灯は、何やら秘密があるのだろうか。
首をひねりつつ、もはや習慣となってしまった『また明日』を告げて家に帰る。
グーグルマップで見てみても、やはり街灯は見当たらない。その晩、暫く頭を悩ませていたが、とうとう匙を投げることにした。
アレは、そういうモノなのだ。
あの、数年来の友人とも言うべき街灯は、きっと明日も暖かく照らしてくれるのだろう。そういうコトも、あるものなのだ。
世の中には、理屈で説明のつかないもののほうが多いのかもしれない。そう自分を納得させて眠りについた。
明日も寒くなりそうだ。
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